集客DXが「発信」で終わっていないか|Riglogに見る「場をデジタルでつくる」発想【編集部考察】

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多くのB2B企業にとって、集客DX(デジタルトランスフォーメーション)といえば、SNS運用やメルマガ配信を思い浮かべるのではないでしょうか。すでにこうした「発信」に取り組んでいる企業は少なくありません。しかし、発信を続けているのに次の一手が見えない、というもどかしさを感じている経営者やマーケティング責任者もいるはずです。

本記事では、音楽機材のセットアップを構造化して記録・共有するサービス「Riglog」を観察対象に、「発信」の先にある集客DXの形を考えてみます。

【本記事の要点】

  • 多くのB2B企業の集客DXは、SNS運用やメルマガ配信という「発信型」にとどまっている
  • 「場づくり」をデジタルで実装することで、暗黙知の構造化・地理時間の制約解消・データの複利的蓄積・大規模マッチングという、アナログでは実現できなかった集客エンジンが注目を集めている
  • 場づくり型の集客DXには、発信型にはない立ち上げ・運用の負荷もともなう

集客DXは、「発信」で止まっていないか

企業から顧客への一方向発信と、利用者同士が知識を共有する場づくり型の比較

まず、多くの企業が取り組んでいる集客DXの姿を整理します。SNSでの情報発信、メルマガによる定期的な接点維持は、いずれも有効な集客DXの手段です。潜在顧客との接点を作り、自社の存在を継続的に知らせるという意味で、発信型の集客DXは決して否定されるものではありません。

ただし、発信型の集客DXは、あくまで「企業から顧客へ」という一方向の情報の流れが基本です。発信を続けているのに反応が鈍くなってきた、次にどのような一手を打てばいいのかわからない、という感覚を持つ企業があるとすれば、それは発信型という1つの形にとどまっているためでしょう。集客DXには、発信の効率化とは異なる、もう1つの方向性があります。

「Riglog」に見るクローズド型のコミュニティ設計

音楽機材の接続順や用途を構造化して共有し、横断検索や仲間探し、募集につなげる場

その方向性を考えるための観察対象として、Riglogというサービスを紹介します。

Riglog公式ホームページ

Riglogは、ギター、ベース、エフェクター、シンセサイザー、ドラム、DTM機材といった音楽機材のセットアップを、接続順やブランド、用途タグまで含めて構造化して記録・共有するSNSです。

Riglogは無料で登録不要のまま閲覧でき、投稿にはGoogleアカウントが必要ですが、広告は表示されません。参加のハードルを低く保つ設計になっています。機能も機材の共有だけにとどまらず、次のような機能も備えています。

  • 異なる楽器ジャンルをまたいだセットアップを相互に参照できる横断検索
  • ギタリストやベーシスト、ドラマー、ボーカル、DJ、エンジニアといった役割で相手を探せるミュージシャンマッチング
  • バンドメンバーやセッション、制作案件の募集機能

ここでは、Riglogという個別サービスの評価や優劣を論じるのではなく、あくまで観察対象として、その設計から読み取れる構造に注目します。

「場をつくる」という発想自体は、目新しくない

昔からあるクラブや勉強会などの場を、検索可能なオンラインコミュニティへ拡張する変化

Riglogのような「顧客・利用者が集う場」を用意するという発想自体は、実は目新しいものではありません。

  • ファンクラブ
  • 同好会
  • 業界団体
  • 地域の勉強会

これら共通の関心を持つ人同士が集まる場は、オフラインの世界でも昔から存在してきました。

つまり、「場をつくることで集客につなげる」という考え方そのものは、目新しい発見ではありません。重要なのは、この昔からある発想を、デジタルで実装するとどのような変化が起きるのかという点です。

