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AIの活用は、使い慣れた若い人や得意な人に任せればよい。そう考えて、自分は手を出さずにいる管理職の方も、いるのではないでしょうか。AIが役立ちそうだとは思っても、学ぶ手間を考えると、今のままを選んでしまうものです。
私は50代や60代で、パソコンが苦手な同世代をこれまでとても多く見てきました。一方で、若い頃からデジタルに触れ、50代60代でもデジタルに苦手意識を持っていない方もたくさんいます。私自身も53歳でWEBライターになってから学び続け、いまはAIを使ってこの編集部を運用しています。つまり、苦手かどうかを分けるのは年齢だけではない、というのが私の実感です。
本記事では、デジタルやAIに苦手意識がある管理職に向けて、任せてよい実作業と手放してはいけない判断を、世代ではなく中身で分けて考えます。管理職がAIを学ぶ理由と、最初の一歩までを整理します。
【本記事の要点】
- 苦手かどうかを分けるのは年齢だけではなく、触れた経験と、本当に必要だと思えるかである。
- AIの実作業は得意な人に任せてよいが、目的・委任範囲・受入基準・説明責任の判断は管理職が持つ。
- 判断に必要なのは高度な操作ではなく、委任した仕事の出来を判断できる程度の「一通りの理解」である。
- 最初の一歩は、自分の課題をAIに相談してみることである。
「AIが苦手」を分けるのは、年齢ではなく触れた経験と必要性
AIに手を出さない理由を、年齢のせいにして済ませていないでしょうか。この章では、苦手を分けているものが何なのかを、私の体験も交えて考察します。
触れた経験は差になるが、世代では括れない
私は、「この世代はデジタルが苦手」と一括りにできるものではないと考えています。50代、60代の中にはワープロなどを初期の頃から使いはじめ、その後Windows95(日本時間1995年11月23日発売開始)の洗礼を受けるなど、デジタルネイティブの世代に負けないぐらいITに詳しい人がいるからです。一方で、60代前半で、スマホは使えてもパソコンには触れない知人もいました。
さらに言えば、70代になってからパソコンにはじめて触れ、それでも独学や息子に教わりながら1つひとつ操作を覚え、気づけば資産管理程度なららくらく使いこなすようになっていた人もいます。それは、私の母でした。
こうした経験から思うのは、デジタルを苦手か苦手でないかに差を分けるものは、大きく2つあると私は考えます。1つは、若い頃にパソコンに触れたかどうか。つまり、パソコンに苦手意識を持っていないことです。そしてもう1つは、新しいものにどれだけ物怖じせずに挑戦できるか、しようと思えるかという傾向なのではないでしょうか。
本当に必要だと思わなければ、人は動かない
私は、ライティングやマーケティングを必要に駆られて、生活のために学んできました。53歳の時に無職になったことを契機にWEBライターに転職した私ですが、正直60年近い人生の中で、この50代が最も勉強した期間だったのではないかと思っています。最近では、AIを学んだことで仕事が効率化し、空き時間が増え収入アップにも貢献してくれています。
一方、毎日2時間残業して進捗報告やレポートを会社に提出している知人がいます。彼に「そんな仕事はAIで効率化すればものの5分で終わるよ」と伝えても、動こうとはしません。AIはすごいと分かっていても、使い方が分からず、勉強するくらいなら今のままでよい、と考えているのではないかと私は推測しています。
人は本当に必要だと思わなければ動かないものではないでしょうか。私も、50代に大きなつまづきを経験したからこそ、真剣に勉強し進歩していったのです。人は時に「眼の前ににんじんをぶら下げられる」よりも、「背中にナイフを突きつけられる」ほうが真剣味を持って動くものなのかもしれません。
ただし、AIが使われない理由には、必要性の実感のほかに社内規定があるのは否定しません。情報漏洩は企業として絶対に防ぐべきことですから、AIの使用に関しても使い方、社内のルール、権限という条件があるのも事実です。管理職は、そうした条件を確かめたうえで、自部門でAIを何のために使うのかを示さなければならないでしょう。
AI時代の管理職の役割:実作業は任せ、判断は手放さない
では、AIが必要だと思えたとして、管理職が次に考えるべきなのはなんでしょうか。それは、何まで任せてよく、何は自分が持つのかを切り分けることです。この章では、実作業と判断を分けて考えます。
