進むDX、揺らぐQRコード決済の優位性:小売店が直面する現実と次なる一手

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近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が中小企業にも押し寄せ、業務効率化や顧客体験の向上を目的に、様々なデジタルツールの導入が進んでいます。

その中でも、手軽さと利便性から一気に普及したQRコード決済は、小売店におけるDXの象徴的な存在として期待されていました。しかし今、その優位性が揺らぎ始めているという声が聞かれます。

一部の店舗ではQRコード決済の導入を見直し、あるいは廃止する動きすら見られるようになっているのです。

本記事では、かつてDX推進の切り札とも言われたQRコード決済が、なぜ今、一部の小売店で再考の対象となっているのか、その現状と問題点を深掘りします。そして、今後の小売店がDXを真に推進していくために、どのような視点と戦略が必要となるのかを提言いたします。

時代の流れとして電子決済は避けて通れない道であり、その中でいかに自社に最適な形を見つけるかのヒントとしてください。

QRコード決済が抱える課題

QRコード決済が抱える課題

スマートかつ非接触であることから、消費者の支持を集めたQRコード決済ですが、店舗側の運用実態においては、その利便性が必ずしもメリットとして作用していない現状が見えてきました。

決済スピードの逆転現象と業務の煩雑化

ある調査によれば、キャッシュレス決済導入店舗の25%以上が「決済完了までのスピードが現金よりも遅い」と回答しています。これは、QRコード決済が本来持つ「迅速な会計」というイメージとは裏腹の現実と言えるでしょう。

この背景には、顧客が行うべき複数の手順が挙げられます。

  1. 顧客がスマートフォンを取り出し決済アプリを起動する
  2. アプリ内で店舗側が提示するQRコードを読み取る、あるいは店舗に自分のQRコードを提示して読み取ってもらう
  3. 支払い金額を確認しパスワード入力や生体認証で決済を承認する

これらのステップが、特に慣れていない顧客や通信環境が悪い場所では、現金での支払いに比べて時間を要してしまう要因となっているのです。

加えて、店舗からも「レジ業務が煩雑になった」「お客さまとのやりとりが増えた」という声も上がっています。

顧客の操作習熟度やスマートフォンの電波状況によっては、決済に時間がかかり、結果としてレジ待ちの列が長くなる事態も発生しかねません。また、従業員が複数のQRコード決済サービスに対応する必要がある場合、操作方法の習得やトラブル対応など、業務負担が増加する可能性も否定できません

これは、DX本来の目的である業務効率化とは逆行する現象と言えるでしょう。

このように、QRコード決済は顧客の利便性を高める一方で、店舗のオペレーションに新たな課題をもたらしているのが現状です。

不必要な顧客コミュニケーションの増加

良好な顧客とのコミュニケーション増加は、店舗型ビジネスにとって良い要素です。しかし、QRコード決済の導入は、必ずしもそれに繋がるとは限りません。むしろ、決済に手間取る顧客への操作案内や、QRコードの読み取りエラーといったトラブル対応など、本来の接客とは異なる「不必要な」顧客対応が増加してしまっているのです。

特に少人数で運営している小規模店舗にとって、こうした不測の事態への対応は、貴重な従業員の時間を奪い、日々の業務に大きな影響を及ぼす可能性があります。

これにより、本来注力すべきサービスの提供や顧客体験の向上に割けるリソースが削がれてしまうという課題が生じてしまうのは、決して看過できることではありません。

手数料だけではない、QRコード決済導入の隠れた障壁

手数料だけではない、QRコード決済導入の隠れた障壁

QRコード決済の導入に際しては、決済手数料が大きな懸念材料となることは広く知られています。しかし、それ以外にも、小売店が導入に二の足を踏む、あるいは導入後に撤退する理由が存在します。

メリットの不明瞭さと実感の欠如

経済産業省の資料によると、キャッシュレス決済を導入していない事業者の理由として、「顧客からの要望がない」「導入のメリットが不明/実感できない」が上位を占めています。

本来、レジ業務の時間短縮や業務効率化といったメリットが期待されるキャッシュレス決済ですが、先ほど述べたような運用上の課題や想定外のコストにより、その恩恵を十分に感じられない店舗も存在します。

特に、顧客層が高齢であったり、現金決済を好む傾向が強い地域においては、QRコード決済導入による集客効果が薄いと判断されることもあります。

入金サイクルの遅延によるキャッシュフローへの影響

QRコード決済の売上金が銀行口座に入金されるまでにタイムラグがあることも、中小企業にとっては大きな課題となりえます。日々の資金繰りがシビアな店舗にとって、入金サイクルの遅延はキャッシュフローを悪化させる要因となり、経営を圧迫する可能性も考えられるでしょう。

現金決済であれば売上金が即座に手元に入るため、この点においてQRコード決済は不利に働くことがあります。

セキュリティへの懸念

QRコードのすり替えといった不正行為のリスクや、システム障害発生時の対応など、セキュリティ面への不安も導入を躊躇させる一因となります。

デジタル化を進める上で、セキュリティ対策は不可欠な要素であり、特に小規模店舗では専門的な知識やリソースが不足している場合も少なくありません。

決済手段の整理による経営資源の再配分とオペレーションの適正化

決済手段の整理による経営資源の再配分とオペレーションの適正化

QRコード決済を廃止する選択は、単純な過去への回帰ではなく、経営資源を「自社の強み」へ再集中させるための戦略的な意思決定と定義できます。

レジ業務の正常化と従業員の心理的負荷軽減

決済手段を限定することで、従業員は複雑なシステム操作から解放され、本来の業務である接客や商品管理に注力可能となります。操作ミスやトラブル対応の減少は、職場環境の改善に寄与し、人材定着率の向上という副次的効果をもたらすのです。

これは、人的資本経営の観点からも合理的な判断と言えるでしょう。

顧客体験(CX)の本質的な改善

決済の煩雑さが解消されることで、会計フローが円滑化し、顧客の滞在体験の質が向上します。デジタルツールの排除が、皮肉にも「スムーズな購買」という本来の利便性を回復させる結果に繋がるのです。

経営層は、流行のツール追従ではなく、自社の顧客属性に適した最適なサービス設計を優先すべきでしょう。

コストの削減

決済手数料や端末の維持費といったランニングコストが不要になることは、店舗にとって直接的な経費削減に繋がります。特に売上が小規模な店舗においては、この削減効果は無視できないメリットとなるでしょう。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、すべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。