【業界インタビュー】ピンチからの再起とヒトを活かすDX|㈱ビジョンメガネ

【業界インタビュー】ピンチからの再起とヒトを活かすDX|㈱ビジョンメガネ

メガネ・コンタクトレンズ・補聴器を扱う小売専門のチェーン店として、大阪府に本社を構え全国に100店舗以上を展開する株式会社ビジョンメガネ(以下:同社)。

メガネ業界としては老舗チェーンともいえる同社ですが、一時は民事再生法の適用を申請するなど、その経営は順風満帆であったという訳ではありません。

しかし、現取締役社長の安東晃一氏(以下:安東氏)が社長に就任以来、業務改革を進める過程でオンラインによる「顧客体験」を提供するブランドサイト構築など、IT導入をはじめさまざまな戦略を行ってきました。

店舗型ビジネスを営む経営者・担当者にとっては、実店舗とECサイトとの連携というのはデジタルトランスフォーメーション(以下:DX)を考える上で、避けては通れない命題です。

今回は店舗型ビジネスがDX導入により経営力を強化させ、さらに現在進行系で新型コロナウイルスの蔓延というピンチに立ち向かって行くための参考例として、同社の取り組みについて安東氏に詳しくお話をお伺いしました。

ピンチからの再起は「モノからコト」への変革

ピンチからの再起は「モノからコト」への変革

かつてはTVコマーシャルなども頻繁に展開し、関西圏の中高年層には馴染みのある同社でしたが、2000年代に入ってからの格安チェーンの拡大などを受け急速に経営が悪化。

2009年の上場廃止や2013年の民事再生法の適用申請など、会社の屋台骨を揺るがすピンチを経験してきました。

そんな中2011年に若干39歳で社長に就任したのが安東氏で、当初は「まさか自分が」という気持ちだったそうです。

しかし民事再生法で経営再建を図るにあたり、それまでのビジネスモデルを大きく変革

それが数年でのV字回復を実現させる、現在のDX戦略にもつながる1つの考え方だったと言います。

「民事再生法の申請当時、弊社も同業他社の流れにのった安売り戦略を取っていました。しかしその路線は限界に来ていると分かっていたので、まずは『安売りセール自体を売りにするのはやめよう』と宣言しました。」と語る安東氏。

「現場からは反対の声もありましたが、私は弊社が支持されていたのは『安いから』ではなく、『我々の技術や知識がお客様の安心に繋がるから』だというのは確信していました。ですから『安いこと』を売りにして『モノ』を販売するのではなく、接客や確かな社員の知識・技術に支えられた提案など、サービスという『コト』こそが弊社がお客様に提供する最大の価値だと定義したんです。」

DX推進がうまくいかない事例として、ただ闇雲に自社の業務をITに置き換えたりするケースが見られます。

しかし、真に大事なのは「何を目的にDXを推進するのか」を明確にすることで、そのためには自社の経営ビジョンを再度見直すことがもっとも大切です。

安東氏の言葉からは、そんな経営者があるべき「企業としての先を見る姿勢と目的意識」が伝わってきます。

DX導入のきっかけ

DX導入のきっかけ

安東氏の社長就任以来、紆余曲折がありながらも急速に業績を回復させた同社ですが、どうしてDXを導入していこうと考えたのでしょう。

「弊社は実は民事再生法の適用後にECサイトを保有していました。しかし、当時のそれはカタログのようにメガネフレームが並んでいるだけで、ビジネス的にうまく機能していたとは言えませんでした。」

関西人の気質なのか新しいものには敏感な社風も相まって、時代の流れに乗り遅れまいとネット販売を展開させていた同社ですが、そこには先に述べたような経営ビジョンが込められていたとは言い難かったようです。

それ以前の2002年~7年間ほどは、インターネットで視力を測定し度付きのメガネを販売する『どこでもメガネ』を運営していました。創業者のアイデアで始めた革新的なサービスでしたが、ネットでモノを購入することが今のように当たり前では無かった当時の一般消費者にとっては、まだまだ意識や行動が追いついていない現状があったのかもしれません。

しかし、これらのエピソードからも「とりあえず新しいことは試してみよう」という、同社の革新を恐れず挑戦する社風は見て取れます。

「そもそも論としてメガネや補聴器というものは『見える、聞こえる』という『体験(コト)』を提供して、始めてお客様に満足していただけるものです。であるとすれば、本来ブランドサイトでの商品販売などではそういった『コト』は提供できません。

