【新人DX担当の教科書⑩】AIをDX担当の右腕にする|生成AIに最初に任せたい仕事

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「AIを使ってみろ」と社長に言われたものの、何から手をつければいいのかわからない。使ってみたけれど「なんとなく便利」で止まっている。機密情報を入れていいのか不安だし、返ってきた答えが正しいのかも判断できない。DX担当になったばかりの人から、こうした声をよく聞きます。

【新人DX担当の教科書】は今回で通算第10回です。ここまで、現場を観察し、業務を棚卸しし、改善テーマを選び、小さく始め、ベンダーと向き合い、社長と現場の間を翻訳し、情報収集の習慣をつくる、という流れをたどってきました。

今回は、その仕事を助ける道具として、生成AIをどう使い始めるかを扱います。本記事では、DX(デジタルトランスフォーメーション)担当が生成AIに「まず何を任せ、何を自分でやるか」を見分ける基準を整理します。

【本記事の要点】

  • 生成AIの活用は「全部おまかせ」からではなく、相談・下書き・整理を任せる「補助」から始める
  • 最初に任せる仕事は、(1)頻度が高く定型的、(2)間違えてもリカバリーできる、(3)自分で良し悪しを判断できる、の3条件で選ぶ
  • 取り返しのつかない対外発信、自分が検証できない専門領域、社外秘や個人情報をそのまま渡す作業は、最初は外す
  • 使い始める前に、入力してよい情報の線引きと、使ってよいツールを、情シス・経営と擦り合わせておく

読者の悩み(AIを使えと言われても、何を任せればいいのかわからない)

生成AIに何を任せ、どの情報を入力し、答えをどう確認するか判断できず立ち止まる新人DX担当者

まず、多くのDX担当者が生成AIの前で止まっている場所を整理します。

よく聞く悩みは、だいたい次のようなものです。

  • 生成AIに何を任せればいいかわからず、最初の一歩が踏み出せない
  • 試しにAIを使ってみたが、「便利そう」という感想で終わってしまう
  • 社内の資料をAIに入力していいのか、判断がつかない
  • AIから返ってきた答えが合っているのか、確かめる方法がわからない
  • 生成AIで「自動化」と言われても、自分の業務では現実味がない

これらに共通するのは、生成AIを「うまく使いこなすもの」ととらえて身構えている点です。実際には、使いこなす前に決めるべきことがあります。それは、何を任せて、何を自分の手元に残すか、という線引きです。

「叩き台はAI、最終判断は人」という基本方針

AIが作った叩き台を人が確認し、内容の正しさや数字、固有名詞を確かめて最終判断する、補助にとどめる基本方針

ここからは、生成AIとどう向き合うかの結論と、その結論にたどり着く理由を、順番に説明します。

結論:まずは「補助」から始める

先に結論を述べます。生成AIの活用は、無人で回る仕組みをつくることから始めるのではなく、相談・下書き・整理を任せる「補助」から始めるのが現実的です。

合言葉は「叩き台はAI、最終判断は人」です。会議メモの要約でも、案内文の下書きでも、AIが出したものはあくまで出発点です。中身の正しさ、数字、固有名詞は、人が確認してから使います。第9回で扱った「一次情報で裏を取る」という姿勢と、根っこは同じといってよいでしょう。

そのうえで、最初に任せる仕事は、次の3条件で選びます。

  • 頻度が高く、やり方がだいたい決まっている仕事
  • 間違えても、後から直せる仕事
  • 出てきたものの良し悪しを、自分で判断できる仕事

この3つを満たす仕事から始めれば、失敗しても被害は小さく、AIの誤りにも気づけます。

なお、本DXportal®でもAIを使って効率的に編集部を運営しています。編集長がAI編集部を使って気づいたことを記事にまとめていますが、実践の方法こそ違え、これも「叩き台はAI、最終判断は人」と同じ考え方の実例です。参考に読んでみてください。

