「備えてある」と「使える」は同じではない|街の設備から考えるDXの点検【街で見つけたDX】

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公園を歩いていて、ソーラーパネルの付いた背の高い柱を見かけました。上部にはスピーカーのような部材があり、足元には「蓄電池設備」と書かれた箱があります。災害時に情報を伝える屋外の拡声設備とよく似た姿ですが、それが本当にいざというときに動くのかどうかは、見上げただけでは分かりません。

こうした普段は使わない備えは、置いてあることは見えても、動くところまでは見えません。これは街の設備に限った話ではなく、バックアップを取り、BCP(事業継続計画)を作った企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)も同じです。少し考えてみてほしいのですが、貴社がその備えを最後に動かして確かめたのは、いつだったでしょうか。

本記事では、街で撮った設備の写真を手がかりに、普段は見えない備えが「動くこと」をどう確かめているのかをたどり、企業のバックアップやBCPの点検へつなげて考えます。

【本記事の要点】

  • 街の備えは置いてあるだけでは動くか分からず、試験放送や定期点検で動くことを確かめている
  • 日常の利用が点検を兼ねる仕組みもあるが、確かめられるのは日常で使う範囲に限られる
  • 企業のバックアップやBCPも、復元テストや訓練で確かめて初めて備えになる

公園のソーラーパネル付き設備:写真から分かることと分からないこと

公園の樹木の前に立つ茶色の高い柱。上部に複数方向を向いたホーン形のスピーカーと横棒状のアンテナのような部材、中ほどに2枚の太陽電池パネル、足元に箱形の筐体がある
公園に立つ、スピーカーのような部材と太陽電池パネルを備えた柱(編集部にて撮影)

私がこの記事を書くきっかけになったのは、公園の中に立っていた1本の柱です。最初に気になって写真を撮ったのが、ソーラーパネルの付いたこの設備でした。そこから防災とDXの関係を思いつき、街にあるほかの設備も撮って回りました。

見上げると、柱の上部には複数の方向を向いたホーン形のスピーカーのような部材があり、その下にはアンテナのように見える横棒状の部材も付いています。柱の中ほどには太陽電池パネルが2枚あり、足元には茶色い箱形の筐体が置かれていました。

茶色の箱形の筐体に「蓄電池設備」と書かれた表示板が付き、その上の柱に2枚の太陽電池パネルが取り付けられている
足元の筐体には「蓄電池設備」の表示がある(編集部にて撮影)

近づいてみると、筐体には「蓄電池設備」と書かれた表示板がありました。太陽電池パネルで発電し、蓄電池にためた電気で動く設備なのだろうと想像できます。

公的資料を調べると、屋外で情報を伝えるための拡声装置は、次のような要素で構成される例がありました。

  • 受信部
  • 電力増幅部
  • 蓄電池部
  • 屋外スピーカー

停電への備えとして、こうした構成に太陽光発電を組み合わせる例もあるようです。写真の設備も、こうした一般的な構成とよく似た姿でした。

写真から分かるのは、この設備が「備えてある」ことまでです。蓄電池が今どれだけ充電されているのか、スピーカーが本当に鳴るのかは、柱を見上げても分かりません。

私は当初、この写真から「災害のDX」を考えていました。しかし写真を見返すうちに、今回のテーマは「DXの点検」と呼ぶ方が正しいと整理し直したのです。なぜなら、普段は見えていないものも、ちゃんと動くかどうかは、定期的に点検していかなければ分からないからです。

出典・参照:

街の「普段は使われない設備」は、見た目だけでは動くか分からない

屋外の柱に取り付けられた箱形の設備。前面に「津波警報伝達システム」と表示され、柱の上部に太陽電池パネルとみられる板状の部材がある
「津波警報伝達システム」と表示された屋外の設備(編集部にて撮影)

公園の柱のように、普段は動いている姿を見ることのない設備は、改めて見渡してみると街のあちこちにありました。どれも置かれていることは目に見えますが、動くかどうかは外から見ても分かりません。

