DXは一社で抱えなくていい|中小企業がサプライチェーンで担う役割【編集部考察】

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大企業のDXの事例を読むと、専門の人材をそろえ、システムを自社で作るDX内製化の話などが目に入ります。しかし、同じことを人も予算も限られた中小企業が真似できるのでしょうか。

私は、真似をして一社単体でイノベーションを起こそうと考えるより、サプライチェーンで使えるものを使い、その中でイノベーションの一角を担う考え方もあると思っています。サプライチェーンとは、原材料や部品の調達から製造、物流、販売までを、複数の会社がつないで進める流れのことです。

本記事では、DXの単位を一社からサプライチェーンへ広げて考えます。あわせて、それが成り立つ条件として、費用と責任の分け方を、公的な資料から整理します。

【本記事の要点】

  • 大企業は自社で抱えやすいが、中小企業は内製も人材の確保も難しい。大企業のDXを小さくして取り入れるだけでは、中小企業には合いにくい
  • 日本には、サプライチェーンの中で責任を分け合ってきた面がある。一方で企業間のデータ連携は弱く、信頼を標準や契約、データの取り決めへ置き直せるかが問われる
  • DXの単位は一社とは限らず、中小企業はサプライチェーンで使えるものを使い、変革の一角を担う進め方もある
  • 目的、課題、判断、効果の確認は自社が握り、実装や共通基盤、専門性は取引先や外部と分担する
  • 成り立つ条件は、費用と責任を公正に分けることで、取引先とのデータ連携では費用、責任、データの扱いも相談する

大企業のDXを小さくするだけでは、中小企業には合いにくい

大企業と中小企業で異なるDXの人材と資源の規模を示す図解

大企業のDXの事例は、専門の人材をそろえ、システムを自社で作る進め方が目立ちます。まずは、この進め方を小さくして中小企業が取り入れれば足りるのかを、公的な資料で確かめておきましょう。

私は、大企業はある程度、自社でDXを抱えられると考えています。これに対して中小企業は、内製化もできず、社内に人材もいないため、ベンダー(システムの開発や導入を請け負う会社)に頼む仕組みにならざるを得ない、というのが私の見方です。

公的な資料でも、中小企業に人材や資金の制約があることが示されています。

たとえば、経済産業省のレガシーシステムモダン化委員会が2025年5月28日に公表した総括レポート『DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて』は、中小企業では投資体力、経営者のITリテラシー、人材リソースの問題が顕著だと指摘しています(10頁)。

さらに、IPA(情報処理推進機構)の『DX動向2025』は、日本・米国・ドイツの企業を対象に、2025年2月から3月に行ったアンケートです(回答は、日本1,535社、米国509社、ドイツ537社)。この結果を見ると、日本ではDXの取り組みが従業員規模の大きい企業ほど進んでいることがわかります(6頁)。

なお、DXに取り組んでいる従業員100人以下の企業で、「成果が出ている」と答えた割合は、次のとおりでした。

国成果が出ていると答えた割合(従業員100人以下)
日本58.1%
米国91.2%
ドイツ80.3%

日本は、米国やドイツより低い割合です。企業が自分で答えたアンケートの結果ですが、規模の小さい日本の企業ほど、DXの成果を実感しにくい様子がうかがえます。

出典・参照:

日本には、サプライチェーンの中で責任を分け合ってきたやり方がある

サプライチェーンの複数企業が責任を分担する関係図

では、人材も予算も限られた中小企業は、どう進めればよいのでしょうか。ここでは、日本のサプライチェーンの見方を、私の見解として書き、そのあとで公的なデータと突き合わせます。

任せる側と任せられる側の共通の責任

前の章では、中小企業に人材や資金の制約があることを見ました。その数字だけを見ると、日本の中小企業は不利に映ります。しかし私は、日本はサプライチェーンの中で他社とうまくやり取りできていた、という見方も、逆説的に成り立つのではないかと考えています。

ここでいう「任せる側」は仕事を発注する大企業、「任せられる側」はそれを受ける中小企業です。仕事を任せる側は、任せたら終わりにするのではなく、その結果に責任を持つ。任せられる側も、言われたことをこなすだけでなく、同じ責任を持つ。そうして双方が共通の責任を持ってサプライチェーン全体で協力体制を保ってきたところがあるような気がします。

もう1つ、大企業と中小企業という区分は、あくまでカテゴリーの話です。従業員の数などで分けた2つの箱を、データで並べて比べても、それぞれの会社が取引の中でどんな役割を担っているかまでは映りません。だから、データ上の比較は一概にはできないのです。

