業務課題リストの作り方|新人DX担当が最初に整理すべき改善テーマの選び方

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「現場から困りごとを集めたけれど、数が多すぎて整理できない」

「全部大事に見えて何から着手すればよいのか判断できない」

「社長は早く成果を求めるが、現場は忙しくて協力してくれない」

新任のDX(デジタルトランスフォーメーション)担当として動き始めた方から、こうした声を数多く伺います。

本記事は、シリーズ【新人DX担当の教科書】の第5回として、集めた困りごとを「業務課題リスト」に整理し、どこから改善に着手するかを判断する方法を解説します。今回は、第4回までで業務棚卸しを終えた読者を想定し、次の実務工程に橋渡しする内容です。

読み終えたときには、「今取り組む課題」「準備してから取り組む課題」「今は記録に留める課題」の3つに課題を分ける手順が身につき、社内で最初の一歩を踏み出せる状態になります。DX担当として最初に評価される仕事は、立派な戦略資料ではなく、経営と現場が同じ地図を見られるようにする整理作業だと分かるはずです。

【本記事の要点】

  • 業務課題リストは、現場の困りごと・業務のムダ・経営への影響・改善のしやすさを同じ土俵で比べる道具である
  • 「困りごと」と「課題」は分けて考える。声そのままを課題にすると選定を誤る
  • 優先順位はスコアリング表ではなく、A/B/Cの3分類で始める。完璧より前進を優先する
  • 最初に取り組むテーマは「現場が困っていて経営にも効く」課題から選ぶ

目次

なぜ最初に「業務課題リスト」が必要なのか

業務の全体像を共有し、優先順位を付け、経営と現場の共通言語にする役割を示す図解

DX担当として動き出したとき、最初に作るべきは立派なDX戦略資料ではなく、現場の困りごとを経営と現場の両方で話し合える形に整理した「業務課題リスト」です。理由は、感覚や声の大きさで改善テーマを選ぶと、会社にとって意味のある改善から遠ざかるからです。この章では、なぜリスト化という地味な工程を先に置くのか、その根拠と役割を整理します。

経済産業省とIPAが公表した最新の調査でも、DXで成果を出している企業は、経営戦略と業務課題を紐づけて可視化する工程を先行させている傾向が示されています。ツール選定より前に、まず整理の場を作ることが求められています。

業務課題リストが果たす3つの役割

業務課題リストは、次の3つの役割を果たします。

  • 現場の声を、経営が理解できる言葉に翻訳する翻訳装置
  • 数多くの困りごとを、比較可能な形式に揃える整理棚
  • 「今やらないこと」を明確にし、担当者の抱え込みを防ぐ防波堤

新人DX担当は、あれもこれも解決したくなるものです。しかしDXは、限られた時間・人・予算のなかで意味のある改善を選ぶ仕事です。リストは、その判断を支える最初の道具になります。

DX担当が「戦略資料」から入ってはいけない理由

「まずDX戦略を作ろう」と考えるDX担当は多いのですが、着任直後にいきなり戦略資料を作ると、現場の実態と乖離した計画になりがちです。そのため、中堅・中小企業のDXは、経営課題・業務課題の可視化から段階的に進めるステップ型アプローチが推奨されています。

中小企業のDXは、経営者主導での取組と業務課題起点の段階的な推進が有効とされており、業務改善から始めるアプローチが白書でも繰り返し示されています。DX担当のスタート地点は、戦略資料ではなくリストであると考えてください。

出典・参照:

「困りごと」と「課題」を分ける:言い換えの技術

現場の困りごとを集め、事実に分け、改善可能な課題へ言い換える手順を示す図解

業務課題リストの品質を決めるのは、「困りごと」を「課題」に言い換える工程です。ここを飛ばすと、リストはただの不満メモになり、経営と話す基準となるリストにはなりません。この章では、両者の違いと、現場の声を経営の言葉に翻訳する具体的な手順を扱います。

困りごとと課題は同じではない

困りごとは、現場の声そのままです。たとえば「毎回入力が面倒」「あの人に聞かないと分からない」「紙を探すのに時間がかかる」といった発言が該当します。一方、課題は、その困りごとの背景にある業務上・経営上の問題を指します。

次の表は、同じ発言をどう翻訳するかを示した対応表です。この違いを押さえるだけで、リストに書く内容が変わります。

現場の困りごと業務・経営上の課題
毎回同じ内容を入力している二重入力による作業時間の増加と入力ミスの発生
あの人に聞かないと分からない業務手順の属人化による業務停止リスク
紙を探すのに時間がかかる書類の検索性低下による顧客対応の遅延
承認が止まる承認フロー不明確による意思決定の遅延

