建設会社が本当に見直すべきは残業時間ではない|利益を奪う「待ち時間」の正体

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目次

待ち時間を減らす運用改善|明日から着手できる打ち手

待ち時間を減らす運用改善|明日から着手できる打ち手

DX投資の前に、運用そのものを整える余地は大きく残されています。本章では、システムを導入する前に着手できる現場運営の打ち手を整理します。投資ゼロから始められるものを中心に並べています。

週次の工程すり合わせと前日の入り時刻確定

週1回、職種横断で翌週工程を確認し、前日には翌日の入り時刻と作業エリアを書面で確定します。これだけで「他職種と作業場所がかぶる」「人だけ来て手が出ない」といった空転が減ります。会議は30分で構わず、出席者を絞ることが定着のコツです。

職長への意思決定権限の委譲

図面の食い違い、軽微な納まり変更、資材の差し替えなど、現場で判断できるものを職長権限として明文化します。現場代理人の確認待ちで止まっていた時間が消えるだけでなく、権限委譲の範囲を金額や影響度で線引きしておけば、職長の心理的負荷も下がります。

資材の先行発注と現場保管ルールの整備

納期リスクのある資材は工程の1〜2ステップ前に発注し、現場での保管場所と検品担当をあらかじめ決めます。倉庫費・運搬費は増えますが、半日の手待ちで失う賃金よりは少ないことがほとんどです。ポイントは、発注タイミングを担当者の判断ではなくルール化することです。

雨天・トラブル時の代替工程の事前準備

何らかのトラブル時、例えば雨天時に屋内作業へ切り替えられるよう、代替工程をあらかじめ工程表に組み込みます。当日朝に「今日は中止」と決める運用から、「雨天時は内装下地」と決まっている運用への転換です。1現場あたり数日の予備工程を用意するだけで、月単位の遅延を吸収できます。

DXとAIで待ち時間を可視化・予測する

運用改善の次の段階として、DXとAIによる可視化と予測の仕組みづくりを検討します。本章では、過剰投資にならず中小建設会社が現実的に取り組める範囲を示します。

工程表と進捗のクラウド共有で「次の止まり」を見せる

工程表をクラウドで共有し、職長と現場代理人が日々の進捗を入力するだけで、前工程の遅れが翌週どこに波及するかが見える化されます。エクセル工程表の更新を週1回会議で行うレベルから始めても、十分に効果が出るでしょう。このとき、もっとも重要なのは、「誰がいつ更新するか」を決めることです。

写真・チャット・図面共有の一本化

現場連絡を電話・メール・LINE・紙に分散させず、施工管理アプリ1本に集約します。図面の最新版が誰の手元にあるかが揃うだけで、図面確認待ちと写真整理待ちが減ります。アプリ選定の基準は機能の豊富さではなく、現場の職長が片手で扱えるかどうかです。

AIによる工程遅延予測と管理者へのアラート

進捗データが蓄積されると、AIが過去の類似工事と比較して「この遅れは10日後にクリティカルパスに乗る」といった予測を出せるようになります。これは、ベテランの勘を仕組みに置き換える方向性であり、若手の現場代理人を底上げする手段です。ただし予測精度はデータ量に依存するため、最初の半年は人の判断と併用する前提で運用します。

国の方針との整合|i-Construction2.0の文脈

国土交通省は令和6年4月に『i-Construction2.0』を公表し、2040年までに2023年比で省人化3割・生産性1.5倍以上を掲げました。中小建設会社にとっても、待ち時間の可視化は国策の文脈と一致する投資判断です。補助金や採択審査でも、生産性向上の取り組みは加点要素として扱われる傾向があります。

出典・参照:

中小建設会社が明日から始める3ステップ

中小建設会社が明日から始める3ステップ

ここまでの内容を踏まえ、中小建設会社が現実的に取り組める手順を3ステップで提示します。1日で始められる範囲から、月単位の運用改革までを段階で示します。

ステップ1:1現場・1週間で手待ち時間を手書き記録する

まず1つの現場で、職長に「今日、誰がどの時間帯に何の理由で待ったか」を手書きで1週間記録してもらいます。投資ゼロで、自社の待ち時間の正体が見えます。書式はA4用紙1枚で十分です。

  • 日付
  • 職種
  • 人数
  • 待ち時間
  • 理由

これらを記入してもらうだけで、改善の出発点ができます。

ステップ2:発生原因を6類型で分類して上位3つを潰す

1週間分の記録を、本記事で示した6類型に分類します。多くの中小現場では、上位3類型(前工程遅れ・指示待ち・資材待ち)に7割が集中する傾向があります。この上位3つだけに運用改善(前章の打ち手)を当てるのが現実解です。全てを一度に直そうとせず、3か月で上位3類型を半減させる目標が現実的です。

ステップ3:3か月後に施工管理アプリ導入の判断をする

運用改善で効果が出た領域に、施工管理アプリやクラウド工程表を当てます。先にツールを入れると、運用が未整備のまま現場に新しい入力作業を強いることになり、現場抵抗の原因になります。順序は「運用→ツール」が原則です。アプリ選定では、入力負荷の軽さ、職長層が抵抗なく使えるUI、既存のチャットツールとの併存可否を確認します。

比較表:運用改善とDX投資の使い分け

中小建設会社にとって、運用改善とDX投資はどちらが先かを迷う論点です。下の表は使い分けの観点を整理したものです。表を見て「自社はまずどちらに投資すべきか」を判断する材料として活用してください。

観点まず運用改善DX投資(施工管理アプリ等)
初期コストほぼゼロ月額数千〜数万円/ユーザー
着手スピード翌週から可能選定から運用定着まで3〜6か月
効果が出る前提職長と現場代理人の協力入力ルールと運用が定着していること
向いている課題段取り・指示待ち・資材手配写真整理・図面共有・進捗の可視化
失敗パターン会議が形骸化する入力負荷が現場の負担になる

「運用改善が先、DX投資が後」という順序を踏むことで、ツールに振り回されない投資判断ができます。運用改善で課題の8割が見える化された後にツールを当てると、ROIの試算もしやすくなります。

出典・参照:

まとめ:建設会社の利益改善は「止まらない現場」をつくることから始まる

本記事では、建設会社の利益を奪っているのは残業時間そのものではなく、現場で発生する手待ち時間であるという視点を提示しました。要点を以下に整理します。

  • 2024年4月の上限規制は遵守すべき前提であり、利益改善策ではありません
  • 手待ち時間は労働時間として賃金と残業時間の両方に跳ね返り、利益を直接削ります
  • 待ち時間は6類型で整理でき、その多くは段取りと情報共有の仕組みに起因します
  • 仕組み化により、管理者の力量差が利益差に直結する構造を解消できます
  • DXは目的ではなく手段であり、まず運用改善を行い次にツールを当てる順序が現実的です

貴社が次に取るべき行動は、生産性を改善するためのシステム選定ではありません。今週、1つの現場で職長に手書きで手待ち時間を記録してもらう、という小さな1歩です。記録したノートを職長と一緒に眺めれば、利益を奪っている工程不整合がどこにあるかが、必ず見えてきます。残業時間を減らす議論から、「止まらない現場」をつくる議論へ。本記事がその転換のきっかけになれば幸いです。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。