物流DXが進まない真の理由とは|引き継ぎを設計する5ステップ

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「配車担当が休むと現場が止まる」

「ベテランが辞めるたびに混乱する」

「マニュアルを作っても誰も使わない」

中小の物流会社・運送会社・倉庫会社で繰り返されるこの悩みは、あなたの会社だけのものではありません。

2024年4月のトラックドライバー時間外労働の上限規制施行で、物流業界は人材確保とDX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上の両立を迫られました。しかし、配車管理システムや倉庫管理システムを導入しても、思うように属人化が解消されない現場は、後を絶ちません。つまり、日本の物流DXは、まだまだ「進みきれていない」のです。その原因は、主に「ベテラン従業員」が持つ暗黙知が、全社的に共有できておらず、どれだけ便利なITツールを利用したとしてもDX推進にはつながっていないというのが大きな理由と考えられます。

そこで本記事では、物流会社のDXが進まない真因は「ツール不足」ではなく「ベテラン従業員の仕事を引き継ぐ仕組みが設計されていないこと」にあると捉え、配車・運行管理・倉庫運営の3領域でベテランの知見を引き継ぐ業務設計の手順を解説します。読み終えたとき、貴社が明日から取り組める具体的な一手が明確になっているはずです。

【本記事の要点】

  • 物流DXが進まない真因は、ツール未導入ではなく配車・運行・倉庫のコア業務に引き継ぎ設計がないことである
  • マニュアル整備だけでは属人化は解消されず、判断基準と例外対応の言語化が必要となる
  • 引き継ぎ設計は業務棚卸し→属人タスク可視化→判断基準の明文化→システム入力ルール化→OJT組み込みの5段階で進める
  • 2024年問題と高齢化の進行を踏まえ、配車・運行管理・倉庫の各領域で今週着手できる一手を持つことが現実解となる

物流会社でDXが進まない本当の理由とは

物流会社でDXが進まない本当の理由とは
  • 配車システム
  • 倉庫管理システム
  • 電子帳票
  • チャットツール

物流現場では、DXを進めるために、こうしたとITツールを採用し、業務効率化を図る選択肢が広がっています。それにも関わらず、ツールを入れても業務が回らないという声は減りません。原因は、コア業務である配車・運行・倉庫運営の引き継ぎが設計されていないからです。本章では、その構造的背景を整理します。

ツール導入では属人化が解消しない構造

物流業界でDXの議論が進む一方、ツール導入そのものが目的化している現場があります。WMS(倉庫管理システム)やTMS(配車管理システム)を入れても、入力されるデータがベテランの判断と乖離していれば、システムは形だけの存在になってしまうでしょう。

例えば、効率的に業務を進めることができるベテラン配車担当者は、実に多くの要因を瞬時に判断してその日の配車を決定しています。

  • 荷主の納品時間の厳しさ
  • 特定ドライバーが得意な車種やエリア
  • 過去のクレーム履歴
  • 天候による迂回判断など

この判断プロセスを言語化しないままシステムを導入すると、若手は画面上の数字しか見えず、結果として現場の判断は引き続きベテランに集中します。こうした属人化が解消しない限り、物流DXは進まないのです。

国土交通省は物流DXを「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革し、労働力不足や非接触型物流に対応する取り組み」と位置付けています。ここで読み取るべきは、変革の対象が「機械やシステム」そのものではなく「物流業務とその管理方式」だという点です。

出典・参照:

引き継ぎが設計されていないという根本課題

属人化は社員個人の問題ではありません。本質は、誰が担当しても仕事が回るように業務が設計されていないことにあります。配車・運行管理・倉庫運営の3領域すべてで、判断基準・例外対応・顧客との約束事が文書化されていなければ、引き継ぎは個人の記憶に頼るしかありません。

中小物流業ではFAXや電話のやり取りが残り、デジタル化が進まない層も存在します。民間調査では、中小企業の現場ではDXやSaaSという言葉自体への認知が限られていることが指摘されています。ツール選定の前段階で、現場の業務がどう流れているかを把握する設計作業が抜け落ちているのが実情です。

出典・参照:

物流現場で属人化が起きる3つの構造的原因

属人化はベテラン社員の責任ではなく、業務構造の問題です。配車・倉庫・顧客対応のそれぞれで、暗黙知が積み上がる必然的な理由があります。本章では3つの典型パターンを整理し、現場で起きている連鎖を可視化します。

配車業務における暗黙知の蓄積

配車はただの車両割り当てではありません。荷量・距離・時間指定・ドライバー特性・荷主との関係性・帰り荷の確保まで、複数の変数を同時に考慮する高度な意思決定業務です。船井総研サプライチェーンコンサルティングも、配車体制の属人化は経営リスクであり、業務標準化と仕組み化が脱属人化の前提だと整理しています。