この表を眺めると、改善する対象が「入力方法」なのか「情報共有ルール」なのか「承認フロー」なのかが分かれていることに気づくでしょう。困りごとを課題に翻訳することで、初めて改善の的が絞れます。同じ「面倒」という言葉でも、裏にある課題は毎回違います。

言い換えの3ステップ

言い換えは、以下の3ステップで進めると迷いません。DX担当が最初に習慣化すべき思考法です。

  1. 現場の声をそのまま書き出す(脚色しない)
  2. 「なぜそれが起きているのか」を1〜2回問い直す
  3. 業務・経営の言葉で言い換える(時間・ミス・リスク・売上に翻訳する)

このとき、問い直しは深追いしすぎず、2回程度に留めるのがコツです。深く掘りすぎると、話が「そもそも会社の方針が……」というレベルまで広がり、DX担当の手に負えなくなりかねません。目的は真犯人探しではなく、経営と話せる粒度に整えることです。

業務課題リストに載せるべき項目

業務課題リストに記録する現状、影響、原因、根拠の主要項目を示す図解

ここでは、Excelやスプレッドシートで作れる業務課題リストの構成を示します。専用ツールも凝ったフォーマットも不要です。1行1課題の一覧表で始められる形にしています。

標準14項目のフォーマット

まず載せるべき項目は次のとおりです。項目が多く見えますが、実際に書き込むと1課題あたり15分ほどで埋まるはずです。

項目内容
課題番号一意のID(例:T-001)
業務名どの業務で発生しているか
現場から出た困りごと現場の声をそのまま記録
困りごとの背景なぜそれが起きているのか
本当の課題業務・経営の言葉で言い換えた課題
発生頻度毎日/週次/月次/臨時
影響を受ける人部署・人数・関係者
経営への影響時間・人件費・売上・顧客満足など
放置した場合のリスク続けた場合に何が起きるか
改善のしやすさ高/中/低
関係部署巻き込みが必要な部門
現場の抵抗ありそう/なさそう
優先度A/B/C
次に確認すること追加でヒアリングすべき点

この14項目を1行に並べるだけで、後述する優先順位付けが機能します。読者は自社のExcelにこの列を作るところから始めてください。

「改善案」欄はまだ作らない

新人DX担当が陥りがちなのが、この段階で「解決策」の列を作ってしまうことです。ツール導入・自動化・AI活用といった解決策は、この工程では書き込まないでください。理由は2つあります。

ひとつは、解決策を先に決めると、それに合う課題だけを拾ってしまうためです。もうひとつは、解決策の議論に入ると、そもそもの課題整理が止まるためです。改善案はシリーズ第6回以降の「小さな成功」の工程で扱います。今は課題を並べることに集中してください。

課題を整理する4つの視点

発生頻度、影響範囲、経営への影響、改善しやすさで課題を整理する図解

集めた課題を比較するには、共通の物差しが必要です。感覚での比較は担当者を消耗させます。この章では、課題を整理する際の物差しとなる、4つの視点を紹介します。この視点で課題を捉えることで、感覚ではなくデータで話せるようになるはずです。

視点1:発生頻度

ある課題が、毎日発生するのか、月に1回なのか、期末だけなのかを分けます。課題となるのが同じ「10分の作業」でも、期末に1度だけの10分なら大した問題ではありませんが、毎日発生する業務なら年間で40時間を超えます。

課題の発生頻度は、改善効果を試算する基礎になるため、「面倒」の一言で片付けず、月あたり何回起きているかをできる限り具体的な数字で押さえてください。

視点2:影響範囲

1人だけが困っているのか、複数部署や顧客に波及しているのかを見ます。1人の困りごとを軽視するわけではありませんが、範囲が広いほど改善による波及効果も大きくなります。特に顧客対応に影響している課題は、社外への信頼に関わるため優先度が上がりやすい領域です。

視点3:経営への影響

  • 時間
  • 人件費
  • 売上
  • 利益
  • 顧客満足
  • ミス
  • 離職リスク

その課題が、上記のいずれに関わる作業なのかを整理します。特に、顧客からのクレームや納期遅延に直結する課題は、経営者の判断を引き出しやすいため、優先候補に上げておくとよいでしょう。数値化が難しい場合でも「もしこれが続いたら何が起きるか」を短く書いておくだけで、後の会話が変わります。

視点4:改善のしやすさ

次は、その業務改善がすぐ試せるのか、予算やシステム導入が必要なのか、現場ルールの見直しが必要なのかに分類します。「効果は大きいが実行は難しい」課題は、Bランクに置いて準備を進めましょう。

改善のしやすさを見誤ると、着手した瞬間に頓挫します。関係部署の数と現場の抵抗の強さを、遠慮なく書き込んでください。

出典・参照:

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。