【新人DX担当の教科書⑨】DX担当の情報収集術|毎日30分で業界動向をキャッチアップする方法

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【新人DX担当の教科書】は今回で通算第9回です。ここまで、現場を観察し、業務を棚卸しし、改善テーマを選び、小さく始め、ベンダーと向き合い、社長と現場の間を翻訳する、という流れをたどってきました。どれも一度やって終わりではなく、続けていく仕事です。その継続を支える土台が、今回扱う情報収集の習慣です。

今回は、「毎日30分」という制約のなかで、DX(デジタルトランスフォーメーション)担当が業界動向をどう追い、どこまでやれば「情報収集した」と言えるのかを整理します。なお、本シリーズの目次を巻末に掲載しています。関心のある回から読んでも、今回の記事だけでも理解できる内容です。

【本記事の要点】

  • 情報収集は「たくさん読むこと」ではなく、意思決定に使える形で少量を継続的に取り込み、社内へ渡すことである
  • 毎日30分という枠は、すべては追い切れないという前提に立って「何を見ないか」を決めるための制約である
  • 判断に関わる情報は、二次情報(まとめ・解説)であたりをつけ、一次情報(公式発表・制度改正の原文)で確認する
  • 集めた情報は、社内の関係者へ短く共有するところまでやって、はじめて「情報収集」になる

読者の悩み(何を見ればいいか、わからない)

多数のニュースやレポートに囲まれ、何を確認すべきか迷う新人DX担当者

DX担当になったばかりの人から、情報収集についてよく聞く悩みは、だいたい4つに分かれます。

  1. 何を見ればいいか分からない。情報源が多すぎて、どこから手をつけるべきか見当がつかない
  2. 時間が溶ける。気になる記事をたどるうちに、気づけば1時間が過ぎている
  3. 読んでも社内で活かせない。知識は増えた気がするのに、業務や提案につながらない
  4. 続かない。最初の数日は頑張るものの、忙しくなるとやめてしまう

これらに共通するのは、「情報収集」を「たくさん読むこと」だと考えている点です。読む量を増やそうとするから、時間が足りなくなり、消化しきれず、続かない。まずこの前提を置き換えるところから始めます。

結論:情報収集は「量」ではなく「続けて渡すこと」

集めた情報を選び、要点をまとめてチームの判断へ渡す情報収集の流れ

先に結論を述べます。DX担当の情報収集とは、意思決定に使える形で少量を継続的に取り込み、社内へ渡すことです。そして、そのためにかける時間は、1日30分で事足ります。そのポイントも3つしかありません。

  • 意思決定に使える形にすること
  • 少量を継続的に取り込むこと
  • 社内へ渡すところまで含めること

情報は、それ自体には価値がありません。価値が生まれるのは、その情報をもとに何かを判断したり、社内の誰かが動いたりしたときです。だから、追いかける情報は「自社の判断に関わりそうなもの」に絞ってよく、量は少なくてかまいません。そのかわり、途切れずに続けること。そして、自分の頭のなかにとどめず、関係者へ短く伝えること。ここまでやって、はじめて仕事としての情報収集と言えるのです。

「1日30分」という枠も、この考え方から出てきます。DX担当の多くは他の業務と兼任していて、情報収集にまとまった時間は取れません。それでも、判断に関わりそうな情報だけに絞れば、30分で十分です。

むしろ、30分しかないという制約があるからこそ、「何を見ないか」を先に決めざるをえません。毎日30分という枠は、すべてを読むための時間ではなく、追い切れないことを前提に、見る対象を絞り込むための制約です。

なぜ情報収集は目的化しやすいのか

記事を保存するだけで、業務や意思決定へつながらない情報収集の状態

ここで、情報収集が「読むだけで動けない」状態に陥りやすい理由を整理します。

理由の1つは、情報が無限にあることです。DX、AI、業界ニュース、制度改正。どれも毎日新しい記事が出ます。DXportal®も、毎日3本、さまざまな分野のDX関連ニュースを配信しています。ただ、読者の方々はすべてを読む必要はありません。自分の業界に関わるものだけ、あるいは興味を持てるものだけを読む。それで十分です。全部を追おうとすれば、いくら時間があっても足りませんし、終わりが見えない作業は達成感も得にくくなってしまうでしょう。

もう1つは、集めること自体で安心してしまうことです。記事をたくさん読み、資料を保存し、ブックマークが増えていくと、「勉強している」感覚になります。しかし、読んだだけでは何も変わりません。いわゆる「ノウハウコレクター」、つまり学ぶだけで実践しない状態です。読んだ内容を自社の状況に当てはめ、次の打ち手や社内への提案につなげて、はじめて意味が出ます。情報は、使える形にするところまでやらなければ、集めていないのと同じです。

だからこそ、区切りと基準が必要になります。時間で区切る。見る対象を基準で絞る。この2つがないと、情報収集はいくらでも膨らみ、やがて続かなくなってしまうのです。

毎日30分の組み立て方

情報を探す、選ぶ、共有する作業を毎日30分の枠へ分けた図解

ここからは、30分をどう使うかの具体的な組み立て方です。やることは、最初に一度だけ決めておくことと、毎日くり返すことに分かれます。

最初に一度だけ決めておくこと

  1. いつやるかを固定する。「始業前に20分、昼休みのあとに10分」というように、時間と回数を決めてしまう。空いた時間にやろうとすると、たいてい後回しになる。
  2. 見ないものの基準を先に決める。「自社の業種に関係のない業界の個別ニュースは見ない」「製品の細かい新機能の紹介は見ない」といった具合である。見るものを増やすのではなく、見ないものを決めるのが先になる。
  3. 定期的に見る一次情報の発表元を2〜3カ所に絞る。所管する官公庁、業界団体、自社が使っているシステムの提供元。まずはこれだけでよい。

