【新人DX担当の教科書⑪】DX担当になって最初の90日を振り返る|成果を見える化する方法

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これまで、DX担当としていろいろな施策に取り組んできたはずなのに、社長から「で、成果は?」と聞かれると答えに詰まる。これは、新人DX担当者であれば、ある意味当たり前の話なのです。

なぜなら、これまで様々な取り組みをしてきたのに、一定の成果がでていない状態のうちは、どうやって成果報告をすればいいのかわからない、というのが本音だからではないでしょうか。

業務観察をし、課題を整理し、小さく試し、ベンダーの話を聞き分け、社内の板挟みを乗り越え、情報収集を続け、生成AIも使い始めた。やってきたことは多いのに、それを成果として言葉にする方法は、誰も教えてくれません。

ここまでの連載では、次の順にDX担当としての仕事を進めてきました。

今回は、この90日間のDX(デジタルトランスフォーメーション)担当としての活動を振り返り、成果として経営層に伝える方法を整理します。

読み終える頃には、90日間の活動を「変わったこと」として整理する方法と、それを数字と現場の声の両方で経営層へ伝えるやり方が見えてくるはずです。

【本記事の要点】

  • 90日の成果は、施策数の列挙ではなく「変わったこと」というBefore/Afterの変化として語ることで、はじめて経営層に伝わる
  • 数字で言える変化と、現場の声でしか言えない変化の両方を使い分ける。数字がないことを成果なしと同一視しない
  • 自分の90日の活動を棚卸しする作業は、業務の棚卸し(第4回)を自分自身へ向けて応用したものである
  • 成果報告は振り返りだけで終えず、次の90日の計画とセットで伝える

90日の成果が伝わらない理由と、成果の語り方

DX担当者が最初の90日間の行動、関係づくり、小さな改善を見返し、成果の伝え方を考える構図

DX担当に着任してからの90日は、現場の観察や業務の棚卸し、小さな試行といった、土台づくりが中心の期間です。この時点では、作業時間の削減のように数字へ表れる成果がまだ少ないのは、自然なことです。それでも、経営層から報告を求められる場面は、90日目を待たずにやってきます。

この章では、こうした90日の時点を前提に、成果を言葉にできない悩み、成果の語り方、そして施策を並べるだけでは伝わらない理由を、順に整理します。

新人DX担当の悩み:成果を言葉にできない

新人DX担当者として最初の90日を過ごすと、多くの人が同じ壁にぶつかります。それは、やったことは思い出せても、成果をどう言えばいいのかわからないという壁です。具体的には、次のような悩みをよく聞きます。

  1. 業務観察や課題整理、小さな改善など、やった施策は並べられるが、並べてみると地味に見える
  2. 社長に「で、成果は?」と聞かれると、何と答えればいいか詰まる
  3. 作業時間やミスの件数など、数字で示せる変化がまだ少なく、成果として胸を張れない
  4. 地道な積み重ねの割に、周囲からは何も変わっていないように見える

共通しているのは、「成果」を施策の件数や派手な実績のことだと思い込んでいる点です。この思い込みを外すところから、90日の振り返りは始まります。

結論:成果は「変わったこと」で語る

先に結論を述べます。実施した施策やツールを順に並べて報告しても、90日の成果は経営層に伝わりません。施策の数や導入したツールの種類は、成果そのものではないからです。経営層に伝わるのは、「何がどう変わったか」というBefore/Afterの変化です。

変化には、大きく2種類あります。1つは、作業時間やミスの件数、対応件数といった数字で示せる変化。もう1つは、現場の納得感や、以前より質問されなくなったといった、数字にしにくい変化です。数字と現場の声、両方を成果の材料として扱うことが、振り返りの出発点です。

「やったこと」の列挙が伝わらない理由

施策を並べる報告が経営層に伝わらないのは、報告する側と受け取る側で、見ているものが違うからです。

社長や経営層は、DX担当が日々何にどれだけ手間をかけたかを、直接見ているわけではありません。見えているのは、会社が最終的にどう変わったかという結果だけです。だからこそ、「〇〇を導入しました」「△△の会議を実施しました」という施策の報告だけでは、その施策によって何がどう良くなったのかが伝わらず、評価につながりにくくなってしまいます。

一方で、数字だけに絞ってしまうのも危険です。90日という短い期間では、作業時間の削減やミスの減少といった数字にまだ表れていない変化も少なくないでしょう。現場から質問される回数が減った、報告書の体裁を毎回指摘されなくなった、といった変化は、数字には表れにくいものの、現場がたしかに感じている前進です。

数字だけを成果の基準にすると、こうした地道な変化が「成果なし」として切り捨てられてしまいます。だからこそ、数字と現場の声の両方を使う必要があるのです。

90日の成果を整理する方法

活動の棚卸し、小さな成功、協力者の声、次の期間を一つの報告へ組み立てる流れ

ここからは、90日の活動を成果として整理する具体的な方法を、5つの手順に分けて説明します。

自分の活動を棚卸しする(第4回の応用)

最初にやることは、90日間の活動を棚卸しすることです。第4回で扱った業務の棚卸しは、現場の業務を紙・Excel・口頭のやり取りまで含めて洗い出す作業でしたが、今回はその視点を自分自身の90日間へ向けます。

取り組んだ施策を1つずつ思い出しながら、「その施策によって、何がどう変わったか」をBefore/Afterの形で書き出していきましょう。施策名だけを並べるのではなく、変化とセットで書き出す点が、業務の棚卸しとの違いです。

最初の「小さな成功」を1つ深掘りする(第6回の応用)

