学習塾の倒産が過去最多ペース!買収・統合の足かせになるのは「校舎ごとに違うシステム」だ【編集部考察】

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学習塾の倒産件数が、過去最多のペースで増えています。少子化による生徒数の減少や経営者の高齢化による後継者不在。理由を並べれば、この事象はいかにも「よくある話」に聞こえるかもしれません。しかし、私が気になっているのは、倒産件数そのものよりも、その裏側で同時に進んでいるもう1つの動きです。

  • 大手教育企業による学習塾の買収
  • 複数ブランドを抱える法人同士の統合
  • 身内や従業員に経営を引き継ぐ事業承継

一見すると、倒産とこうした「引き継ぎ」は全然関係のない出来事に見えます。しかし実際には、これらは同じ構造変化の表と裏にあるのです。

生き残れない校舎は畳まれるか、誰かに引き継がれるかのどちらかしかありません。そして、この「引き継がれる」というプロセスで何が起きるのかを考えたとき、私が最も注目したいのは資金力でも生徒数でもなく、「校舎ごとにバラバラなシステム」という、地味だが厄介な問題です。

企業のDX推進をサポートする会社の代表として、私自身、多くの学習塾を経営する経営者の方々から、お話を聞く機会がたくさんあります。その中で、買収や引き継ぎの現場でのリアルな悩みを直接うかがう機会も増えてきました。本記事では、さすがに個別の案件の具体性には触れられませんが、そこで繰り返し感じてきた違和感と、打ち手として有効だと考えていることを軸に、この状況に関する打ち手を考えていきます。

【本記事の要点】

  • 学習塾の倒産件数は2023年45件、2024年53件、2025年は1〜9月時点で37件と、過去最多ペースで推移していた
  • 倒産の裏側では、大手企業への売却(M&A)だけでなく、身内・従業員への引き継ぎ(事業承継)による生き残りの動きも進んでいる
  • 買収・承継どちらの道でも、校舎ごとにバラバラなシステムは引き継ぎの障害になりやすい
  • 生き残りの鍵は資金力や生徒数ではなく、自塾の運営がどれだけ標準化され、誰かに引き継げる状態にあるかである

学習塾の倒産が、過去最多ペースで増えている

学習塾の倒産件数が2023年45件、2024年53件、2025年1〜9月37件と推移した図解

まず数字を確認しておきましょう。日本M&Aセンターの調査によれば、学習塾業界の倒産件数は2023年に45件と2000年以降で最多となり、2024年には53件へさらに増加しました。同社が公表している最新の統計は2025年1〜9月分までで、この時点ですでに37件に達しており、通期でも過去最多を更新するペースで推移していました。

少子化による生徒数の絶対的な減少、そして経営者の高齢化にともなう後継者不在。この2つは、学習塾という業態の経営基盤を揺るがしかねない重大な課題です。後継者不在は、身内や従業員への事業承継が難しくなっていることの裏返しでもあり、倒産という結末だけでなく、誰かに引き継ぐという選択肢そのものが失われつつある点にも注意が必要です。

出典・参照:

倒産の裏側で進む、M&Aによる業界再編

生徒減少と後継者不在を共通課題に、倒産とM&A・事業承継へ分かれる二つの道

一方で、学習塾業界では、統合や事業承継の動きも活発になっています。後継者がいない塾が、大手教育企業やM&Aに積極的な同業他社へ事業を譲渡するケースが、業界メディアでも繰り返し報じられている状態です。

譲渡先は、必ずしも外部の企業からの買収・業務移譲だけとは限りません。子どもや親族、あるいは長年勤めてきた講師・スタッフに経営を引き継ぐ、いわゆる事業承継という選択肢を検討する経営者も少なくないでしょう。

ただし、ここで正確に区別しておきたいのは、倒産は「経営が続けられなくなった結果」であり、M&Aや事業承継は「経営を続けるための選択肢」です。両者は原因を共有しながら、たどり着く結末が違います。

それでも、この2つの動きに共通しているのは、いずれも「単独の校舎経営では立ち行かなくなっている」という現実です。倒産という形で市場から退場するか、外部への売却であれ身内への承継であれ、誰かに引き継がれる形で存続するか。この二択を迫られている学習塾が増えている。この事実だけは押さえておかなければならないでしょう。

買収・統合の足かせになるのは「校舎ごとに違うシステム」である

校舎ごとに異なる生徒・出欠・請求・シフト管理を本部で統合する際の負担と変化

買収・統合、あるいは事業承継という選択肢を取れたとしても、それで話が終わるわけではありません。むしろ、引き継ぎが決まってからが本当の勝負です。

学習塾のシステム統合では、校舎ごと、ブランドごとに、生徒管理・出欠管理・請求管理・講師のシフト管理といった仕組みが、それぞれ別々のツールや自作の台帳で運用されているという課題が残りがちです。

