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「データドリブン経営」を掲げて、アクセスログも顧客アンケートも行動履歴もためてきた。けれども、いざ意思決定に使おうとすると、データはばらばらに散らばっていて、そのままでは使えない。結局、判断はこれまで通りの勘と経験で下している。
DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む中小企業の経営者やDX推進担当から、こうした話をよく聞きます。
考えてみれば、「データドリブン」という言葉自体、いつの間にか聞かなくなりました。これは、課題が解決したから使われなくなったのではありません。掲げたわりに成果が出ないまま、掛け声が下火になったのではないでしょうか。私は、この失速は順序の間違いによるものだと考えています。先に決めるべきは「どんな判断をしたいか」であって、データはその判断に従うものです。
この記事では、「データドリブン」が何を約束して何を残したかを振り返り、「データが語る」という前提そのものを問い直します。そのうえで、「判断ドリブン」という、データ収集と判断の順序を入れ替えた考え方を提案します。
【本記事の要点】
- 「データドリブン」はDX初期の掛け声だったが、多くの企業に残ったのは使われないデータの山と、数字にできないものを軽んじる空気だった
- 「データが語る」は思い込みである。どのデータを選び、どう切り、どう見るかに、必ず人の価値判断が入る
- データは持っているだけで、保管のコストと、漏えい時の責任という負債を生む
- これからのデータ経営は、先に「決めたい判断」を1つ置き、それに必要なデータだけを持つ「判断ドリブン」を推奨する
いつの間にか消えた「データドリブン」の掛け声
そもそも「データドリブン」とは、勘や経験だけに頼らず、蓄積したデータの分析結果にもとづいて経営判断や業務上の意思決定を行う考え方を指す言葉です。
この定義を踏まえて、言葉の栄枯を振り返ります。「データドリブン」という言葉は、DXが語られ始めた時期に、目指すべき経営の姿としてさかんに使われました。DXportal®でも、かつてこの語をタイトルに掲げて記事を書いたことがあります。
しかし、その言葉を、いまはほとんど目にしなくなりました。データを経営に活かそうとする企業自体は増えました。ダッシュボードを整え、数字を見る習慣を持つ現場も広がっています。ただ、それが「経営の基本」と言えるところまでは根づいていない。特別な取り組みとして始めたものが、当たり前の前提にまで格上げされないまま、関心は次のキーワードへ移っていったというのが率直な印象です。
解決されて卒業したのではなく、日常になりきらないうちに、あえて掲げる必要のない言葉になった、というのが実際のところではないでしょうか。
では、なぜデータドリブンは根づかなかったのでしょうか。それは、データが足りなかったからでも、ツールが悪かったからでもありません。「まずデータを集めれば、そこから正しい判断が見えてくる」という順序、それ自体が間違っていたからだと考えます。
「データドリブン」が約束したものと残したもの
次に、「データドリブン」が約束したものと、実際に企業に残ったものを考えてみましょう。
約束されたのは、こういう未来でした。
データを起点にすれば、思い込みや社内政治から自由になり、正しい経営判断ができる。英エコノミスト誌が、2017年に「世界で最も価値ある資源はもはや石油ではなくデータだ」と題した記事を掲げたように、「データは21世紀の石油だ」という言い方も広まりました。だからこそ、まずはデータを集めよう、と多くの企業が動いたのです。
しかし、実際に訪れた未来は、約束されたものとは少々違いました。それには、3つの原因があります。
1つは、使われないデータの山が積み上がってしまったことです。目的を決めずにためた結果、どこに何があるか分からないデータばかりが積み上がってしまったのです。組織が収集・処理・保存しながら、分析にもビジネス上の関係づくりにも直接の収益化にも使っていない情報資産を、ガートナー社は「ダークデータ」と呼びますが、多くの企業のデータ資産は、いまもその大半がこの状態のまま眠っています。
もう1つは、保有そのものが生む負担が増えたことです。データは持っているだけで、棚卸しやアクセス権の管理、監査、退職者のアカウント処理、漏えい時の影響範囲の特定といった作業を生みます。個人情報であれば利用目的をできるかぎり特定しなければならず、個人の権利利益を害するおそれがある漏えいが起きれば、個人情報保護委員会への報告と本人への通知も義務になりました。使う当てのないデータをためこむほど、コストと責任だけが増えていくのです。
