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私は普段ほとんどバスに乗らず、電車で動きやすい場所に住んでいます。そのせいか、たまにバスに乗ると、乗り方にとまどうことも多く、正直、バスは不便な乗り物だと思ってきました。けれども、ふとバスのDX(デジタルトランスフォーメーション)はどう進んでいるのか、という素朴な疑問が浮かんできたのです。
バスは道路の渋滞で遅れやすい、とも聞きます。それは確かなのかも知れません。では、遅れやすいバスを、裏側の技術はどこまで支えているのでしょうか。
本記事では、国や自治体の公的資料と研究を材料に、バスの遅れを補う技術と、技術を使っても残る遅れ、乗客に見えない裏側のDXを整理し、バスのDXの現在地を考えます。
【本記事の要点】
- バスは道路混雑で遅れやすく、その影響を受ける利用者は、保有30両以上の事業者だけで年34.22億人にのぼる
- 遅れを補う技術は、位置情報、優先信号・優先レーン、運行データによるダイヤの見直しの3つで、変えるものと変えないものがそれぞれ違う
- 事故・工事・天候・突発の渋滞による遅れは、技術を使っても残る
- 乗客に見えない裏側のDXは、運行管理が運用段階、遠隔点呼が制度化、自動運転が実証と、取り組みごとに進み具合が違う
バスの遅れは道路混雑と結び付き、多くの利用者に影響する
写真1は、とある駅近くにあるバスの乗り場です。これは、人によっては便利な利便性の高い場所なのでしょうが、私の場合は正直、バスよりタクシーのほうが合理的だと考えてしまいます。
私の知人にも、バス通勤をしている人はいます。そうした人たちからは、バスは渋滞に巻き込まれて遅れることがしばしばあると聞いたことがあります。確かに、そういうことはあるのかもしれません。では、公的な資料や研究は、バスの遅れをどう説明しているのでしょうか。
横浜市は、路線バスの遅れの主な原因を「道路混雑」のためと説明しています。混雑は季節、曜日、気象、工事、事故で変わるため、定時に走らせることが難しい、という説明です。そのため事業者は、混雑する時間帯の所要時間を長めに設定する必要が求められるのでしょう。
一方、バス自体の遅れ方を実測した研究もあります。次の表は、バスロケ(バスの位置を記録する仕組み)のデータを使った2つの研究です。
| 研究 | 対象 | 分かったこと |
|---|---|---|
| 国際興業のバスロケ実績を使った土木学会論文集の研究(2016年) | 浦和・武蔵浦和・東大宮の各駅へ向かう3路線、2014年9〜11月の平日 | 東大宮の分析例では、停留所・便ごとの平均遅延がおおむね2〜4分、標準偏差(遅れのばらつきの目安)が1.5〜2.5分。幹線道路との交差区間で変動が大きい |
| 合志市のコミュニティバス「レターバス」の研究(2020年) | 2016年9月のバスロケ30日分(平日20日、休日10日) | 休日の左回り3便目で、終点の到着が時刻表より約17分遅れ、次の便の始発も中央値で4分遅れた。大型商業施設付近の県道の渋滞が主な要因と推定されている |
対象は3路線と1つの循環バスで、期間も限られます。全国の路線バスの遅れを同じ基準で集計した統計はなく、「バスは平均何分遅れる」と言える数字ではありません。それでも、遅れが道路混雑と結び付き、便や区間によって遅れ方が違うことは、この2つの実測から読み取ることができるのではないでしょうか。
バスの遅れの影響を受ける人は、少なくありません。国土交通省の令和6年度の調査によると、高速バスと定期観光バスを除く、保有車両30両以上の事業者の輸送人員は、年34.22億人でした。
遅れ方を測れたのも、バスの位置を記録したデータがあるからです。遅れやすいバスを、これだけの人が使っている。だからこそ、遅れをデータでとらえ、技術で補う意味があるのではないでしょうか。
出典・参照:
遅れを補う技術と、技術を使っても残る遅れ
前の章で見たとおり、バスの遅れの主な原因は道路混雑で、便や区間によって遅れ方も違います。では、技術はこの遅れをどこまで補えるのでしょうか。
