デジタルデータはなぜ捨てられなくなるのか|置き場所に困らない時代の落とし穴【編集部考察】

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共有フォルダやクラウドには、使っているのか分からないデータが、増え続けています。紙の書類は、棚が埋まれば捨てる判断を迫られましたが、デジタルにはそうした合図はありません。

「デジタルは場所を取らないのだから、念のため残しておけば損はない」

この考え方は、保存を続ける理由として受け入れられやすいものです。しかし、本当に損はないのでしょうか。

デジタルのデータは、どれだけ大量に抱え込んでも、紙の書類のように置き場に困ることがほとんどありません。置き場に困らないぶん、そのデータを「なぜ持ち」「誰が責任を持つのか」が、曖昧なまま残ってしまうのです。

本記事では、個人データの消去が努力義務であること、法定保存は別に守る必要があること、個人データを持ち続けるほど漏えい時の影響が広がることを確認します。そのうえで、データごとに「持つ理由・期限・責任者」を決める視点を考えていきましょう。

【本記事の要点】

  • 紙の棚は残すコストを目に見せて捨てる判断を迫ったが、デジタルには同じ合図がなく、持つ理由と責任者が曖昧なまま判断が先送りされやすい
  • 個人情報保護法が求める消去は、個人データについての努力義務であり、一律の保存期間はなく、法定保存は別に守る
  • 個人データを多く持ち続けるほど、漏えいしたときに影響を受ける人は多くなる
  • データごとに持つ理由・期限・責任者を決め、説明できる状態にすることが、データを持つ側の責任になる

デジタルデータが捨てられないのは、紙の棚が持っていた「捨てる期限」がないから

満杯の紙の棚と期限が見えず蓄積するクラウド上のデータを対比した図

紙の書類は、置ける場所に限りがあります。棚が埋まれば、どれを残し、どれを捨てるかを決めざるをえません。棚の満杯は、残すコストを目に見せ、判断の期限として働いていました。

しかし、デジタルではデータを共有フォルダやクラウドに置くかぎり、容量が満杯に近づいていることを実感しにくくなります。保存の追加コストが見えにくいため、判断を将来へ移したままにしておけるのです。

この見方には、研究上の裏付けがあります。2022年に学術誌『Information & Management』に掲載された研究は、デジタルの蓄積が進む要因を整理しています。保存のための費用がゼロに近づき、端末やクラウドが使いやすくなるなかで、データの取得量や容量が増え、消去で失うものへの不安もある、という内容です。

2019年に学術誌『Computers in Human Behavior』に掲載された研究は、デジタルのデータをためこむ行動を測る質問票を作りました。質問票は、データがたまっていくことと、捨てるのが難しいことの2点を測るもので、英国で働き仕事でパソコンを使う424人への調査をもとにしています。

この調査では、デジタルデータのためこみが広く見られ、とくに電子メールが多く残されていました。この結果からも、データを捨てられないのは一部の人の癖ではなく、デジタルで仕事をする職場なら広く起こりうることだと分かるのではないでしょうか。

ハードディスクやクラウドの容量には限りがあり、料金、バックアップ、検索、移行にも費用がかかります。それでも、満杯を実感しにくく、判断の期限が見えなくなったことが、捨てられなくなる理由の1つだと考えられます。

判断の期限が見えないのであれば、まず自社がどのデータをどこに置いているのかを、見える形にするところから始められます。共有フォルダ、クラウド、SaaS、バックアップのどこに、どのデータがあるのかを書き出してみましょう。

出典・参照:

個人データの消去は、努力義務として決まっている

利用目的を終えた個人データを削除・匿名化・必要な保存へ分けて判断する流れ

法律は、データの消去について何を求めているのでしょうか。この章では、個人情報保護法が定める消去の範囲と定めていないことを、個人データに絞って整理します。

個人情報保護法第22条が求める、利用する必要がなくなった個人データの消去

個人情報保護法第22条は、個人情報取扱事業者に対し、利用目的の達成に必要な範囲で個人データを正確で最新の内容に保つよう努めることを求めています。あわせて、利用する必要がなくなったときは、遅滞なく消去するよう努めることも求めています。ただし、いずれも努力義務です。

