【新人DX担当の教科書⑫】DX担当の次の90日|改善を増やす前に、1つを「渡せる仕組み」にする

公開日 : 

share :

「もう自分で改善を回せるようになった」

前回、90日の振り返りを終えたとき、そう言い切れる自分に気づいた方も多いのではないでしょうか。ただ、その先も同じやり方を続けるだけでよいのか、心のどこかで気になっている方もいるはずです。

この記事は、新人DX(デジタルトランスフォーメーション)担当の教科書Season1の最終回です。90日で身につけた行動を、これからどのように会社の力へ変えていくか。そのために次に取り組むべき、たった1つのテーマを一緒に考えていきましょう。

【本記事の要点】

  • 最初の90日で身についたのは、改善の技術ではなく「自分で動く」姿勢である
  • 個人の頑張りに支えられた改善は、担当者が抜けた瞬間に止まるリスクを抱える
  • 次にやるのは、1つの改善を「他の誰かに渡せる仕組み」に変えること

最初の90日の振り返りと、これからの課題

90日の振り返りから、1つの改善を他者へ引き継ぐ次の一歩へ進む図。

前回、あなたは最初の90日を振り返り、自分の活動を成果として語れるようになりました。現場を観察し、課題を整理し、小さな改善を選び、周りの協力を得て、実際に動いてきた90日です。振り返りを終えた今、次にすべきことは、また新しい改善テーマを探すことでしょうか。

そう考えたくなる気持ちは自然です。ですが、この記事で伝えたい答えは少し違います。これから最初にやるべきことは、改善の数を増やすことではないのです。

これまで自分が担ってきた小さな改善のうち1つを選び、他の人に引き継げる形に変えること。それが、Season1で積み上げた行動を属人化させず、会社の力として定着させる最初の一歩になります。

最初の90日で身についたこと:自分から動く姿勢

第1回から第11回までを振り返ると、そこにあったのは知識の蓄積というより、姿勢の変化です。最初は、誰に何を聞けばよいかも分からなかったのではないでしょうか。それが、この11回で、次のところまで進んできました。

  • 社内の協力者を見つける
  • 現場に足を運んで観察する
  • 業務を棚卸しして課題を整理する
  • 小さく試せる改善テーマを選ぶ
  • 社長と現場の間に立って翻訳する
  • 情報収集の習慣を持つ
  • 生成AIを実務に取り入れる
  • 自分の90日を成果として言葉にする

この90日で得た最大の資産は、個々の改善そのものではなく、「分からないことがあれば自分で動き、小さく試し、振り返る」という一連の姿勢です。この姿勢は、これからも変わらず役に立ちます。ただし、そのまま同じ形で使い続けてよいかどうかは、次に考える必要があるのです。

課題:担当者に依存した改善は、担当者が抜けると止まる

Season1で選んだ改善は、多くの場合「まず自分が動いて試す」ことから始まっています。それは正しい進め方です。一方で、試してうまくいった改善が、その後もあなた自身の操作や判断に頼ったままになっていないでしょうか。

たとえば、ある架空の中小企業の場面を考えてみましょう。DX担当が発注データの入力をテンプレート化し、入力ミスと確認の手間を減らすことに成功しました。改善そのものは順調に機能しています。

しかし、テンプレートの使い方や、値がおかしいときの判断基準を知っているのはDX担当本人だけ。これでは、担当者が急に休むと現場は「いつものやり方」に戻ってしまい、改善は一時的に止まります。これは失敗ではありません。ただ、改善が個人に依存したまま残っている状態です。

中小企業庁の2025年版中小企業白書(帝国データバンクが2024年11〜12月に実施した調査に基づく)に、参考になるデータがあります。業務の属人化・ブラックボックス化の防止に「取り組んでいる」事業者(9,032者)の2018年から2023年の付加価値額変化率の中央値は11.4%、「取り組んでいない」事業者(6,930者)は5.9%と、その差は5.5ポイントあります。