校舎が増えるたびに、その場その場で「使いやすいから」という理由で選ばれたツールが積み重なり、気づけば本部から全体が見渡せない状態になっているのです。こうした「ブランドごとに自作システムが分かれ、データが統一できていない」という状態は、複数ブランドを運営する学習塾で一般的に指摘されている課題です。

買収する企業にとっても、後を継ぐ身内やスタッフにとっても、こうした校舎ごとの個別最適化は、引き継ぎ作業そのものを重くする要因になります。生徒データのフォーマットが校舎ごとに違えば、それを突き合わせるだけで膨大な手間がかかります。また、請求の仕組みが統一されていなければ、経理処理は当面二重運用にならざるを得ないでしょう。買収した側が期待していた「規模のメリット」や、後継者が思い描いていた「スムーズな引き継ぎ」は、システムの不整合という形で目減りしていくのです。

私が学習塾の経営者方をサポートする過程でよく耳にするのも、まさにこの「引き継いでから気づく」というパターンです。交渉の段階では生徒数や立地、収益といった数字ばかりが注目され、日々の運営を支えるシステムがどれだけ標準化されているかは、後回しにされます。しかし実際に統合や引き継ぎが始まると、真っ先にボトルネックになるのはこの部分だというのが、私が違和感として抱いてきた実感です。

システムの標準化は、効率化ではなく生き残りの条件になる

校舎システムの標準化が統合コストを抑え、事業を円滑に引き継げる状態を支える比較

ここで強調したいのは、システムの標準化を「業務効率化の話」として片づけてしまうと、この構造変化の本質を見誤るということです。

倒産件数が過去最多ペースで増え、業界再編が進行しているという状況で、システムがどれだけ標準化されているかは、単なる社内の使い勝手の問題ではなくなっています。買収する側にとっては、統合コストと統合スピードを左右する要因になり、買収される(あるいは事業を引き継ぐ)側にとっては、自社の事業がどれだけスムーズに引き継げる状態にあるかという、事業の価値そのものに関わる問題です。

校舎ごとにシステムがバラバラなままでは、いざ統合や事業承継の話が持ち上がったときに、「よい生徒基盤を持っているのに、引き継ぐのが大変な塾」という評価になりかねません。

もちろん、DX(デジタルトランスフォーメーション)によってシステムの標準化を進めたからといって倒産を防げるわけではありません。少子化という構造的な逆風の前では、システムの標準化はあくまで1つの備えに過ぎません。ただし、業界再編が避けられない局面に入っている以上、システムが標準化されているかどうかは、外部に買収される形であれ、身内やスタッフへ引き継ぐ形であれ、生き残る側に回れるかどうかを左右する条件の1つになりつつあるのです。

私が経営者の方々にお伝えしたい打ち手は、システムの標準化を「統合や承継の話が決まってから慌てて手を付けるもの」にしないということです。買収先が見つかってから、あるいは後継者に引き継ぐ段になってから着手したのでは、正直なところ間に合いません。

なによりも、システムの標準化をとおしてDXを進め、その先に健全な学習塾経営を実現することが目的であり、統合や継承はその結果に過ぎないはずです。それを踏まえたうえで、生徒管理・出欠管理・請求管理・シフト管理といった基本的な仕組みを、今のうちに校舎横断で揃えておく。この地味な準備こそが、いざというときに「引き継ぎやすい塾」としての価値を生むと、私は考えています。

まとめ:貴社の校舎運営は、誰かに引き継げる状態になっているか

学習塾の倒産件数が過去最多ペースで増える一方、大手企業による買収や、身内・スタッフへの事業承継という形での業界再編も進んでいます。この2つは、同じ構造変化の表と裏であり、どちらの道を選ぶにせよ、校舎ごとに積み重なった個別最適のシステムは、引き継ぎの場面で重い足かせになります。

システムの標準化は、日々の業務を楽にするためだけの取り組みではありません。買収する側にとっては統合コストを左右し、買収される側や後継者にとっては事業の引き継ぎやすさそのものを左右します。

貴社の校舎運営は、もし今、誰かに引き継ぐ必要が生じたとして、どれだけスムーズに引き継げる状態にあるでしょうか。私は、この問いに今のうちから向き合っている塾こそが、この業界再編を生き残ると考えています。ぜひこの機会に、この問いを一度、自社の運営に当てはめて考えてみてください。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。