ベテラン配車担当の頭の中には、「この荷主は10分の遅れでも厳しい」「このドライバーは長距離を嫌がる」といった取引先・人物ごとの判断材料が蓄積されています。この情報がどこにも記録されないまま日々の配車が回るため、若手が代行しようとしても判断材料がそろわず、結局ベテランに業務が戻ってしまうのです。

出典・参照:

倉庫運営の手順がベテランに依存する理由

倉庫業務でも、商品の置き場所、ピッキングの順序、繁忙期の応援体制、不良品の取り扱いなど、現場の判断は経験豊富な責任者に集中しがちです。ロジスティードソリューションズも、作業手順が標準化されていない倉庫では引き継ぎ困難・ミス増加・新人定着率低下が連鎖すると指摘しています。

新人が「これはどこに置けばよいですか」と都度確認していては、ベテランは自分の作業に集中できません。標準化が進まない倉庫では、ベテランの離職が現場崩壊に直結します。手順書の有無ではなく、判断基準と例外処理の記述が抜けていることが根本原因です。

出典・参照:

顧客対応・例外処理が個人に紐づく実態

物流現場では、急な変更依頼・遅延連絡・クレーム対応など、例外処理が日常的に発生します。これらは「この荷主の窓口は田中さん」「このトラブルは佐藤さんしか対応できない」という形で個人に紐づきがちです。

顧客対応の履歴やクレーム時の判断ロジックが残っていなければ、担当者が休暇を取った瞬間に対応スピードが落ちます。配車・倉庫の属人化と並んで、顧客対応の属人化が引き継ぎを阻む3つ目の壁です。

2024年問題が引き継ぎ不全を一気に表面化させる

2024年問題が引き継ぎ不全を一気に表面化させる

2024年4月から始まったドライバーの時間外労働規制は、現場の余力を奪い、属人化の弊害を一気に表面化させました。本章では規制の影響と中小物流の対策進捗を確認し、なぜ今引き継ぎ設計が避けられない経営課題なのかを整理します。

ドライバー高齢化と退職リスクの同時進行

2024年4月1日施行の働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働は年960時間の上限規制が適用されました。労働時間が制約される一方、トラック運送業のドライバーは高齢化が進んでおり、JILPTの分析でも人材確保が業界共通の構造課題と位置付けられています。

しかし、ベテランドライバーや配車担当者の退職時期が近づいているにも関わらず、引き継ぎ先となる若手が育っていない企業は少なくありません。内閣府の地域経済分析でも、物流業の人手不足は2024年問題として地域経済の制約要因と整理されているように、物流業界の人手不足は、解決すべき最重要課題とも位置づけられるのです。

出典・参照:

中小物流の対策進捗の現状

日本商工会議所の調査では、2024年問題に対し具体的な対策に着手している中小企業は約25%にとどまったと報じられています。つまり、残り約75%は対応の入り口に立てていない計算です。

対策が進まない要因は予算だけではありません。「何から手をつければよいか分からない」という業務設計の問題が大きく横たわっています。国土交通省は総合物流施策大綱(2021年度〜2025年度)で物流DXと物流標準化、労働力不足対策を一体で進める方針を示していますが、現場では標準化の前段階である業務可視化が進んでいません。

出典・参照:

マニュアルだけでは引き継げない理由

物流業界でも、このような状態にただ指を加えていた訳では無いでしょう。その証拠に、多くの企業では、作業引き継ぎのためのマニュアルが作られ、あるいは作ろうという動きが見え始めています。しかし、いざ「マニュアルを作ろう」と号令をかけても、現場で活用されない事例は後を絶ちません。この原因は、マニュアルの形式ではなく、引き継ぐべき情報の中身が抜け落ちているからに他なりません。本章では文書化が機能しない2つの落とし穴を解説します。

判断基準と例外対応の言語化が抜けている

多くのマニュアルは「手順」を書いた文書です。しかし現場で本当に困るのは「想定外の状況でどう判断するか」です。荷物量が予想より2割多かった場合、ドライバーが急病で欠勤した場合、荷主から納品時間の前倒し要請があった場合に、何を優先しどう動くかが書かれていなければ、新人は結局ベテランに聞きます。

引き継ぎ設計の核は、業務手順ではなく「判断基準」と「例外対応」を言語化することです。「この条件のときはA、それ以外はB、どちらにも当てはまらないときは責任者へエスカレーション」というロジックを残せば、若手も自分で動けます。

更新されないマニュアルが現場を遠ざける

マニュアルが活用されないもう1つの理由は、更新されないことです。現場のルールは荷主との取引条件の変化や車両構成の入れ替えで常に動きます。年に一度しか見直されない文書は現場の実態とずれていき、最後は誰も参照しなくなるでしょう。

マニュアルは作って終わりではなく、更新の責任者と頻度を業務設計に組み込まなければなりません。クラウド上の文書共有や業務システムへの注意事項組み込みといったデジタル化の出番はここにあります。DXは紙のマニュアルをWEB化することではなく、判断基準を運用に乗せ続ける仕組みを作ることなのです。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。