建設会社が本当に見直すべきは残業時間ではない|利益を奪う「待ち時間」の正体

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「2024年問題への対応で残業は減らした。それなのに利益が増えていない」

「人手不足で現場が回らず、施工管理アプリを入れても効果が見えにくい」

「現場監督によって生産性に差が出るが理由が説明できない」

建設会社の多くで囁かれる悩みの正体。それは、「人手不足」や「管理者の能力不足」など「ではなく「現場で誰も作業できていない時間」、すなわち手待ち時間が生まれてしまう「構造上の弱点」にあるのです。

本記事では、建設会社の利益を奪う待ち時間の発生メカニズムを6類型で整理し、中小建設会社が明日から着手できる運用改善の打ち手、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)による可視化の進め方を、国土交通省の最新資料を踏まえて解説します。読み終えたとき、貴社の現場改善は「残業を減らす」から「止まらない現場をつくる」へと視点が切り替わるはずです。

【本記事の要点】

  • 残業上限規制を守るだけでは利益は増えない。利益を削っているのは「現場が止まっている時間」である
  • 手待ち時間は労働時間に該当し、賃金と残業時間の両方にコストとして跳ね返る
  • 待ち時間の発生原因は職人の能力ではなく、段取り・情報共有・承認の仕組みにある
  • DXの本質はシステム導入ではなく「仕事が止まる原因の見える化」と工程の連結である

目次

なぜ残業削減だけでは建設会社の利益が増えないのか

なぜ残業削減だけでは建設会社の利益が増えないのか

2024年4月の時間外労働上限規制施行以降、建設業界では残業時間の管理に関心が集中しています。しかし、残業を抑えるだけで会社の利益が増えるわけではない、というのが現場の実感ではないでしょうか。この章では、残業削減と利益の関係を分解し、見落とされている「もう一つの労働時間」を明らかにします。

上限規制は守るべき前提であり、利益改善策ではない

2024年4月から建設業にも罰則付きの時間外労働の上限(原則月45時間・年360時間、特別条項適用時も年720時間以内など)が適用され、違反には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるようになりました。ただし、これは法令遵守の前提条件であり、守ったからといって粗利が増えるわけではありません。残業上限規制の対応と、利益改善の取り組みは、別物として整理する必要があります。

残業を減らしても工期と人件費が変わらない理由

工期が変わらないまま残業だけを抑えると、応援人員の追加投入や工程の前倒しが必要になり、結果として人件費と外注費が膨らんでしまうでしょう。つまり、残業時間と利益は連動しておらず、利益を決めているのは「労働時間のうち、どれだけが付加価値を生んだか」です。残業時間を10時間削ったとしても、その10時間がもともと手待ちだった時間であれば、そこから生まれていた付加価値は元々ゼロです。したがって、削減による利益改善効果も見込めません。

労働時間を「価値を生む時間」と「止まっている時間」に分けて見る

労働時間は、図面どおりに躯体を組み上げるなど付加価値を生む作業時間と、前工程の遅れや指示待ちで職人が現場にいながら作業できない手待ち時間に分かれます。後者を放置したまま残業だけ抑えると、現場の密度が下がり粗利はむしろ縮みます。経営者として見るべき指標は「総労働時間」ではなく「付加価値を生んだ時間の割合」です。

出典・参照:

利益を奪う「待ち時間」の正体|6つの発生類型

残業時間ではなく待ち時間が利益を削っている、と聞いても、具体像が湧きにくい方は多いはずです。この章では現場で実際に発生している待ち時間を6類型に整理し、どこで仕事が止まっているのかを言語化します。

1.前工程遅れによる待ち

内装業者が乗り込んだ朝、躯体や設備の前工程が想定どおり終わっておらず、半日待機して帰る、というケースです。国土交通省の有識者ワーキング資料でも、工程遅延の主因として前工程の遅れと躯体工事の遅れが列挙されています。元請の段取り次第で発生する典型的なロスです。

資材搬入待ち

発注遅れ、輸送遅延、保管場所の不足、検品待ちなどで職人が手元の材料を待つ時間です。鉄筋・型枠・建材の納期遅れは、その日の作業計画ごと崩します。資材手配が現場代理人1名に集中している現場ほど発生しやすい類型です。

