SNSなどでビジネス関連の内容を見ていれば、DXあるいはデジタルトランスフォーメーションという言葉を見かけないことは無いくらい、ビジネス業界ではすでに市民権を得ています。
しかし、「今さら聞けないけど、DXって……」なんて疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで今回は、、デジタルトランスフォーメーションにまつわる3つの初歩的な疑問を、DXをまだ知らない初心者にも分かりやすく解説します。
- なぜ「DT」ではなく「DX」と略すのか?
- DXにまつわる「いつ?」
- なぜ「今」DXが注目されているのか?
意外と見落としがちなDXにまつわる「よくある疑問」に、あなたはすべて答えられますか?
目次
なぜ「DT」ではなく「DX」と略すのか?
「デジタルトランスフォーメーション」=「DX」という言葉に最初に触れた人の多くが、口にはしないけれど抱く疑問第1位といえば、「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略は、なぜ「DT」ではなく「DX」なんだろう?」という事ではないでしょうか?
もちろん、これにもきちんとした理由があります。教科書的な説明をすれば、「英語圏では「trans-」といった接頭語の略語に「X」を使う習慣がある」というのが、「Transformation」を「X」と略した1番大きな理由です。
しかし、DXを理解する上では、この「trans-」という接頭語の持つ意味を正しく理解することが重要だといえます。
ロングマン現代英英辞典によれば、「trans」の項目には、次のように記されています。
trans-
on or to the far side of something(訳:何かの向こう側、または何かの向こう側へ)類義語:across(訳:横切って、渡って)
引用:ロングマン現代英英辞典「trans」/訳はGoogle翻訳システムによる
これを見る限り「trans-」という接頭語には、「向こう側に横切る(渡る)」というイメージがあるのが分かります。
また、英語圏では、「交差する、横切る」という意味を持つ言葉の略語として、「X」が使われる場合があります。
このような理由があるため、「Transformation」の略語には「X」が最適と判断され、「デジタルトランスフォーメーション」には「DX」という略称があてられたというわけです。
実際、デジタルトランスフォーメーションを行うためには、社内の全部門・全部署を「横断した」システム構築が求められます。
そして、新たなビジネスチャンスを生み出すことでこれまでの企業価値と新たな企業価値をクロスさせ、企業自体を変革(トランスフォーメーション)させていく事を目的としています。
「デジタルトランスフォーメーション」に「DX」という略称を与えたことは、まさにその実態を表していると言えるでしょう。
DXにまつわる「いつ?」を解説
今ではすっかり浸透した「DX」ですが、果たしていつ頃からこれほどの認知度を得たのでしょうか?
また、DXはいつまでに取り組まなければならないものなのでしょう?
この章では、DXにまつわる3つの「いつ?」について解説したいと思います。
DXはいつからある?
「デジタルトランスフォーメーション/DX」という言葉の始まりは、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授(当時)のエリック・ストルターマン氏が提唱した概念が原点といわれています。
ストルターマン教授は共同論文「Information Technology and the Good Life(情報技術とよい生活)」の中で、次のように提唱しました。
【エリック・ストルターマン氏の提唱文】
The digital transformation can be understood as the changes that digital technology caused or influences in all aspects of human life.
(直訳:デジタルトランスフォーメーションは、デジタルテクノロジーが人間の生活のあらゆる側面で引き起こした、または影響を与えた変化として理解することができます。/Google翻訳による)
引用:Eric Stolterman and Anna Croon Fors., “Information Technology and the Good Life”
簡潔に言えば、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる(フリー百科事典ウィキペディア)」ということになるでしょうか。
この論文を通じて、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の概念が初めて世に解き放たれ、そして世界中の政府、自治体、企業、そして個人へと広がっていったのです。
なお、2022年2月には、ストルターマン氏は株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所とコラボレーションして、日本の組織や文化、DXの進捗を鑑みて、「社会のDX、公共のDX、民間のDX」という3つの観点から、日本向けの新たなDX定義を再提示しています。
- 社会のDX:デジタルトランスフォーメーション(DX)は、人々の生活のあらゆる側面に影響を及ぼす。DXは単なる技術的な発展ではなく、社会を構成する私たちが、リアル空間とデジタル空間が融合し高度に複雑で変化する世界にどのように関わり、接するかに影響を与える広く深い変化である。DXはよりスマートな社会と、一人ひとりが健康で文化的なより良い生活を送れるサステナブルな未来の実現をもたらしうる。
Digital Transformation (DX) influences all aspects of human life. DX is not solely a technical development, it is a broad and deep change merging the real and digital space in a way that influences how we as a society approach and deal with a highly complex and changing world. DX has the potential to improve and lead to standards of wholesome and cultured living and a sustainable future with a smarter society and a good life for each individual.
