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「うちの会社が使っているシステムが、ある日突然止まったらどうなるだろうか」
そう考えたことがある経営者は、実はそれほど多くないのではないでしょうか。
- 決済代行
- POS
- 予約システム
- 会計クラウド
- 生成AI
気づけば私たちの仕事は、数えきれないほどの外部サービスの上に成り立っています。
私がこの問いに向き合うことになったのは、2026年7月に破産したクレジットカード決済代行会社、全東信をめぐる、ある知人の話がきっかけでした。全東信の破産は、決済代行という一業種の出来事として片づけられがちです。しかし、そこで実際に起きていたのは、もっと広い「DX(デジタルトランスフォーメーション)とベンダー依存」の問題でした。
本記事では、私が直接聞いたある飲食店の実話を入口に、全東信破産が問いかけたものを、決済に限らずDX全般の話として考えていきます。読み終えたとき、貴社が使っているDXサービスのうち、止まったら事業そのものが止まってしまうものがどれかを、一度点検したくなるはずです。
【本記事の要点】
- 2026年7月、決済代行会社・全東信が負債総額約1,259億円で破産し、加盟店では決済停止などの実害が生じた
- 全東信破産の本質は「一社が倒産したこと」ではなく、DXが進むほど強まる「ベンダー依存」という構造的リスクである
- このリスクは決済代行に限らず、POS・予約・CRM・SaaS・クラウド・生成AIなど、あらゆるDXサービスに共通する「単一障害点」の問題である
- DXは導入して終わりではなく、止まった前提まで設計して初めて経営のDXになる
全東信破産が示したもの
私には、個人で小さなバーを営む知人がいます。その店は、全東信の決済システムを導入していました。しかし、ある日彼の耳に、信じられないニュースが飛び込んできたのです。
2026年7月6日、全東信は大阪地裁で破産手続き開始決定を受けました。帝国データバンクの発表によれば、負債総額は約1,259億円にのぼります。全東信は1987年に「大阪南飲食事業協同組合」として発足し、2006年に株式会社化した、決済代行の分野では歴史ある事業者でした。
破産後、加盟店では決済が利用できなくなり、資金繰りの悪化や予約キャンセルによる損失が生じたと報じられています。報道によれば、加盟店は約2万店にのぼり、その多くが飲食店だったとされます。
私の知人の店は、たまたま倒産発表の前日に入金を受けていたため、未収金は実質1週間分程度で済んだそうです。しかし、2026年8月18日時点でも、その店ではクレジットカード決済が使えない状態が続いていました。
現金対応で営業自体は続けられているものの、「カードが使えないなら」と客足が離れることもあるとのこと。私自身も、その店へ飲みに行ったその日、手持ちの現金が少なかったため利用を控えめにして帰ってくるしかありませんでした。
倒産の原因や経営責任について、ここでは論じません。重要なのは、決済という1つの機能が止まっただけで、実店舗の売上と信用が、これほど長く、これほど直接的に傷つくという事実です。
出典・参照:
問題は「全東信が倒産したこと」ではない
このエピソードを聞くと、多くの人はまず「全東信という会社の問題」として受け止めるでしょう。しかし、本当に考えたいのはそこではありません。仮に全東信という会社が別の名前であったとしても、同じ構造のリスクは形を変えて存在し続けます。
DXが進むほど、企業は自社の業務を、数多くの外部サービスへ委ねるようになります。
- 決済代行
- POSレジ
- 予約システム
- 顧客管理(CRM)
- 会計クラウド
- モバイルオーダー
- 生成AIやAIエージェント
個々のサービスは、それぞれ業務を効率化し、コストを下げ、顧客体験を向上させます。ここに疑いの余地はありません。
しかし、その裏側では、「特定の外部サービスが止まれば、自社の事業そのものが止まる」という依存関係が積み上がっていきます。全東信の破産が示したのは、この依存関係が実際に牙をむいたときに何が起きるか、という1つの実例に過ぎません。決済という機能で起きたことは、明日はPOSで、来月は予約システムで、いずれは生成AIサービスで起きても不思議ではないのです。
「単一障害点」という考え方
こうした構造的リスクを表す言葉に、「単一障害点」というものがあります。もともとはシステム設計の分野で使われてきた考え方ですが、内容自体は難しくありません。「そこが止まると、全体が止まってしまう箇所」を指す言葉です。
ここで、一度自社の業務を思い浮かべてみてください。各種のサービスが停止した場合、次のようなことは起きないでしょうか。
- 決済ができなければ売上が立たない
- 予約が受けられなければ来店が減る
- CRMが止まれば顧客への連絡ができない
- 会計クラウドが止まれば請求や支払いの管理ができない
こうしたサービスの多くは、代替手段をほとんど用意しないまま、業務の中心に据えられています。そのため、いざサービスが止まってしまうと、上記のような事態に陥ってしまうことは容易に想像できるでしょう。
便利であることと、単一障害点になっていることは、実は表裏一体です。あるサービスが業務のあらゆる場面で使われ、他に代わるものがなくなるほど、そのサービスは便利であると同時に、止まったときの被害も大きくなります。
DXを進めるということは、便利さを手に入れると同時に、こうした単一障害点を自社のなかに増やしていく行為でもある、ととらえ直す必要があるのではないでしょうか。
止まったときに、答えられるか
ここまで読んで、「では何をすればいいのか」と思われた方もいるでしょう。ただ、この記事では具体的な対策を列挙することはしません。それよりも、貴社にいくつかの問いを残しておきたいと思います。
もし、貴社が使っている決済サービスが、明日突然使えなくなったら、何日間、事業を続けられるでしょうか。
もし、予約システムが止まったら、電話や紙の台帳といった元の運用に、どれだけの時間で戻せるでしょうか。
もし、契約しているSaaSやクラウドサービスが終了を告げてきたら、蓄積してきたデータをどこまで書き出し、別のサービスへ移せるでしょうか。
そしてもし、生成AIを業務に組み込み始めている企業であれば、そのAIサービスが使えなくなったとき、元の業務のやり方をどれだけの社員が覚えているでしょうか。
こうした問いに即答できないとしても、それ自体を責める必要はありません。多くの企業にとって、これまで真剣に考える機会がなかった問いだからです。大切なのは、この問いを一度、経営の議題として持ち帰ってみることなのではないでしょうか。
まとめ:DXとBCPの再定義
これまで企業のBCP(事業継続計画)といえば、地震や台風といった災害、停電、自社サーバーのダウンといった事態を主に想定してきました。しかし、全東信の破産が突きつけたのは、こうした従来型のBCPだけでは足りない、という現実です。利用している外部のDXサービスそのものが止まる、あるいは事業者ごと消えてしまうという事態も、事業継続を脅かすリスクとして数える必要があります。
ただしこれは、「DXツールは危険だから使うな」という話ではありません。私自身、飲食店の運営やDX導入の現場に長く関わってきた立場として、外部サービスの活用が事業の可能性を大きく広げてきたことを実感しています。
ただ、便利なサービスを導入することと、そのサービスが止まったときにも事業を続けられるところまで設計しておくことは、本来セットで考えるべき経営判断です。DXは、導入して終わりではありません。止まった前提まで含めて設計して初めて、経営のDXと呼べるのです。
貴社が今使っているDXサービスのうち、突然止まっても事業を続けられるものはどれで、止まった瞬間に事業そのものが止まってしまうものはどれか。全東信の破産は、その問いを立ち止まって考える1つのきっかけになるはずです。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。



