アルファコンパス・福本勲氏が語る、「人とAIが協働する製造業」への転換点【有識者に聞く⑤】

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ハノーバーメッセで見えた「AIが工場を動かす世界」

経営者が未来像を描くという話と関連して、その「未来」そのものも急速に変わりつつあります。福本さんは欧州製造業も長年見続けていらっしゃいますが、今年のハノーバーメッセでは、どんな変化を感じましたか。

福本氏

合同会社アルファコンパス 代表CEO 福本 勲氏4

「最も大きかったのは、『フィジカルAI』の流れです。2022年にChatGPTが登場した頃は、生成AIを『情報空間』でどう使うかという議論が中心でした。文書作成や翻訳、マニュアル生成などですね。

しかし現在は、AIに『手足』が付き始めています。つまり、ロボットやアクチュエーターと連携し、AIが現実世界で動き始めているのです。」

生成AIが情報処理の領域から、物理的な製造現場へと踏み込んでいる、ということは、まさに「AIが工場を動かす世界」が到来しているということですね。

福本氏

「そうです。特に印象的だったのは、『AIエージェント同士が連携して工場を制御する』という世界観です。たとえば、設計を行うAIエージェント、搬送を行うAIエージェント、製造を行うAIエージェント、それぞれのAIエージェントが存在し、それらを統括する『オーケストレーターAI』が全体を最適化していくといった具合ですね。

つまり、『どのAIモデルが優秀か』という話ではなく、『AIエージェント群で工場全体をどう動かすか』というフェーズへ進んでいるのです。これは非常に大きな変化だと思います。」

*ハノーバーメッセ(Hannover Messe):ドイツ・ハノーバーで毎年春に開催される世界最大級の国際産業技術見本市。1947年に始まり、例年およそ6,000社規模の出展者と約20万人規模の来場者が集まる。インダストリー4.0の議論が広く注目されるようになった場としても知られ、製造業のDXやAI活用など最新技術トレンドの発信地として世界の産業界から注目されている。

デジタルツインは「再現」から「制御」の時代へ

AIエージェントが工場全体を動かすという話は、デジタルツインの概念とも深く関わってきそうです。デジタルツインの考え方も変わってきていますか。

福本氏

「かなり変わっています。以前は、『現実世界をサイバー空間へ再現する』という考え方が中心でした。しかし今は逆です。サイバー空間側で大量のシミュレーションを行い、最適解を導き、その結果を現実世界へフィードバックする。つまり、『現実を再現する』から、『デジタル側が現実を制御する』方向へ変わってきているのです。

AIがシミュレーションを繰り返しながら、最適な生産方法や設備制御を学び、その結果を工場へ反映していく。『変化し続ける工場』へ進み始めているのだと思います。」

人とAIは「役割分担」ではなく「協働」へ向かう

デジタル側が主導権を持ち始めるとなると、人間とAIの役割はどう変わっていくのでしょうか。

福本氏

「私は、『人かAIか』という対立構造ではないと思っています。むしろ、人とAIが同じワークフローの中で協働する方向へ進んでいくでしょう。たとえば、昼間は人が作業し、夜間はAIが同じ工程を引き継ぐ。そういった運用も十分考えられます。このとき、人用とAI用で別々のプロセスを作ると、非常に複雑になります。だから今後は、『人とAIが共通の業務プロセスで動く』設計が重要になると思っています。」

一方で、AIには限界もありますよね。

福本氏

「もちろんです。AIは学習したことしか答えられませんし、未知の領域ではハルシネーションも起こします。つまり、未知の改善や創造を完全自律で行えるわけではない。

だからこそ、人の役割が重要になるのです。AIやロボットが『手足』として動き、人間は『何をやらせるか』『どう改善するか』を考える。そこが、人間の価値として残っていくと思います。」

日本製造業の強みは「暗黙知」にある

人間の価値が「考える役割」にシフトしていくとなると、日本製造業がこれまで培ってきた熟練技能者の暗黙知は、どう活かされていくのでしょうか。

福本氏

「そこは、日本製造業の非常に大きな強みです。ただ、その知見を個人の中へ閉じ込めたままでは、今後は持続できません。重要なのは、『形式知化』です。つまり、経験や勘を構造化し、共有可能な形にしていくことです。

