【神社仏閣のDX/後編】人の心とデジタルの融合が生き残りのカギ

【神社仏閣のDX/後編】人の心とデジタルの融合が生き残りのカギ

日本全国のお寺や神社は、人手不足や低収入で今後の運営に大きな不安を抱えています。それを解決するカギが、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)推進です。

DXとは「デジタル技術とデータを活用し、既存のモノやコトを変革させ、新たな価値創出で人々の生活をより良くする」ことを指しますが、一見デジタル技術とは無縁のように思える神社仏閣にも、今や業務のデジタル化やDX推進の波は押し寄せています。

そんな神社仏閣のDXに関して解説する本連載。前編では、「ビジネス視点」でお寺や神社をデジタル化する方法を事例を交えつつ取り上げました。

今回の後編では、「心のよりどころ」として神社仏閣を訪れる「人」に焦点をあて、人の心とデジタルの融合について、解説します。

人の心とデジタルの融合について考えることは、神社仏閣に関わらず、一般企業でも十分に参考になるはずです。

ご自身の所属する企業や組織の抱える問題と照らし合わせながら、最後までお読みください。

神社仏閣は「人の心のよりどころ」

神社仏閣は「人の心のよりどころ」

お寺は、親族のお葬式や先祖のお墓参りをする場所としての役割もありますが、本来は「活き活きと充実した人生を送るための教えを説く場所」です。

一方、神社の役割は、「人や自然を思いやる気持ちを家族や地域住民とともに分かち合う場所」であることです。

両者に共通している特徴は、「人の心のよりどころ」である点と言って良いでしょう。

DX推進にあたっては、こうした人の心のよりどころとしての神社仏閣の本質的な魅力を損なわず、いかにデジタル化を進められるかが重要になってきます。

また、特に近年増えている海外からの観光客に対しては、日本の神社仏閣の魅力をより広く知ってもらうことも大切となるでしょう。

前編で解説したように、多くの神社仏閣は収入面の不安から、後継者不足で悩んでいます。

しかし、現状をデジタルの力で解決し、国内外の人々が神社仏閣に足を運ぶようになれば、収入不安の解消に繋がり、ひいては後継者不足や人手不足の解消にも繋がるかもしれないのです。

人の心とデジタルの融合が神社仏閣DXのカギ

人の心とデジタルの融合が神社仏閣DXのカギ

デジタル化で業務の効率化を図ることはできても、人の心に寄り添う神社仏閣の本来の役割がおろそかになってしまっては、真の意味でのDXとは言えません。

そこにどう折り合いをつけていくかが、神社仏閣のDX推進には必要な視点です。

利用者のニーズに応える神社仏閣のデジタル活用

繰り返しにはなりますが、神社仏閣の本来の役割は、「人の心のよりどころ」です。

神社仏閣が持つ「場」の魅力を体感するには、実際にその場所を訪れて、その場の雰囲気を肌で感じるのが最善でしょう。

これまでの神社仏閣も、その場を訪れた人に何ができるか?という発想で運営されてきました。しかし、中には様々な事情で遠方まで足を運べない人や、日々の生活に追われて足を運ぶ時間を取れない人もいるでしょう。

神社仏閣のデジタル化は、訪問したくても訪問できない人に「心のよりどころ」を提供するという点で、大変有効な取り組みです。

例えば、築地本願寺では、より身近に感じてもらえるお寺を目指して、2022年6月より携帯アプリ「築地本願寺公式アプリ」を導入しました。

アプリ内では、「教えて!お坊さん」や「おてLIVE」などのコンテンツを利用できます。

「教えて!お坊さん」は、一般の人から寄せられた悩みに住職が答える人生相談、「おてLIVE」は、YouTubeを活用した築地本願寺の堂内の様子をリアルタイムに配信するライブ放送です。

これらのコンテンツを利用した顧客からは、「気分がすっきりして、今日1日を頑張れそう」など、前向きな感想も多く見られます。

築地本願寺の取り組みは、神社仏閣の「人の心のよりどころ」としての役割を、デジタルの力を使って、その場を訪れることができない人にも届けていると言えます。

時代の流れに合わせたキャッシュレス決済

神社やお寺の賽銭を現金からキャッシュレス決済に切り替えることは、世の中の流れから考えても自然です。

特に、コロナ禍において多くの企業がキャッシュレス決済を導入したように、神社仏閣でも感染予防対策としてキャッシュレス決済を導入することは意味のある試みでしょう。

さらに前編で解説したように、多くの神社仏閣がその被害に頭を悩ませている、賽銭泥棒への対策としても有効な施策です。

とはいえ、賽銭を現金からキャッシュレスに変えることは、どこか神仏に願うという行為が蔑ろになってしまうような思いを抱く人もいるかもしれません。

しかし、宗教関連のキャッシュレス決済は、海外ではすでに導入されている施策です。

例えば、フランスの「サン・トゥスタッシュ教会」では、教会内に献金をクレジットカードで決済する端末が設置されています。

また、フランスのスタートアップ「オボール・デジタル」が開発した『ラ・ケート(La quête)』というスマートフォン用のアプリは、スマホ1つで献金ができるシステムであり、フランス全土で利用が広がっています。すでに、1万以上ものフランス国内の教会が導入し、今もなお拡大を続けているシステムです。

