ステップ5:一業務・一フロアで試して、入力回数と所要時間を確かめる
処置を決めたら、全体に広げる前に、小さな範囲で試します。範囲を絞ると、問題が起きても影響が小さく、現場の意見も集めやすくなります。
試す前と後で比べる6つの指標
試す範囲は、1つの業務(たとえば食事の記録)か、1つのフロアです。試す前と後で、次の指標を比べます。
| 指標 | 見方 |
|---|---|
| 入力の回数 | 同じ事実を何回書いているか |
| 記録が終わるまでの時間 | ケアの終了から、記録の完了までの時間 |
| 欠落と誤記 | 書き漏れや書き間違いが増えていないか |
| 申し送りの確認 | 次の勤務者が必要な情報を読めているか |
| 現場の負担 | 職員が負担に感じる点はないか |
| ケアへの影響 | 利用者と向き合う時間が減っていないか |
どの指標も、試す前の状態を測っておかなければ比べられません。測った値は、自事業所の中で前後を比べるためのものです。
試行の条件は、次の記入様式で試す前に書き出します。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 期間 | 試す期間と、前後を比べる期間 |
| 対象範囲 | 試す業務またはフロア、正本の参照先と後工程(申し送り、家族連絡、請求など)を含める |
| 測定担当 | 入力の回数と時間を測り、記録する人 |
| 合格条件 | 欠落や誤記が増えない、職員の負担が下がるなど、どの状態なら成功とみなすか |
| 切り戻し条件 | 問題が出たときに元の運用へ戻す基準と、戻す担当者 |
| 試す前の記録 | 指標ごとの試す前の状態 |
| 試した後の記録 | 指標ごとの試した後の状態 |
ほかの業務やフロアへ広げる条件
試す前に、試す期間と、欠落や誤記、職員の負担がどの状態なら「増えていない」「下がった」とみなすかを、確認する担当者とあわせて書き出しておきます。その条件を満たし、ケアへの影響が出ていなければ、ほかの業務やフロアへ広げる段階です。問題が出た場合は、処置の選び方に戻って見直す流れです。
試した結果や、見直した処置は、介護の生産性向上のための委員会で共有すると、事業所全体の改善活動につながります。委員会の義務化については、介護の生産性向上委員会、2027年4月義務化で解説しています。
個人情報と端末:正本化で閲覧範囲を広げすぎない
正本を決めて運用を広げていくと、同じ内容を書いていた帳票がなくなったり、正本を見に行く形に変わったりして、利用者の情報は正本に集まります。しかし、集まった記録は、扱い方を誤ると、事業所の中でも外でも問題になってしまうのです。
事業所の中では、正本を誰でも開ける状態にしていると、見る必要のない職員にも利用者の心身の状況や生活の記録が見えてしまいます。場合によっては、誤って書き換えられるおそれもあるでしょう。
事業所の外へは、紙の紛失や持ち出し、システムへの不正なアクセスなどで、情報が漏れるおそれがあります。そのため、正本を決めたら、誰が何を見られ、何を書き換えられるのか、どう守るのかを、あわせて決めておくことをおすすめします。
こうしたトラブルを防ぐために、まず「閲覧権限と個人ID」で、誰が何を見られ、何を書き換えられるのかを確認します。記録ソフトやクラウドなど外部のサービスを使う場合は、それに加えて、「委託先・クラウド・端末」の確認が必要です。
なお、ここで説明するのは主に電子で運用する場合の管理ですが、紙で運用する場合にも同じ考え方の管理が必要となります。
閲覧権限と個人ID
厚生労働省の『医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス』(2026年4月1日最終改正・施行)は、介護事業者を含む医療・介護関係事業者を対象にしています。正本を決めるときは、このガイダンスを踏まえて、次の点を確かめましょう。
- 職務ごとに、見られる範囲と書き換えられる範囲を分ける
- 誰が入力し、誰がいつ訂正したかを追えるようにする
電子システムで正本を持つ場合は、職員ごとに個人専用のIDを使いアクセスの記録と修正の履歴を残すとよいでしょう(『介護事業所における情報安全管理の手引き』も、IDやパスワードを共有しないことを求めています)。
共有のIDを使っていると、誰が書き換えたかを追えません。紙で正本を持つ場合も、保管場所に入れる人を限り、閲覧と持ち出しを記録し、訂正は日付と訂正者が分かる形で残します。正本を1つにするなら、保管の仕方に合った管理を同時に整える必要があるのです。
出典・参照:
委託先・クラウド・端末
記録のシステムを外部のサービスで運用する場合は、導入前に次の4点を確認します。
- 委託先の選び方:記録の取扱いを任せてよい会社かを、管理体制の説明で確かめる
- 契約に盛り込む安全管理の内容:情報の管理方法と、事故があったときの連絡を契約書に書く
- 再委託(契約した会社が、別の会社にデータの処理などを任せること)の扱い:任せる先と範囲を、事前に報告して承認する取り決めにする
- 契約が終わるときのデータの返却と消去:返却と消去の方法を決めておく
クラウドで運用しても、安全管理を委託先に任せきりにはできません。
端末については、厚生労働省の『介護事業所における情報安全管理の手引き』が、次の2点を確認項目として扱っています。
- 私物の端末を原則として業務に使わない
- 持ち出しの記録を残す
出典・参照:
まとめ:製品を選ぶ前に、帳票を棚卸しして正本を決める
本記事では、介護記録の二重入力を減らすために、製品を選ぶ前にできる帳票の棚卸しを、5つのステップに沿って解説しました。
- 帳票を1カ所に並べる:日々書いている帳票を、棚卸し表の行にする
- 同じ事実の流れを項目単位で追う:同じ内容を何回記録しているかをつかむ
- 帳票ごとに根拠と保存年限を確認する:残す必要がある帳票と、なくしてよい帳票を見きわめる
- 事実ごとに正本を決め、処置を選ぶ:廃止・正本参照・自動転記・人が要約・別入力から選ぶ
- 一業務・一フロアで試す:入力回数と所要時間などを前後で比べ、広げるかを判断する
この棚卸しで、介護記録の二度手間は、減らす候補を見つけ、効果を自事業所で確かめられます。
記録ソフトや音声入力は、正本へ入力し、ほかの帳票へ写すための手段の1つであり、目的ではありません。二重入力というムダを減らすうえでより大切なのは、何を1つにし、何を残すのかを考えることにあるのです。
まずは貴事業所の帳票を1枚ずつ並べ、体温か食事量のどちらか1つの事実が、どこへ流れているかをたどることから始めてみてはいかがでしょうか。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。

