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ケアの合間にメモを取り、事務所に戻って介護記録に書き写し、申し送りにも、家族への連絡帳にも、同じ内容を書く。介護の現場では、このように同じ内容を複数の帳票へ書き写す二重入力をしなければならない場面が少なくありません。
厚生労働省は、バイタル(体温や血圧などの測定値)などの記録を何度も転記することを、介護現場にあるムダの例として挙げています。こうしたムダを減らす手段として思い浮かぶのが、記録ソフトや音声入力です。ただし、それらを選ぶ前に、どの帳票に何が重複しているのかを自分たちで確かめておく必要があります。この確認が、介護記録のDX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩です。
本記事では、帳票を棚卸しして重複項目を見つけ、事実ごとに正本(同じ事実の確定版として管理し、ほかの帳票が参照する記録)を決めて、廃止・参照・自動転記・人が要約・別入力のどれにするかを判断する5つのステップを、そのまま使える棚卸し表とあわせて解説します。
【本記事の要点】
- 介護記録の二度手間は、製品を選ぶ前に帳票を棚卸しして重複項目を見つけ、減らす候補を決めることから始まる
- 棚卸しは、帳票を並べる、同じ事実の流れを追う、根拠と保存年限を確認する、正本と処置を決める、一業務で試す、の5ステップで進める
- 保存年限は、サービス種別・記録の種類・条例・契約で確認する
- 正本を1つにしても、利用者情報の閲覧範囲は職務に応じて分ける
介護記録の二度手間は、帳票を棚卸しして重複項目を見つけることから始まる
二重入力の手間を減らす最初の作業は、新しいツールなどを探すことではなく、いまある帳票を一覧にして可視化することです。ここでは、その一覧にあたる棚卸し表とは何かと、厚生労働省が示す改善の手順との関係を説明します。
棚卸し表とは
棚卸し表は、帳票1つ(または画面1つ)を1行にして、列を埋めていく一覧表です。紙、Excel、介護ソフトの別は問いません。列は、帳票・画面、サービス場面、最初の入力者・時点、重複項目、目的・提出先、根拠・保存年限、正本、処置の8つです。
このうち重点は、「重複項目」「根拠・保存年限」「正本」「処置」の4列です。各列の意味と書き方は、5つのステップで順に説明します。同じ帳票の中でも、事実によって正本や処置が分かれるときは、その帳票を事実ごとに行を分けて書きます。完成した表の記入例は、ステップ4の最後に示します。
厚生労働省が示す転記のムダと改善の手順
厚生労働省は、介護分野の生産性向上を「介護の価値を高めること」と位置づけ、1人でも多くの利用者に質の高いケアを届けることを重視しています。同省の解説ページが省力化できる業務、つまりムダの例として挙げているのは、バイタルなどの記録を何度も転記している状況です。
あわせて同省は、現場の課題を見える化し、計画を立て、取り組むという改善活動の進め方を示しています。この考え方を、編集部が介護記録の帳票に当てはめて組み替えたのが、次の5つのステップです。
| ステップ | やること | この表で埋める列 |
|---|---|---|
| 1 | 帳票を1カ所に並べる | 帳票・画面、サービス場面 |
| 2 | 同じ事実の流れを項目単位で追う | 最初の入力者・時点、重複項目 |
| 3 | 帳票ごとに根拠と保存年限を確認する | 目的・提出先、根拠・保存年限 |
| 4 | 事実ごとに正本を決め、処置を選ぶ | 正本、処置 |
| 5 | 一業務・一フロアで試す | この表ではなく、ステップ5の試行の記入様式 |
出典・参照:
ステップ1:帳票を1カ所に並べる
最初のステップは、事業所にある帳票をすべて並べる作業です。どの帳票をやめるかといった判断はせず、日々の業務で書いているものを、1枚ずつ棚卸し表の行にします。帳票の例は次のとおりです。
- 現場のメモ(紙の控え、手のひらサイズのメモ帳、スマートフォンのメモ)
- 介護記録(紙、Excel、介護ソフト)
- 申し送りノートや申し送りの画面
- 家族への連絡帳
- 業務日誌
- 事故やヒヤリ・ハットの報告書
- 請求用の資料
このとき、「昔からあるから書いている」という帳票も漏らさず行に起こしておくようにしましょう。そのうえで、目的が分からない帳票はステップ3で根拠を確認する対象になります。
この段階で、棚卸し表の「帳票・画面」と「サービス場面」の列が埋まります。紙とExcelと介護ソフトが混在していても、手順は変わりません。
ステップ2:同じ事実の流れを項目単位で追う
次のステップは、同じ事実がどこへ流れているかを調べる作業です。ここでも、どの帳票をやめるか、どれを正本にするかといった判断はせず、事実を集めることに専念します。