次に、第6回で扱った、最初に選んだ「小さな成功」を1つ選び、深掘りします。90日の活動を並べただけでは抽象的な説明に終わりがちですが、最初の小さな成功を「どのような状態から、どう変わったか」を具体的に語ると、報告全体に説得力が生まれます

複数の施策を薄く紹介するより、1つを深く語るほうが、経営層の記憶には残りやすくなるものです。

味方から一言もらう(第2回の応用)

第2回で見つけた社内の味方に、一言コメントをもらうことも有効です。「前より確認の手間が減った」「以前より頼みやすくなった」といった現場の声は、DX担当本人が「成果が出ました」と自己申告するより、はるかに説得力を持ちます。

改まったインタビューでなくてもかまいません。雑談のなかで出た一言を、そのままメモしておく程度で十分です。

次の90日とセットで報告する(第8回の応用)

成果を報告するときは、振り返りだけで終えないことも重要です。第8回で扱った、社長と現場を翻訳する視点を、報告そのものにも生かしましょう。「ここまでの90日でこう変わりました」という報告に、「次の90日では、この変化を踏まえてこれに取り組みます」という一文を添えるのです。

振り返りは、これまでの実績をアピールするための打ち上げ花火ではなく、次につなげるための工程だと考えてください。

成果がまだ小さいときは「仕込み中」と正直に書く

90日という期間では、まだ数字にも現場の声にも表れていない取り組みが残っているのも自然なことです。そうした項目を無理に成果として盛らず、「仕込み中」として正直に報告してかまいません。

たとえば、「〇〇については、まだ効果が数字に表れていませんが、現場との合意形成を進めている段階です」と伝えれば、進行中の取り組みとして経営層に理解してもらえます。成果が小さいことは、90日の振り返りが失敗であることを意味しません。

90日の成果報告|伝わらない例と伝わる例の比較

業務の整流化、協働の改善、顧客に関わる改善を一つの成果の物語として整理する構図

同じ取り組みでも、報告の仕方が違うだけで、経営層への伝わり方は大きく変わります。ここでは、同じような施策を進めた2人のDX担当が、90日の節目にそれぞれ成果を報告する場面を想定し、伝わらない報告と伝わる報告を並べて比べます。

伝わらない報告:施策を順に並べた例

1人目のDX担当は、90日の節目で「業務観察を3回実施しました」「新しい申請フローを導入しました」「情報共有の会議を月2回設けました」と、取り組んだ施策を順番に報告しました。社長からは「それで、何がどう良くなったの」と聞き返され、担当者はとっさに答えられませんでした。

施策そのものは間違っていなかったものの、変化として語られていなかったため、成果として伝わらなかったのです。

伝わる報告:変化・現場の声・次の計画をセットにした例

2人目のDX担当は、1人目と同じような施策を実施していましたが、報告の仕方が違いました。「申請フローの見直しで、以前は1件あたり平均15分かかっていた確認作業が5分に短縮されました。現場からも、前より聞きに行く回数が減ったという声が出ています。次の90日では、この仕組みを別の部署にも広げていきます」という形です。

Before/Afterの数字と現場の声、そして次の計画をセットにしたことで、成果として社長に伝わる報告になったのです。

90日の振り返りチェックリストと今日からできるアクション

観察した変化、根拠、協力者の声、次の行動を確認する報告準備の構図

ここまでの内容を実際の報告に生かすため、この章では、報告前に確認したい項目と、今日から着手できる最初の一歩をまとめます。

報告前の確認項目(チェックリスト)

90日の振り返りをまとめる前に、次の項目を確認してみてください。

#チェック確認する問い
190日間で「変わったこと」を3つ以上、施策名ではなく変化として書き出せているか
2数字で言える変化と、現場の声でしか言えない変化の両方が含まれているか
3最初の「小さな成功」を1つ選び、具体的に深掘りできているか
4社内の味方から、変化についての一言コメントをもらえているか
5次の90日で取り組むことを、成果報告とセットで示せているか
6まだ成果が小さい項目を、隠さず「仕込み中」として書けているか

6つすべてに丸がつかなくても構いません。空いている項目は、報告に付け足すのではなく、次の90日で埋めていく課題として扱ってください。

今日からできるアクション:変わったことを3つ書き出す

今日からできることを、1つに絞ります。

90日間で「変わったこと」を3つだけ書き出し、それぞれについて「数字で言えるか」「現場の声で言えるか」を仕分けてみてください。3つとも数字で言える必要はありません。数字が1つ、現場の声が1つ、まだ仕込み中が1つ、という組み合わせでも十分です。この3つが、次に社長へ報告するときの材料になります。

まとめ:90日の振り返りは、次の90日をよくするための土台

90日の成果は、実施した施策の数では伝わりません。「何がどう変わったか」というBefore/Afterの変化として整理し、数字で言える部分と、現場の声でしか言えない部分の両方を使ってはじめて、経営層に伝わる報告になるのです。

  • 自分の90日の活動を棚卸しする
  • 最初の小さな成功を深掘りする
  • 社内の味方の声を添える
  • 次の90日の計画とセットで伝える

この一連の積み重ねが、地味に見えていた90日間を、確かな成果として語れる形に変えていきます。成果がまだ小さくても、それを隠す必要はありません。仕込み中の取り組みを正直に報告することも、次につながる振り返りの一部です。

次回は、Season1の最終回として、新人DX担当Season2に向けた次の課題を取り上げる予定です。

シリーズ「新人DX担当の教科書」目次

本シリーズは、突然DX担当になった人が最初の1年で身につけたい仕事の進め方を、順を追って解説しています。これまでの目次を下記にまとめておきます。関心のある回から読んでも、それぞれの記事単独で理解できる構成です。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。