- share :
校舎が増えるたびに、時間割の管理も出欠の確認も講師のシフト調整も、それぞれ別のやり方で回っている。そんな状態に心当たりのある学習塾の経営者、本部の運営責任者の方は少なくないのではないでしょうか。
1校舎だけを運営していた頃はうまく回っていたやり方が、2校舎、3校舎と増えるにつれて、なぜか本部からは全体が見えなくなり、現場の負担ばかりが増えていく。本記事では、複数校舎・複数ブランドを展開する学習塾に特有の「システム乱立」がなぜ起きるのかを構造として整理し、実際に統合に取り組んだ学習塾グループの事例から、何を優先して見直すべきかを考えます。
【本記事の要点】
- 複数校舎・複数ブランドを展開する学習塾ほど、各拠点が個別最適でツールを選んだ結果、システムが自然に乱立しやすい
- システムの乱立は二重入力、情報の不整合、現場スタッフの事務負担増という3つの負担を生む
- 複数ブランドを運営する学習塾グループがシステムを統合した結果、現場が子どもと関わる時間を確保できた事例がある
- 複数拠点経営で優先すべきなのは、個別のツール選定ではなく拠点間の情報統合である
- 拠点間の情報統合を進めるには、現場への権限委譲と本部への報告ルールをセットで設計し、二重入力が生じやすい業務から段階的に統合範囲を広げていくことが効果的である
学習塾の複数校舎運営で、なぜシステムが増えていくのか
- 時間割管理
- 出欠管理
- 講師のシフト調整
- 保護者連絡
複数校舎、複数ブランドを展開する学習塾では、拠点が増えるたびに、このような日々の業務を、それぞれの校舎が独自のやり方で運用していることが少なくありません。
1校舎だけを運営していたころは、Excelや紙の管理でも現場の目が届いていたはずです。しかし校舎数が増えると、各校舎が目の前の課題を個別に解決しようとした結果、気付けば校舎ごとに異なるツール、異なる管理方法が積み重なっていきます。つまり、本部が全体を統一的に把握できないまま、現場は校舎ごとのやり方に振り回される、という状態に陥りやすくなってしまうのです。これは、単独の教室を経営する個人経営者には起こりにくい、複数拠点を展開する法人経営の学習塾だからこそ顕在化する課題です。
この課題は、システムの数が増えるという表面的な問題にとどまりません。校舎ごとに独自のやり方が積み重なっていくと、「その校舎の運用は、その校舎の特定のスタッフしか把握していない」という属人化が同時に進みます。本部の担当者が異動したり、現場のベテランスタッフが退職したりすると、その校舎がなぜそのツールを使い、どんな手順で日々の業務を回しているのかを引き継ぐ人がいない、という事態も起こってしまうでしょう。システムの乱立と現場の属人化は、別々の問題ではなく、同じ構造から生まれる表裏の関係にあるのです。
システムの乱立が生む3つの現場負担
校舎ごとにシステムが異なる状態が続くと、現場にはおもに3つの負担が生まれます。
- 二重入力:同じ生徒の情報を、時間割システム、出欠管理表、保護者連絡ツールへそれぞれ個別に入力する必要が生じ、入力作業そのものが増える
- 情報の不整合:校舎ごとに異なるシステムで管理していると、本部が最新の状況を確認しようとしても、どのデータが正しいのか把握しづらくなる
- 現場スタッフの事務負担:本来は生徒への指導や保護者対応に充てるべき時間が、複数システムへの入力や、校舎間での情報のすり合わせに割かれてしまう
これらの負担は、個々のシステムの使いにくさというより、校舎ごとにバラバラに選ばれたシステムが連携していないことから生まれる構造的な問題です。
複数ブランドの学習塾がシステムを統合した事例
実際に、複数ブランドを展開する学習塾グループでは、システムの分散にどう向き合ったのでしょうか。ここでは、志門塾(運営:株式会社東海プロセスサービス)の事例を取り上げ、その対策から学べることを探っていきます。
志門塾の課題と対策
志門塾は、複数ブランドの教室を運営するなかで、ブランドごとに自作のシステムを作り上げてきた結果、データが統一できない状態にありました。時間割は紙に印刷して封筒に入れ、郵送するという運用が残っており、個別指導の現場からは「管理業務が煩雑すぎて、子どもたちと関わる時間がとれない」という声が上がっていたのです。