毎日の30分ですること

  1. まとめ記事や解説記事などの二次情報で、全体像をざっとつかむ。
  2. 判断に関わりそうな部分は、公式発表や制度改正の原文といった一次情報で裏を取る。二次情報だけで社内に伝えると、要約の過程で抜け落ちた条件を見落とすことがある。
  3. 気づいたことを1行で社内へ共有する。「この制度改正、うちの申請業務に影響しそうです」の一文で十分である。

なお、最近はAIに定期的に情報をクロール・要約させて動向を追う方法も出てきています。AIエージェントのルーティンやスケジュールの機能を使えば、朝出社したときには、その日の要約ができあがっている、という使い方もできるでしょう。

この方法は、時間の節約にはなりますが、要約はあくまで入口です。判断に関わる部分は、自分で一次情報を確認する。この線は引いておいてください。

情報収集に関するよくある失敗例

情報源を広げすぎる、ためるだけ、共有しないという情報収集のつまずき

ここでは少し目先を変えて、特定の企業によらず、多くのDX推進現場で見かけるありがちな情報収集の失敗を、1人の担当者のたどり方として描いてみましょう。

総務と兼任でDX担当を任されたAさんは、まず情報収集からと考え、良さそうなメールマガジンやニュースサイトを10個ほど登録しました。でも、最初の数日はすべて目を通していたものの、通常業務が立て込むと受信箱はたまる一方です。2週間後には、ほとんどのメールは開かないまま、フォルダに溜まっていくだけになっていました。

そんなある日、補助金の要件が変わるという解説記事を見つけます。それはまさに、自社が申請を検討していた制度です。Aさんは記事の要点をそのまま部長へ伝えました。数日後、部長から呼びだされます。

「キミの報告書にある内容、対象事業者の条件が実際とちがうよ。うちは対象外だ」

解説記事は、要点を短くまとめる過程で細かい条件を落としていたのです。Aさんは、二次情報(メルマガ)で当たりをつけたあとに一次情報(補助金の公式サイトなど)で確認する、という手順を踏んでいませんでした。

それでもAさんは、情報収集そのものは続けていました。気になる記事はフォルダ内にためている。ただ問題は、その内容を社内の誰かに共有することがほとんどなかったことです。結果、周囲からは、「一日中パソコンを見ているけれど、何をしている人なのか分からない」と見られるようになってしまいました。本シリーズの第2回で触れた「味方を増やす」という観点でも、共有しない情報収集はもったいない使い方です。

Aさんのつまずきは、どれも「量を増やす」ことに気を取られ、「絞る」「裏を取る」「渡す」がおろそかになったときに起きています。前章の手順は、この裏返しだと考えてください。

チェックリスト

情報源、時間、選択基準、共有先を決めて継続可能にするチェック項目

自分の情報収集が回っているかは、次の表で点検できます。月に一度ほど、各項目に「できている(○)」「できていない(×)」をつけてみてください。

場面確認すること○/×
準備(最初に決める)情報収集をやる時間と回数を決めている
準備(最初に決める)「見ないもの」の基準を先に決めている
準備(最初に決める)定期的に見る一次情報の発表元を2〜3カ所に絞っている
毎日の運用決めた時間の枠に収まっている(超える日が続くなら、見る対象が多すぎる)
毎日の運用判断に関わる情報を、二次情報だけで済ませていない
毎日の運用気づきに「だから自社にどう関係するか」を添えて共有している
ためこみ防止直近1カ月の気づきのうち、業務の改善や提案につながったものが1つでもある
ためこみ防止読まなくなった情報源を、そのままにせず外している

「×」がついた項目が、次に手を入れる場所です。すべて「○」なら、情報収集はもう習慣として回っています。

今日からできるたった1つのアクション

情報源を一つ選び、30分で要点を一行にまとめて共有する最初の行動

今日からできることを、1つに絞ります。

一次情報の発表元を2〜3カ所だけ見て、気づいたことを1行で社内チャットに書く。これを毎日決められた時間に1週間続けてみてください。

この作業だけなら、30分あれば十分です。発表元を見るのに15分、書くのに15分。慣れれば、もっと短く済むようになるでしょう。最初の1週間は、うまくやることより、決まった時間に続けることを優先してください。

まとめ:情報収集は、区切りと基準で誰でも続けられる習慣

DX担当の情報収集は、才能や情報感度の問題ではありません。時間で区切り、見ないものの基準を決め、一次情報と二次情報を使い分け、気づきを社内へ短く渡す。この一連の流れを習慣にできるかどうかの問題です。

毎日30分という枠は、すべてを追うための時間ではなく、何を追わないかを決めるための制約です。集めた情報は、社内の誰かに渡すところまでやって、はじめて仕事になります。第8回で扱った「社長と現場の翻訳」も、材料になるのは日々の情報収集です。

まずは1日30分、発表元を2〜3カ所、気づきを1行。ここから始めれば、情報収集は続けられる仕事に変わります。

次回【新人DX担当の教科書⑩】は、その一歩先を扱います。集めた情報や日々の業務に、生成AIをどう組み込むか。DX担当の右腕としてのAIの使い方を取り上げます。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。