DXはスキルではなく「変革思考」である|人材育成の中身
DX推進に向けた人材育成はどのように行っていますか。
戸崎氏

「中堅職員を対象にしたDX推進リーダー研修を実施しています。ここでは、単なるデジタル技術の習得ではなく、『変革とは何か』という本質的な部分に重点を置いています。
デジタルツールの使い方は後からでも習得できますが、変革の考え方や経営視点はしっかり学ばないと身につきません。そのため、あえて『デジタルに偏らない』内容を重視しています。」
お二人は理科大MOTで学ばれたとお聞きしました。きっかけを教えてください。
戸崎氏
「会社の研修でMOT(技術経営)の講義に触れた経験もあり、技術と経営を融合的に学べる点に魅力を感じ、約11年前に入学しました。相談会で、『文系出身でも全く問題ない』と背中を押して頂いたことも大きかったです。」
濵﨑氏
「DXを進める中で、『なぜ変革が進まないのか」という課題意識がありました。その答えを見つけるために、体系的に学びたいと考えたのがきっかけです。また、戸崎のような上司の思考や視点に近づきたいという思いもあり、最終的に理科大MOTを選びました。」
実際に得られた学びはどのようなものでしたか。
戸崎氏
「最大の収穫は、多様な業界の同級生との交流です。特にデジタルを『提供する側」の視点を、ざっくばらんに直接聞けたことは非常に大きかったです。また、理系的なロジカルな思考にも触れ、論理や数字を積み上げる重要性を学びました。さらに、自身の専門をご存じない方にもこちらの意図が伝わるように、発表をしたり論文を書く経験は、現在の業務にも活きています。」
濵﨑氏
「理論を深く学べた点が大きいです。当初は『デジタルをどう進めるか』が関心でしたが、最終的には『変革をいかに現場の実践・パフォーマンスに落とし込むか』というマネジメントの本質にたどり着きました。また、デジタルは必ずしも善ではなく、逆機能もあるという視点を得られたことも重要でした。」
「良いDX」とは何か──デジタルではなく変革が軸になる
「良いDX」とはどのようなものを指しますか。
戸崎氏
「変革を進めていく上で適切な手段を選択し、そしてそれが実際の成果につながることです。多くの選択肢の中から最適な手段を選び、最終的に価値を生み出せることが重要だと考えています。」
今後取り組みたいことを教えてください。
戸崎氏
「お客様の負担を減らすことが、何か出来ないかという事です。例えば『ワンスオンリー』の考え方、つまり一度入力した情報を繰り返し入力させない仕組みを実現すると言った、小さな改善の積み重ねとなると思いますが、お客様の利便性向上には大きく寄与すると考えています。」
濵﨑氏

「最も重要なのは、お客様に良いサービスを提供し続けることです。デジタル化が進んでも、対話によってしか得られない情報や価値は必ず存在します。
そのため、DXによって業務効率を高め、創出された時間をお客様との対話に充てることが重要です。変革と成果を現場でつなぐ役割を担っていきたいと考えています。」
貴庫におけるDXはすべてをデジタル化する方向なのでしょうか。
濵﨑氏
「そうではありません。人による対話や関係構築は不可欠です。デジタルはあくまでそれを支える手段であり、バランスが重要です。」
戸崎氏
「特に中小企業のお客様の場合、決算書などの財務データだけでは判断できない部分が多く存在します。経営者の思いやビジョンといった『言語化されていない情報』は、担当者が経営者と直接対話することでしか得られません。
そのため、デジタルによって効率化できる部分は効率化し、その分人にしかできない業務に充てることが重要になると考えています。」
大企業ならではの難しさもあるのではないですか。
戸崎氏
「当公庫は職員が7,000人を超える規模の組織であり、全員の方向性を揃えていくために時間もかかりますので、そういった面ではなかなか大変です。
一方で、中小企業は経営者のリーダーシップのもと迅速に意思決定し推進することができるため、DXに適していると指摘されます。
ただし、どちらの場合も、導入前の設計段階が非常に重要です。時間をかけて検討している間に目的が曖昧になってしまうこともあるため、軸をぶらさないことが求められると考えます。」
【取材を終えて】
今回の取材で印象に残ったのは、「DXは手段でしかない」という一貫した姿勢でした。多くの企業がデジタル導入そのものを目的化してしまうなか、日本政策金融公庫が見据えているのは「有事でも機能する組織」と「顧客価値の最大化」という揺るがぬ軸です。とりわけ「現場は困っていないからこそ変革が難しい」という指摘は、規模の大きな組織が変革に挑むときの本質的な難所を言い当てているように感じました。
華やかな成功譚ではなく、完成形を自分の目では見届けられないかもしれない。そう語りながらも基盤を築き続ける。その地道さこそが、変革を前に進める原動力なのではないでしょうか。あなたの組織がいま守るべき軸は、どこにあるでしょうか。
DXportal®編集部
両氏のプロフィール

戸崎氏
平成5年に、日本政策金融公庫の前身である国民金融公庫に入庫。東京・大阪・名古屋などで支店の現場を長く経験。その後本店勤務を経て、本店と支店を行き来する形でキャリアを積む。国民生活事業の業務改革推進室長としてDX関連業務に携わった経験を活かし、現在は企画管理本部DX業務改革推進室の室長を務める。
濱崎氏
2003年に入庫。現場と本部を行き来しながら経験を積む。コロナ禍では熊本支店で融資課長として、多数の申込が殺到したいわゆる「ゼロゼロ融資」への対応に従事。その経験を踏まえ、全社的なDX推進を担う業務改革推進室に配属。約4年間DX推進に関わった。現在は南九州地区統轄室で、エリアマネジメントを担当する。
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
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