{8/23夕刊}【新人DX担当の教科書⑦】ベンダーの営業に振り回されないために|システム導入前に確認すべき4つの判断軸

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「A社は実績が豊富、B社は他社より安い、C社は説明が丁寧だった」

複数のベンダーから提案や見積もりを受け取ったものの、条件も金額もバラバラで、結局どれを選べばいいのか分からなくなる。新任のDX担当者からよく聞く悩みです。

話の上手なベンダーの営業担当者ほど、よい提案に見えてしまいます。大手との取引実績を並べられると、それだけで安心してしまいそうにもなるでしょう。かといって、金額の安さだけで決めていいのかも判断がつきません。実は、ここで本当に危ないのは、話の上手い営業担当者に丸め込まれることではありません。自社側に「比較するための物差し」がないまま、提案を聞き始めてしまうことです。

【新人DX担当の教科書】第7回となる本記事では、DX担当者がベンダーと対峙する際に必要となる物差しとなる4つの判断軸と、失敗パターン、そして今日から使えるチェックリストを紹介します。読み終える頃には、次にベンダーの話を聞くとき、何を確認すればいいかが分かるはずです。

【本記事の要点】

  • ベンダー選定で本当に危ないのは、営業担当者に騙されることではなく、自社側に比較できる物差しがないまま提案を聞き始めることである
  • 営業担当者や提案内容の質に差があること自体は否定できないが、自社側に比較基準がなければ、その差を見抜くこと自体が難しい
  • 「見積もりの前提」「自社課題への理解」「サポート・追加費用の条件」「説明の分かりやすさ」の4つの判断軸は、この物差しを具体的な形にするための道具である

営業トークに惑わされない4つの判断軸

営業担当者の印象ではなく、自社の物差しで複数の提案を比較する図解

ベンダー選定で本当に危ないのは、話の上手い営業担当者に丸め込まれることではありません。自社側に「比較するための物差し」がないまま、提案を聞き始めてしまうことです。

営業担当者の説明力や、提案そのものの中身に差があること自体は否定できません。経験豊富で自社の課題を深く理解した提案もあれば、テンプレートをなぞっただけの提案もあるでしょう。問題は、その差を自社側が見抜けるかどうかです。

物差しとなるのが、次の4つの判断軸です。

  • 見積もりの前提:保守費用・連携費用・追加費用の範囲が、各社で同じ条件になっているか
  • 自社課題への理解:テンプレート的な機能紹介で終わらず、自社の業務・課題に具体的に触れた提案になっているか
  • サポート・追加費用の条件:導入後のサポート内容や対応時間、追加費用が発生する条件が、契約前に明確にされているか
  • 説明の分かりやすさ:専門用語だらけではなく、非IT担当者にも理解できる説明になっているか

この4つの物差しを持っていれば、営業担当者の話し方に左右されず、提案そのものの質を評価できるのです。ではなぜ、物差しがないと差を見抜けなくなるのでしょうか。次の章で詳しく解説します。

なぜ「話が上手なベンダー」を選んでしまうのか

見積もりの前提が各社で異なるため、担当者が印象でベンダーを選びやすくなる状況

新人DX担当者がベンダーの提案を評価するとき、判断がぶれやすいのには理由があります。はじめてDX担当になったばかりの「一般のビジネスパーソン」の中には、ITの知識や導入経験がまだ浅い人も少なくありません。そのため、そもそも経験から生まれる比較するための物差しを自分の中に持てていないのです。物差しがなければ、話の分かりやすさや実績の強調といった「印象」に頼らざるを得なくなります。

さらに厄介なのは、複数社から見積もりを取っても、前提条件がそろっていないケースが多いことです。

  • A社の見積もりには保守費用が含まれ、B社には含まれていない
  • C社は既存システムとの連携費用を別枠にしている

物差しがないまま金額だけを比較すると、契約後に「その機能は見積もりに含まれていません」と追加費用を求められる事態が起きやすくなります。中小企業のベンダー選定を扱う専門家記事でも、この「前提がそろわないまま比較してしまう」失敗は繰り返し指摘されています。

出典・参照:

相見積もりの前に尋ねる「3つの質問」

相見積もり前に評価軸を固定し、同じ質問への回答を横並びで比較する手順

4つの判断軸という物差しを機能させるには、相見積もりを取り始める前に、自社側で判断軸を先に固定しておくことが重要です。ベンダーごとに聞き方や確認するタイミングがばらばらだと、結局「話しやすかった会社」の印象で選んでしまうからです。

具体的には、各ベンダーへ次の3つの質問を、同じタイミングで投げかけてみてください。

  1. この見積もりに、保守費用と連携費用は含まれていますか
  2. 追加費用が発生するのは、どのような場合ですか
  3. サポートの対応時間と、対応してもらえる内容を教えてください

この3つの質問への回答を横並びで比較するだけで、前提のズレはかなり見えてきます。

中小企業のIT相見積もりを扱う専門家記事でも、相見積もりを始める前に評価基準を自社側であらかじめ固定しておくことが、比較可能性を高めるカギとして紹介されています。安さ・実績・話の分かりやすさのどれか1つだけで判断せず、4つの軸すべてを確認してから決める姿勢が大切です。

