【DX先進企業のキセキ④】宇宙データで社会インフラの未来を守る|天地人が挑む水道DXと自治体変革の最前線

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株式会社天地人 執行役員 COO 樋口宣人氏/公共インフラマネジメント推進部 岡田和樹氏

向かって左:執行役員COO 樋口宣人氏/右:公共インフラマネジメント推進部 岡田和樹氏
向かって左:執行役員COO 樋口宣人氏/右:公共インフラマネジメント推進部 岡田和樹氏
  • 老朽化する水道インフラ
  • 人口減少による人材不足
  • 限られた予算

全国の自治体が抱えるこうした課題は、年々深刻さを増しています。更新すべき管路は膨大で、調査に割ける人手も予算も足りない。多くの自治体が、この板挟みに頭を悩ませているのではないでしょうか。

この難題に、衛星データとAIという宇宙からの視点で挑むのが株式会社天地人です。同社の水道DX(デジタルトランスフォーメーション)サービス「宇宙水道局」は、宇宙から得られるデータと現場の知見を組み合わせ、漏水リスクの可視化や自治体業務の高度化を支援します。その先進性が評価され、2024年日本DX大賞SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)部門で優秀賞を受賞しました。

本記事では、限られた資源で社会インフラを守るための具体的なヒントを、COOの樋口宣人氏(以下、樋口氏)と公共インフラマネジメント推進部の岡田和樹氏(以下、岡田氏)への取材からお届けします。

【本記事の要点】

  • 全国の自治体が抱える水道インフラの老朽化、人材不足、予算制約という三重苦に対し、天地人は衛星データとAIを組み合わせた水道DXサービス「宇宙水道局」で挑んでいる
  • 「宇宙水道局」は管路情報と衛星データを掛け合わせて漏水リスクの高いエリアを可視化し、限られた人員や予算を優先度の高い場所へ集中投下できる
  • 2026年4月時点で累計約60自治体が契約、2030年には約400自治体への導入を目指し、フランスでの導入を皮切りに海外展開も始動している
  • DXを定着させる鍵は導入そのものではなく「導入後の活用」にあり、現場業務と結びつけ組織全体で価値を共有することが成果を生む
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宇宙データで人類の文明活動を最適化する

貴社の創業の原点とミッション、ビジョンについて教えてください。

樋口氏

執行役員COO 樋口宣人氏

「株式会社天地人は、IT分野に強みを持つ櫻庭康人(現・代表取締役)と、JAXA職員である百束泰俊(現・取締役 技術戦略担当)が2019年に創業した会社です。私たちのミッションは、『宇宙ビッグデータを使い、人類の文明活動を最適化する』というものです。非常に大きなテーマですが、宇宙からの視点で地球を見守り、その美しさや自然の感動を未来へ引き継ぐことを目指しています。

この考え方は、米国の天文学者カール・セーガンが提唱した宇宙から見た地球観にも通じるものがあり、それを私たちなりに解釈し、企業理念として表現しています。現在はこのミッションを最上位概念として、その下に事業方針や行動指針を体系化しています。」

壮大なミッションが御社の出発点にあるわけですね。そのミッションは、実際の事業や強みとしてどのような形で表れているのでしょうか。

岡田氏

公共インフラマネジメント推進部 岡田和樹氏

「天地人は宇宙ビッグデータを活用した土地評価ソリューションやコンサルティングを提供しています。農業、再生可能エネルギー、カーボン関連など幅広い分野に取り組んでいますが、現在特に注力しているのが上下水道を中心としたインフラ分野です。

当社の強みは、社名の由来でもある『天・地・人』の考え方にあります。『天』は衛星データ、『地』は地上データ、『人』は現場に蓄積された知見やノウハウを意味しています。衛星データだけでなく、さまざまなデータと人の知見を組み合わせて分析する技術力が当社の特徴です。いわゆるマルチモーダルな分析を強みとしており、その代表例が水道DXサービス『宇宙水道局』です。」