この章では、遅れを補う技術を、何に働きかけるかの違いから3つに分けて解説します。遅れている状況を知らせるバスロケ、道路上で受ける遅れを減らす優先信号・優先レーン、遅れを織り込んで時刻表を見直す運行データの活用です。
それぞれの技術が何を変え、何を変えないのかは、次の表のとおりです。3つの技術を見たあとで、技術を使っても残る遅れもあわせて確認します。
| 役割 | 技術 | 変えるもの | 変えないもの |
|---|---|---|---|
| 遅れを知らせる | バスロケ(位置情報) | 「いつ来るか分からない」という待ち時間の不安 | バスが遅れること自体 |
| 道路上の遅れを減らす | 優先信号・優先レーン | 信号待ちや一般車の妨げなど、道路上の遅れ | 事故・工事・天候による遅れ |
| 遅れを織り込んで時刻表を見直す | 運行データによるダイヤの見直し | 混雑を織り込んだ時刻表 | 混雑そのもの |
以下、この順に見ていきます。
バスロケは遅れを消さず、待ち時間の不安を軽くする
1つ目の「遅れを知らせる」役割を担うのが、バスロケです。バスロケーション(バスロケ)は、GPSなどでバスの現在位置を把握し、停留所への接近や到着予測を知らせる仕組みです。たとえば、市営バスを運行する横浜市は、接近、到着予測、遅延の情報で、待ち時間の目安が分かり、時間を有効に使えると案内しています。
到着予測がどのくらい正確なのかを調べた研究もあります。2017年の交通工学論文集の研究は、停車時間などを加えた予測モデルを検証しました。たとえば「10時5分に着く」と予測したバスが、実際には10時7分に着いた場合、予測と実際の差は2分です。この差が一定の範囲に収まった予測の割合が、表の「的中率」です。結果は次のとおりです。
| 予測する停留所 | 予測と実際の差が3分以内だった割合 | 予測と実際の差が1分以内だった割合 |
|---|---|---|
| 直近の停留所 | 99% | 91% |
| 最遠の停留所 | 80% | 35% |
この検証では、直近の停留所なら差が1分以内に収まった予測が91%だったことが分かります。一方、最も遠い停留所では、3分以内に収まった予測が80%、1分以内は35%になってしまうことがお分かりでしょう。バスの現在位置から遠い停留所ほど、途中で信号や渋滞に出会う回数が増え、予測がずれやすくなるためです。
ただし、この数字は特定のデータと予測モデルでの結果で、すべての路線や地域にそのまま当てはまるわけではありません。バスロケの到着予測は目安であり、遠い停留所の予測は特にずれやすい、という見方が実態に近いといえるでしょう。
バスロケで役に立つのは、バスを待つ利用者だけではありません。バスを運行する事業者にも利点があります。国土交通省の『バス事業者向けデジタル化ガイドライン』には、事業者の管理担当者もバスのGPS位置情報を共有することで、遅延の問い合わせを受けたときに、運転者へ無線で確認しなくても答えられるようになった事例が載っています。
バスロケを入れても、バスが遅れること自体はなくなりません。ただ、バスが今どこにいて、どのくらい遅れているのかが分かれば、利用者は待ち時間の目安を持てます。事業者も、問い合わせにすぐ答えられます。つまり、バスロケが減らすのは遅れそのものではなく、「いつ来るのか分からない」という待つ側の不安なのではないでしょうか。
出典・参照:
優先信号と優先レーンは、道路上の遅れを減らす
2つ目の「道路上の遅れを減らす」役割を担うのが、優先信号と優先レーンです。公共車両優先システム(PTPS)は、バスを優先して通すよう信号を制御する仕組みです。優先レーンは、バスが通りやすいように車線を空ける仕組みを指します。どちらも、バスが道路上で受ける遅れを直接減らします。
国内の効果の例は、次の3つです。
| 事例 | 結果 | 条件 |
|---|---|---|
| 松江市のPTPS(国土交通省の資料) | 定時運行率が23%から63%に上がり、運行時間が14.9%短くなった | 古い資料で、測定期間や「定時」の基準は資料から読み取れない |