「津波警報伝達システム」と表示された箱を柱に取り付けた設備もありました。柱の上部には、太陽電池パネルとみられる板状の部材が見えます。同じ名前のシステムを公式に説明している自治体の資料では、津波警報などを受けて屋外スピーカーから自動で緊急情報を放送し、独立型の太陽光発電と蓄電池で電気をまかなう仕組みとされています。

この設備が鳴るのは、警報が出たときです。言い換えると、平穏な日が続く限り、実際に鳴る場面はない、ということでしょう。

建物の外壁に埋め込まれた2つの接続口。「送水口(連結送水管)」と表示され、キャップと鎖が付いている。右上に緑色の円形ラベルが貼られている
建物の外壁にある「送水口(連結送水管)」。右上に緑色の円形ラベルが見える(編集部にて撮影)

さらに、建物の外壁では、「送水口(連結送水管)」と表示された2つの接続口を見つけました。送水口は、火災のときに消防隊が建物内の配管へ水を送り込むための接続口です。キャップと鎖が付き、右上には緑色の円形ラベルが貼られていました。こちらも、火災が起きない限り使われることのない設備です。

警報の設備も送水口も、使われない日の方がはるかに長い備えです。それでも、いざというときに動かなければ意味がありません。では、こうした設備は、動くことをどうやって確かめているのでしょうか。

出典・参照:

使わない備えは「動かす日」を決めて点検している

警報スピーカー、消防用送水口、太陽光付き蓄電池設備を点検日入りのカレンダーへ結び、定期的に動かして確かめる流れを示す図

調べてみると、使わない備えには、あらかじめ動かす日や点検の周期を決めて確かめる仕組みがありました。警報の伝達、消防用設備、蓄電池の3つを順に見ていきます。

警報の伝達は、全国一斉の試験で確かめる

国が緊急情報を自治体へ送る「Jアラート(全国瞬時警報システム)」には、全国一斉の情報伝達試験があります。国から試験用の情報を送り、市町村の防災行政無線などを自動で起動させて、住民へ伝わるところまでを確かめる試験です。

この試験は2012年度に始まり、2018年度以降は原則として年4回行われています。消防庁は、不具合を減らすには年度内に複数回の点検や動作確認を行うことが効果的だと考えており、試験で情報を伝えられなかった自治体には改善を求めています。鳴らす必要がない日が続くからこそ、鳴らす日をあらかじめ決めているわけです。

出典・参照:

送水口などの消防用設備は、法律で定期点検が決まっている

送水口につながる連結送水管のような消防用設備には、消防法に基づく定期点検と報告の制度があります。建物の関係者は設備を定期的に点検し、その結果を消防機関へ報告しなければなりません。

連結送水管の場合、点検の周期は次のとおりです。

区分周期
機器点検6カ月ごと
総合点検1年ごと
点検結果の報告建物の区分によって1年ごと、または3年ごと

また、送水口の機器点検では、次のような点を確認します。

  • 周囲に障害物がないか
  • 漏れや変形、損傷がないか
  • 接続部やパッキン、ホースの着脱に問題がないか
  • 標識が適切か

消防用設備には、点検を受けたことを示す「点検済票」という表示の仕組みもあります。これは消防設備安全協会などが運用する民間の自主的な表示制度で、法律で定められた点検や、消防機関への報告、行政による認定そのものとは別のものとされています。

出典・参照:

蓄電池は劣化するため、診断と交換を計画する

公園の柱で見た「蓄電池設備」も、設置すれば終わりというわけではありません。消防庁が掲載している資料によると、蓄電池の期待寿命は種類によって異なり、据置鉛蓄電池で5〜14年、据置アルカリ蓄電池で12〜15年という例が示されています。寿命は温度や負荷などの条件にも左右されるものです。

同じ資料は、老朽化した蓄電池設備は必要なときに正常に作動しない場合があり、劣化の診断や交換には専門の知識と技能が必要だとしています。令和7年版消防白書も、無線設備の停電対策や非常用電源設備などについて、地方公共団体が自ら点検を徹底する必要があるとしています。

写真の設備の電池がどの種類で、いつ交換されたのかは分かりません。ただ、電気をためておく備えにも、劣化を見越した診断と交換の計画が欠かせないことは確かです。

出典・参照:

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。