DXというと、どうしてもシステムやデータの話になりがちですが、本質はそこだけではありません。現場の知見に意味づけを与え、企業全体で共有できる状態を作る。そのためには、組織やコミュニケーション、企業文化が非常に重要になります。」

DXの本質は「文化・風土改革」である

知見の形式知化を妨げるのは、技術的な問題というより、むしろ組織や文化の問題ということでしょうか。つまり、DXは文化・風土改革でもある、と。

福本氏

「『でもある』というより、私はむしろ、DXの本質は『文化・風土改革にこそある』と思っています。たとえば、『ノウハウを共有したら自分の価値が下がる』と感じる人もいます。しかし本来は逆です。ノウハウを共有できる人ほど、より上位で全体を最適化する役割へ進むべきなのです。

だから経営側も、『あなたは不要になるのではなく、より重要な役割を担うのだ』というメッセージを出さなければいけません。DXとは、単なるIT導入ではありません。信頼関係や評価制度を含めた、『会社の空気』そのものを変えていく取り組みなのです。」

中堅・中小企業こそ「小さな成功体験」が重要

文化・風土改革というのは、経営者にとっては最もハードルが高い変革かもしれません。そうした中で、中堅・中小企業は、何から始めるべきでしょうか。

福本氏

「私は、『小さな成功体験』を積み重ねることが重要だと思っています。『DXは10年後に成果が出ます』と言われても、現場は動けません。だからこそ、『やったら良くなった』を短いサイクルで実感できることが大切なのです。

紙帳票をデジタル化したら残業が減った、設備データを見える化したことで、停止原因が分かった、AI活用でベテランの負担が減った。そうした『小さな成功』が、現場の意識を変えていきます。」

小さな成功体験を積み重ねるうえで、現場を巻き込む仕掛けも必要になりそうです。その際、やはり評価制度も重要になりますか。

福本氏

「非常に重要です。特に、『挑戦した人が評価される』ということを、周囲にも見える形で示す必要があります。たとえば、現場提案を表彰する。小さな改善でも共有する。ピッチイベントを開く。どんなことでも構いませんので、挑戦を評価する会社としての姿勢を可視化する。そうすることで、『自分も変革へ参加できる』という空気が生まれるのです。

DXは、トップダウンだけでは定着しません。現場が『自分事』として関われるかどうかが非常に重要なのです。」

「変わり続ける会社」が、これから生き残る

経営と現場が両輪となって変革に取り組む企業が強くなる、ということですね。最後に、製造業の経営者やDX担当者へメッセージをお願いします。

福本氏

「これからの製造業では、『変わり続けること』を肯定できる企業が強くなると思っています。生成AIやフィジカルAIによって、製造業の構造そのものが大きく変わっていくでしょう。

しかし、それは単純に『人が不要になる』という話ではありません。人とAIが協働しながら、企業全体をどう進化させるか。その設計力が問われる時代になるのです。そのためには、現場だけでなく、経営も変わらなければいけません。小さな成功体験を積み重ね、挑戦する人を評価し、『変わることが当たり前』という文化を作っていく。DXとは、単なるシステム導入ではなく、企業文化そのものを変える取り組みなのです。

そして、その変革を進められる企業が、これからの製造業で競争力を持っていくのではないでしょうか。」

【取材を終えて】

今回のインタビューで特に印象的だったのは、福本氏が繰り返し語っていた、「DXの本質は技術導入ではなく文化・風土改革である」という視点でした。

生成AIやフィジカルAIなど、華やかな技術トレンドに注目が集まる一方で、実際に企業変革を左右するのは、「挑戦を評価できるか」「ノウハウ共有を促せるか」「変わり続けることを肯定できるか」という組織風土です。特に人手不足や技能継承に悩む中堅・中小製造業にとって、「小さな成功体験」を積み重ねながら現場を巻き込むことの重要性は、非常に示唆に富むものでした。

DXとは単なるシステム導入ではなく、「会社の未来をどう作るか」を問い直す営みなのだと改めて感じました。

DXportal®編集部

合同会社アルファコンパス 代表CEO 福本 勲氏/中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)、NewsPicks プロピッカー

1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。同年に株式会社東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げなどに携わり、その後、インダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の立ち上げ・編集長などをつとめ、2024年に退職。

2020年にアルファコンパスを設立し、2024年に法人化、企業のデジタル化やマーケティング、プロモーション支援などを行っている。

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