任せてよいのは、AIを使う実作業
管理職が、AIの使い方を1つひとつ深く勉強する必要はないのかもしれません。具体的な手足として動く部分は、AIを使える得意な人に動いてもらえばよい、というのが私の考えです。
管理職が任せる相手は、AIを使える技能のある担当者になります。担当者がAIにさせるのは、資料のたたき台づくりや、データの整理のような実作業です。ただし、用途とリスクに応じて人が確認する範囲を決めることが前提です。対外的な説明や評価に使う資料は、確認を厚くします。
それでも、管理職や経営者も、AIとは何か、何ができるのかを、一通りは勉強するべきです。つまり、管理職や経営者が持つべきなのは、AIをより高度に使いこなすことより、AIから出てきたものや決裁が必要なものを判断することと、目標を示すことだというのが私の考えです。
手放せないのは、目的・委任範囲・受入基準・説明責任の判断
AIや担当者に任せても、手放せないのは判断です。私の場合、人に仕事を任せるときと同じで、任せたあとも判断と責任は自分が担います。
私は日々、AIが作った記事を編集していますが、それは人間のライターに発注していたときも同じでした。人が書いてもAIが書いても、その記事をそのまま公開してよいかの判断は編集長である私の仕事なのです。
私の考えでは、AI使用に限らず、管理職は部下に仕事を任せ、問題があれば責任を持つのが当たり前です。責任を取るのが管理職の仕事であり、だから自分の権限の範囲で決定権も同時にあるのです。
極端に言えば、システムやテクノロジー、AIを使うのは部下や担当者の仕事で、管理職の仕事は決めることと責任を取ることだといえるでしょう。この考えをベースに、管理職が持つ判断を次の4つにまとめます。
| 判断 | 管理職が自分の言葉で答えること |
|---|---|
| 目的 | 何を解決するために、AIを使うのか |
| 委任範囲 | どこまでをAIや担当者に任せ、どこからを自分が決めるのか |
| 受入基準 | 出てきた結果を、何を見て受け入れ、何を見て差し戻すのか |
| 説明責任 | 問題が起きたとき、誰が承認し、誰が取引先や顧客へ説明するのかを、管理職が確認して決めているか |
なかでも「目的」は、何を解決するためにAIを入れるのかを明確にしておかないと、AI活用も場当たり的に終わってしまいます。「AIを効率的に使え」と言うだけでは、会社が動くとも、変わるとも思えません。
国の『AI事業者ガイドライン(第1.2版)』も、用途とリスクに応じて人の判断を関わらせる範囲を決めること、利用する人に必要な知識と能力を持たせることを、考え方として示しています。
自社のAI活用に当てはめると、AIに作らせる資料や集計は任せ、その結果を何で受け入れるのかを、管理職が決めるということです。
出典・参照:
管理職がAIを学ぶ理由:判断に必要な「一通りの理解」と最初の一歩
判断を手放さないために、どこまで知っておけばよいのでしょうか。この章では、一通りの理解とは何かを決め、最初の一歩を示します。
試して、できることとリスクを知る
私は、まずAIを試して、どの程度の生成物(私の場合は記事)が作れるかを測りました。最初は全然使い物になりませんでしたが、あるときから急激に品質が上がり、使用に耐えるようになったのです。これは、AI自体の性能が上がったことも影響していますが、それよりも私のAI活用スキルが向上していったのが大きかったと思っています。
また、その過程で、ハルシネーション(AIがもっともらしい誤りを出すこと)の可能性と、余計な情報を入れることによる情報漏えいのリスクを学びました。最近は、AIエージェント(AIに作業の操作を任せる仕組み)に自分のパソコンをある程度操作させているので、AIが生み出すリスクにはより神経質にならざるを得ません。
逆に言えば、私はAIが作った記事を日々編集している中で、常に「これは全部合っているのか」疑ってかかっているのです。そして、万全を期すために複数のAIでチェックし、自分が読んで感じた違和感を根拠に書き直しを行います。場合によっては、公開に値しないとして原稿自体を破棄することもあります。それが私の役目なのです。
もちろん、これは私の編集業務での使い方の一例であって、だれもが最初から複数のAIを使う必要はありません。まずは1つのAIの出力を、元の資料と見比べるところから始めれば十分です。