体温、食事量、実施内容のように、複数の帳票に書かれている同じ内容を1つずつ選び、その流れを書き出します。最初にどの帳票へ書いたか、そこから別の帳票へ誰が、どのタイミングで書き写しているかを、順にたどります。書き写す先が多いほど、同じ内容を書く回数も増えています。記入例は次のとおりです。
| 事実 | 最初に書く場所 | 書き写す先 | 書き写す人 | 入力・転記の頻度 | 何回書いているか |
|---|---|---|---|---|---|
| 体温 | 現場のメモ | 介護記録、申し送り、連絡帳 | 担当職員、リーダー | ケアのたび、勤務の交代時 | 最初の入力と転記先の数を合わせて数える |
| 食事量 | 現場のメモ | 介護記録、連絡帳 | 担当職員 | 食事のたび、送迎時 | 同上 |
| 実施内容 | 介護記録 | 申し送り、請求用の資料 | リーダー、事務担当 | 提供後、月末 | 同上 |
| (自事業所の事実を1行ずつ追加) |
帳票の数や書き写す先は、同じ種類のサービスでも事業所ごとに違います。つまり、自事業所の帳票で実際にたどって初めて、どの事実が何カ所に重なっているかが分かるのです。
この段階で、棚卸し表の「最初の入力者・時点」と「重複項目」の列が埋まります。
ステップ3:帳票ごとに、根拠と保存年限を確認する
ステップ2までで、同じ内容を何回記録しなければならないのかが分かりました。ステップ3では、それぞれの帳票がなぜ存在するのかを確かめ、帳票そのものを残す必要があるのか、なくしてよいのかを見きわめていきます。法令や基準で作成と保存が求められている帳票を、うっかりやめてしまわないためです。
国の基準が定める保存年限の例
保存年限は、サービスの種類と記録の種類によって異なり、介護記録は一律に2年や5年と決められません。次の表は、対象が限られた国の基準の例です。自事業所のサービス種別に当てはまるかは、あとで述べる方法で確かめてください。
| 対象 | 保存の定め | 根拠 |
|---|---|---|
| 指定訪問介護事業者が備える所定の記録(訪問介護計画書、提供した個々のサービスの記録など) | 完結の日から2年間 | 『指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準について』 |
| 指定介護老人福祉施設が備える所定の記録 | 完結の日から2年間 | 『指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準』第37条 |
| 生活保護法の指定介護機関が、介護サービスの提供と介護の報酬の請求に関して備える帳簿・書類 | 完結の日から5年間 | 『指定介護機関介護担当規程』第7条 |
生活保護法の指定介護機関でもある事業所は、介護サービスの提供と報酬の請求に関する帳簿・書類について、この5年の定めも受けます。棚卸し表の「根拠・保存年限」の列には、根拠の名称と年数を書きます。
年数を数え始める「完結の日」が何の日を指すかも、帳票の根拠となる基準や通知の文言で確かめ、「根拠・保存年限」の列に書いておきます。
出典・参照:
条例・契約・完結日の確認
指定居宅サービスなどの設備や運営の基準は、『介護保険法』に基づき、指定権者(事業所を指定する都道府県や市町村)が条例で定める仕組みです。条例が国の基準と異なる定めを置く場合は、その定めに従います。そのため、国の基準の年数だけで廃棄日を決めることはできません。
ここでは、帳票ごとに次の4点を確認してみてください。
- 作成の根拠は、法令、指定基準、条例、契約、内部の慣行のどれか
- 保存年限の起算点になる完結日を、どの時点とするか
- 保存の場所と、廃棄日を決めているか
- 提出先や閲覧する人は誰か
確認は、まず帳票を使うサービスの種別を確かめ、次にそのサービスの基準や条例の内容と、保存年限・起算点を、指定権者の窓口で確かめる順に進めます。根拠が分からない帳票は、所属する団体などに問い合わせてみるとよいでしょう。確認が終わるまでは、廃止しないでください。
ステップ4:事実ごとに正本を1つ決め、5つの処置から選ぶ
調査が終わったら、いよいよ判断に進みます。同じ事実が複数の帳票にあるときは、確定版として管理し、ほかの帳票が参照する「正本」を1つ決め、それ以外の帳票の扱いを5つの処置から選びます。
正本の決め方
正本とは、複数の帳票に同じ事実があるとき、その事実の確定版として管理し、ほかの帳票が参照する記録です。どの帳票を正本にするかは、最初に書いた帳票で決まるわけではありません。たとえば体温は、最初に現場メモへ書き留めても、確定版として管理する正本は介護記録にします。
どの帳票を正本にするかは、次の5点で判断するとよいでしょう。
- 法令や基準で求められる記録の目的を満たしているか
- 内容が完全で、確定した内容だけが載るか
- 更新と訂正に責任を持つ人が決まっているか