| 羽田空港周回の自動運転実証 | PTPSありとなしで各40走行を比べ、1周の平均が21秒(約4%)短くなった | 特定の周回路での実証で、一般の市街地路線にそのまま当てはまる数字ではない |
| 大阪市の「いまざとライナー」 | 優先レーンとPTPSなどにより「概ねダイヤ通り」と評価された(令和5年の5年目検証) | 定時運行率の数値は非公表。専用空間と信号制御を組み合わせた事例 |
制度の面でも、技術単体では成り立ちません。優先レーンのような交通規制は、警察庁の『交通規制基準』に基づいて公安委員会が行います。
効果は、信号制御、公安委員会の規制、道路管理、取締りの組み合わせから生まれるものです。
出典・参照:
運行データは、混雑を織り込んだダイヤの見直しに使われる
3つ目の「遅れを織り込んで時刻表を見直す」役割を担うのが、運行データです。道路の混雑そのものは、バス事業者には変えられません。事業者は、バスが混雑で遅れることを前提にして、時刻表のほうを実態に合わせて作り直します。
事業者が使うのは、バスロケが記録した「どの時刻に、バスがどこにいたか」という位置の履歴と、停留所・便ごとの乗降データです。これらがたまると、事業者は、どの区間で、どの時間帯に、実際にどれだけ時間がかかっているのかを数字で確認できます。国土交通省の資料も、乗降データと運行実績を組み合わせて利用の実態を分析し、ダイヤを再検討する進め方を示しています。
見直し方の具体例として、第1章で見た合志市のコミュニティバス「レターバス」の研究があります。この研究は、バスロケのデータと乗込調査のデータから、遅れが生じる区間を調べたものです。そのうえで、バス停と次のバス停の間の所要時間のばらつき方をもとに、所要時間の平均値で作った時刻表と、運行データを使って計算で最適化した時刻表の2種類を作り、比べています。
第1章で見たとおり、レターバスでは、ある便の遅れが、次の便の出発の遅れにつながっていました。このような遅れを防ぐには、各区間の所要時間の平均だけでなく、そのばらつきも確認することが、余裕時間をどこにどれだけ置くかを決める材料になるようです。
位置や乗降を記録したデータは、事業者が勘や経験だけに頼らずに時刻表を見直すための材料になります。ここが、バスのDXの中心の1つです。
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事故・工事・天候・突発の渋滞による遅れは、技術を使っても残る
ここまでの3つの技術は、バスの遅れを補いますが、遅れを完全になくすことはできません。技術を使っても残る遅れは、事故、工事、天候、突発の渋滞によるものです。バスは、専用の線路を走る鉄道と違い、一般の道路を他の車と共有して走ります。そのため、事故や工事で通れる車線が減ったり、悪天候で道路全体の流れが乱れたりすると、バスもその影響を受けやすいのです。
第1章で見たとおり、横浜市も、混雑が季節、曜日、気象、工事、事故で変わるため、バスを定時に走らせることは難しいと説明しています。3つの技術は、いずれもこの遅れを消せません。
- バスロケ:遅れていることを利用者に知らせるが、バスが遅れること自体は変えない
- 優先信号・優先レーン:信号待ちや一般車の妨げによる遅れは減らすが、事故・工事・天候による遅れは変えない。効果は、信号制御、公安委員会の規制、道路管理、取締りがそろって初めて出る
- 運行データによるダイヤの見直し:時刻表を実態に近づけるが、混雑そのものは変えない
技術は、遅れを知らせ、減らし、織り込むことはできても、道路で起きる出来事そのものを止めることはできないのです。そのため、バスのDXは、遅れをなくす取り組みではなく、遅れの影響を小さくする取り組みとして見る必要があります。
乗客に見えない裏側:運行管理・勤務割・点呼
写真2は、横浜市にある交通局の営業所です。乗客が目にするのは乗り場のバスですが、こうしたバスが並ぶ営業所の裏側では、バスを動かすための管理が日々行われています。