そこで同社は、時間割管理・出欠管理・請求管理など、ブランドごとにバラバラに点在していたシステムを、1つのシステムへ集約。その結果、現場のスタッフが心に余裕をもって子どもたちとの時間に専念できるようになりました。また、保護者への連絡にLINE連携を活用したことで、保護者が都合のよい時間に確認できるようになり、コミュニケーションの回数も増えたのです。
出典・参照:
事例から学べること
この事例が示しているのは、特定のツールを導入すればよいという話ではなく、複数のブランド・校舎に分散していた情報を1つの仕組みへ集約したことで、現場が本来の業務に割ける時間を取り戻せたという事実です。
この事例を、本部のガバナンスという観点からとらえ直すと、単に複数のシステムを1つに集約しただけでなく、それまでブランドごとに属人化していた運用を、本部が横断的に把握できる仕組みへ置き換えた取り組みだったと見ることもできます。時間割を紙に印刷して郵送するという手作業が残っていたこと自体、各ブランドの運用が本部の目の届かないところで独自に固まっていたことの表れです。
バラバラだったシステムを1つに集約する過程では、データ項目や報告の様式をどこかで揃える判断が避けられなかったはずです。その意味でこの事例は、情報統合が単なるツールの入れ替えではなく、拠点間の運用ルールを揃える取り組みでもあることを示しています。
拠点間ガバナンスをどう設計し、統合をどう進めるか
ではなぜ、複数校舎を展開する学習塾の本部は、こうした乱立に歯止めをかけられないのでしょうか。
多くの場合、本部は各校舎に「現場に合ったやり方で運営してよい」という裁量を与えています。校舎ごとに生徒層や立地、講師の顔ぶれが異なる以上、この裁量自体は理にかなった判断です。
問題は、その裁量を与える一方で、「何を、どんな形式で、どのくらいの頻度で本部へ報告するか」という取り決めが用意されていないことにあります。権限だけが現場に渡り、それに見合う報告のルールが整っていないため、本部は各校舎の状況を後から把握しようとしても、校舎ごとにバラバラな形式の情報しか手元になく、ガバナンスを効かせようがない、という構造です。
この構造に対処するには、権限の設計を見直す必要があります。時間割の組み方や講師とのコミュニケーション方法など、現場の裁量に委ねてよい業務と、生徒情報の管理項目や出欠の記録方法など、法人として統一すべき業務とを切り分けることが出発点です。
前者は校舎ごとの裁量を残しつつ、後者については、どの校舎でも同じ形式でデータを入力・記録する仕組みを本部が用意し、現場はその仕組みに沿って運用する、という役割分担にすることで、現場の柔軟性と本部の把握力を両立させやすくなるでしょう。
あわせて重要なのが、KPIや業務報告のフォーマットの標準化です。生徒数や出席率、講師の稼働状況といった主要な指標を、校舎ごとに異なる定義や様式で報告させていると、本部が数字を集めても比較や合算ができません。どの指標を、どの周期で、どの様式で報告するかを本部側で定め、全校舎に共通で運用してもらうことで、初めて拠点間の比較や全体像の把握が可能になります。
では、何から統合に着手すればよいのでしょうか。判断の軸になるのは、その情報が「本部の意思決定に直結するか」と「複数のシステムにまたがって二重入力が発生しているか」の2点です。
生徒の時間割や出欠のように、現場と本部の双方が日常的に参照し、かつ複数のツールに同じ情報を入力し直している業務は、統合による効果が大きく出やすい領域です。反対に、校舎独自の指導ノウハウのように、法人としての意思決定に関わらない情報まで無理に統合する必要はありません。
統合を進める際は、全校舎を一度に切り替えるのではなく、二重入力の負担が大きい業務からデータ項目とフォーマットを固め、まず1校舎で試験的に運用してみて、運用上の課題を洗い出したうえで、他の校舎へ順次広げていく進め方が現実的です。小規模な校舎や、統合に協力的な校舎で先行して試すことで、現場の反発を抑えながら、本部が把握すべき情報の範囲を段階的に広げていくことができます。
自社の校舎・ブランドを点検する視点
貴社の校舎・ブランドでは、システムがどの程度分散しているでしょうか。まずは、次の視点で現状を点検してみてください。
