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株式会社富士通ラーニングメディア デジタル人材育成ソリューション事業本部 PMI認定PMP 前田真太郎氏

「DXに取り組んでいるが、なかなか成果が出ない」
このように感じている経営者やDX担当者は少なくないはずです。研修でリテラシーを高め、ツールを導入しても、現場が動かなければDXは絵に描いた餅で終わります。その問いに正面から向き合い続けてきたのが、富士通ラーニングメディアでDX推進支援を手がける前田真太郎氏(以下、前田氏)です。
前田氏が注目するのが「市民開発」。これは、業務を知る現場の担当者自身がアプリケーションやAIを開発していく文化です。ツール導入にとどまらず、組織の成熟度を高める変革プロセスとして市民開発を捉え直すことで、DXは初めて実効性を持つと言います。
今回は、2026年3月に共著書『現場が動くDX ノーコードから始める市民開発実践ガイド(発行:富士通ラーニングメディア)』を上梓した前田氏に、日本企業のDXの現状と課題、市民開発の本質、そしてAI時代における人材育成のあり方について幅広くお話を伺いました。

DX推進の現状と二極化|「知識習得で止まらせない」ための伴走支援
まず、前田様のお仕事と現在のお立場について教えてください。
前田氏

「富士通ラーニングメディアで、DX領域の中でも特にデジタルリテラシーや市民開発に関するサービスのマネージャーを務めています。主な役割は、企業のDX推進を支援することです。
トップダウン型のDXプロジェクトから、現場発のボトムアップ型の取り組みまで幅広く支援し、人材育成や内製化支援を通じて、DXプロジェクトを成果につなげる伴走支援を行っています。一言で表せば『DXを絵に描いた餅で終わらせない」ための支援です。」
「成果につなげる伴走支援」という言葉が印象的です。実際に現場を支援してきた立場から、日本企業におけるDX推進の現状と課題についての見解をお聞かせください。
前田氏
「国内の状況を見ると、生成AIやデジタル技術の活用が声高に叫ばれている一方で、企業ごとのデジタルの取り込み方には大きな温度差があります。デジタル投資を積極的に進める企業と、必要性は認識しつつもまだ検討段階にある企業とに、はっきりと二極化しているのが現状です。
先進的な企業では、AIをツールとしてではなく業務プロセスにどう組み込むかという『役割』として捉え、実装やガバナンス整備を着実に進めています。ただし、AIエージェントの活用範囲など試行錯誤の段階にある企業も少なくありません。
一方、DX戦略を掲げながらも実態が伴っていない企業も多く、『何から始めればよいか分からない』というご相談を数多くいただきます。eラーニングなどでリテラシーを高めても、業務プロセスの変革や事業への接続がなければ知識習得で止まってしまいます。具体的なユースケースや成功事例をしっかり作り込んでいくことが、停滞を打破するうえで欠かせないと考えています。」
「市民開発」とは?:現場主導で広がる自己効力感とDXの土台づくり
知識習得で止まらせず、現場を動かすための具体的な手立てが必要だということですね。前田氏がその鍵として挙げるのが「市民開発」ですが、そもそも「市民開発」とは何ですか。なぜ今、注目されているのでしょうか。
前田氏
「市民開発とは、自分の業務をよく知っている営業担当者やバックオフィスのスタッフが、自らアプリケーションやAIを作っていく文化のことです。従来、システム開発はプロが行うものというのが商習慣でしたが、そのあり方が変わりつつあります。
注目される背景には大きく二つの理由があります。一つは、IT部門や外部ベンダーへの依頼ではスピードや認識のずれという課題が生じやすいこと。もう一つは、DXによる組織変革の文脈で、現場の人材がデジタルに明るくなる必要性が高まっていることです。
市民開発の本質は、アプリが完成して業務改善が実現することよりも、システム開発のプロセスを体験して『自分たちでも作れる』という自己効力感を組織全体に醸成することにあります。そうした人材を社内に増やしていくことこそが、DX推進において本当に求められていることだと考えています。」
現場の人間が「自分たちでも作れる」という体験を積み重ねることが、組織全体のDX推進力になるという考え方は非常に示唆に富みます。実際に企業は市民開発に前向きなのでしょうか。
前田氏
「kintone(サイボウズが提供する業務アプリ構築クラウドサービス)やMicrosoft Power Platform(Microsoftが提供するローコード・ノーコード開発プラットフォーム)のようなRPA(Robotic Process Automation)ツールについては、導入を認める企業がかなり増えており、『ようやく使えるようになった』という声をよく聞きます。これらのサービスは、ガバナンスが管理しやすく、リスクへの懸念も以前より小さくなってきているのが要因でしょう。
一方で、生成AIやAIエージェントの業務への組み込みについては、先進的な企業も含めて慎重な姿勢が続いています。社内情報を広く読み込む性質上、アクセス権の設定ミスによって機密情報が漏洩するリスクがあるためです。ツールの特性によって温度差があるのが現状です。」
ガバナンスと共存:SIerが考える市民開発との役割分担と導入の壁
ツールによって企業の受け入れ姿勢に温度差があるとはいえ、市民開発の広がりはSIer(システムインテグレーター:企業向けにシステムの設計から構築・運用までを一括して請け負う事業者)の立場からすると、ビジネス上の脅威にはならないのでしょうか。
前田氏
「確かに、システム開発を担当するSler的に見ると、一見すると市民開発の動きは、自社の利益と相反する流れに思えますよね。しかし私は、そんなことはないと明確に思っています。なぜなら、市民開発が適用できる領域とプロが担うべき領域はまったく異なるからです。
業務のエッジ部分にある小さな課題には市民開発が有効ですが、基幹系システムやデータマネジメント、セキュリティリスクを伴う領域にはプロの知見が不可欠です。役割の棲み分けと協働こそがDX推進の理想形であり、国内のデジタル分野の成熟に寄与する活動だと思っております。」
役割の棲み分けがあるからこそ、市民開発は脅威ではなく補完関係にあるということですね。では実際に市民開発に取り組む際、現場が直面しやすい壁はどこにありますか。
前田氏
「最初の壁は『使ってもらえない』ことです。実際、ツールを導入しても浸透しない、利用率が上がらないというご相談は非常に多いです。これは、現場の方が、そのツールで業務がどう改善されるかを具体的にイメージできていないことが背景にあります。
さらに活動が進んだ段階では、頑張って業務改善をしてきた市民開発者の活動が『アンオフィシャル』なままになってしまうという問題があります。『主務ではないことをやっている』と見なされ評価につながらないとなると、意欲のある人ほど活動をやめてしまいます。
つまり、市民開発の最初のステップとしては、市民開発者が活動しやすい環境を組織として整えることが非常に重要です。」
意欲ある人材が評価されない構造が、DX推進の足を引っ張っているとも言えますね。そうなると、ガバナンスの整備も急務になってきます。市民開発が広がると、ガバナンスの課題も出てくるのではないでしょうか。
前田氏
「ガバナンス問題は、実際の課題としてあります。ガバナンスを整備するには、まず、パイロットプロジェクトとして一部の部門に限定し、管理者の目が届く範囲でツールを試しながらユースケースを1件作り上げることが有効です。その後、組織全体への展開に合わせて棚卸しルールや保守・メンテナンスのための情報記録ルールを徐々に整備していくステップが現実的です。
ルールを最初から厳格に設けすぎると現場が萎縮してしまいます。まず動かしてみて、問題を見ながら整えていくスタンスが大切です。」
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
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