しかし、当時カーシェアリングなどが流行り始めたように消費者の価値観・購買行動が変わりつつあるという傾向が見て取れたため、デジタルによる好影響をうまく取り入れ単なる『販売するための』サイト(ECサイト)ではなく、実店舗へ誘導する際の『疑似体験を提供する』サイト(ブランドサイト)であればよいのではないかと考えるようになりました。」

ここでも同社の『モノからコト』という戦略は確実に根付いていると言えるでしょう。

実店舗へ誘導するフックとしてのサイト設計

実店舗へ誘導するフックとしてのECサイト

同社のブランドサイトを開くと、トップバナーには大きく「来店予約する」という文字が見えます。

つまりこのサイトの一番の役割は、実店舗へ誘導するためのフックなのです。

「弊社のウェブサイトにも商品一覧のページはありますが、サイト上でお客様が商品を購入することはできず、あくまでも(後述する)試着体験やお客様が実店舗に来店していただくためのコンダクター(ガイド)の役目を担っています。

ブランドサイトはお客様に実店舗へ来ていただくための集客の役割を持ち、弊社を知らない地方の方々にまでビジョンメガネというブランドを認知していただくためのものなのです。」

そう語る安東氏。サイト上で予約を受け付けることで、特に密を避けたいコロナ禍においては大きな価値が生まれているそうです。

「一旦ブランドサイトで弊社を知っていただいた後は、そこで気に入った商品を選んでいただき、来店予約をしたあと実店舗にいらしていただければ、お待たせすることなくスムーズに応対ができるので、なるべく短時間で密を避けたいというコロナ禍でのお客様の要望にも合致しています。

さらに、当社独自の『マエストロカード』をお作りいただいてから来店予約していただくと、お客様の好みをあらかじめ把握しておくことができますので、来店時にはお客様が選んだ商品以外にも最適な商品を用意してご提案ができます。これまで以上に実店舗での効果的なサービスが提供できるなど、とても良い相乗効果を生み出すことにつながりました。」

ウェブ上で擬似体験を提供

ウェブ上で擬似体験を提供

しかし、同社のブランドサイトが持つ役割はそれだけではありません。

スマホで自身の顔写真を取り込んで、そこに商品のメガネフレームを当てはめてみることで、かんたんに試着体験ができるシステムなども提供しているのです。

「実際の『モノ』を手に取って、『見える』という体験を通して始めてお客様の購買につながるのがメガネという商材ですが、実は店頭でメガネフレームを試着する際には、フレームには度の入ったレンズがはまっていないため、お客様が鏡を見ても自分の顔が良く分からないということがありました。

しかし、あらかじめご自宅で試着体験をしていただくのであれば、視界がクリアな状態で似合うかどうかを見ていただけます。

こうしたウェブ上での疑似体験を経たのちにご来店いただくことで、弊社スタッフからの提案も的確に行なえますし、従来と比べて成約率は格段にアップしております。」

ブランドサイトの整備で生まれた新たなメリット

ECサイトの整備で生まれた新たなメリット

そうした革新的なシステムを導入した同社ですが、実際にはこうしたIT技術の活用によってどのようなメリットが生まれたのでしょう。

「予約システムの導入により、成約率が格段にアップしたというのは先述のとおりです。これは、お客様の予約に合わせてお好みに合う商品を用意したり、あらかじめ適切なスタッフ人数を配置しておけるので、お客様をお待たせすることなく応対ができるというのと同時に、人手不足の解消にも一役買ってくれています。

開設当時は、予約の方を応対中にいらっしゃる一般来店客への対応に不安を持っていたスタッフも、今では人員のシフト調整もでき、お客様に合ったより質の高いサービスに集中できると、肯定的な声が多くなりました。」

明確な目的を持ってブランドサイトを構築したことにより、実店舗との相乗効果で新たな価値を生み出した同社の試みですが、顧客にとっては新たな使い方も生まれたと言います。

「メガネは本人がかけてみなければ合う・合わないというのが分かりづらいということで、これまではプレゼントなどではなかなか選ばれない商材でした。

しかし、こうしたスマホでの試着体験を可能としたことにより、ご本人の写真さえあれば他人が客観的にデザイン上のフィット感を確認でき、本人には内緒のサプライズプレゼントとしても選ばれるなど、これまではほとんど無かったギフト需要という副産物も生み出しています。」

DXのキーワードは「顧客体験」と「ヒトの活用」

DXのキーワードは「顧客体験」と「ヒトの活用」

このようにオンラインからオフラインへと集客導線を設計することにより、経営状態のV字回復に伴いDXを推進してきた同社ですが、今後の展望はどのように考えているのでしょう。