「場づくり」をデジタルで実装すると、何が変わるのか

知識の検索、時空間の超越、集客資産の蓄積、大規模マッチングという四つの変化

ここからは、Riglogの機能事実を材料に、「場をつくる」発想をデジタルで実装したときに何が変わるのかを、4つの観点から分解します。

暗黙知が、検索可能なデータとして蓄積される

オフラインの場では、機材のセッティングのコツや接続順といった知識は、口伝や現場での立ち話でしか共有されず、時間とともに失われていきがちです。Riglogでは、接続順やブランド、用途タグまで含めて構造化された形で投稿が蓄積されるため、こうした暗黙知が検索可能なデータとして残り続けます。1人の経験が、その場限りで消えることなく、後から参照できる資産に変わるのです。

地理と時間の制約から解放される

オフラインの同好会であれば、開催場所と日時に参加者の都合を合わせる必要があります。デジタルの場では、投稿された機材セットアップはいつでも、どこからでも参照できます。ジャンルを横断した発見の導線があることで、これまで接点のなかった別ジャンルの利用者同士が出会う機会も生まれます。

蓄積されたデータそのものが、複利的な集客資産になる

発信型の集客DXは、発信を止めると効果も止まります。一方、場に蓄積されたデータは、企業が新しい発信をしなくても、過去の投稿そのものが新規利用者の入口であり続けます。これは、投稿が増えるほど、検索や横断的な発見を通じて新しい利用者を呼び込む力が積み上がっていく、複利的な構造です。

人力では不可能な規模のマッチング・横断的な発見が起こる

Riglogのミュージシャンマッチングやバンド募集機能は、個々の投稿がデータベース化されているからこそ成立します。役割やジャンルで条件を絞り込み、該当する相手を探し出すという作業は、人力で同じ規模を実現しようとすれば膨大な手間がかかります。データとして蓄積されているからこそ、大規模なマッチングや横断的な発見が可能になります。

場づくり型は、発信型にはない負荷を伴う

初期参加者、モデレーション、継続運用、事業との相性判断が必要なコミュニティ運営の負荷

ここまで、場づくり型の集客DXがデジタルによって可能にする変化を見てきましたが、発信型より一方的に優れているという話ではありません。場をつくるという選択には、発信型にはない負荷がともないます。

コミュニティの立ち上げでは初期の参加者を集める手間がかかり、投稿内容の質を保つためのモデレーションも欠かせません。そして何より、閑散とした場が放置された状態は、企業にとって逆効果です。参加者がいない、あるいは更新が止まっているコミュニティは、かえって企業の印象を損ないかねません。

場づくり型の集客DXは、自社の商材や顧客層との相性を見極めたうえで検討すべき、経営判断の1つです。

まとめ:発信の「次の一手」は、顧客が集う「場」をつくること

集客DXを「SNSやメルマガでの発信」と捉えているかぎり、打ち手はいずれ発信の頻度や精度を上げる方向に収束しがちです。しかし発信型の集客DXには、構造的な限界があります。発信は、止めれば効果も止まる「フロー」であり、どれだけ続けても資産としては積み上がりません。「発信を続けているのに次の一手が見えない」という感覚の正体は、多くの場合ここにあります。

Riglogの観察から見えてきたのは、この限界を超えるもう1つの形でした。顧客や利用者が知識を持ち寄る「場」をデジタルで実装すると、投稿は構造化されたデータとして蓄積され、時間が経つほど検索やマッチングを通じて新しい利用者を呼び込む力が増していきます。発信型が「フロー」なら、場づくり型は「ストック」です。両者の違いは集客の規模ではなく、集客エンジンの構造そのものにあるのです。

もちろん、だかといってただ単に場をつくればうまくいくというわけではありません。立ち上げには初期の参加者を集める手間がかかり、放置された場はかえって企業の信用を損ないます。見極めるべきは2点です。

  • 自社の顧客同士が共有したくなる知識や体験があるか
  • その場を運用し続ける体制を持てるか

ここに「はい」と答えられるなら、場づくり型は十分に検討へ値する選択肢です。

貴社の集客DXは、まだ「発信」で止まっていませんか。次の一手が見えないと感じているなら、発信の改善を積み重ねる前に、顧客が集う場を持つという方向へ、一度目を向けてみる価値があるのではないでしょうか。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。