熟練技術を「守りのDX」で継承する|製造業DXの成功事例

公開日 :  ( 更新)

【失敗事例】なぜあなたの会社のデジタル化は「変革」に繋がらないのか

【失敗事例】なぜあなたの会社のデジタル化は「変革」に繋がらないのか

「システムを導入したのに、現場では誰も使っていない」

「むしろ以前より入力作業が増えた」

製造業のDX推進現場では、こうした声が繰り返し聞かれます。多額の予算を投じ、社内を巻き込んで推進したプロジェクトが、数ヶ月後には誰にも使われず静かに形骸化していく。その光景は、決して他人事ではないはずです。

「ツールを入れれば変革が起きる」という思い込みは、善意ある経営者ほど陥りやすい落とし穴です。失敗の構造を正確に知ることが、DXを成功へ近づける最初の一歩です。本章では、よくある失敗事例を2つ紹介します。

現場を置き去りにした「目的化するツール導入」

DX推進の名のもとに、経営層や情報システム部門が主導して最新ツールを一斉導入したのに、数ヶ月後、気づいたら現場ではそのシステムがほとんど使われていない。このパターンは、製造業のDX失敗事例として最も頻繁に報告されるものです。

これは、「何のために導入するのか」という目的が現場に共有されないまま、ツールの導入そのものが目的化してしまうために起こります。経営層が「AIを入れること」「IoTを整備すること」にフォーカスするあまり、現場の担当者が「自分たちのどの課題が解決されるのか」を理解できないまま運用が始まってしまうのです。

現場の理解と納得がなければ、どれほど高機能なシステムも、やがて使われなくなる「デジタルの遺物」と化してしまいます。「とにかくDXをやればよい」という安易な姿勢は、初期投資だけを膨らませ、ROI(投資対効果)の回収もできないまま頓挫するという最悪の結末を招いてしまうのです。

部門間の壁(サイロ化)が生むデータの分断

もうひとつの典型的な失敗パターンが、「サイロ化」です。サイロ化とは、工場ごと・部門ごとに異なるシステムが乱立し、データが相互に連携されない状態を指します。

製造現場では、生産管理・品質管理・設備保全・在庫管理といった各工程がそれぞれ独自のシステムで動いているケースが少なくありません。しかし、どれだけそれぞれの工程でデジタル化が進んでいても、データが分断されたままでは、工場全体のボトルネックを把握することも、全体最適を図ることも不可能です。さらに深刻なのは、新旧システムの互換性がないために二重入力が発生し、DX導入前よりも業務が煩雑になる逆効果が生じることです。

DXの本質は「つながり」にこそあります。個々の工程を点として改善するのではなく、工程と工程をデータで「線」としてつなぎ、工場全体を「面」として最適化することが、真の変革への道筋ではないでしょうか。部分的なデジタル化に留まる限り、その効果は限定的なままにとどまってしまうのです。

【成功事例】技術を永続させるデジタル活用の最前線

【成功事例】技術を永続させるデジタル活用の最前線

失敗のパターンが共通しているように、成功のパターンにも共通の構造があります。それは「目的の明確化」と「現場との共創」という、ごくシンプルな原則です。

本章では、国内外の事例を通じて、製造業DXが実際にどのような成果をもたらしているかを見ていきましょう。規模の大小を問わず、方向性さえ適切であればDXは大きな成果を生み出す可能性があります。

AI・IoTによる「熟練の勘」の可視化と自動制御

国内の建設機械メーカー・コマツでは、老朽化した既存設備に後付けのIoTセンサーと予知保全AIを組み合わせて導入。設備の微細な振動データをリアルタイムに解析し、故障の兆候を事前に検知することで、予期せぬライン停止を大幅に削減しました。その結果、生産性が従来比で大きく向上したと報告されています。

注目すべきは、コマツでは大規模な設備更新を行わずに成果を出した点です。「古い設備だから何もできない」という思い込みを覆し、既存資産にデジタルを重ねることで競争力を引き出した好例といえるでしょう(参考:コマツ公式サイト)。

さらに先進的な取り組みとして、横河電機とENEOSマテリアルによる化学プラントへの強化学習AI導入が挙げられます。世界初となるこの試みでは、熟練オペレーターの経験に依存していた複雑なプラント運転をAIが自律制御し、連続安定操業とCO2排出量40%削減という二重の成果を達成しました。「職人の勘」をデータとして学習させることで、技術が組織の資産として永続する仕組みが実現したのです(参考:Yokogawa Electric’s control systems cut emissions/Sustainable Japan)。

また、ドイツのBoschも、IoT・AI・MES(製造実行システム)を統合してライン単位での自律制御を実現しています。AIが不良品の予兆を検知してライン条件を自動補正することで、工場の生産性を最大15%改善しており、製造業DXの国際的なベンチマークとなっています(参考:Drive sustainable, self-optimizing manufacturing with Cognitive Factory/BOSCH)。

中小企業こそ輝く「デジタルの民主化」と現場力

「本格的なDX推進は大企業の話であって、中小企業には関係ない。我が社では部分的なIT化で十分だ」

このように感じる経営者もいるかもしれません。しかし、規模が小さいからこそ機動力を活かしたDXが可能であり、現場主導の「デジタルの民主化」という点で中小企業に優位性があることも見逃せません。

住宅設備大手のLIXILでは、ITの専門知識を持たない現場スタッフがノーコードツールを活用して業務アプリを自作する取り組みが進んでいます。在庫管理や日報集計のアプリを現場が自ら内製化することで、「使われないシステム」問題を根本から解消し、現場の当事者意識と改善スピードが飛躍的に向上しました。

また、自動車部品メーカーの旭鉄工(愛知県碧南市、従業員約450名)では、生産ラインに後付けできる安価なセンサーを取り付け、生産ピッチをスマートフォンやパソコンからリアルタイムで確認できる仕組み「iXacs」を自社開発しました。大規模な設備更新を伴わないこの取り組みにより、2年間で100ラインの生産性を平均43%向上させ、年間3億円の経費削減を実現しています。小さな投資で生産能力の向上を実現したこの事例は、「スモールスタートで成果を出す」というDX推進の基本原則を体現しています。 

目的が明確であれば、規模や予算に関わらず、DXが現場を大きく変える力を持ち得ることが分かっているのです。

参考・出典:

まとめ:事例が教える「守りのDX」の本質

失敗事例が示すのは、「ツールを入れること」を目的化した瞬間にDXは形骸化するという、シンプルかつ厳しい現実です。一方、成功事例に共通するのは目的の明確化と現場との共創の2点に尽きます。コマツ産機や横河電機の事例が証明するように、高額な設備投資がなくても、現場の課題と向き合う姿勢さえあれば、DXは必ず成果を生みます。

熟練技術者の暗黙知は、放置すれば退職とともに消えていきます。しかしデジタルの力で形式知へと転換すれば、それは組織の永続的な競争力となるでしょう。

「守りのDX」とは、守りに徹することではなく、人に依存してきた技術を組織の資産へと昇華させ、次の30年を戦い抜く経営基盤を築く営みなのです。

貴社の現場で「見えていない現実」はないでしょうか。事例から得た視点を手がかりに、まず自社の課題を問い直すところから始めてみてください。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。