同アプリを導入したところ、献金額が2〜5倍に増えたという事例も報告されているとおり、神仏への賽銭や献金をキャッシュレス化することは、時代の流れに沿った施策だと言えるでしょう。

フランスでの成功は、国民性の違いなのでしょうか。決してそうではないはずです。現に、日本でもお賽銭のキャッシュレス化を望む声は増えています。

仏教に関する実態把握調査(2020年度 臨時調査)報告書によると、「お賽銭をキャッシュレスで払いたい」と答えた人の割合は、「菩提寺有り」の20代で51.3%、30代で43.7%、40代で41.8%というデータが出ています。

「キャッシュレスなど神社仏閣ではあり得ない」との意見もあるかもしれませんが、アンケートの結果を見る限り、キャッシュレス賽銭を検討する必要がありそうです。

すでにこのようなニーズに応える施策は始まっています。例えば、愛知県名古屋市にある万松寺では、既に賽銭の支払いにキャッシュレス決済を導入しています。

この施策は、単なる利便性のためのキャッシュレス導入ではなく、伝統を重んじる人も十分に満足できる「心のよりどころ」としての場を提供していると言えるでしょう。

愛知県名古屋市にある万松寺の決済方法は、通常の現金でのお賽銭とは別に用意された、「Banshoji Coinシステム」という一風変わったキャッシュレス賽銭制度です。

キャッシュレス賽銭を利用したい参拝客は、境内に設置されているキャッシュレス決済専用の自動販売機で、寺の本尊である観音菩薩が描かれた1枚500円のオリジナルコインを購入します。そして、そのコインを現金の代わりに賽銭箱に投げ入れるのです。

このシステムの優れているところは、お賽銭を物理的に投げ入れるといった伝統的な儀式としての部分は残しつつ、キャッシュレスの便利さを取り入れているところでしょう。

この施策は、お賽銭用の硬貨を持ち合わせていない人や、キャッシュレス決済が当たり前の外国人観光客にも好評とのことです。

お賽銭の本来の役割は、生活や家族の幸せに感謝する気持ちを伝えるためのものです。その感謝を伝えられるのであれば、現金であれキャッシュレスであれ何も変わるところはないのです。

とはいえ、賽銭箱の前でスマホを操作して、キャッシュレスで支払うというのはやはり「味気ない」と感じる人が多いでしょう。万松寺の取り組みは、こうした人びとの想いとキャッシュレスを融合させた取り組みだといえます。

参拝者の「想い」を叶えるデジタル技術

お賽銭だけでなく、「おみくじ」「御朱印」「お守り」などをデジタル化した事例もあります。

おみくじは、本来、神からの授かり物であり、災難や悪霊から身を守るツールとしての役割があります。京都の貴船神社では、「QRコード付きおみくじ」を採用し、用紙に印字されたQRコードを携帯電話で読み込むことでおみくじを引ける仕組みを考えました。

つまり、アナログなくじ引きというイベントを、デジタルで楽しめるようにしたのです。これにより、一緒にお寺や神社に行くことができない、遠方の親類や友人とも一緒に、参拝やおみくじを引くという体験を共有することができるようになります。

しかも、おみくじの言語は日本語だけでなく、「英語」「中国語」「韓国語」と多言語対応しているため、外国人観光客でもおみくじの結果がその場でわかります。

神社側としては、授与所(くじやお守り渡す場所)での対応が早くなり、仕事の効率化に繋がっています

御朱印をデジタル化した事例もあります。

御朱印は、神社仏閣に参詣した証として押印したものを保存しておく冊子です。もともとは、神社仏閣で写経(お経を書き写すこと)した人に与えられる証明書であり、御朱印をもらうことで神社仏閣と参詣者のご縁が結ばれた証となります。

この御朱印について、福岡の紅葉八幡宮では「AR御朱印」という形でデジタル化しました。

仕組みは次の通りです。

  1. スマホにアプリをダウンロードする
  2. 神社でもらった御朱印をアプリを通してカメラで捉える
  3. 画面上の御朱印の映像にバーチャル神主が現れる
  4. バーチャル神主が画面内で祈祷するとバーチャル神様が呼び出される
  5. アプリの「おはなし」をタップすると神様の説明が表示される