なぜ「補助」と「3条件」が必要なのか

なぜ補助から始め、3条件で選ぶと良いのか。理由を説明します。

1つは、取り返しのつかない仕事を任せると、失敗がそのまま外に出てしまうからです。たとえば、取引先への正式な通知文をAIに書かせ、確認せずに送ってしまえば、間違いはもう取り消せません。AIに無人で最後まで任せてしまうと、この種の失敗を止める手立てがなくなります。任せる範囲を、人の確認を必ず挟める「補助」にとどめておけば、送信前に自分の目を通す一手間で防げます。

もう1つの理由は、自分が良し悪しを判断できない仕事では、AIの誤りに気づけないからです。生成AIは、事実と違うことや古い情報を、自信ありげに答えることがあります。これは「ハルシネーション」(AIが事実とは異なる内容を、もっともらしく作り出してしまう現象)と呼ばれる、AI特有の弱点です。

また、自分に詳しくない専門分野について生成AIに質問した場合、返ってきた答えをそのまま信じてはいけません。AIに任せる仕事を、良し悪しを自分で判断できる仕事に絞るのは、そのためです。生成AIが出す答えは、どれだけ自然に見えても、鵜呑みにしてよいものではありません。だからこそ、最後に正しさを見極める人間の役割が重要になります。

こうした理由から、「補助」と「3条件」という、被害が小さく、検証できる範囲から始めることになります。

最初に任せる仕事の選び方

生成AIへ任せる仕事を3条件で選び、外す仕事と社内ルールを確認して業務を仕分ける手順

ここからは、実際に任せる仕事をどう選ぶかの手順です。

3条件で「任せる仕事」を選ぶ

さきほどの3条件(頻度が高く定型的/後から直せる/自分で判断できる)を物差しにして、自分の日常業務を見ていきます。会議メモの要約、長い資料の要点整理、社内向けの案内文の下書きなどは、たいていの場合3条件を満たしているはずです。

手元の業務リストや、直近1週間にやった仕事のメモを見返し、この3条件に1つずつ丸をつけてみてください。3つとも丸がつく仕事は、任せる候補としてかなり有力です。1つでもバツがつく仕事は、いったん保留にしてかまいません。

最初は外す仕事を先に決める

任せる仕事を選ぶ前に、「最初は任せない」と決めておく仕事もあります。

  • 取り返しのつかない対外発信の最終版
  • 自分では正しさを検証できない専門領域
  • 社外秘や個人情報をそのまま入力する作業

これらは「絶対にやってはいけない」というより、「最初の一歩からは外す」と考えてください。

たとえば、プレスリリースの最終原稿をAIに書かせてそのまま配信する、契約条項の法的な妥当性をAIの回答だけで判断する、顧客名簿をAIに読み込ませて分析させる、といった仕事です。

どれも、間違えたときの被害が大きいうえに、自分では誤りに気づきにくいという共通点があります。これらの自動化は、任せる仕事に慣れてきてから、あらためて検討すれば十分です。

任せる前に社内で決めておくこと

生成AIを使い始める前に、2つのことを社内で擦り合わせておきます。1つは、入力してよい情報とだめな情報の線引きです。もう1つは、業務で使ってよいツールの確認です。どちらも、情シスや経営と相談して決めるとよいでしょう。

たとえば、顧客の個人情報や取引先の機密情報は入力しない、会社として利用を認めていない無料の生成AIサービスは業務で使わない、といった具体的なルールを、口頭ではなく簡単な文書にしておきます。

ルールが曖昧なまま使う人が増えると、後になって誰が何を入力したのか分からなくなり、トラブルが起きたときに対応が遅れます。第2回で扱った「味方を増やす」第7回の「ベンダーの見極め」第8回の「社長と現場の翻訳」が、この擦り合わせの場面で生きてきます。

業務棚卸しの応用として仕分ける

「AIに任せる仕事リスト」をつくる作業は、第4回で扱った業務の棚卸しの応用です。棚卸しした業務を、「AIに任せる」「半分だけ任せる(叩き台はAI、仕上げは人)」「自分でやる」の3つに仕分けていきます。棚卸し表がすでにあれば、そこに1列足すだけで始められます。