- 公共のDX:デジタルトランスフォーメーション(DX)は、あらゆる組織や分野でスマートな行政サービスを展開し、革新的な価値創造を支援することができるものである。また、DXは住民をより安全・安心にし、快適で持続可能な社会へと導くことができるソリューションを生み出すことで、住民の幸せや豊かさ、情熱を実現し、地域やエリアの価値を向上させることを可能にする。DXは既存の仕組みや手続きへの挑戦、より住民本位の革新的な解決策を協働で考えることを促す。DXを推進するためには、組織のあり方や文化を革新的、アジャイル、協調的に変革することが必要である。DXは、トップマネジメントが主導して行うものでありながら、全てのステークホルダーが変革に参加することを求められる。
Digital Transformation (DX) makes it possible to develop smart government services in every organization and category and to assist innovative value creation. DX also makes it possible to improve the value of areas and regions by enabling happier, richer, and more passionate conditions for residents by creating solutions that can make residents more safe and secure and lead to a comfortable and sustainable society. DX encourages everyone to challenge existing structures and procedures and in a collaborative way think about innovative solutions that are more resident-oriented. DX requires transforming the attitude and culture of the public sector to become innovative, agile, and collaborative. DX requires all stakeholders to participate in the transformation while being initiated and led by top management.
- 民間のDX:デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業がビジネスの目標やビジョンの達成にむけて、その価値、製品、サービスの提供の仕組を変革することである。DXは顧客により高い価値を提供することを通じて、企業全体の価値を向上させることも可能にする。DXは戦略、組織行動、組織構造、組織文化、教育、ガバナンス、手順など、組織のあらゆる要素を変革し、デジタル技術の活用に基づく最適なエコシステムを構築することが必要である。DXは、トップマネジメントが主導し、リードしながら、全従業員が変革に参加することが必要である。
Digital Transformation (DX) can empower industries to transform the delivery of their value, products, and services, to accomplish their business goals and visions. DX also makes it possible to improve the overall value of a company in the industry by changing the delivery method to offer a higher value to their customers. DX requires organizations in the industry to redesign all elements of the organization, including strategy, organizational behavior, organizational structure, organizational culture, education, governance, and procedures to create an optimized ecosystem based on the use of digital technology. DX requires all employees to participate in the transformation while being initiated and led by top management.
日本でDXが有名になったのはいつ?
エリック・ストルターマン氏が提唱したことをきっかけに、世界中に広がったDXは、各国の政府や先進企業に取り入れられ、来たるべきデジタル社会の到来に備えて準備が進められてきました。
日本でもじわじわと認知度が高まってきていましたが、それが一気に加速したのは2018年のことです。
そのきっかけは、経済産業省が2018年5月に【デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会】を発足したことにあります。
ITシステムのあり方を中心に、我が国と企業がDXを実現していく上での現状の課題と整理、その対応策の検討を行い、2018年9月に【DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開(通称:DXレポート1.0)】を発表するに至りました。
その後、同年12月には、より積極的に「日本企業もDXを推進するべき」という経済産業省の考えの基、【デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)】のVer.1.0が公表され、多くの日本企業が初めて「DX」という言葉を知る切っ掛けとなったのです。
DXはいつまでにやればいい?
経産省【DXレポート1.0】で警鐘が鳴らされているように、DX推進の大きな壁の1つは、2025年前後にやってきます。
これは、現在多くの企業が使っているITシステムはこれまで場当たり的に開発されてきたシステムとしてレガシーシステムと化し、今後の業務に支障をきたすと考えられているためです。
また、複雑に膨れ上がったシステムは、それぞれの開発担当者しか触る事が難しく、かといって全体像を把握する運用責任者も不在です。
そのため、日本の多くの企業でITシステムが導入され始めた時期から推測すると、開発当時の担当者の多くが定年を迎える2025年前後に、まさに「触れる事のできないブラックボックスと化してしまう」ということが懸念されています。
経産省は、このままでは保守費用・運用費用が高額となり、システム刷新にも対応できなくなってしまうと警鐘を鳴らしています。
このような背景から、多くの企業にとって、DX推進の最終リミットは概ね2025年と考えられており、経産省は【DXレポート1.0】の中でそのリミットを「2025年の崖」と呼称しました。
- 煩雑化するレガシーシステム
- 経営層と社員の考え方のギャップ
- ベンダーに任せきりのシステム開発
「2025年の崖」が巻き起こる原因はどれも一筋縄では解決できない大きな課題ですが、かといってこのまま放置しておいては重大な問題を引き起こす事が予想されています。
既存のシステム維持が困難となり、優秀なIT人材も引退してしまう。更に、システムのサポート終了や老朽化に伴う大規模改修を行なう必要があるにも関わらず、それを行なう事が出来ないというジレンマも存在します。
こうした問題が引き起こると、2025年から30年までの間に、日本企業全体で約12兆円もの損失が出ると経産省は算出しており、タイムリミットまで後2年と迫った現在は、まさに「待ったなし」で取り組まなければならない問題としてDXは認知されているのです。