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DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるには、DX推進室のような専門部署を設けたり、CDO(最高デジタル責任者)のような責任者を置いたりするのが正攻法だと言われます。けれども専任の人材を採る余裕がない会社では、「部署を作れないから進められない」と感じたり、兼任の担当者に任せて「片手間になっていないか」と不安になったりする方もいるかもしれません。
しかし、専門部署は、本当にDXの前提なのでしょうか。公的な調査を見ると、成果との差が大きかったのは部署の有無ではなく、経営者・IT部門・業務部門が協調しているかどうかでした。
本記事では、こうした調査をもとに、DX推進体制を分けるのは「誰が課題の当事者になっているか」ではないか、という問いを考えます。
【本記事の要点】
- 従業員100人以下の企業の分析では、専門部署の有無と成果の関係は顕著でなかった
- 成果との差が大きかったのは、経営者・IT部門・業務部門の協調や、組織を越えた連携だった
- 一方で、成果が出ている企業に専門部署を持つ企業が多い調査もあり、専門部署に意味がないわけではない
- 分かれ目は部署の有無ではなく、課題の当事者が誰かにある。専門部署を置く場合は、各部署をつなぐ役割に置くのがよい
専門部署はDX推進体制の必須条件ではない:正攻法に見える理由と中小企業の実態
専門部署が正攻法に見える理由と、中小企業の体制の実態を確認します。
専門部署が正攻法に見える理由
経済産業省のデジタルガバナンス・コード3.0(2024年9月公表)は、DX戦略に必要な体制の整備、外部組織との連携、人材の育成と確保を求めています。求めているのは体制と人材と権限であり、独立した専門部署の設置を一律に求めているわけではないのです。
それでも、専門部署が正攻法に見えるのはなぜでしょうか。それは、DXを進めている企業に専門部署が多いからだと考えられます。
IPA(情報処理推進機構)の調査(2022年度のデータ、2023年11月公表)では、DXを全社戦略に基づいて本格的に進めているグループで、CDOを置く割合が60.0%でした。取組の初期段階にあるグループは29.4%です。専門部署の設置率も、初期段階のグループより2〜3割高い結果でした。
ただし、これは取組の段階別に企業を比べた結果です。成熟した企業ほど、専門部署を置く余力があったとも考えられます。
出典・参照:
中小企業では専門部署を置く企業自体が少数
対して、中小企業の現実はどうでしょうか。ここでは、青森県の『令和7年度 中小企業等のDX・デジタル化に関する実態把握調査』を紹介します。
同調査では、県内の中小企業等2,935者に配布し、1,478件の回答を得ました。基準日は2025年9月末です。このうち体制の設問に回答した1,475件の、DXやデジタル化の体制の内訳は次のとおりです。
| DXやデジタル化の体制 | 回答の割合(%) |
|---|---|
| 専門部署がある | 2.2 |
| 兼任の部署がある | 7.3 |
| 部署はなく、プロジェクトチームがある | 2.1 |
| 部署はなく、担当者がいる | 23.4 |
| いずれもない | 65.0 |
専門部署があるのは2.2%にとどまっているのに対して、大半の企業は専門部署なしでDXに取り組んでいることが分かるでしょう。
ただし、これは青森県という一地域の調査です。地方では、専門部署に充てる人材やIT人材を確保しにくい事情から、専門部署の割合が低く出ている可能性があります。
これに対して、IT企業や支援人材が集まる都市部では、割合が異なるのではないでしょうか。この調査だけでは比較できませんが、専門部署なしで体制を考える必要性は、地方の中小企業ほど切実なのかもしれません。
出典・参照:
公的調査で見る専門部署と成果の関係:差が大きいのは部署間の協調と連携
専門部署の有無は、本当に成果を分けているのでしょうか。IPAの2つの調査から、専門部署の有無と、部署間の協調や組織を越えた連携が、成果とどう結びついていたかを見ます。
従業員100人以下の企業では専門部署の有無と成果の関係が顕著でない
IPAの職員がまとめたディスカッション・ペーパー『日本の中小企業のDX推進についての考察』(2023年11月公表)は、2022年度の調査に回答した日本企業543社から、従業員100人以下の企業を取り出して分析しています。
その結果、専門部署の有無や、IT分野に見識のある役員の有無は、DXの成果がある企業とない企業の差が小さく、成果との関係は顕著ではありませんでした。
差が目立ったのは、組織内や組織間の協調・連携です。DXの取組状況ごとに、各項目に「実施している」と答えた企業の割合を並べると、次のとおりです。
| 項目 | 成果がある企業(29社、%) | 成果がない企業(20社、%) | 取り組んでいない企業(86社、%) |
|---|---|---|---|
| 経営者・IT部門・業務部門の協調 | 65.5 | 35.0 | 16.3 |
| 組織の壁を越えた協力・協業 | 55.2 | 35.0 | 22.1 |
| DX推進の部署がある(専門部署、またはプロジェクトチーム) | 44.8 | 45.0 | 4.7 |
| IT分野に見識のある役員がいる | 82.8 | 75.0 | 57.6 |
この表で目を引くのは、DX推進の部署を持つ企業の割合が、成果がある企業(44.8%)と成果がない企業(45.0%)でほぼ同じことです。一方、経営者・IT部門・業務部門の協調は、65.5%と35.0%で30ポイント以上の差があります。
つまり、DXの成果を出した企業と出せなかった企業を分けていたのは、DX専門の部署を持っているかどうかではなく、部門どうしが協調できているかどうかだった、と読むことができるでしょう。
