【有識者に聞く③】DXはなぜ失敗するのか|「デジタル導入で終わる企業」を脱する経営変革の思考法

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東京理科大学院経営学研究科技術経営専攻 岸本太一・准教授

岸本太一准教授1

DXに取り組んでいるにもかかわらず、成果につながらない。

そんな課題を抱える企業は少なからず存在します。その原因は、「デジタル技術(D)」そのものではなく、「変革(X)」を設計できていない点にあります。

東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(以下、理科大MOT)・准教授の岸本太一氏(以下、岸本氏)は、DXに「パフォーマンス(P)」を加え、DXを「D→X→P」という一連の因果のプロセスで捉える重要性を指摘しています。

  • 多くの企業が陥る「デジタル技術の導入止まり」の落とし穴とは何か。
  • なぜ日本企業ではDXが空回りしやすいのか。
  • AI時代に求められるマネジメントとはなんなのか。

今回の「有識者に聞く」シリーズでは、DXの専門家である岸本准教授に、経営と現場の双方に向けた、DXを成果につなげるための本質的な視点をお聞きします。

【本記事の要点】

  • デジタル技術の導入を目的とせず「D(デジタル)→X(変革)→P(成果)」の因果関係を設計する
  • DXの停滞は技術力の不足ではなくデジタルを利活用するマネジメント側の設計不全に起因する
  • 経営層が自社の戦略におけるDXの意義とゴールを明示し現場への丸投げを脱却する
  • 組織に摩擦を生む「毒」としないためにデジタル導入後の業務プロセスと人材を再設計する
  • 専門的なIT技術を習得する前にデジタル化がビジネスに与える構造的影響のロジックを理解する
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「DXは単なるデジタル化ではない!」成果を生む企業が実践する思考フレーム

岸本先生のキャリアとご専門の分野を教えてください。

岸本氏

岸本太一准教授2

「私は経営学者でして、現在の主な専門分野は戦略論やマネジメント総論、イノベーション論などです。ただし、研究テーマは一貫して固定されているわけではなく、国際経営や中小企業論など、その時々の社会的なニーズや課題に応じて幅広く取り組んできました。そうした意味では、『時代に応じてテーマを進化させてきた研究者』と言えるかもしれません。

キャリアとしてはやや特徴的で、一般的な大学教員とはやや異なる点があります。多くの方がイメージする大学教員は、主に学部生に対して講義を行う存在かと思いますが、私は教員人生の約3分の2を社会人教育に費やしてきました。具体的には、社会人向けのビジネススクールで長く教鞭をとってきたという点が大きな特徴です。

現在は東京理科大学大学院の「経営学研究科技術経営専攻(MOT:Management of Technology)」という、より技術と経営の融合を重視した専門職大学院に所属しています。ここでは、エンジニアや研究者など理系のバックグラウンドを持つ社会人が数多く学んでおり、彼らに対してマネジメントの視点を提供するのが主な仕事です。特に最近はDXに関する関心が高くなっているので、現場で課題を抱えた方々と日々向き合いながら教育・研究を行っています。

現在の研究テーマとしては、DXにおける「変革(X)」やイノベーションの創出が中心です。特に、これまで蓄積してきた戦略論や組織論などの知見を踏まえ、「いかに変革や新たな価値創出に結びつけるか」という点に焦点を当てて研究・教育を行っています。」

岸本先生は、企業がDXに取り組む意義についてどうお考えですか。

岸本氏

「DXの本質は、単なるデジタル化ではありません。重要なのは『X=トランスフォーメーション』、すなわち企業の『変革』です。デジタル技術を導入すること自体が目的ではなく、デジタル技術の導入を通じて企業の在り方や価値創出の仕組みなどを変えていくことが本質です。

私はこれを「D→X→P」というフレームで説明しています。

  • D:デジタル化
  • X:変革
  • P:パフォーマンス

つまり、デジタル化を起点として企業が変革し、その結果として業績や価値創出の向上につながる、という流れです。

ここで重要なのは、『この3つは切り離されたものではなく、連続した因果のプロセスとして理解するべきだ』という点です。ITシステムを導入するだけではDXとは言えず、それがどのような変革を生み、最終的にどのような成果につながるのかまでを設計しなければならないのです。つまり、企業がDXに取り組む意義とは、『デジタル利活用による変革を経て、成果を得る』ことだといってよいでしょう。」

「生成AIでDXブームは加速するのか?」本質を見失う企業が増える理由

なぜ今DXが注目されているのでしょうか。

岸本氏

「DXが特定の時期に突然必要になったというよりも、IT技術の進化に伴って『波』のように注目が高まっていると捉えるのが適切でしょう。まさに、その時々でブームが生まれているとも言えます。

これまでもインターネットの普及やクラウドの登場など、IT技術の革新のたびに同様の現象が起きてきました。最近では生成AIの進展が、その新たな波を生み出しています。こうした技術が社会に広く浸透し始めると、多くの企業が『取り残されてはいけない』という意識を持ち、結果としてDXブームが形成されるのです。

したがって、DXは『今だからやるべき』というよりも、『IT関連の技術環境の変化にどう対応するか』という継続的な課題だと考えるべきでしょう。」

DXとAIの関係性について教えてください。

岸本氏

「AIはDXの一部、より正確にはデジタル化(D)を構成する技術の一つです。つまり、DXの中でAIは手段の一つとして位置づけられます。

従来から機械学習などの技術は存在していましたが、近年はその性能や使いやすさが大きく向上し、実務で活用しやすくなりました。その結果、変革(X)を実現するための選択肢が増えただけ、と考えることもできるでしょう。つまり、経営の観点から考えた場合、重要なのはAIそのものではなく、それをどう活用してビジネスや組織を変えるかという点にあるのです。」

DXはイノベーション創出につながりますか。

岸本氏

「もちろん、大いにつながります。DXによる大きな成果の一つがイノベーションです。

特に注目すべきは、変革の対象が企業内部にとどまらず、企業間や市場全体に広がる点です。デジタル技術は境界を越える力を持っているため、新しいビジネスモデルを生み出しやすくなります。たとえば、飲食店の出前サービスのプラットフォームがそうです。

多くの方はDXをコスト削減の手段のみに限定して捉えがちですが、それだけでは非常にもったいない使い方です。むしろ、新たな価値創出や需要の創造につながる手段といった観点でも捉えることで、DXはより大きな可能性を持つようになります。戦略やビジネスモデルそのものを変革する力を持っているのです。」

DXportal®編集部

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