経産省が考えるデジタルリテラシー標準|デジタル社会の企業人に求められる能力とは?

経産省「デジタルリテラシー標準」にみるデジタル社会の企業人に求められる能力とは?

官民一体となって進められている日本のDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)ですが、実際のところその歩みは、想定通り進んでいるとは言い難い状況です。

特に推進度合いを諸外国と比較すると、その遅れは顕著です。

経済産業省(以下:経産省)をはじめとする関連省庁や団体も様々な施策を行っていますが、それらが順調に成果を出しているとは言えません。

日本のDXが進まない原因を分析すると、やはり最も憂慮すべきは国内の優秀なデジタル人材の不足ではないでしょうか。

経産省もこのことを大きな課題として捉えており、その改善を目指して、デジタル人材の育成へ向けた「DXリテラシー標準」という指針を策定しました。

本記事では、この「DXリテラシー標準」を参考にしながら、デジタル社会の企業人に求められるDXリテラシーについて考えていこうと思います。

あらゆる人と企業がデジタル社会の一角を担うべき時代が迫る中、優秀なデジタル人材を求める企業も、デジタル人材を目指すビジネスパーソンも、求められる人材像への理解を深めるための参考にしてください。

日本のDXが進まない理由No.1は「デジタル人材不足」

日本のDXが進まない理由No.1は「デジタル人材不足」

日本のDXが進まない理由の中でも、多くの企業がデジタル人材の不足を主な原因としています。

この状況は、DXに未着手の企業に限らず、すでに取り組んでいる企業でも同様です。

まずは、日本企業におけるDX人材不足の現状について整理し、正確に把握しておきましょう。

日本中で人材不足を痛感している企業は5割以上

日本のDX人材不足の深刻さは、経産省が2021年に公表した調査において「デジタル・トランスフォーメーションを進める際の課題」(上図)の中で、実に5割以上もの企業が「人材不足」を挙げていることからも明らかです。

実は、デジタル人材の不足が問題になっているのは、日本に限ったことではありません。

同資料を見ても、DX先進国である米国やドイツにおいても、デジタル人材の不足は大きな課題の1つとなっていることが分かります。

しかし、日本以外の2カ国においては、「人材不足」は主な課題の1つという程度であるのに対して、日本では「費用対効果が不透明」や「資金不足」など2位以下の課題と比べても、「人材不足」を課題として感じている企業の割合は突出しています。

こうした現状をみても、DX先進国と比較して、日本のDXが遅々として進まない主な理由は「デジタル人材の不足」であることがわかるでしょう。

さらに、日本では少子高齢化や労働賃金の伸び悩みなど様々な要因によって、生産年齢人口の減少が大きな社会問題となっています。

つまり、生産年齢人口に占めるDX人材の割合が現在と同程度で推移した場合、国内のDX人材は増えるどころかむしろ減っていってしまうのです。

こうした状況を踏まえると、様々な施策を通じてDX関連分野への関心を高め、特別な知識やスキルを持つデジタル人材を育成していくことは急務だと言えます。

その一方で、こうした人材の育成は一朝一夕にはできません。

そのため、今の日本に求められているのは、人材育成に力を入れると同時に、特別な知識や高度なスキルを持ったDX人材だけに頼るのではなく、あらゆる企業人がデジタルやDXに関するリテラシーを持ち、まずはできるところからでもDXを始めていくという姿勢ではないでしょうか。

デジタル人材に求められるDXリテラシー

デジタル人材に求められるDXリテラシー

デジタル人材とは、一般に「最先端のデジタル技術を活用し、企業に対して新たな価値提供ができる人材」のことを指します。

つまり、DXに関するデジタルツールの開発などを行う人材だけでなく、デジタルツールを有効活用して企業に新たな価値をもたらすことができる人材は、デジタル人材と言えるでしょう。

そうした人材に求められるのは、デジタルツールに関する専門的な知識や開発スキルではなく、自社のビジネスに最適なデジタルツールやサービスを選択し、積極的に活用することにより業務効率化や新たなビジネス価値を生み出す能力だと考えられます。

つまり、デジタルツールを作る側にはなれなくとも、適切に利用できる能力があれば、十分にデジタル人材として活躍できるのです。

DXが進まない日本企業の状況を鑑みれば、現在はこうしたデジタルツールを利活用できる能力こそが最も求められており、すべての企業人が持ちあわせておきたいリテラシー(知識を理解して活用する能力)なのです。

前述の経産省の調査において「デジタル人材の不足」がDX推進の主な課題と答えた企業の多くは、「デジタル人材とは何か」を理解している企業であると推測されます。

こうした企業は、デジタルツールを使いこなせるDX人材さえ確保できれば、この人材を中心にDXを進めていくことができるでしょう。

その一方で、そのような企業の背後には、そもそも「DXとはなにか」ということも十分には理解できていない企業や、DX推進に未着手の企業が隠れています。

こうした企業においても、正しくDXについて理解し、それを推進していくことのできる人材は不可欠です。

現在はDXを理解・意識していないすべての企業人が、DXリテラシーを身につけることができれば、日本は世界と比較して遜色のないDX先進国の仲間入りができるはずです。

経産省が提唱する「DXリテラシー標準Ver.1.0」

経産省が提唱する「DXリテラシー標準Ver.1.0」

2022年3月に経産省が発表した「DXリテラシー標準Ver.1.0 」では、日本のDXを推進するためにはDXリテラシーが大切であると説かれています。

経産省が、あえて「DXリテラシー標準」を策定した狙いはどこにあるのでしょう。

またなぜこうした指標が必要なのでしょうか。

策定の狙い

策定の狙い

経産省が「DXリテラシー標準」を策定した狙いは、「働き手の1人ひとりが『DXリテラシー』を身につけることで、DXを自分事として捉え、変革に向けて行動できるようになる」ことを目指し、そのための指標を提供することを通じて、こうした変革を後押しするためです。