その管理は、紙や無線だけでなく、GPSによる車両の位置情報、乗降センサーによる乗車人員の記録、乗務員の勤務計画のシステム化、点呼のオンライン化といったデジタルの仕組みにも支えられています。以下は、国と横浜市の公式資料で確認した仕組みです。
運行管理は位置データを使い、取り組みごとに進み具合が違う
横浜市営バスの「バス運行情報システム(BOIS)」は、GPSと乗降センサーなどから、車両の位置、乗車人員、遅延などを一元的に管理します。使い道は、運行管理、輸送実績の把握、乗客への案内です。乗客への案内に使う位置データを、運行管理にも使う形です。
仕組みごとに、運用、計画、予算、検討、制度、実証と、進み具合が違います。段階を分けると、次のとおりです。
| 取り組み | 段階 | 内容 |
|---|---|---|
| BOISによる運行管理 | 運用 | GPSと乗降センサーなどで、車両位置、乗車人員、遅延を一元管理する |
| 乗務員の勤務計画、車両整備計画、発着・混雑情報の収集、GTFS形式での情報公開 | 運用 | 『横浜市営交通中期経営計画』が、BOISの機能として現在形で説明している |
| BOISの後方業務画面のWebブラウザ化、スマートフォンでの勤務計画・運行情報の確認 | 予算 | 令和6年度予算に6,610万円を計上している |
| BOISの私物端末を含む外部アクセスの拡大 | 検討 | 2025年10月の中間振り返りで、セキュリティ対策を行ったうえで検討するとされた |
| 遠隔点呼 | 制度 | 対面と同等の効果を持つ方法として国土交通大臣が定める方法で行う。2023年の告示で制度化され、その後も改正が続く |
| 自動運転バス | 実証 | 2026年1〜2月に、レベル2(運転者が必要に応じてただちに操作する条件)で実証した |
出典・参照:
遠隔点呼と勤務割は、運転者不足を背景にした土台づくり
遠隔点呼は、対面の点呼と同等の効果を持つ方法で行う点呼です。事業者間遠隔点呼では他の事業者への委託が認められ、点呼を受ける場所も、営業所や車庫から待合所などへ広がっています。バスなどの旅客事業も対象です。
勤務割は、資格、休息、路線の条件といった複雑な条件を照らし合わせる作業です。国土交通省のガイドラインには、この作成や確認の負担と人為ミスを減らす事例が載っています。
こうした仕組みが求められる背景は、運転者の不足です。『国土交通白書』2025は、2022年の輸送規模を維持するには2030年に約3.6万人(28%)足りなくなるという日本バス協会の推計を載せています。
乗客に見えない裏側のDXは、遅れを直接なくす技術ではありません。限られた人と車両で、ダイヤどおりの運行を続ける土台を整える取り組みだと、私は考えます。
出典・参照:
まとめ:バスのDXは、遅れの影響を小さくする取り組み
バスのDXの役割は、遅れをなくすことではなく、遅れの影響を小さくすることです。
位置情報が軽くするのは、「いつ来るのか分からない」という待ち時間の不安です。優先信号と優先レーンが減らすのは、信号待ちなど道路上の遅れです。運行データは、混雑を織り込んだ時刻表づくりの材料になります。一方、事故、工事、天候、突発の渋滞による遅れは、技術を使っても残るのです。
乗客に見えない裏側でも、位置データを使った運行管理は、すでに運用の段階にあります。勤務計画のシステム化や遠隔点呼は、運転者不足を背景にした取り組みです。取り組みごとに進み具合は違うものの、目指しているのは、限られた人と車両で、ダイヤどおりの運行を続けられる土台づくりだと、私は考えます。
自社の業務にも、デジタルで減らせる弱点と、前提として受け止める弱点があるはずです。両者を分けて見れば、手を打つ順番が見えてくるでしょう。電車で動きやすい場所に住む私には、バスの裏側は見えにくいものでした。次に街でバスを見かけたら、その運行を支える仕組みを思い浮かべてみてはいかがでしょうか。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。