違和感は、確認を始めるきっかけです。そこで管理職は、AIの結果を次の3つと照合し、合わなければ差し戻す、という受入基準を言葉にしておきましょう。
- 元の資料(数字や固有名詞が合っているかは、担当者に突き合わせてもらう)
- 自社の方針(食い違っていないか)
- 業務で求める条件(この仕事の目的を満たしているか)
違和感で判断する力については、関連記事『AIの文章に違和感を持てるか|任せていいことと人間に残る仕事』で考えています。
つまり、管理職に必要な「一通りの理解」とは、委任した仕事の出来を判断できる程度の理解です。AIに何ができ、どんな間違いをし、何を入れてはいけないかを知っていれば、結果を受け入れるか差し戻すかを決められるでしょう。
5つの質問に、自分の言葉で答えられるか
一通りの理解ができているかは、先の4つの判断に、入力できる情報の確認を加えた次の5つの質問で確かめられます。
| 質問 | 答えられる状態の目安 |
|---|---|
| 何を解決するために、AIを使うのか | 目的を、自社の業務の言葉で言える |
| どこまでを任せ、どこからを自分が決めるのか | 任せる作業と、持つ判断を書き分けている |
| 結果を何で受け入れ、何で差し戻すのか | 確認する点と、差し戻す条件が決まっている |
| 問題が起きたとき、誰が説明し、責任を持つのか | 取引先や顧客へ説明する人が決まっている |
| どのデータを、どの承認済みのAIへ、誰の承認で入力してよいか | 入力できる情報と、承認する人が決まっている |
たとえば、毎週の報告資料をAIに下書きさせる場合を考えましょう。担当者とAIに任せるのは、元データの整理と下書きです。管理職が先に決めるのは、何のための報告かという目的と、AIに入力してよいデータの範囲です。
管理職は、その結果を受け取ったうえで、自社の方針と食い違っていないかを確かめます。さらに、数字の動きや書きぶりに違和感がないかを感じ取れるかどうかは、業務を知る経験豊富な管理職にかかっています。違和感があれば、担当者に差し戻して確認させましょう。
答えに詰まった質問が、いま管理職が決めるべき判断です。担当者に任せきりにせず、担当者に確認しながら、自分の言葉で決めます。入力してよいデータの範囲は、社内の規程や担当部門と確認して決めます。
最初の一歩は、自分の課題をAIに相談すること
ここまでは、実作業を任せたうえで管理職が持つ判断の話でした。ここからは話が変わり、管理職ご自身がAIを使ってみる場面です。判断に必要な理解は担当者の報告を聞くだけでなく、まず自分でもAIを使ってみることで得られます。
最初の一歩は、自分が抱えている課題をAIに相談して、どうやればより楽になるかを聞いてみることです。AIの使い方自体も、AIに相談すればよいのです。文章で伝えるのが苦手なら、音声入力でも構いません。どんなに小さなことからでもよいので、まずは触ってみてください。
ただし、最初に社内で使ってよいAIと利用ルールを確認しておきましょう。確認できない場合は、実際の業務データを入力せず、利用の可否を決める社内の担当者や権限者への確認が先です。
AIに相談するときは、実在の顧客や取引先、個人が特定できる情報を使わず、状況を一般的な例に置き換えて伝えます。たとえば、毎週提出している報告を、どうまとめれば楽になるかを、AIに聞いてみる。それだけでも、AIに何ができるかが分かるはずです。
まとめ:実作業は任せ、判断は管理職が持つ
なぜAIを使うのかを、自部門の目的として示すのは管理職です。人は本当に必要だと思わなければ動かないからこそ、DXもAIも、やることより先に、なぜやるかを考え、目的を達成する手段として考えるべきなのです。
本記事では、苦手を分けるのは年齢だけではなく、触れた経験と必要性だと考えました。そのうえで、実作業は得意な人やAIに任せ、目的・委任範囲・受入基準・説明責任の判断は手放さないこと、判断のために一通りの理解を持つことを整理しました。任せ先は、年齢ではなく、技能と権限で決まります。
貴社でも、次の3つから始めてみてはいかがでしょうか。
- AIに関する仕事を、任せてよい実作業と、自分が持つ判断に書き分ける。
- 判断について、5つの質問に自分の言葉で答えられるかを確かめる。
- 社内で使ってよいAIと利用ルールを確認したうえで、自分の課題を1つ選び、実データを使わずにAIに相談する。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。


