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店舗のICT活用研究所 代表 郡司 昇氏

DXに取り組む企業は年々増えています。しかし、AIやデータ活用などの最新技術を導入しながらも、思うような成果につながっていない企業は数多く存在します。その違いはどこにあるのでしょうか。
本インタビューでは、ドラッグストアや小売業でDX推進を実践し、現在は店舗のICT活用研究所代表として多くの企業を支援する郡司昇氏(以下、郡司氏)に、小売業におけるDXの本質について伺いました。
DX推進の本質は、デジタル導入そのものではなく、「あるべき姿」を描き、顧客価値の向上と利益創出につながる変革を実現することにあります。 国内外の豊富な現場視察を通じて得た一次情報を交えながら、経営者とDX推進担当者が今こそ考えるべき視点を語っていただきました。
【本記事の要点】
- DXの本質は「デジタル導入」ではなく、顧客価値の向上と利益創出につながる「変革」にあること
- 日本の小売DXが成果を出せない背景には、部分最適に陥りやすい組織構造や、挑戦を後押ししない評価の仕組みがあること
- 他社事例をそのまま模倣するのではなく、自社の目的や前提条件に合わせて最適化する「フィット&ギャップ」の視点が欠かせないこと
- 一次情報を自ら収集し続ける姿勢が、変化の速い時代における独自の強みになること
- 経営者に求められるのは、自社の「あるべき姿」を解像度高く描き、現状とのギャップを把握することであること

DXの目的はデジタル導入ではない:利益を生む「変革」をどう実現するか
郡司さんのこれまでのキャリアと、現在メインで展開されている活動について教えてください。
郡司氏

「もともと薬学部を卒業した薬剤師で、ドラッグストアのセイジョー(現マツキヨココカラ&カンパニー)に入社し店長などを務めました。その後、株式会社を作ってドラッグストアを自分で経営したりした後に、元の会社へ戻りました。調剤事業部のNo.2である課長を務めた後、セイジョー、セガミ、アライドハーツなどのM&Aに伴い、業務統一や基幹システム・情報系システム・物流統合のプロジェクト等を担当しました。
2013年、公募制度を通じてEC事業会社を立ち上げ、社長に就任した頃から外部メディアでの露出が増えました。3年目には黒字化が難しいドラッグストアのEC事業で目標である事業黒字化を達成しました。その後、本業とのオムニチャネル戦略立案・推進やグループ全体の統合マーケティングを担当しました。2018年に独立し、店舗のICT活用研究所の代表となりました。
現在の活動は大きく2つあります。1つ目は、スーパーやドラッグストアなどの実店舗小売業に対し、デジタルを活用した収益化を支援すること。2つ目は、小売の現場実態が分からないIT企業に対し、本当の課題や有効な開発・活用方向を助言することです。」
薬剤師からドラッグストア経営、EC事業の黒字化、そして独立まで、幅広い現場を歩んでこられたのですね。そうしたご経験を踏まえて、小売業におけるDXの定義と目的について教えてください。
郡司氏
「小売業に限らない話ですが、DXの『X』はトランスフォーメーション、つまり変革を意味します。本来は変革が主題であるはずなのに、なぜかデータやデジタル技術の活用という手段の話だけが切り取られ、変革そのものが伴っていないケースが多く見られます。そもそも変革というほど力を入れていない、という問題が1つあります。
さらに問題なのは、成果が出なければ意味がないということです。世の中のIR記事に出てくる『AIによる棚割の仕組みを導入した』といった類の話の多くはPoC(概念実証)止まりで、実際に成果につながっているケースは少ないのが実情です。 本当に成果が出ている事例はむしろ表に出さないことが多く、経験上、成果が出ていないケースの方が多いと認識しています。
では何をもって成功とするか。儲からなければ意味がありません。売上を上げる効果があったか、経費を下げて利益率を上げることができたか、この2つしかないわけです。何のための変革かといえば、儲けるためです。儲けるためには顧客を創造する必要があり、顧客とは日本で事業を行うなら日本の生活者のことです。その方々に自分たちを支持してもらうための取り組みが必要です。
方向性は2つあります。1つは、不便さや使いにくさ、欲しい商品がない、価格が高い、営業時間が短い、使いたい決済手段が使えない・選びにくいといった『不』を解消することです。これによってスムーズでフリクションレス(顧客やユーザーが目的を達成する際に摩擦や障害がなく行動できる状態)な買い物ができる環境を整えるためにデジタルを活用します。
もう1つは、素晴らしいサービスを開発したり、人と人との接触の質をデジタルの力で高めたりする方向です。今ある不を取り除き、これから伸ばしていく。それが最終的に売上向上や経費削減、利益向上につながれば、それはPoCではなく投資として継続していきます。そうして初めて、データやデジタル技術の活用によって変革ができた、成果が出たと言えるのだと思います。」
日本の小売DXが成果を出せない理由:部分最適と挑戦を阻む組織文化
デジタル活用そのものではなく、儲けにつながる変革こそがDXの本質だというお話でした。それでは、日本の小売DXは実際うまくいっていないのでしょうか。その原因はどこにありますか。
郡司氏
「大部分がうまくいっていません。成果を数値化できていない企業が多いことがそれを物語っています。
原因は、全体のつながりを考えず、部分ごとにばらばらに取り組んでいることです。たとえばセキュリティは情報システムだけの問題ではなく、『現場でパスワードを付箋に貼ってしまう』といった店舗運営側の課題が絡みます。全体を見て業務の不具合を探す視点が欠けているので、『セキュリティ→情報システム部の問題』と見てしまうのです。」
全体最適になっていないということですね。他に課題はありますか。
郡司氏
「スピード感の遅さも課題です。IT本部長などの立場に責任はあっても、決裁権限が小さすぎます。また、失敗を極度に恐れ、挑戦しない風土も原因です。失敗すれば評価が下がり、逆に既存取引先に無理を言ってコストを下げた方が評価されやすい文化では変革は進みません。
このバランスが良いのがPPIH(ドン・キホーテの運営会社)です。現場に権限を与え、成功すれば昇進、失敗すれば降格という信賞必罰が明確なため、緊張感と挑戦する意欲が生まれます。」
権限の小ささや、挑戦を後押ししない評価の仕組みが変革のスピードを鈍らせているのですね。こうした組織の課題は、DX推進部門と現場のギャップとしてもよく指摘されますが、この点はどう捉えていますか。
郡司氏
「業務フロー全体を可視化することが不可欠です。たとえばバイヤーがリベート獲得のために売れない商品を大量仕入れし、現場に押し込むような構造では不満が生まれます。仕入れた理由や店舗での展開方法まで含めて業務のつながりを整理し、どこがボトルネックになっているかを把握することが解決への第一歩です。」
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
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