自治体からの相談が生んだ『宇宙水道局』

衛星データとAIを活用して水道の課題解決に取り組むという発想は、どのように生まれたのでしょうか。

岡田氏

「きっかけは、ある自治体からいただいた一つの相談でした。『衛星データとAIを使って、地下に埋設された水道管の漏水リスクを可視化できないか』という問い合わせをいただいたのです。

創業当初、私たちは地球観測衛星のデータを活用し、土地評価や農業分野での分析を行っていました。例えば、農地としての適性評価や地表環境の分析など、衛星データを用いて地上の状況を把握する取り組みです。

そのため、当初は水道管のような地下インフラを対象にすることは想定していませんでした。しかし、『衛星データによって見えないものを可視化する』という発想自体は私たちの事業の根幹にありましたので、決して無関係なテーマではありませんでした。そこで、『まずは挑戦してみよう』と考え、実証実験からスタートしたのが現在の『宇宙水道局」の原点です。」

老朽化と人材不足に揺れる日本の水道インフラ

現在、日本の上水道はどのような課題を抱えているのでしょうか。

樋口氏

「大きな課題は、管路の老朽化と、それに対応するためのリソース不足です。全国では約20%が老朽管路とされ、更新や修繕の必要性は年々高まっています。一方で人口減少に伴う料金収入の減少、人材不足、資材費や人件費の上昇などにより、自治体が活用できる予算や人員は限られています。

本来であれば老朽管路を更新することが根本的な解決策ですが、更新には莫大な費用が必要です。そのため自治体では、限られた予算や人員をどこに重点投入するかという判断がますます重要になっています。

漏水調査も大きな負担です。水道管は地下に埋設されているため、実際には現場で音を聞きながら漏水の有無を調べる作業が行われています。しかし、数百キロから数千キロに及ぶ管路を人手だけで調査することには限界があります。効率的な維持管理を実現するためには、新しいアプローチが必要になのです。」

漏水リスクを可視化し、限られた資源を最適配分

「宇宙水道局」はどのようなサービスなのでしょうか。

岡田氏

「宇宙水道局」は、自治体が保有する管路情報と、衛星データやオープンデータなどを組み合わせて分析し、漏水リスクの高いエリアを可視化するサービスです。自治体の皆さまには、その結果をもとに重点的な調査や維持管理を行っていただきます。市内全域を同じように調査するのではなく、リスクの高いエリアへ優先的にリソースを投入することで、効率的な保全活動につなげることができます。

実際の導入事例では、リスクが高いと診断された一部エリアに漏水が集中していることが確認されており、漏水発見効率が大幅に向上したケースもあります。限られた人員や予算を有効活用するうえで、有効な判断材料として活用されています。」

宇宙水道局のしくみ図解

「2030年400自治体」での導入を目指す

水道DXサービス「宇宙水道局」は、2026年4月時点で累計契約自治体数が約60に達しているそうですね。2030年までに約400自治体への導入を目指しているとのことですが、見通しはいかがですか。

樋口氏

「現在、日本全国には約1700の自治体がありますので、400自治体というのはおよそ4分の1に相当します。水道事業体の数と自治体数は必ずしも一致しませんが、大きな普及目標であると認識しています。

私たちとしては、全国の水道事業が抱える共通課題の解決に挑戦し貢献しながら、着実に導入を拡大していきたいと思っています。」

競合他社に対する優位性はどこにあるのでしょうか。

樋口氏

「最大の強みは、衛星データを活用した高度な分析技術にあります。近年は他社も衛星データを活用し始めていますが、『衛星データを使うこと』と『衛星データを使いこなすこと』の間には大きな違いがあります。

私たちは創業以来、衛星データを活用した事業を展開してきました。その知見とノウハウをAIによる解析技術と組み合わせることで、高精度なリスク分析を実現しています。この点においては十分なアドバンテージがあると考えています。」

創業以来の蓄積が、後発他社との差を生んでいるわけですね。衛星データの活用という領域は競合がまだ少なく、いわばブルーオーシャン(競争の少ない未開拓市場)とも言えそうですが、いかがでしょうか。

