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合同会社アルファコンパス 代表CEO 福本 勲氏

人手不足、技能継承、現場の高齢化。日本の製造業はいま、大きな転換点に立たされています。その中で、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み始めているものの、現場での成果は依然として「業務効率化」や「システム更新」にとどまってしまうケースは少なくありません。しかしDXとは本来単なるIT導入ではなく、企業の構造や組織文化、人の役割そのものを変えていく取り組みです。
長年にわたり東芝で製造業DXやIoT戦略に携わり、現在は合同会社アルファコンパス代表CEOとして企業のDX支援を行う福本勲氏(以下、福本氏)は、「DXの本質は文化・風土改革にある」と語ります。特に中堅・中小製造業においては、「何をデジタル化するか」以前に、「会社をどう変えたいのか」を経営者が描けるかどうかが問われている、とも指摘します。
生成AIやフィジカルAIによって、製造業はこれからどう変わるのか。日本企業は何を残し、何を変えるべきなのか。そして、「人とAIが協働する工場」は、どのように実現するのか。お話をお聞きしました。
「日本はDXが遅れている」という議論は本質ではない
まずは福本さんのこれまでの歩みについて教えてください。
福本氏

「私は1990年に早稲田大学大学院の機械工学専攻を修了し、東芝へ入社しました。以来、製造業向けの工場改革やBPR(業務改革)、デジタル化支援に携わってきました。その後は、サプライチェーンマネジメント、ERP、CRM、IoT、デジタル事業などにも関わり、製造業DXや生成AI領域での発信も行ってきました。
2024年に東芝を退職し、現在は合同会社アルファコンパス代表CEOとして、企業のDX支援やマーケティング、教育支援などを行っています。2025年の12月には、『製造業DX Next Stage』(近代科学社Digital)も出版しました。」

製造業からIT、そして生成AIまで、一貫してデジタルと製造現場の接点に立ち続けてこられたわけですね。その厚みのある経験を踏まえた上でお聞きしたいことがあります。現在、「日本はDXが遅れている」とよく言われますが、長年現場を見てこられた立場からは、この指摘をどのようにお考えでしょうか。
福本氏
「私は、『日本はDXが遅れているとか進んでいるとかいった単純な比較議論』には、あまり意味がないと思っています。なぜなら、製造業は国によって歴史も文化も違うからです。
たとえば欧米では、ジョブディスクリプションが明確で、設計と現場の役割分担が比較的はっきりしています。設計側が仕様を決め、現場はその通りに作る。そして問題があれば、設計やさらに上流へフィードバックして改善する。
一方、日本の製造業は、現場が改善を積み重ねながら全体最適を作り込んでいく文化があります。熟練技能者がライン立ち上げに入り込み、品質を作り込んでいく。これは日本独自の強みです。ただ、そのやり方を『今後も同じ形で続けられるか』というと、そこは別問題です。」
日本の製造業は「人が足りない時代」に入った
現場の強みを支えてきた「人」そのものが、今後は変化していくということですね。やはり少子高齢化の影響が大きいのでしょうか。
福本氏
「非常に大きいです。これまで日本の製造業は、『人が人へ教える』ことで成り立ってきました。しかし今後は、教える側が減り、教わる側も減っていきます。
つまり、従来の技能継承モデルだけでは現場が回らなくなる可能性が高いのです。特に中堅・中小製造業では、『ベテランが辞めた瞬間に現場が止まる』という危機感を持っている企業も少なくありません。だからこそ今後は、『人に依存した現場運営』を見直していく必要があるでしょう。」
技能継承モデルが限界を迎えつつある、という指摘は、現場を預かる担当者であれば痛感する現状かもしれませんね。そうした背景があるからこそ、ますますDXが重要になる、ということでしょうか。
福本氏
「そうです。ただし、DXというと『システム導入』や『デジタル化』が目的になってしまうケースが日本企業では多く見られます。しかし本来DXは、『会社全体をどう変えるか』という視点で捉えていかなければならないのです。
たとえば、熟練者を各工場へ張り付けるのではなく、センター側に置いて複数工場を支援する体制をつくる。そして、まだ業務に不慣れな若手、あるいはロボットやAIが『手足』となり、熟練者は知見共有や判断に集中する。つまり、人とデジタルの役割分担を再設計していく必要があるのです。ここを考えないまま、『とりあえずIoTを入れましょう』『AIを導入しましょう』では、本質的なDX推進にはならないと思っています。」
DXが「部分最適」で止まる理由
役割分担の再設計こそが出発点だというお考えですね。一方で実際には、そこまで踏み込めずDXが個別の課題の改善で終わってしまうケースも多いですね。
福本氏
「非常に多いですね。たとえば、『設備監視を導入した』『帳票を電子化した』といった取り組みですね。もちろん、その取り組み自体が悪いわけではありません。
ただ、本来DXとは、企業全体をデータでつなぎ、組織横断で最適化していかなければならないものです。ところが現実には、『現場単位』『部門単位』で止まってしまうケースが多いのが、日本の製造業の問題点と言えます。」
部分最適で止まってしまう原因は、どこにあるとお考えですか。
福本氏
「私は、経営者がDXを『下(主として現場担当者)へ任せてしまう』ことが大きいと思っています。現場担当者は、自分の担当領域しか見えません。その状態で『DXをやってください』と言われれば、自分が見える範囲での業務改善から始めるしかないと思います。結果として、DX未満である『部分最適だけのIT改善』に終わってしまうのです。
本来は、経営側が陣頭指揮を取り、『自社をどう変えたいのか』を示さなければいけません。どこを標準化するのか、どこをデータでつなぐのか、どこに人を残すのか、何をAIへ任せるのか。こうした全体設計は、経営レベルで考える必要があります。」
DX経営に必要なのは「IT知識」ではない
DXの全体設計は経営の仕事、というのは明快な視点です。一方で、「自分はITが分からないからDXは難しい」と考える経営者も多い印象があります。
福本氏
「私は、それは誤解だと思っています。経営者に求められているのは、テクノロジーの専門家になることではありません。重要なのは、『自社が将来どうあるべきか』を描くことです。その未来像を実現するために、どんなデータ基盤が必要か、どの業務を変えるべきかを判断する。それが経営者の役割です。実装やシステム構築は専門家に任せればいいのです。
しかし日本企業では、『ITが分からない=DX推進ができない』と思い込んでしまうケースが少なくありません。この思い込みが、DX推進を難しくしている一因だと思います。」
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
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