そのうえで、日本には、大企業が取引先の中小企業を守りながら、その中小企業と仲良くやっている例がたくさんあるのではないでしょうか。

人材が足りないかどうかは、データだけでは決まらない

ここで、もう1つ興味深い話があります。それは、日本のIT人材は米国に比べてIT企業に偏っているのではないか、という意見です。これを裏付ける資料が、IPAの『DX白書2023』です。この調査では、情報処理・通信に携わる人材が、IT企業とIT企業以外のどちらに所属しているかを、日本と米国で比べています。

国(統計の年)IT企業IT企業以外
日本(2020年国勢調査)73.6%26.4%
米国(2021年職業別雇用・賃金統計)35.1%64.9%

表からは、日本ではこの人材の73.6%がIT企業に所属し、IT企業以外には26.4%しかいないことが分かります。米国は反対で、64.9%がIT企業以外に所属しています。つまり、この結果を見る限り、日本ではIT人材がIT企業に偏っているという見立ては間違いなさそうです。

ただし、調査の年が異なり、IT企業の範囲も国ごとの統計に合わせている点には注意が必要です。日本はソフトウェア業、情報処理・提供サービス業、インターネット附随サービス業で、米国は別の産業分類です。そのため、この表は割合を厳密に比べるものではなく、所属先の傾向の違いとして読むにとどめておきます。

この表を見ると、「IT企業以外にIT人材が少ないのだから、日本の一般企業にはIT人材がいない」という論理は成り立つのかもしれません。しかし私は、データだけを見て「日本はIT人材がいない」と短絡的に切り捨てるのは早計だと考えています。

人材が足りているかどうかは、データをいつ、どの業種で切り取るかで変わります。たとえば、人手不足と言われるコンビニでも、今、アルバイトが10人足りないという話はほとんど聞かないでしょう。飲食店なども同様です。なぜなら、日本の店でも、海外人材を積極的に採用しているからです。

先のIT人材に関するデータにしても、日本ではIT人材がIT企業以外の一般企業には少ないということを示しているだけで、それがイコール「日本にIT人材が足りない」という話にはつながらないのではないでしょうか。現在は国を超えた人の交流やリモートワークの広がりによって、人の採用はリアルな「場所」にこだわらなくても済むようになりました。

つまり、足りないという数字は、状況が変われば変わり得るのです。そのため、数字を見て立ちすくむのではなく、日本には日本の商習慣ややり方があるはずで、日本に合うやり方を考えないといけない時代に来たのではないか、というのが私の考えです。

出典・参照:

現在の企業間データ連携は弱い

先にも書いたように、日本はサプライチェーン全体で責任を分け合ってきたという見方は、私の実感です。一方で、数字は別の姿を示しています。『DX動向2025』では、日本は他社とデータを連携・提供していない企業の割合が突出して高い結果でした(65頁)。データ連携のルールがないこと、提供するデータの形式がそろっていないことを課題に挙げる企業も、日本で多くなっています(66頁)。

つまり、日本の取引関係の強さは、いまのデータ連携の強さにはつながっていないこともまた事実なのです。このような状態で、これまでの商習慣をただ称えるだけではDXになりません。信頼や長期の取引を、標準、契約、データの取り決めへ置き直せるかが問われているといってよいでしょう。

出典・参照:

中小企業は、サプライチェーンで使えるものを使い、変革の一角を担う

複数の中小企業が共通基盤と外部の専門性を使う図解

一社で抱えることを正解にしない進め方は、公的な資料にも出てきます。ここでは、その具体的な形と、自社が握ることの線引きを書きます。

一社単体でイノベーションを起こす難しさ

私は、DXとはデジタルを活用することそのものではなく、デジタルをツールに、データを材料として使いながら、「変革=イノベーション」を起こすことだと考えています。そうはいっても、中小企業がそれを単独で起こすのは簡単ではありません。

そのため、大企業の真似をして一社単体でイノベーションを起こそうと考えるより、サプライチェーン全体で使えるものを一生懸命使い、その中でイノベーションの一角を担う考え方も「あり」だと思います。

共通基盤・標準・外部の専門性を使う

公的な資料には、一社で抱えない取り組みが、次のように載っています。

取り組み内容出典
共同利用業務を共通の仕様に合わせて、システムの導入・運用の費用を下げる。地方の企業に多い傾向がある(24頁)経済産業省の総括レポート
外部の支援システムを作るベンダーが、企業の内製化を支え、伴走する(31頁)経済産業省の総括レポート
企業間の人材共有中小企業が単体ではリソースが足りないことを踏まえ、人材の共有、開発のひな形づくり、まとめ役の機関を置く仕組みを挙げる(39頁)経済産業省の総括レポート
産業単位のDX産業ごとに標準のシステムや人材共有を進める。医療や上下水道の分野を例に挙げる(40頁)経済産業省の総括レポート
複数者連携複数の中小企業などが連携してITツールを導入する取り組みを支援する国の補助制度。2026年の制度では、グループ構成員10者以上などの申請要件がある中小企業庁の『複数者連携デジタル化・AI導入枠』