出典・参照:
成果企業との差が大きいのは三部門の協調・全社最適化・外部連携
もう1つの資料は、IPA『DX動向2025』の再分析です(2025年7月公表、調査は2025年2〜3月)。
調査では、日本企業のうち、効率化と成長の両方で成果が出ている271社と、効率化のみで成果が出ている371社を比べています。各項目に取り組んでいる企業の割合は次のとおりです。
| 項目 | 効率化・成長の両方で成果あり(271社、%) | 効率化のみ成果あり(371社、%) | 差(ポイント) |
|---|---|---|---|
| 専門部署がある | 72.7 | 66.5 | 6.2 |
| 経営者・IT部門・業務部門の協調 | 76.0 | 52.3 | 23.7 |
| 業務プロセスの全社最適化 | 59.0 | 34.7 | 24.3 |
| 外部組織との連携 | 65.7 | 42.3 | 23.4 |
差が大きかったのは、次の3項目で、いずれも23ポイント以上でした。
- 経営者・IT部門・業務部門の協調:目的に向かって、三部門が協力して進めること
- 業務プロセスの全社最適化:部署ごとの部分最適にとどめず、業務プロセスを全社の視点で見直すこと
- 外部組織との連携:社外の力を取り込むこと
成長でも成果を出している企業は、部署の枠を越えた動き方をしている企業だった、と言えます。一方、専門部署の差は6.2ポイントにとどまりました。
日本企業919社の回帰分析でも、成長の成果と有意な関係が示された項目に、経営者・IT部門・業務部門の協調や外部組織との連携が含まれていました。
専門部署は成果企業にも多い:反対のデータの読み方
上の表で目を引くのは、成果の高い群で専門部署がある企業が72.7%と高いことです。専門部署が成果と無関係だと考えるのは、データと合いません。
一方、効率化のみの群でも66.5%が専門部署を持っています。差は6.2ポイントで、協調や全社最適化、外部連携の差(23〜24ポイント)より小さい結果でした。
どちらの群にも専門部署のある企業が多く、群の違いを分けていたのは、専門部署の有無よりも協調や連携の側だった、ということです。専門部署が成果に貢献している可能性も、成果が出た企業に専門部署を置く余力があった可能性も、この調査だけで判断することはできそうにありません。
出典・参照:
DX推進体制は部署ではなく機能で考える:一部署に預ける体制と各部署が当事者になる体制
前の章のデータからは、専門部署の有無は、DXの成果を分けていないということが読み取れました。では、DXの推進体制は、何を基準に考えればよいのでしょうか。それは、部署という「箱」を決める前に、DXに必要な「機能」を誰が担うのかを見るべきだと考えられます。
対立軸は「専門部署あり/なし」ではない
体制の対立軸は、専門部署の有無ではなく、DXを一部署に預ける体制か、各部署が当事者になって横断的に協調する体制か、に置き換えられます。専門部署があっても、課題の発見と実行を各部署が担っていれば、後者に近い体制です。反対に、専門部署がなくても、担当者1人にすべてを任せていれば、前者になります。
前の章で差が大きかった「協調」や「連携」は、後者の体制で起こることです。つまり、外から見える部署の有無より、各部署が当事者として動いているかという中身のほうが成果と結びついているというのが実情に近いでしょう。
部署という「箱」より先に、「機能」を誰が担うかを見る
DXに必要な機能は、方針決定、優先順位づけ、予算と権限の付与、現場課題の発見、技術選定、実装、効果測定、横展開、リスク管理の9つに分けて考えられます。担い手は企業の規模と課題で変わりますが、機能によって、専門部署に預けやすいものと預けにくいものがあると考えられます。
預けにくいのは、方針、優先順位、予算と権限の付与、そして現場課題の発見です。何のためにやるかを決めるのは経営者で、業務の何に困っているかを知っているのは各部署です。ここを専門部署が引き取ると、他の部署に「DXはあの部署の仕事」という意識が生まれてしまい、結果的に成果がでにくくなってしまうことも考えらます。
預けやすいのは、技術選定、横展開、リスク管理のように、1つの部署では担いきれない機能です。専門部署の強みはここにあります。専門部署を置くなら、すべてを引き受ける部署ではなく、各部署をつなぎ、再利用できる仕組みを支える部署として役割を決めるのがよいでしょう。
まとめ:専門部署の有無より、誰が課題の当事者かを見る
DXの推進体制を分けるのは、専門部署の有無ではなく、誰が課題の当事者になっているかです。
データから見えてくるのは、専門部署の設置は、DXの成功の必要条件ではない、というものです。必要なのは、経営者が目的と優先順位を決め、課題を持つ各部署が実行の当事者となり、IT担当や外部の専門家が横断的に支援する体制です。
専門部署を置く場合でも、すべてを引き受ける部署ではなく、各部署をつなぎ、再利用できる仕組みを支える部署にすることが重要になります。もちろん、共通基盤の整備や全社のデータ統合、法令の規制が厳しい業種での統制のように、専任の部署や責任者を置くほうが合理的な場面もあります。
つまり、必要ないのは、専門部署を置くことを「出発点にしてしまう」ことではないでしょうか。
貴社のDXの課題を、自分の仕事として持っているのは誰でしょうか。その名前を挙げられるかどうかが、体制を考える出発点になるはずです。
なお、専門部署がない会社では、DXの担当者が、課題の当事者を探しながら一歩目を踏み出すことになるでしょう。その進め方は、シリーズ【新人DX担当の教科書】でも解説しています。担当者として何から手をつけるか迷ったときに、あわせてご覧ください。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。