お守りをデジタル化した事例もあります。それが、千葉県の検見川神社の「お守りNFT」です。

NFTとは、世界中に1つしかない代替不可能な暗号資産のことを指しています。

同神社では、お守りをNFTで受け取れるようなシステムを考え出しました。神様の授与品であるお守りを、NFTにして頒布するという画期的な試みです。

NFTお守りの特徴は、ご利益が切れる1年が経過すると、NFT上で自動でお炊き上げ(火で燃やす)してくれる点です。

本来お守りには有効期限があり、1年でご利益が切れてしまうとされています。そのため、通常であれば頒布から1年を経過したお守りは、授かった神社に返納してお焚き上げをしていただくべきものです。

とはいえ、よほど熱心な方でなければ、それを守っていることなどないでしょう。

しかし、NFTお守りは有効期限が決められているため、1年が経過すると自動でお焚き上げしてくれるのです。

また、その様子は、同神社のYouTubeやInstagramでリアルタイムで確かめることができますので、忙しい現代人のライフスタイルにも合致した新しいビジネススタイルだと言えるでしょう。

「おみくじ」「御朱印」「お守り」のデジタル化は、伝統を重んじる方からは、遊び感覚と捉えられるかもしれません。ありがたみを感じないという声も少なくないでしょう。

しかし、普段日本の文化に触れる機会の少ない若者やインバウンド客に伝統文化に興味を持ってもらうという意味では、貴重な試みだと言えるのではないでしょうか。

「メタバース神社」で新たな価値を創出

現在、お寺は檀家離れが進んでいます。少子高齢化の影響で跡継ぎがいなくなったり、檀家としてお布施を寄付するのが負担となり、檀家を解消する人が増えていることが原因です。

一方の神社も、氏子不足や参詣者の減少など、神社離れが進んでいます。

そのような現状をデジタルで解消し、施設の魅力を広めている神社があります。それが、福岡県にある鳥飼八幡宮です。

同神社では、「誰でもいつでもどこからでも参拝できる神社」をコンセプトに、メタバース神社を展開しています。

メタバースとは、インターネット上に作られた仮想空間です。自分の分身であるアバターを利用して、自由に仮想空間内を歩いたり、他のユーザーとコミュニケーションを取ったりできる、Web3.0時代の「もうひとつの世界」です。

同神社のメタバースは、スマホやタブレットから利用可能であり、その仕組みは次の通りです。

  1. スマホやタブレットにアプリをダウンロード
  2. アプリを起動してアバターを作成
  3. 鳥飼八幡宮と検索して「ワールド」を選んでタップ
  4. 鳥飼八幡宮の世界に入り込む

メタバース神社の中では、手水舎(心身を清める水がある場所)で手を清めたり、二礼二拍手してお参りをしたりといった体験ができます。

境内のところどころに隠された豆知識カードを引けば、神社の歴史や文化について学べるなど、カード収集やゲームなど様々な遊び要素もちりばめられており、楽しみながら参詣できるのもメタバース神社の特徴です。

鳥飼八幡宮の取り組みは、バーチャルの世界から神社に興味を持ってもらうきっかけとして考えると、非常に面白い試みでしょう。

同神社の宮司は、「メタバース神社が注目されることで、普段神社と縁のない人が実際に足を運ぶきっかけにしてほしい。」と、語っています。

普段神社に親しむことがない人が現地に足を運ぶことが増えれば、人や自然を思いやる神社としての役割に気づく機会が増え、「デジタルからアナログ(リアル)へ」という神社仏閣の新たな価値体験にも繋がっていくでしょう。

同神社では今後、メタバース神社での交流会やイベントなども予定しているとのことで、仮想と現実の垣根を越えた人の心の融和を生み出す可能性を秘めた、非常に興味深い試みとして今後を見守って行きたい事例です。

まとめ~神社仏閣のDXは人の心に寄り添ってこそ

心のよりどころとして神社仏閣を訪れる人とデジタルの融合について、事例を交えて解説してきました。

神社仏閣のDX推進は、「人の心のよりどころ」としてのお寺や神社の特性を活かしつつ、うまくバランスを取りながら進めていくことが大切です。

一見するとデジタルとは縁がなさそうに見える神社仏閣が、このバランスを意識しながらDXに取り組んでいることは重要な事例となります。このデジタルと「人の心」の融合は、一般企業にも当てはまる要素になるのではないでしょうか。

闇雲にデジタル技術を導入したところで、そこで働く人や顧客の心がおろそかになってしまっては本末転倒です。

繰り返しにはなりますが、DXとは「デジタル技術とデータを活用し、既存のモノやコトを変革させ、新たな価値創出で人々の生活をより良くする」ことです。つまり、デジタル技術の活用は「人のためになる」という前提条件があってこそなのです。

DXを進めようと計画する経営者・担当者の皆様は、貴社のビジネスの根幹を再確認しつつ、その過程で「どのようにすれば顧客や従業員に役立つものになるのか」を考えて、効果的なDX戦略を立案していってください。

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DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

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