なお、ここでいう個人データとは、検索できるように体系的にまとめられた個人情報(個人情報データベース等を構成する個人情報)のことです。

個人情報保護委員会のガイドラインは、「利用する必要がなくなったとき」の例として、利用目的を達成して合理的な保有の理由がなくなった場合や、事業そのものを中止した場合を挙げています。

出典・参照:

一律の保存期間はなく、消去は識別できなくすることも含む

個人情報保護委員会のFAQは、個人情報保護法自体は、個人情報の一律の保存期間や廃棄時期を定めていないと説明しています。また、「消去」は物理的に削除する場合に限りません。個人データとして使えなくすることや、特定の個人を識別できないようにすることも含みます。

この条文は、一律の削除義務でも、保存期限でもありません。利用する必要がなくなったデータを、なぜ持ち続けるのかを判断する責任を、事業者に求めるものだと整理できます。

利用目的を終えた個人データが、どこに、どの状態で残っているのかは、先ほど洗い出した置き場所の一覧と突き合わせれば確認できます。

出典・参照:

消してはいけないデータと、持ち続けているデータは別の話

法定保存が必要な記録と保存理由を決めていないデータ群を分けて点検する図

持ち続けているデータのなかには、消してはいけないものと、理由なく残っているだけのものが混ざっています。この章では、両者を分けて考えます。

法定保存があるデータ

法令が保存期間を定めているデータは、個人データの消去とは別に守ります。法定保存の例は、次のとおりです。文書の種類、起算点、例外によって期間は変わるため、全件の一覧ではなく例示です。

文書の例根拠保存期間の定め確認すること
法人の帳簿と取引関係書類法人税(国税庁)原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年。一定の事業年度は10年電子取引のデータは、電子帳簿保存法の要件も確認する
会計帳簿と事業に関する重要な資料(株式会社)会社法第432条第2項会計帳簿の閉鎖のときから10年対象の文書と起算点が、法人税の保存と同じではない
労働者名簿、賃金台帳などの重要書類厚生労働省のQ&A本則5年。経過措置として当分の間3年書類によって起算点と期間が異なる

実際の保存期間は、業法、契約、訴訟や紛争への備え、時効、監査によっても変わります。そのため、削除の判断は、法務、税務、労務、情報システムの担当者が共同で確認したうえで決めることになります。

台帳には、法定保存のデータについて、根拠となる法令と起算点を記録し、ほかのデータと分けて管理してください。

出典・参照:

保存期間が決まっていないデータ

点検したいのは、保存期間が切れたデータではなく、いつまで持つのかが決まっておらず、期限が来ることもないデータです。たとえば、次のようなものがあります。

  • 退職者のアカウント
  • 使っていない旧SaaS
  • 共有フォルダ
  • メール
  • 端末
  • バックアップ

これらは、法定保存のデータでも、日々の業務で使うデータでもなく、判断が先送りされた結果として残っているのかもしれません。これらのデータに関して、それぞれがどこにあり、なぜ残っているのかを説明できるでしょうか。

説明できないものは、法定保存のデータとは分けて台帳に書き出し、持つ理由・期限・責任者を決める対象にしましょう。「持ち続けているデータ」と「消してはいけないデータ」は、別の話なのです。

データの保存期間と責任者を決めると、持つ理由が説明できる

データごとに持つ理由・期限・責任者・所在・期限後の扱いを管理する台帳の構造

保存期間が決まっていないデータは、台帳に書き出して、持つ理由・期限・責任者を決める対象にします。本章では、その台帳に何を書くかを考える前に、データを持ち続けることが事故のときにどれだけの人に影響しうるのかを確認します。

保有量と漏えい時の影響範囲

個人データの漏えい等のうち、法令上の報告の対象となる事態に当たる場合は、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要になります。では、事故の影響はどの程度の人数に及ぶのでしょうか。

個人情報保護委員会の『令和7年度年次報告』(2026年7月)によると、2025年4月1日から2026年3月31日までに、個人情報取扱事業者等から17,139件の漏えい等の報告がありました。人数ごとの件数は、次のとおりです。

漏えい等の人数報告の件数
1,000人以下16,043件(93.6%)
1,001〜10,000人561件
10,001〜50,000人181件
50,001人以上121件
不明233件