- 校舎・ブランドごとに、時間割管理、出欠管理、講師シフト管理、保護者連絡に、それぞれどのツールを使っているかを一覧化する
- 同じ情報を複数のツールへ重複して入力している業務がないかを洗い出す
- 本部が、全校舎の最新状況をリアルタイムで把握できているかを確認する
- 現場スタッフが、システムへの入力作業にどれだけの時間を割いているかを把握する
- KPIや業務報告の指標・様式が、校舎ごとに異なる基準で運用されていないかを確認する(同じ指標でも定義がバラバラだと本部で比較・合算できない)
チェック時に重要なのは、個々のツールの機能の優劣ではなく、「情報が校舎・ブランドを越えて1つにつながっているかどうか」という視点です。
FAQ:よくある質問
Q1.全校舎を一度にシステム統合する必要がありますか。
必ずしも一度にすべてを統合する必要はありません。まずは負担の大きい業務(時間割管理や出欠管理など)から段階的に統合し、効果を確認しながら対象を広げる進め方も可能です。
Q2.システム統合にはどのくらいの期間がかかりますか。
校舎数、ブランド数、既存システムの状況によって大きく異なるため、一律の期間を示すことはできません。自社の校舎・ブランド構成を整理したうえで、複数の事業者に個別に確認することが必要です。
ただし目安として、対象業務を時間割・出欠など特定の範囲に絞るほど期間は短くなり、請求管理や成績管理まで含めて全面的に刷新しようとするほど長期化する傾向があります。まずは影響範囲を絞った小さな統合から着手し、そこにかかった期間を踏まえて全体のスケジュールを見積もる、という進め方が現実的です。
Q3.現場スタッフから統合への反発が出た場合、どう対応すればよいですか。
長年使い慣れたやり方を変えることへの抵抗は珍しくありません。統合によって、二重入力や情報のすり合わせといった負担がどれだけ減るのかを、現場スタッフ自身が実感できる形で示すことが、定着への近道になります。
Q4.校舎数が2〜3校程度の小規模な学習塾でも効果はありますか。
校舎数が少なくても、拠点間で情報が分散していれば同様の負担は起こり得ます。ただし、統合にかかる費用や労力に見合う効果があるかどうかは、貴社の校舎・ブランド構成や業務量によって異なるため、個別に検討することが重要です。
判断の目安になるのは次の3点です。
- 日常的に二重入力が発生しているか
- 本部と現場の情報の食い違いが実際にトラブルにつながっているか
- 事務作業に本来の業務時間の一定割合が割かれているか
これらに複数当てはまる場合は、校舎数が少なくても統合効果が費用を上回る可能性が高いと考えられます。
まとめ|複数拠点経営のDXは、ツール選定より情報統合が先である
本記事では、複数校舎・複数ブランドを展開する学習塾で、なぜシステムが乱立しやすいのか、その構造と点検の視点を整理しました。
- 複数校舎・複数ブランドを展開する学習塾ほど、各拠点が個別最適でツールを選んだ結果、システムが自然に乱立しやすい
- システムの乱立は、二重入力、情報の不整合、現場スタッフの事務負担増という3つの負担を生む
- 複数ブランドを運営する学習塾グループがシステムを統合した結果、現場が子どもと関わる時間を確保できた事例がある(個別企業の実績であり、一般化はできない)
- 複数拠点経営における最大のDX課題は、個別のツール選定ではなく、拠点間の情報統合である
- 情報統合を進めるには、現場に委ねる裁量と本部へ揃える報告ルールを切り分けて設計し、二重入力が生じやすい業務から段階的に統合範囲を広げていくことが効果的である
複数拠点の経営をDXすることは、システムの数を減らすこと自体がゴールではありません。校舎ごとに積み重なってきた「個別最適」を、本部と現場が同じ情報を見ながら運営できる状態へと少しずつ揃えていくことを目指す。それこそが、複数拠点で学習塾を経営していくうえで、これから求められるスタンダードになっていくはずです。
まずは、貴社の校舎・ブランドごとに、どのようなツールがどれだけ分散しているのかを一覧化することから始めてみてください。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。