もちろん、この数字だけで「属人化を防いだから伸びた」と言い切れるわけではありません。それでも、属人化を防ごうとしている会社ほど、伸びも大きい傾向は見て取れます。

見直したいのは、「本当は他の人にも渡せるはずなのに、自分がいなくなると止まってしまう改善」です。

出典・参照:

次に取り組むテーマは1つだけ

複数の改善候補から1つを選び、別の人が1人で運用できる形へ渡す図。

ここまで見てきたように、改善が担当者個人に依存したままでは、その担当者が抜けたときに改善が止まってしまいます。では、あなたは次に何に取り組めばよいのでしょうか。この章では、取り組むテーマと、それをいま始めるべき理由を順に説明します。

取り組むテーマ:1つの改善を、他の人に引き継げる形にする

次に取り組むテーマは、シンプルです。これまで自分が担ってきた小さな改善のうち1つを選び、他の人に引き継げる形に変えることです。完成の基準は「文書化できたか」ではありません。「自分が説明し続けなくても、別の人が1人でその改善を回せたか」です。

書類を作って終わりにするのではなく、実際に他の人へ渡し、動くところまで確かめる。この違いが、これからの取り組みを「もう1つ改善を増やす」ものではなく、「Season1の成果を会社の資産にする」ものに変えます。

なぜ、いま引き継ぐのか

1つの改善を引き継ぐのは、いまでなければいけないのでしょうか。落ち着いてから、後で取り組んでもよさそうに思えます。それでも、いま始めた方がよい理由が2つあります。

1つは、改善を引き継ぐ作業そのものが、後になるほど重くなるからです。改善が定着して日常業務に組み込まれるほど、その手順や判断基準を後から言葉にする作業は大きくなります。その間も、担当者が抜けたら改善が止まる状態は変わりません。

もう1つは、いまなら、改善の中身を他の人に伝えやすいからです。振り返りを終えたばかりの今は、自分がその改善で何をどう工夫したのか、なぜその手順にしたのかを、まだ自分の言葉で説明できます。改善の成果も確認できていて、引き継ぎを頼める社内の協力者との関係も築けています。ところが、時間がたつと、こうした「なぜ」は自分の中でも曖昧になり、他の人に伝えにくくなってしまうのです。

1つの改善を、仕組みに変える進め方

改善を選び、相手を決め、4つのルールを言葉にし、試運転して止まった所だけ直す循環図。

ここからは、Season1で使ってきたやり方を応用しながら、1つの改善を仕組みに変える手順を見ていきましょう。手順は、渡す前の「準備」と、実際に渡す「試運転」の2段階です。

準備:引き継ぐ改善、渡す相手、最小限のルールを決める

まず、引き継ぐ改善を1つ選びます。第11回で行った棚卸しの延長で、次の4つをすべて満たす改善を選んでください。

  1. 繰り返し発生する
  2. 成果が確認済みである
  3. 失敗しても影響が限定的である
  4. 他の人が試せる

この4つを満たさない改善、特に法令・会計・労務・安全に直結する業務や、資格・熟練技能が前提の業務は対象から外しましょう。

次に、改善を渡す相手を決めます。第2回で見つけた社内の協力者を思い出してください。改善の対象業務に関わる人、または今後関わる可能性がある人の中から、実際に試してもらう相手を1人決めます。

そして、渡すための最小限のルールを言葉にします。第4回の棚卸しの応用として、書くのは次の4つだけです。

  1. 目的
  2. 始める条件
  3. 基本の手順
  4. 迷ったときの相談先

この4つだけで十分です。細かい例外まで先回りして書き込む必要はありません。書きすぎると、結局読まれない資料になってしまいます。

試運転:別の人に実際にやってもらい、つまずいた部分だけ直す

準備ができたら、別の人に実際に作業してもらう「試運転」に進みます。試運転の間、あなたは口を出さずに見守り、相手がつまずいた部分と、質問された点だけを記録していきましょう。うまくいかない場面が出てきても、それは仕組みの完成度を測るための貴重な材料です。