出典・参照:

よくある失敗パターン

金額だけの比較、実績偏重、伝わらない説明というベンダー選定の失敗例

ここからは、多くのDXに取り組みはじめたばかりの担当者が起こしがちな失敗パターンを整理します。

1つ目は、見積もりの前提がバラバラなまま金額だけで比較してしまうパターンです。初期費用の安さに目を引かれて選んだものの、契約後に保守費用や連携費用が別途発生し、結果的に総額が想定より膨らんでしまいます。

2つ目は、実績や取引先の大きさを強調するだけの提案を、話が上手いという理由だけで選んでしまうパターンです。大手企業との取引実績は、必ずしも自社の課題への理解を意味しません。提案の中に自社の業務や悩みへの具体的な言及があるかどうかを、別途確認する必要があります。

3つ目は、専門用語を多用し分かりやすく説明できないベンダーと契約してしまい、結果として社内に定着せず使われないシステムになってしまうパターンです。導入を決めるのはDX担当者でも、実際に使うのは現場の社員です。担当者自身が説明を理解できない提案は、現場にも伝わりません。

営業担当者や提案内容の質にも、実際には差があります。しかし、自社側に比較の物差しがなければ、その差を見抜くこと自体が難しくなるでしょう。3つのパターンはいずれも、物差しのなさが差を見えなくしてしまうことで起きやすい失敗例です。

最終判断のための4項目チェックリスト

見積範囲、自社課題の理解、サポート条件、説明の分かりやすさを比較するチェック表

4つの判断軸という物差しをもとに、最終的にベンダーを選ぶ際のチェックリストを用意しました。検討中のすべてのベンダーについて、次の4項目を確認してください。

  • 各社の見積もりに含まれる範囲(保守・サポート・連携費用の有無)を、同じ条件で確認したか
  • 提案内容が自社の業務・課題に具体的に触れているか、テンプレート的な機能紹介で終わっていないか
  • 導入後のサポート内容・対応時間・追加費用が発生する条件を、契約前に確認したか
  • 専門用語だらけではなく、非IT担当者にも分かるように説明されているか

4項目すべてに「はい」と答えられないベンダーがあれば、契約前にもう一度質問する機会を作りましょう。曖昧な回答しか返ってこない場合、それ自体が判断材料になります。

現在、既に検討中のベンダー提案があるなら、上記チェックリストのうち確認できていない項目を1つ選び、次の商談で質問してみてください。「この見積もりに保守費用は含まれていますか」という1問だけでも、比較の精度は大きく変わります。

検討中の提案がまだない場合は、次にベンダーの話を聞く前に、この4項目を自分用のメモとして書き出しておきましょう。話を聞きながら確認する項目が決まっていれば、営業担当者の話の上手さに流されにくくなります。

まとめ:ベンダー選定で危ないのは営業トークではなく「物差しのなさ」

本記事の要点を振り返ります。

  • ベンダー選定で本当に危ないのは、話の上手い営業担当者に丸め込まれることではなく、自社側に比較できる物差しがないまま提案を聞き始めることである
  • 営業担当者や提案内容の質に差があること自体は否定できないが、自社側に物差しがなければ、その差を見抜くこと自体が難しい
  • 物差しとなるのが「見積もりの前提」「自社課題への理解」「サポート・追加費用の条件」「説明の分かりやすさ」の4つの判断軸である
  • よくある失敗パターン(前提バラバラでの比較、実績強調だけでの選定、専門用語だらけで定着しない)は、いずれも物差しのなさが差を見えなくしてしまうことで起きやすい
  • 4項目のチェックリストで最終判断し、答えられない項目があれば契約前に質問する

ベンダー選定で最初に必要なのは、営業トークを見抜く力ではなく、比較するための物差しを自社で持つことです。次にベンダーの提案を受けるときは、この4つの判断軸を手元に置いて臨んでみてください。

最後に、実際に数多くの企業のDX推進サポートを続けてきたDXportal®編集部として付け加えておきたいことがあります。それは、ベンダーを決める最後のカギは、「自社の課題にどれだけ親身に寄り添い、サポートパートナーとして並走してくれそうか」という一点に尽きるということです。

どれだけすぐれた提案をしてくれているように見えても、そのベンダーが自社のシステムを売りたいだけなのか、あるいは本当に自社の課題に寄り添ってくれるのかは、通り一遍のセールストークでは見えにくいこともあるでしょう。

自社のDX推進に多大な貢献を果たすベンダー選びは、一朝一夕で決まるものではありません。長い道のりを共に歩いてくれるパートナーを探す。その視点に立ち、慌てず、急がずにじっくりと話し合ってから選ぼうと考えることも、また大切な視点なのです。

シリーズ【新人DX担当の教科書】。次回は、社長と現場の板挟みで苦労するDX担当者にならないための、社内調整とコミュニケーションの基本について解説する予定です。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。