現代の日本企業で働く人の中には、大人になってからインターネットと出会い、幼少期には「デジタル」など無縁だった中高年世代から、デジタルネイティブと呼ばれる1990年代半ば以降に生まれた世代まで混在しており、デジタルツールとの距離感は様々です。

また、経営者や管理職と現場の社員とでは、企業の未来や業界全体の動向を見据えてのDX推進に関する意識には差があるのが現状でしょう。

そうしたありとあらゆる年代・職種・立場の働き手が、これからのデジタル社会で働く一員として自ら学び続けることが重要であり、1人ひとりがDXに参画し、その成果を仕事や生活で役立てる上で必要な「マインド・スタンス・知識・スキル」を学ぶことを当たり前の社会にしていくために、経産省はあえて「標準」という言葉を使って、その指標を提示しているのです。

必要性

日本のDX推進の課題として、「デジタル人材不足」があるということは前述の通りです。

経産省はこの課題を解決する施策の1つとして、DXリテラシー標準を策定したわけですが、そもそもなぜ今の企業人には「DXリテラシー」が必要なのでしょう。

この点について、「DX推進のため」と大雑把な理解に留まっていては、経産省がDXリテラシー標準を通じて、日本社会の企業人に向けて発したメッセージを十分に理解しているとは言えません。

そこで、改めてDXリテラシーが求められる理由を整理しましょう。

経産省は、この指標を策定した理由として「環境変化やDXが推進される世の中で、働き手1人ひとりが、よりよい職業生活を送るためには、従来の『社会人の常識』とは異なるものも含む知識やスキルの学びの指針が必要」であると説明しています。

現在の企業活動はデジタルとデータの活用が不可欠であり、そこから新しい企業価値を生み出していくという考え方がDXです。

これは単に「最先端技術を取り入れていくことが望ましい」という程度の話ではなく、多様化の一途をたどる人々の生活スタイルや、日々変化していく価値観に合わせて目まぐるしくうつり替わる顧客の要望に対応し、これからのビジネスシーンで生き抜いていくために不可欠な変革(トランスフォーメーション)です。

DXリテラシー標準Ver.1.0では、ビジネスに関連する3つの重要な変化について以下のように解説しています。

  • 社会の変化:持続可能な成長のための取り組みの重要性が認知され(SDGsへの関心の高まり、ESG投資 等)様々な社会課題を解決することの価値が高まっている
  • 顧客価値の変化:品質がいいだけでなく、付加価値の高さや、個人個人の嗜好に合っているものが求められるようになっている
  • 競争環境の変化:デジタルの活用で異業種からの参入、国境を越えたビジネスが盛んになるなど、従来のビジネスに存在した様々な垣根が取り払われつつある
引用:DXリテラシー標準Ver.1.0

多様化する人々の生活により日々変化するニーズに対応し、スピード感を持ってビジネスを展開していくには、従来のビジネスモデルの延長では成り立たない場合も多くなっています。

こうした現代社会に対応していくためには、企業活動に携わるすべての人材が「デジタルを作る」ことまではできなくとも、「デジタルを使う」ことができるようにならなくてはならないのです。

デジタルを使いこなす知識と能力、つまりはDXリテラシーを身につけた人材が増えることで、DXはより加速され、日本の企業競争力は確実に高まるでしょう。

そうしたDXリテラシーを学ぶための標準指標として経産省が策定したDXリテラシーは、これからの日本企業が、そしてすべての企業人が目指すべき「あるべきデジタル社会のあり方」を示しているのです。

まとめ:あらゆる企業人が持つべきはデジタルリテラシー

世界水準からみて、大きく遅れを取っている日本のDX推進。

その理由は主に「デジタル人材の不足」ですが、その解決策は新しい技術やシステムを生み出す一握りのデジタルプロフェショナルを育成するということではありません。

もちろん、日本が世界に誇れるような革新的な技術の開発に向けた人材育成や投資は重要ですが、それよりはむしろ、すべての企業人がデジタルを使いこなせる人材になることが日本のDXを推し進める原動力となります。

本記事では、これからの日本の企業人がデジタル人材となるための足掛かりとして経産省が策定したDXリテラシー標準について解説してまいりました。

その中でも、重要なのは、経産省がDXリテラシー標準を通じて日本の企業人に伝えようとしている「すべての働き手がDXリテラシーを身につけ、DXを自分事として捉えて変革に向けて行動できるようになるべし」というメッセージです。

このメッセージにも込められているように、DXは他人事ではなく、今ここにある、誰もが考え、実践していかなければならない喫緊の課題なのです。

仮にここまで「DXなんて関係ない」と思っていた人であっても、今から取り組んでも遅いという事はありません。

「DXとはなんなのか?」といった基礎的な問題からでも構いませんので、ぜひこの機会に貴社のビジネスを大きく発展させる可能性のあるDX推進へ向けて、舵を切ることを検討してみてください。

次回は、経産省がオブザーバーを務め、民間団体が中心となりデジタル人材の育成を目指すデジタルリテラシー協議会の「Di-Lite」についてご紹介してまいります。

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この記事の執筆者

株式会社MU 代表取締役社長 / フロントエンドエンジニア

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。 最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。 2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ

株式会社MU 代表取締役社長 / フロントエンドエンジニア

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。 最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。 2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ

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