「正直な所、現状では弊社が行っている施策はDXというほど大げさなものではなく、あくまでもウェブサイトなどパーツとしてのIT化に過ぎません。

しかし今後は、さらなるオンラインの有効活用と並行してもっと社内業務へもIT施策を進め、真のDXへと進化させていきたいと考えています。」

そう語る安東氏ですが、同社のDX推進のテーマは大きく分けて2つあると言います。

「1つにはブランドサイトで展開している、実店舗への来店導線の認知をさらに高めたいということです。

そのためには現在展開しているメガネの試着体験だけでなく、サイト上で視力測定まで可能とすることを目指すなど、もっと広範囲な『顧客体験』をウェブ上で体験できるようなブランドサイトへと育てていきたいのです。」

「そしてもう1つは弊社の持つ『人的価値の有効活用』です。

弊社のスタッフ1人ひとりは単なる販売員ではなく、すべてお客様のメガネや補聴器に対する問題を解決するプロフェッショナルで無ければならず、それを推し進めるため弊社では『メガネのマエストロ』と称した資格制度を導入しています。

今後は、そうした人材育成分野へもIT技術を用いて、さらなる発展をもたらせられないかと模索中です。」

今後のDX推進のキーワードとして「顧客体験」「ヒトの活用」を挙げてくれた安東氏。

安売り路線からの脱却を図り、真に顧客にとっての価値あるサービスを模索し続けた同社だからこそ行き着いた、新しいビジネスで顧客の価値を創出するDXの本質的な目標が見えているのではないでしょうか。

ビジョンメガネパーフェクトクリーニング

「メガネとはお客様に『最高の見える』を提供するためのアイテムです。お客様にとって最高の状態を常にキープし続けるために、我々メガネのプロがお世話をさせていただく。そのために販売員1人ひとりの知識や技術を最高の頂へと導くことが、今も昔も変わらぬ弊社が目指す姿です。」

その目的のために、今以上にDXという漠然とした目標をうまく取り入れていきたいと語る安東氏の目線は、確かにDXの未来像を見据えていると感じられました。

まとめ

実店舗で顧客と対面した接客が求められるため、コロナ禍で苦戦を続ける店舗型ビジネスですが、この時代の流れを乗り越えていくためにはDX導入というIT技術と既存サービスとの融合は欠かせない考え方です。

多くの店舗型ビジネス経営者が抱える難問を解決するためのヒントが、今回の安東氏のお話には含まれているのではないでしょうか。

【ビジョンメガネのブランドサイトに対する考え方】

  1. ブランド認知を上げて、ユーザーとの良き関係を築く。それによりロイヤルティ(信頼・愛情)を高める
  2. ユーザーが欲している情報を提供する
  3. リアル店舗への送客誘導

このような明確な目的を持ってブランドサイトを構築する同社では、あえてウェブサイトと実店舗との棲み分けは考えていないと言います。

実店舗でもECサイトでも商品販売を行う店舗型ビジネスでは、そうした棲み分けを意識せざるを得ないこともありますが、こうした割り切った考え方もあるのです。

それよりも自社のあるべき姿や目標が明確になっていることにより、現時点でDXというモノが曖昧模糊としてはっきりとは分かっていなくとも、DXの導入であるデジタライゼーションを見事に成功させているという点は注目に値します。

「IT技術を使って自社の業務を効率化し、新しいビジネスを創出する」というDX本来の目的をうまく活用するためには「自社の業務の足元を見つめ、道筋を明確にする」ことが何より大切で、同社が取ってきた施策はそれが成功への近道だということを端的に表す好例と言えるでしょう。

店舗型ビジネスのDX推進策として、もちろんこれが唯一の最適解というわけではありませんが、コロナ禍で悪戦苦闘するすべての経営者にとって、安東氏の明確な視点は大いに参考になるはずです。

ぜひともこうした事例から自社にも当てはまる点を学び取り、激動の時代を乗り切る一助としてください。

株式会社ビジョンメガネ

ビジョンメガネ店内

お客様1人ひとりにとって「最高の見える」を提供するビジョンメガネ

創業:昭和51年10月31日

設立:平成21年8月10日

本社所在地:大阪府大阪市西区

事業内容:メガネ・コンタクトレンズ・補聴器およびその関連商品を取り扱う小売専門店チェーン

>>ビジョンメガネ公式ホームページ(文中画像引用先共)

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DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

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