そして3つ目に残ったのが、数字にできないものを軽んじる空気が生まれてしまったことです。「データで示せないなら、それは主観だ」という物言いのもとで、現場の違和感や長年の取引で培った勘は、数値にしにくいというだけで議論のテーブルから外されがちになっていったのです。
出典・参照:
「データが語る」という思い込み
ここで、「データドリブン」の根っこにある前提を1つ崩しておきます。それは、「データが語る」「数字は嘘をつかない」という言い方です。
- 月単位で見るか週単位で見るか
- 地域で割るか商品で割るか
- 前年と比べるか目標と比べるか
同じ売上データでも、こうした比較指標によって、浮かび上がる結論は変わります。どの切り口を選ぶかは、分析する人が「何を知りたいか」で決めています。つまり、データを見る前の段階で、すでに人の判断が入っているのです。中立で客観的なデータが、勝手に結論を差し出してくれる状態は存在しません。
集めたデータの大半がダークデータのまま眠っているのも、この裏返しです。「いつか役に立つかもしれない」で集めたデータには、それを使う問いが結びついていません。問いのないデータは、分析されることも意思決定に使われることもないまま、ただ保管され続けます。
判断が先、データはあと
では、「まずデータを集めて、そこから判断を導く」という順序を、「先に判断を決めて、それに必要なデータをあとから集める」という順序に入れ替えるには、どうすればよいのか。私は、「判断ドリブン」という考え方を提案します。
課題解決の分野には「仮説ドリブン」という進め方があります。データをやみくもに集める前に、まず仮説を立て、その仮説を確かめるのに必要なデータだけに絞る。コンサルティングの現場ではよく知られた方法です。ここでは、これに近い考え方を「判断ドリブン」と呼んで進めます。
やることは1つ。「次に変えたい判断」を具体的に1つ決めてから、そのために必要なデータを用意するだけです。たとえば「どの顧客に営業の時間を多く割くかの判断を変えたい」と決めれば、必要なのは全顧客の行動履歴一式ではなく、取引額の推移と問い合わせ対応の記録くらいに絞られます。
この提案がいま特に重要なのは、AIの進化によってデータの収集・処理・分析そのものが、以前よりずっと容易になったからです。かつては大量のデータを集計し、傾向を洗い出すだけでも専門知識と時間が必要でした。いまはある程度のデータさえあれば、AIが短時間で切り口別の集計や傾向分析をこなしてくれます。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、AIが分析を高速化してくれることと、AIが人の主観を交えずに「正しい判断」を出してくれることは、まったく別だという点です。AIは、与えられた問いに対してデータを処理しているにすぎません。「どの顧客に営業の時間を多く割くか」という問いを立てるのは、これまでどおり人間の役目です。
むしろ分析のスピードが上がったぶん、判断が曖昧なままAIにデータを投げても、精緻な計算結果が量産されるだけで、意思決定には近づきません。AIが速くなった時代だからこそ、先に「決めたい判断」を1つ定める判断ドリブンの重要性は、以前より増しているのです。
判断を先に決めた会社は、運用が軽くなります。持つデータが減り、管理の手間も、漏えいの際のリスクも小さくなりますし、集めたデータは使う先が決まっているので、ダークデータにもなりにくくなるのです。
まとめ:データドリブンより、判断ドリブン
「データドリブン」がうまくいかなかったのは、データを起点に置いたからです。起点に置くべきは判断です。DXで先に決めるべきは「何を貯めるか」ではなく、「どの判断を、どう変えたいか」です。データは、その判断に必要な範囲だけを、道具として用意すればいいのです。これからのデータ経営に必要なのは、データドリブンより判断ドリブンだ、というのが私の意見です。
以前、本メディアでは「郵便番号はDXの走りだった?」という記事で、すでに持っているデータをどう活かすかを考えました。今回はその一歩手前、そもそもデータを起点に置く発想が正しかったのか、という問いです。
自社のデータ活用は、どの判断のために始めたのか。それとも「とりあえず貯めておこう」から始めたのか。もし後者なら、いま集めているデータのうち、来月の何かの判断に実際に使うものがどれだけあるかを、一度数えてみてください。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。



