ICT導入で失敗しないために押さえる運用の論点
5つの事例は、いずれも技術だけで成立しているわけではありません。そのため、技術だけを真似ても同じ結果になるとは限らず、導入前後の業務設計が結果を左右することになるでしょう。中小建設会社が押さえたい運用面の論点を整理します。
以下は、事例に共通する運用論点を比較整理した表です。導入検討時にどの論点が抜けやすいかを確認するためにご覧ください。
| 論点 | 起きやすい失敗 | 事前に決めておくこと |
|---|---|---|
| 業務設計 | 紙とデジタルの二重運用が残る | 入力起点・出力受取り手・データ活用者 |
| 入力負担 | 監督や職人へ入力業務が偏る | 入力項目の絞り込み・音声や写真の活用 |
| 通信環境 | 山間部・地下で機器が動かない | 通信可否の確認と代替手段 |
| データ活用 | 取得しても誰も使わない | 活用者と判断ルールの事前設定 |
表を踏まえて、貴社の状況で特に抜けやすい論点を1つ2つ選び、導入前チェックリストへ組み込んでください。以下では、それぞれの論点をもう少し掘り下げます。
紙とデジタルの二重運用が残っていないか
紙の帳票を画面へ置き換えただけで、後工程で紙印刷やExcel転記が残ると、監督の作業はむしろ増えます。導入前に「入力の起点は誰か、出力の受取り手は誰か、そのデータを使うのは誰か」を洗い出し、紙と画面が重複していない状態を設計します。
現場作業員や協力会社へ入力負担を押し付けていないか
現場の職人がスマートフォンで入力する仕組みは便利に見えても、実際にはIT操作に慣れていない作業員へ負担が偏り、結局は監督が代行入力に回るケースがあります。「誰が使い続けられるか」を運用設計の起点にし、入力項目を絞ることや、音声・写真での簡易入力を組み合わせる工夫が現実的です。
通信環境と取得データの活用者を決めているか
トンネルや山間部、地下工事では通信環境そのものが制約になります。ドローンや遠隔臨場を導入する前に、通信可否と代替手段を確認します。加えて、取得したデータを誰がどう使うかを決めないと、機器が動いても業務は減りません。データの活用者と判断ルールを事前に定めておく運用が前提条件です。
現場監督の負担を減らす4つの視点で自社を棚卸しする手順
事例を読み終えたら、次は自社の現場でどこから着手するかを決める段階です。本章では、貴社が明日から取り組める棚卸しの手順を示します。
業務を4分類で洗い出す
まず、現場監督が一週間に行っている業務を書き出し、次の4種類に当てはまる作業を探します。
- 同じ情報を何度も転記している作業
- 写真や書類の整理に時間がかかっている作業
- 確認のためだけに移動している作業
- 現場監督でなくても処理できる反復作業
一週間分の業務日誌を並べるだけでも、監督が「本来担うべき判断業務」と「他の人やICTへ移せる作業」が見えてきます。属人化している業務ほど、監督本人にとって「当たり前」になり、棚卸しの対象から漏れやすい点にも注意してください。
一つの現場・一つの業務から試す
建設業では、現場ごとに工種、発注者、協力会社、通信環境、必要書類が異なります。全社一斉導入は現場の混乱を招きやすく、費用対効果も見えづらくなります。まず1つの現場、1つの業務、1つの帳票に絞って試し、効果と運用課題を確認したうえで横展開する進め方が現実的です。
判断の際は、次の4点を整理します。
- 誰が行っているか
- どのくらい時間がかかっているか
- どの情報が必要か
- ICTへ置き換えても安全や品質を維持できるか
安全と品質を犠牲にしない範囲で、監督の作業を減らせる領域を選びます。
なお、ICT導入時に利用可能な補助金としては、中小企業省力化投資補助金の対象製品カテゴリに建設業向け製品の登録が進んでいます。設備投資を伴う場合は、最新の公募要件を確認したうえで検討してください。
出典・参照:
まとめ:ICT導入の前に「現場監督でなくてもよい仕事」を切り分ける
建設業のICT活用で問われているのは、最新技術をどれだけ導入したかではなく、現場監督に集中している記録・転記・確認・移動・巡回をどれだけ減らせたかです。本記事の論点を整理します。
- 写真管理では、撮影後の整理や帳票作成を誰が担うかを再設計する
- 日報では、一度入力した情報を再利用して転記を減らす
- 3Dデータでは、関係者間の認識のずれと手戻りが起きやすい工程を対象に選ぶ
- 遠隔巡回では、危険な場所への移動と反復点検を代替する運用条件を整える
- 遠隔確認では、立会いの移動・待ち時間と紙処理を、要領で認められた範囲内で減らす
- 大手事例と同じ規模の投資は不要で、学ぶべきは「どの負担を減らすために使ったか」という導入目的とする
読了後にお願いしたい行動は1つです。新しいシステムの問い合わせをする前に、現場監督が一週間に行っている業務を書き出してみてください。そのうえで「同じ情報を何度も転記」「写真や書類の整理」「確認のためだけの移動」「監督でなくてもよい反復作業」のいずれかに当てはまる業務を1つだけ選んでください。そこが、貴社にとって最初の改善対象です。ICTを導入するかどうかの判断は、その業務が明確になってから判断しても遅くはないのです。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。