複数者連携の補助制度は、一社だけで進めない公的な取り組みの一例です。つまり、共同利用や人材の共有は、すでに国の資料や制度に出てくる進め方なのです。

出典・参照:

自社が握ること、分担すること

前の項の取り組みは、共同利用、外部の支援、企業間の人材共有のように、DXに必要なことを一社が全部自社の中に抱えなくても、サプライチェーンの中で分担できることを示しています。人材も予算も限られた中小企業が、自社の社員だけで全工程を行わなくてよい、ということです。

ただし、分担できるからといって、「抱えなくていい」は「丸投げしてもいい」という意味ではありません。内製化も、全工程を社員だけで行うことはできなくても、目的、要件(必要な機能)、データ、契約、評価、最終判断に関しては自社が握っていなければなりません。

経済産業省の総括レポートも、丸投げやベンダーロックイン(特定のベンダーから離れられなくなること)、多重下請けを問題とし、ユーザー企業の自律性を求めています。

一方で、すべてを自社の中に取り込む内製化だけが正解とも言えません。私は、分担する相手の価値を認めることも大事だと思います。サプライチェーンの下流の部分(発注を受けて製造や加工、納品を担う企業)を切り捨てないのは、日本のものづくりの弱さではなく、その部分を担う会社の価値をきちんと評価することにつながるからです。

そのため、自社の中に残すのは、判断の責任に関わることです。実際の作業や仕組みは、取引先や外部と分け合います。具体的には、次のように分けられます。

区分内容
自社が握ること目的、課題、優先順位、データと知財(知的財産。データや成果物を使う権利)の扱い、最終判断、効果の確認
取引先や外部と分担すること実装(システムを作って動かす作業)、共通基盤、専門的な技術、共同利用するシステムの運用

出典・参照:

サプライチェーンでDXを進める条件は、費用と責任を公正に分けること

取引先間で費用と責任を公正に分ける条件を示す図解

サプライチェーンで進めるDXは、条件を置かなければ、費用と実装が下流の中小企業に偏るおそれがあります。ここでは、その条件を、大企業の役割と制度から整理します。

大企業の役割は、「音頭」から共通の条件を整える責任へ

私は、上流の大企業が音頭を取り、自社のサプライチェーンを守りながらDXを進める感覚は「あり」だと思っています。そのとき、音頭を取る側に求められるのは、共通の条件を整えることです。

大企業が整える共通の条件は、次のようなものです。

  • 共通の仕様、データの形式、受発注のやり取りの方式
  • システムを移行するときの支援と、教育
  • セキュリティの基準と、データの利用条件
  • 費用の負担と、相談の窓口

中小企業の側も、仕様や改善に参加できること、データの権限、知財、費用が守られることが、条件に入ります。

取適法・振興基準・パートナーシップ構築宣言

大企業と中小企業の取引を公正に保つ制度は、次の3つです。

制度内容
取適法(中小受託取引適正化法)2026年1月1日に施行。中小受託事業者から価格の協議を求められたのに、協議に応じない、必要な説明をしないなどして、一方的に価格を決める行為を禁止する
振興基準2025年に改正。情報化などの支援と、これまでの系列や規模を超えた連携に努めることを示し、サプライチェーン全体の付加価値向上と共存共栄を目指す
パートナーシップ構築宣言発注者の立場にある事業者が、代表者名で宣言する。目的は、サプライチェーン全体の付加価値向上と、大企業と中小企業の共存共栄。宣言には、IT実装を含む新たな連携と、振興基準が示す望ましい取引慣行の遵守が入る

サプライチェーンの上流にある大企業が、下流の中小企業にデータ連携やデジタル化を求めるなら、費用や人材、データの利用条件を、協議の項目に入れる必要があります。

中小企業の側も、取引先の大企業とデータ連携や共通の仕様を進めるときは、費用、責任、データの扱いを、相談の項目に入れましょう。

出典・参照:

まとめ:自社が握ることと分担することを分け、費用と責任まで取引先と相談する

中小企業のDXは、一社で抱えて完成させるものとは限りません。私は、共同利用や外部の支援など、サプライチェーンの中で使えるものを使いながら、変革の一角を担う進め方も「あり」だと考えています。

ただし、この進め方は、分担のしかたと、費用と責任の分け方で成り立ちが決まります。目的、課題、最終判断は自社が握り、実装や共通基盤は取引先や外部と分け合う。そのうえで、取引先との間で費用、責任、データの扱いを話し合う。この線引きが、一角を担うための出発点です。

自社のDXで、握ることと分担することを書き出してみましょう。貴社が一角を担うとしたら、どの部分を握り、どの部分を分け合いますか。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。