ここでいう「漏えい等」は、漏えいに加えて、滅失、毀損やそのおそれを含み、人数は可能性のある最大の人数を含みます。

報告の大半は1,000人以下の事件ですが、1,001人以上の事案に関しても863件もあり、50,001人以上に及ぶものも121件ありました。漏えいで影響を受けるのは、事業者がその個人データを持っている人たちです。顧客や従業員の個人データを多く持ち続けていれば、事故のときの影響は、数千人、数万人の単位に及ぶことも考えられるでしょう。

実際、最近も大規模な不正アクセスによる情報漏えいが報告されています。タイムズカーでは、約660万件のアカウント情報が漏えいし、うち約160万件には運転免許証の画像などの本人確認書類が含まれていました。楽天ドライブでは、1万5,382アカウントの保存データが閲覧されました。

自社が持つ個人情報が多いほど、事故は重大な事案に発展しえます。だからこそ、不要になった個人情報を持ち続けないこと、持つ個人情報を適切に扱うことが求められるのです。

個人情報保護委員会のガイドラインは、個人データの性質や量、事業の規模などに起因するリスクに応じて、必要かつ適切な安全管理措置を講じることを求めています。さらに、個人データの取り扱いを委託する場合は、委託先への適切な監督も別に求められます。

自社が持つ個人データが、どこに、どれだけの人数分あるのかを把握することが、事故への備えの出発点です。

出典・参照:

データ台帳で、持つ理由と責任者を見直す

デジタル庁の『データガバナンス・ガイドライン』(2025年6月20日)は、データを生成・取得から消去までのライフサイクルでとらえ、ルール、技術、プロセスを組み合わせる必要を示しています。

消去までを管理の対象にするなら、データごとに、持つ理由から期限後の扱いまでを台帳に書いて決めておく必要があります。台帳に書く項目は、次のとおりです。

台帳の項目決めること
持つ理由何のために持つのか。利用目的と保有する理由
期限法令や契約の上で、いつまで必要か。根拠も記録する
責任者データの持ち主と、期限後の扱いを判断する人
所在システム、委託先、バックアップのどこにあるか
期限後の扱い削除、匿名化、アーカイブのどれを選ぶか

長く保存する価値があるデータもあります。監査や紛争への対応に必要なデータと、分析に使い続けるデータです。

一方で、削除にも次のリスクがあります。

  • 必要なデータを誤って消す
  • 証拠を失う
  • バックアップと内容が食い違う

そのため、必要なのは「消す」ことではなく、データごとに持つ理由と期限を「決める」ことです。

まずは、保存期間が決まっていないデータから、この表の項目を埋めてみましょう。データの寿命と責任を決めることは、DX(デジタルトランスフォーメーション)で増えたデータを扱ううえでの、欠かせない一部です。

出典・参照:

まとめ:持つ理由と期限を説明できる状態にすることが、データを持つ側の責任になる

デジタルデータが捨てられなくなるのは、紙の棚のように捨てる判断を迫る合図がなく、置き場所に困らないぶん、持つ理由と責任者が曖昧なまま残るからでした。問題は容量ではなく、そのデータをなぜ持ち、誰が責任を持つのかが決まっていないことにあります。

企業がデータを保存し続けるときに押さえておきたい点は、次の4つです。

  • 利用する必要がなくなった個人データの消去は、個人情報保護法第22条が事業者に求める努力義務である
  • 法令が保存期間を定めている法定保存のデータは、個人データの消去とは別に、その法令に従って保存する
  • 個人データを多く持ち続けるほど、漏えいしたときに影響を受ける人は多くなる
  • 保存期間が決まっていないデータについては、自社が、データごとに持つ理由・期限・責任者を台帳に決める

保存期間が決まっていないデータは、持つ理由も期限も決めないまま、判断を先送りした結果として残っています。データを持つ側の責任は、そのデータを消すことではなく、持つ理由と期限を決めて、説明できる状態にすることです。

貴社には、保存期間が決まっていないデータが残っていないでしょうか。まずは、貴社が保存するデータを1つ選んで、持つ理由・期限・責任者を説明できるか、確かめてみてはいかがでしょう。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。