試運転が終わったら、見えたつまずきの部分だけを手順に加え、もう1度やってもらいます。通常時はあなたに質問しなくても回り、例外が起きたときは決めた相談先に上がる状態になれば、引き継ぎは完了です。

最後に、次の振り返り日を先に決めます。第11回で身につけた振り返りの習慣を、ここでも使います。引き継ぎがうまく回っているかを確認する日を、その場で決めてしまいましょう。

引き継ぎを始める前の確認:つまずき・チェックリスト・最初の一歩

引き継ぎの対象を1つに絞り、必要事項を確認したうえで、渡す相手に声をかけるまでの流れを示した図。

引き継ぎに着手する前に、起きやすいつまずき、確認しておきたい項目、今日できる最初の一歩を順に整理します。

よくあるつまずき

引き継ぎに取り組むときによく起きるつまずきは、2つあります。

1つ目は、引き継ぐ対象を絞れないことです。社内のあらゆる改善を一気に仕組み化しようとして、どれも進まないまま止まってしまいます。前の章で挙げた4つの条件を満たす改善を、1つだけ選んでください。

2つ目は、改善を抱え込んでしまうことです。「自分がやったほうが早い」という気持ちが先に立ち、いつまでも他の人に渡せなくなります。渡す相手を先に決めておき、試運転では口を出さずに見守りましょう。

チェックリストと、今日できる最初の一歩

引き継ぎを始める前に、次の項目を確認してください。

  • 引き継ぐ改善を1つだけ選んだか
  • その改善が繰り返し発生し、成果が確認済みで、失敗時の影響が限定的で、他の人が試せるものか
  • 法令・会計・労務・安全に直結する業務、資格・熟練技能が前提の業務を対象から外したか
  • 渡す相手を1人決めたか
  • 目的・始める条件・基本の手順・相談先の4つを言葉にしたか
  • 実際に試運転をしてもらう予定を立てたか
  • 次の振り返り日を決めたか

すべてにチェックがつかなくても、かまいません。今日は、次の2つだけ実行してください。

  1. 引き継ぐ改善を1つ決める:自分が担ってきた改善の中から、4つの条件を満たすものを1つ選び、メモに書き出す
  2. 渡す相手に声をかける:社内の協力者の中から相手を決め、「今度、この作業をお願いできないか」と短く伝える

たとえば、冒頭の発注データの入力テンプレートなら、「入力テンプレートを、今度一度使ってもらえないかな。使い方の手順は、先に用意しておくから」と声をかけてみましょう。

手順の文書づくりや試運転は、相手の返事をもらってからで十分です。ここまでできれば、引き継ぎは動き出します。

まとめ:改善の数ではなく、改善を続けられる仕組みを増やす

12回にわたる新人DX担当の教科書Season1は、ここで一区切りです。学んできたのは、大きな変革を一度に起こす方法ではなく、小さな一歩を積み重ね、次につなげる姿勢でした。

  • 最初の90日で身についたのは「自分で動く」姿勢である
  • 個人に依存した改善は、担当者が抜けると止まるリスクを抱えている
  • 次に取り組むのは、その改善のうち1つを、他の人に渡せる仕組みに変えることである
  • 完成の基準は「文書化」ではなく「自分がいなくても回るか」である

まずは、今日話してみると決めた改善を1つ、実際に誰かへ渡すところから始めてみてください。その1歩が、Season1で積み上げてきたものを、あなた1人の頑張りから、会社の力へ変えていきます。

次回からは、この【新人DX担当の教科書】シリーズも、Season2へとステップを進めます。Season1でつくった小さな成功を土台に、個人の改善活動を、チームで回る運営へと広げていきましょう。

次回の第13回は、これまでの小さな成功を、会社の経営課題につなぎ直します。あなたが取り組んできた改善が、会社の抱えるどの課題の解決につながっているのか。それを、社内の関係者にも説明できるようになることが、次回のねらいです。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。