指示待ち・段取り待ち

朝礼後に職長が現場代理人を捕まえられず、図面の食い違いを確認できないまま手が止まる時間です。職長に判断権限が委譲されていない現場ほど、指示待ちは長引きます。

図面確認待ち・設計変更待ち

設計者や施主への問い合わせ回答が翌日になり、その間の作業が止まる時間です。RC造のスリーブ位置のような確認1本で、複数業者の作業が同時に停止します。

承認待ち・写真整理待ち

施工写真の整理、書類のハンコ待ち、検査立ち会いの調整など、職人ではなく管理側の事務処理で次工程が前に進まない時間です。職人本人は「待ち」と認識していなくても、次工程が遅れることで巡り巡って別現場の手待ちを生みます。

天候・他職種との段取り不整合

雨天で外部足場が使えない、他職種と入り時刻が重なって作業スペースが取れない、重機の使用が重複するといった、現場間調整の不備による空転時間です。天候は不可抗力ですが、雨天時の代替工程を準備していない管理は、改善余地のある領域です。

出典・参照:

手待ち時間はなぜ会社の利益を直接削るのか

手待ち時間はなぜ会社の利益を直接削るのか

待ち時間の類型を理解したら、次に押さえたいのは「それが実際にいくらのコストになっているのか」という点です。本章では手待ち時間が金額としてどれほどのインパクトを持つか、そして残業対策との意外な関係を具体的にイメージしやすい数値をもとに整理します。

手待ち時間も賃金と社会保険料の対象になる

労働基準法上、作業中断中であっても現場を離れることが許されず、再開のために待機している時間は労働時間に該当します。つまり手待ち時間も、賃金と社会保険料の支払い対象です。

たとえば日当2万円の職人が5人、前工程の遅れで半日(4時間)動けなかったとします。1日の稼働を8時間とすれば、4時間分の人件費は5万円です。この5万円は、図面どおりに躯体を組み上げるような付加価値には一切変わっていません。1つの現場、1回の遅延だけでこの金額が消えることを踏まえると、月に数回同じことが繰り返されている現場では、年間の流出額はかなりの規模になっているはずです。

残業を減らそうとしても、原因は「働きすぎ」ではないことが多い

見落とされがちなのが、手待ち時間は時間外労働の上限規制の対象にも算入されるという点です。前工程の遅れで夕方から急に作業が動き出すと、本来なら昼間のうちに終わっていたはずの付加価値を生む作業が、そのまま残業枠に押し出されてしまいます。

ここに、多くの経営者が見落としている逆説があります。残業上限(月45時間)に抵触するリスクの多くは、職人が長く働きすぎているからではなく、職人が朝から動けていないから生じているのです。残業だけを問題視して対策を打っても、朝からの手待ちが放置されたままでは、根本原因には手が届きません。

待ち時間の放置は、実行予算そのものを崩す

止まっている時間が積み重なると、応援人員の投入、休日出勤の許可申請、外注の追加発注が必要になります。建設経済研究所のレポートでも、個別工事の採算管理と実行予算書の運用が労働生産性向上の中心と指摘されており、待ち時間の放置は実行予算の崩壊に直結します。1回あたり数万円に見える手待ちも、現場単位・年間単位で積み上げれば、粗利率を押し下げる主要因になり得るのです。

出典・参照:

なぜ管理者の力量で現場の生産性が変わるのか

同じ会社、同じ規模、同じ職人で工事を組んでも、現場代理人によって粗利が10%以上変わる。そんな経験をお持ちの経営者は多いはずです。この章では、属人化の正体と、それを仕組みに置き換える視点を解説します。

ベテラン現場代理人は「待ちを予測して潰している」

力量のある現場代理人ほど、明日資材が遅れそう、来週設計確定が間に合わない、といった「先の止まり」を察知し、発注・確認・段取り直しを前倒しで動かしています。逆に経験の浅い管理者は、待ちが顕在化してから対応するため、その時点ですでに半日が失われています。利益差の正体は技術力ではなく、予測と先回りの差です。

属人化した段取りは引き継ぎ不能で会社にも残らない

ベテランの段取りは本人の頭の中にあり、文書化されていないため、退職や異動で失われます。中小建設会社では、有能な現場代理人が辞めた途端に利益率が悪化するという話が多く存在します。属人化を放置することは、会社の利益を個人の在籍年数に賭けているのと同じです。

仕組み化とは「判断のタイミングと情報を共通化すること」

仕組み化は紙の手順書を増やすことではなく、誰が・いつ・何を見て・どこに判断を返すかを定義することです。週次の工程会議、職長への権限委譲、資材の先行発注ルールなど、判断のトリガーを共通化することで、管理者の力量差が利益差に直結しない現場へ近づきます。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。