樋口氏

「完全なブルーオーシャンというわけではありません。衛星データの活用市場は、技術革新が非常に速く、多くの投資資金も流れ込んでいる成長分野です。そのため、国内外を問わず多くのプレーヤーが参入しています。

一方で、私たちが取り組んでいるのは、地方自治体が抱えるインフラ維持管理という非常に現実的で地道な課題です。宇宙産業の中で、このような領域に深く入り込み、実際に自治体へサービスを泥臭く提供している企業は決して多くありません。

衛星データという最先端技術と、地域インフラという社会課題。この異なる領域を掛け合わせて事業化している点が、私たちのユニークさであり強みだと考えています。」

海外展開にも意欲的に取り組む

事業展開は日本国内にとどまらないのでしょうか。

樋口氏

「はい。日本国内だけでなく海外市場にも取り組んでいます。これまでは東南アジアが中心でしたが、欧州における具体的な事業展開の第一歩として、2026年4月にフランス企業のAqualter社とソフトウェアライセンス契約と販売代理店契約を締結。現地で『KnoWaterleak(宇宙水道局)』が初めて導入されました。今後はフランス以外の国や地域でも日本で磨いた水道DXを海外にも広げていきます。」

衛星データとAIが実現する高精度なリスク診断

宇宙水道局サービス画面イメージ

海外にも広がる水道DXの可能性がよくわかりました。ここで技術面に話を戻しますが、危険な管路の特定は、自治体が独自に行うのは難しいものなのでしょうか。

岡田氏

「自治体でも建設年度や管種などを参考に危険箇所の抽出は行っています。ただし、水道管の劣化要因はそれだけではありません。土壌の性質や地盤環境、交通量による振動など、さまざまな要素が複雑に影響しています。

これらを総合的に判断することは容易ではありません。当社では地表面温度や地盤変動などの衛星データも活用しながら分析を行っています。長期間にわたって取得された衛星データを活用することで、環境変化の影響も含めた評価が可能になります。」

「宇宙水道局」は自治体のDX推進という観点では、どのような価値がありますか。

岡田氏

「『宇宙水道局』の価値は、リスク診断だけではありません。現場業務を支援するツールとしても活用いただいています。システムはパソコンだけでなくスマートフォンやタブレットでも利用できます。現場にいながら管路情報やリスク状況を確認できるため、従来のように庁舎へ戻って資料を確認する必要がありません。迅速な判断や対応につながります。
また、現場で得られた情報をその場で登録できるため、漏水履歴や点検結果を継続的に蓄積できます。これにより、データを活用した意思決定がしやすくなり、業務の進め方そのものを変えていくことができます。

自治体では紙資料や担当者の経験として情報が残っているケースも少なくありません。そうした情報をデジタル化し、組織全体で共有できる状態にすることもDXの重要な要素だと考えています。」

水道から社会インフラ全体へ広がる構想

「宇宙水道局」の今後のビジョンについて教えてください。

樋口氏

「まずは上水道からスタートしたサービスを下水道分野へ広げていくことが一つの方向性です。下水道向けサービスは現在すでに自治体への案内を開始しています。さらに言えば、インフラの維持管理という課題は水道だけに限りません。道路や橋梁、その他の社会インフラにも共通する課題があります。

特に人口減少が進む地方都市では、限られた人員や予算の中でインフラを維持していかなければなりません。そのため、私たちは将来的に水道を超えた社会インフラ全般へとサービスを展開していきたいと考えています。

2026年6月にリリースされた衛星データ購入オンラインプラットフォーム『Tenchijin EO Market』もその一環です。購入していただいたデータはインフラ管理だけでなく、防災や森林監視などの分野で活用することができます。」

そのビジョンを実現するうえで、どのような課題がありますか。

樋口氏

「大きな課題の一つは、関係者同士の連携です。現在、国土交通省も上下水道だけでなく、道路や通信などを含めた地下インフラ全体を俯瞰しながら維持管理を進める方向性を打ち出しています。しかし、それぞれのインフラは異なる組織や事業者によって管理されています。そのため、課題解決には業界や組織の枠を超えた連携が欠かせません。

