物流DXは進んでいる。それでも管理者が紙をExcelへ写し続ける理由

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「WMS(倉庫管理システム)は導入した。ハンディターミナルも配った。それでも管理者は毎日Excelに向かい続けている」

DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める物流現場で、当たり前に目にする光景。

「IT化は進み、業務の効率化はなされているはずなのに、いつまでたっても管理者の仕事は減っていない」

「現場を歩く時間よりパソコンに向かう時間の方が長い」

こんな矛盾を抱えている方は多いはずです。

本記事では、物流会社でよく見かける、ITツールとExcelの二重記帳状態を例に取り、「紙をなくす」という単純な啓蒙ではなく、「なぜ管理者は紙をExcelへ写し続けているのか」という本質的な問いについて考えていきます。

貴社のどの作業で、1枚の紙書類からの転記業務を生じているのかを思い出しながら、どうぞ最後までお読みください。

【本記事の要点】

  • 物流現場のDX推進は作業レイヤーで進んでいる一方、集計・報告のレイヤーで管理者の「紙→Excel転記」が残り続けている
  • 転記が消えない背景には、荷主都合の帳票・EDI非対応・現場定着・デジタコ非連携・属人化への安心感という5つの構造要因が絡み合う
  • 紙をなくすことがDXなのではなく、転記を前提としない業務設計への転換こそが本質
  • 明日からの一歩は「どの紙が、いつ、誰の転記を生んでいるか」を1週間だけ棚卸しすること

物流DXは止まっていない。それでも管理者は毎日Excelに向かっている

物流DXは止まっていない。それでも管理者は毎日Excelに向かっている

最初に確認してきますが、現在の物流現場でDXが進んでいないわけではありません。

  • ハンディターミナルでのバーコード読み取り
  • WMSによる在庫管理
  • デジタコによる運行記録

その他、作業レイヤーでのデジタル化は着実に進んでいることは間違いありません。国土交通省も『総合物流施策大綱』でDX・標準化・労働力不足対応を政策の柱に据え、物流施設におけるDX推進実証事業などで補助を続けています。それでも現場の管理者から「システムは入ったが、Excel入力は減っていない」という声が消えないのはなぜでしょうか。

理由はDXが止まっているからではなく、情報が一度デジタル化された後に、人がもう一度別媒体へ写す仕事が残っているからです。

  • 作業者がハンディで読んだデータはWMSに入っているのに、荷主報告や社内KPIは別のExcelに入れ直す
  • ホワイトボードで進捗を書き、写真を撮り、事務所で入力する
  • ドライバーは手書きの日報を書き、翌朝管理者がExcelにまとめる

これらはすべて、個々の作業はデジタルなのに、それらをつなぐ「集計」の部分で人力の転記が発生している構造です。この状態を「DXが遅れている」と一言でくくると本質を外してしまうでしょう。

実際に起きているのは、部分最適でデジタル化されたシステムどうしがつながっておらず、その隙間を管理者の手作業が埋めている、という現象です。まずはこの事実を、責任論ではなく構造として認識することが出発点になります。

出典・参照:

なぜ「紙→Excel転記」が消えないのか。5つの構造的理由

なぜ「紙→Excel転記」が消えないのか。5つの構造的理由

管理者の転記業務がなくならない理由は、精神論でも怠慢でもありません。現場を観察すると、少なくとも5つの構造要因が絡み合っていることが見えてきます。

ここでは代表的な要因を分解し、それぞれ何が「もう一度写す仕事」を生んでいるのかを整理します。自社に当てはまるパターンを見つけるためのチェックリストとしてお読みください。

理由1:荷主から届く紙伝票とFAX受発注

第一の要因は、荷主・取引先から届く帳票が紙・FAX前提で運用されていることです。倉庫側がWMSを入れていても、当日入荷分の指示書がFAXで届けば、管理者はそれをExcelや基幹システムへ手入力しなければなりません。

経済産業省の物流審議会資料でも、多重下請け構造と中小事業者比率の高さがDXの遅れの要因として整理されています。荷主が変わらない限り紙は減らない、という現実が現場を縛っています。自社努力だけで解決できない領域があることを、まず前提としておかなければなりません。

出典・参照:

理由2:事業者ごとに異なる帳票フォーマットとEDI非対応

第二の要因は、帳票フォーマットが業界・事業者ごとにばらばらで、EDI(電子データ交換)に対応していない取引が残っていることです。荷主Aは自社WEBシステム、荷主BはFAX、荷主Cはメール添付のPDFといった具合に窓口が分散すると、結局は倉庫側で人が集約するしかなくなります。

経済産業省のワーキンググループでも、日用品業界を中心に業界物流情報基盤(ロジスティクスEDI)による標準化が課題として議論されており、逆に言えばまだ標準化がまだ完了していないことを意味します。中小事業者にとってフォーマットの違いは、そのまま管理者の入力工数として跳ね返ってきます。

出典・参照:

理由3:WMS・TMS導入コストと現場定着の壁

第三の要因は、システムを入れても現場に定着せず、結局は並行してExcel運用が残ることです。WMSやTMS(輸配送管理システム)は機能が広く、初期費用・月額費用・教育負荷がかかります。

Hacobuの物流DX実態調査でも、大企業と中小企業の取り組み差、管理職と一般職の意識差が指摘されており、投資余力と定着の両面で壁があります。導入したもののマスタ整備が追いつかない、現場が触らない、結局管理者がExcelで補正する、という循環が生まれます。ツールが悪いのではなく、現場の運用に合わせて設計・教育できていない場合が多いという構造です。

出典・参照:

理由4:ドライバーの手書き日報とデジタコ非連携

第四の要因は、運行データがデジタコで取得できているにもかかわらず、日報は手書きで別途書かれ、事務所でExcelに転記されている実態です。

国土交通省もデジタル機器の活用が生産性向上と働き方改革に効果的と示していますが、デジタコと日報・給与計算・請求システムが連携していない事業者では、ドライバーが書いた紙を管理者がExcelへ再入力しています。データはあるのに、それを使う仕組みが分断されているのです。ここは技術的にはすでに解けている領域であり、連携設計の見直しで削減余地が大きい部分になります。

出典・参照:

理由5:「Excelなら管理者がすべて見える」属人化の安心感

第五の要因は、心理的・組織的な側面です。長年Excelで管理してきた責任者にとって、Excelは「自分ですべてを把握できる媒体」であり、システム化することは自分の把握力を手放すことに近く感じられます。

この安心感はマネジメント上の合理性でもあり、頭ごなしに「システムに置き換えろ」と迫れば現場は反発します。属人化はリスクである一方、管理者の日々の判断を支えてきた実務知でもある、という両面を理解する姿勢が求められます。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。