- 誰がいつ訂正したかを追えるか
- 必要な職員が必要なときに参照できるか
5つの処置と選ぶ条件
事実ごとに正本を決めたら、ほかの帳票の扱いを、次の5つの処置から選びます。
| 処置 | 内容 | 選ぶ条件 |
|---|---|---|
| 廃止 | その帳票をやめる | 根拠がなく、他の帳票で目的を満たせる |
| 正本参照 | 正本を見に行く運用にし、書き写さない | 同じ事実を見るだけで足りる |
| 自動転記 | 正本から項目をシステムで写す | 内容を変えずに使い、人の判断が要らない |
| 人が要約 | 正本をもとに、人が短くまとめる | 申し送りのように、読み手に合わせて選ぶ必要がある |
| 別入力 | 正本とは別に、人があらためて書く | 目的や意味が違い、同じ書き方では足りない |
どの処置が合うかは、帳票の目的と、事業所の環境で変わります。ここまでに出てきた帳票を使った、考え方の一例は次のとおりです。
- 現場メモ:ケアの直後にその場で介護記録へ入力できる環境が整っているなら、メモをなくす(廃止)という選択肢がある。ただし、書き漏れが増えないか、端末が使えないときにどうするかを確かめてからである。環境が整わないうちは、メモを残す判断も成り立つ
- 申し送り:介護記録から項目を取り出し、重要な点を人が選んで伝える「人が要約」が向いている
- 家族への連絡帳:食事量や体温は介護記録を参照し(正本参照)、家族向けの説明だけを人が書く(別入力)という分け方がある。1つの帳票の中でも、事実ごとに処置が分かれる
訂正があったときは、正本を直します。参照している帳票は正本を見に行くだけなので直す必要がなく、書き写した帳票や、人が要約した帳票は、訂正のたびに直す対象です。処置を選ぶときは、この直す手間も比べます。
自動転記を選ぶときに、ソフトの提供元へ確認するのは、使っている介護ソフトで連携できるか、対象にする項目、更新のタイミング、失敗したときの通知の4点です。内容を照合する担当者は、事業所の中で決めます。ここまでを、製品を選ぶ前に決める要件と、正本と処置の案としてまとめます。実際に何を連携させるかは、提供元の回答を踏まえて確定する流れです。
音声入力は、ここでは「正本へ入力する手段の1つ」です。訪問介護の記録を音声で作る方法は、訪問介護の記録はAIに話して作れるかで扱っています。
要約と別入力を残す場合
正本は1つでも、すべての帳票を正本のコピーにすることが目的ではありません。次の場合は、要約や別入力を残します。
- 所見や判断を、書いた職員が自分の言葉で述べる必要がある
- 家族への連絡のように、読み手が違い、書き方を変える必要がある
- 事故の報告書のように、決まった様式と提出先がある
所見や判断を、正本から機械的にコピーすることは避けます。コピーした文が、その場の状況に合わないまま残るおそれがあるためです。
完成した棚卸し表の記入例
ステップ1から4までの結果を1枚にまとめると、棚卸し表は次の例のようにまとまるはずです(下表は記入例。実際の内容は事業所の帳票と環境によって変わります)。
| 帳票・画面 | サービス場面 | 最初の入力者・時点 | 重複項目 | 目的・提出先 | 根拠・保存年限 | 正本 | 処置 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 現場メモ | ケア直後 | 介護職員・ケア直後 | 体温、食事量、排泄 | 後で記録に書くための控え | 要確認 | 介護記録 | 廃止も選択肢(その場で入力でき、書き漏れが増えないことを確かめたうえで) |
| 介護記録 | サービス提供後 | 担当職員・提供後 | 各ケアの実施内容 | サービスの記録・職員間の共有 | サービス種別ごとに要確認 | 介護記録(元になる記録) | 正本として残す |
| 申し送り | 勤務の交代時 | リーダー・交代時 | 状態の変化 | 次の勤務者への共有 | 事業所の内部運用 | 介護記録 | 人が要約(項目を取り出し、重要な点を人が選ぶ) |
| 家族への連絡帳(食事量・体温) | 送迎時・日次 | 担当者 | 食事量、体温 | 家族への説明 | 契約・同意の内容を確認 | 介護記録 | 正本参照(事実は介護記録を見て、連絡帳に書く項目だけを選ぶ) |
| 家族への連絡帳(家族向けの説明) | 送迎時・日次 | 担当者 | 体調の説明 | 家族への説明 | 契約・同意の内容を確認 | 介護記録 | 別入力(読み手に合わせて書く) |
| 請求用の資料 | 月次 | 事務担当・月末 | 提供した実績 | 介護報酬の請求 | 請求に関する規定を確認 | 介護記録 | 自動転記(請求に使う項目との対応を確認し、連携できる項目だけ)し、照合する |
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。