例えば、2025年1月に埼玉県・八潮市で発生した甚大な道路陥没事故のようなケースでは、一つの組織だけで対応できる問題ではありません。未然防止や早期発見を実現するためには、多様なプレーヤーが協力し、大規模なアライアンスを構築する必要があります。こうした連携体制をどのように実現していくかが、今後の大きなテーマだと考えています。」

DXが定着するかどうかは『導入後の活用』で決まる

貴社は2024年日本DX大賞SX部門で優秀賞を受賞されるなど、DXの先進企業として注目されています。今後、DXを推進していきたいと考える企業や自治体に、成功への秘訣をアドバイスいただけますか。

岡田氏

「DXを進めるうえで大切なのは、導入後のゴールを共有することです。システムを入れること自体が目的になってしまうと、現場はなかなか動きません。重要なのは、『この取り組みによって何が変わるのか』を具体的に示すことです。業務がどのように効率化されるのか、どのような成果につながるのかを理解していただくことで、現場の納得感や主体性が生まれます。

DXは単なるデジタル化ではありません。データを活用しながら業務や組織のあり方を改善し、より持続可能な運営につなげる取り組みです。私たちも自治体の皆さまと伴走しながら、その実現を支援していきたいと考えています。」

樋口氏

「どれほど優れたDXツールやソリューションであっても、現場の業務と結びつかなければ機能しません。重要なのは、前工程から後工程までを含めた実際の業務フローの中で、どのように活用されるのかを明確にすることです。現場担当者だけでなく、組織全体がその価値や活用方法を理解して初めて、DXは定着します。そのためにも、私たちは単にシステムを提供するだけではなく、お客様と伴走しながら活用方法の定着を支援しています。

DXは導入して終わりではありません。現場に根付き、実際の業務改善につながって初めて成果が生まれます。その状態に到達するまで伴走し続けることが、DX推進において最も重要なことだと考えています。」

【取材を終えて】

今回の取材で印象に残ったのは、天地人が単なる宇宙ベンチャーではなく、社会インフラという極めて現実的な課題に真正面から向き合っている点でした。衛星データやAIというと最先端技術そのものに目が向きがちですが、同社が見据えているのは、技術の高度化ではなく、限られた予算や人材のなかで公共サービスを維持しなければならない自治体の課題解決でした。

樋口氏が語る壮大なミッションと、岡田氏が示す現場での着実な成果。この両者が結び付いたとき、「宇宙ビッグデータを使い、人類の文明活動を最適化する」という理念が、にわかに現実味を帯びて見えてくるようです。

最先端の技術を、いかにして足元の暮らしへ届けるか。天地人の挑戦が問いかけているのは、すべての企業や組織に共通するテーマです。貴社の組織がDXで守りたい「現実」は、どこにあるのでしょうか。そんな問いを考えながら、天地人が切り拓く、衛星データとAIを活用し、世界に新たな価値を提供していく未来を楽しみにしたいと思わずにはいられませんでした。

DXportal®編集部

株式会社天地人

「天」からの情報を「地」上の情報とあわせ「人」類の生活を豊かにする。その想いを叶えるために、JAXAベンチャーとして宇宙ビッグデータを活かした多様なサービスを提供。宇宙からの視点で、企業の課題や、地球規模の環境問題・社会課題の解決に貢献している。コア事業は、水道DXソリューション「宇宙水道局」。多くの自治体で導入が加速している。今後は、IPOとさらなる海外展開をも目指していく。

  • 社名:株式会社 天地人
  • 本社:東京都中央区日本橋1-4-1 日本橋一丁目三井ビルディング5階 ワークスタイリング日本橋一丁目 ROOM12
  • 代表取締役社長:櫻庭康人
  • 事業概要:衛星データを使った土地評価コンサル、サービス開発・運用
  • ホームページ:https://tenchijin.co.jp/
DXportal®編集部

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DXportal®編集部

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