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経営者が集まる会合で、「うちはもうAIを使いこなしています」という声を耳にする機会が増えました。
- 生成AIを使った提案書のたたき台作成
- 議事録の自動要約
- 問い合わせ対応の下書き
たしかに、社内の誰かが便利に使っている場面はあるのでしょう。しかし、その手応えは本当に「組織としてAI活用が進んでいる」ことを意味しているのでしょうか。
この記事では、経営者が「AIを使えている」と感じる実感がどのように作られているのかを、DXportal®編集部の視点から考察します。読み終えたとき、自社のAI活用状況について、もう一段掘り下げて確認したくなるはずです。
【本記事の要点】
- 経営者が目にするのは、社内で最もITリテラシーの高い一部の社員の姿かもしれない
- 利用率(誰かが使っているか)と定着率(多くの社員が日常的に使っているか)は別の指標
- 経営者に届く報告は、積極的な社員からのものに偏りやすい構造がある
- 定着状況を把握するには、誰から報告を受けているかを振り返る視点が必要
「うちはAI活用が進んでいる」は、本当か
社内のAI活用について経営者に説明が入るのは、たいてい決まった顔ぶれからです。新しいツールを率先して試し、便利な使い方を見つけては共有してくれる社員。デモを見せられ、「こんなことまでできるのか」と感心した経験がある経営者も多いのではないでしょうか。
その体験自体は、決して間違ったものではありません。問題は、その一場面から「うちの会社はAI活用が進んでいる」という結論まで、無意識のうちに距離を飛び越えてしまうことにあります。目の前で起きている変化と、組織全体で起きている変化は、必ずしも同じ大きさではありません。
DXportal®編集部としてこの記事で考えたいのは、その飛躍がなぜ起きるのか、そしてどうすれば経営者が実態に近づけるのか、という点です。
利用率と定着率は、別の指標である
AI活用の状況を語るとき、しばしば混同されるのが「利用率」と「定着率」です。
- 利用率:社内の誰かが、一度でもAIを業務で使ったことがあるかどうか
- 定着率:多くの社員が、日常的にAIを業務の一部として使い続けているかどうか
この2つは、似ているようでまったく別の指標です。1人の社員が毎日AIを使いこなしていても、それだけでは「組織としての定着」とはいえません。逆に、多くの社員が月に数回だけツールに触れている状態も、胸を張れる定着とは言いにくいものです。
経営者の目に触れるのは、多くの場合、利用率の高い一部の社員が生み出した「もっとも印象的な成果」です。その成果が魅力的であればあるほど、経営者は無意識に「これが組織の平均的な姿だ」と受け取ってしまいやすくなります。しかし、それは組織の実態というより、組織のなかで最も進んでいる一点を切り取った姿にすぎません。このような実情では、胸を張って「我が社ではAIを使いこなしている」と言えないことは明白です。
経営者に届く情報は、なぜ偏るのか
この偏りは、誰かが情報を意図的に操作しているために起きるわけではありません。むしろ、ごく自然な情報の流れの結果として生まれます。
AIに関心があり、使いこなしている社員ほど、経営者や上司へ積極的に報告や提案をする。一方で、AIをまだ使いこなせていない社員、あるいは業務上の必要性を感じていない社員は、わざわざ「使えていません」と報告することはほとんどありません。声を上げるのは前者であり、沈黙するのは後者です。
その結果、経営者に届く情報は、自然と「AI活用に積極的な社員からの報告」に偏っていきます。これは、報告してくれる社員の姿勢が悪いという話ではありません。むしろ、積極的に情報を共有してくれる社員の存在は、組織にとって貴重です。問題があるとすれば、その声を組織全体の代表値として受け取ってしまう、経営者側の情報の受け取り方にあります。
定着状況を正しく把握するために
こうした構造に気づいたとき、「もっと現場を見よう」という精神論だけでは、実は状況はあまり変わりません。経営者が現場を歩いて回ったとしても、やはり声をかけてくれるのは積極的な社員である可能性が高いからです。
代わりに有効なのは、「誰から、どのような報告を受けているか」を振り返る視点です。
- 直近でAI活用について報告や提案をしてきた社員は、部署や年次に偏りがないか
- その社員は、社内でもとくにITやツールに関心の高いタイプではないか
- 逆に、まったく声が届いていない部署や層はないか
これらを確認するだけでも、「AIを使えている」という実感が、組織全体の状態を反映したものなのか、それとも一部の声を代表値と勘違いしているだけなのかが見えてきます。積極的な社員の存在を否定する必要はありません。彼らの声を、組織全体を測る唯一の物差しにしないことが大切です。
まとめ|「使えている」実感を疑ってみる
経営者が目にするAI活用の場面は、社内でもとくに積極的な一部の社員によるものであることが多いものです。「利用率(誰かが使っているか)」と「定着率(ほとんどの社員が日常的に使っているか)」は、本来別の指標であるにもかかわらず、しばしば混同されます。この偏りは、誰かが意図的に情報を操作しているからではなく、積極的な社員の声のほうが自然と経営者に届きやすいという、情報の流れそのものの性質から生まれるものです。
定着状況を正しく把握する手がかりは、直近でAI活用について報告や提案をしてきたのが、どのような社員だったかを振り返ることにあります。その1人の姿を、組織全体の実感にすり替えていないか、一度立ち止まって考えてみる価値はありそうです。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。