たとえば、月次レポートの下書きは「AIに任せる」、取引先への提案書は「半分だけ任せる」、契約に関わる最終確認は「自分でやる」というように、業務を1つずつ振り分けます。このとき、全部を一度に仕分ける必要はありません。まずは目についた数件だけ印をつけ、残りは気づいたときに少しずつ埋めていけば十分です。

生成AIを使い始める実践ステップ

会議メモ、資料、案内メールなどの一般的な使用例から、最終チェック、今日からの最初の1歩までの実践フロー

ここまでで、任せる仕事の選び方と、社内で決めておくべきことを確認しました。ここからは、実際に手を動かすための一般的な使用例、任せる前の最終チェック、そして今日からできる最初の1歩を、順番に見ていきます。

よくある使い方(一般化した例)

最初の一歩として無理のない、生成AIの使い方を一般的な例で挙げます。特定の会社の話ではなく、多くの現場で共通して見られるものです。

  • 会議メモから、決まったことと宿題を箇条書きに整理してもらう
  • 長い通知文や資料を、要点3つにまとめてもらう
  • 社内向けの案内メールのたたき台をつくってもらう
  • 知らない用語や制度について、調べ物のとっかかりを出してもらう
  • 表計算の関数やエラーの原因について、相談相手になってもらう
  • 社内向け資料の誤字脱字や言い回しのおかしさを、下読みしてもらう
  • 複数の資料を読み比べ、共通点や食い違いを洗い出してもらう

いずれの例でも、AIが最初に作るのはあくまで「叩き台」です。会議メモの整理であれば聞き間違いや抜け漏れが、案内メールの下書きであれば言葉づかいのニュアンスが、実際にはズレていることがあります。仕上がったものをそのまま配布・送信せず、必ず自分で読み直してから使ってください。

任せる前の最終チェックリスト

生成AIに仕事を任せ始める前に、次の項目を確認してみてください。

確認項目チェック
任せようとしている仕事は、頻度が高く、やり方がだいたい決まっているか
その仕事は、間違えても後から直せるか
出てきたものの良し悪しを、自分で判断できるか
取り返しのつかない対外発信を、確認なしで任せていないか
入力してよい情報とだめな情報の線引きを、社内で決めたか
業務で使ってよいツールを、情シス・経営に確認したか

「いいえ」がある項目は、そこが整うまで任せる範囲を広げないほうが安全です。

今日からできるアクション

最後に、今日からできることを1つに絞ります。

今週の自分の業務から、「定型的で・間違えても直せて・自分で正誤を判断できる」仕事を1つだけ選び、その叩き台づくりを生成AIに任せてみてください。

  • 機密情報は入力しない
  • 出てきたものは、自分で確認してから使う

この2つだけ守れば、小さく試せます。

うまくいったら、仕分け表に「任せる」を1件書き込む。それが、生成AIを右腕にしていく最初の1歩です。

まとめ:任せる基準さえ持てば、AI活用は小さく始められる

生成AIの活用は、特別な才能や大がかりな仕組みから始まるものではありません。頻度が高く、間違えても直せて、自分で良し悪しを判断できる仕事から任せる。取り返しのつかない発信や、検証できない専門領域や、社外秘をそのまま渡す作業は、最初は外す。使い始める前に、入力してよい情報とツールを社内で決めておく。この基準さえ持てば、誰でも小さく始められます。

「叩き台はAI、最終判断は人」。この一線を守りながら、任せる仕事を1つずつ増やしていく。それが、DX担当が生成AIを右腕にしていく進め方です。

次回【新人DX担当の教科書⑪】は、最初の90日間を振り返ります。積み重ねてきた活動をどう成果として見える化し、経営層へ伝えるか。ここまでの歩みの棚卸しを取り上げます。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。