郵便番号はDXの走りだった?非構造データと構造化データの活かし方

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DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めようとすると、たいてい最初に「まずはデータを整えましょう」と言われます。しかし、データの収集は、派手な成果が見えるわけでもなく、地道な努力が必要な手間のかかる作業です。しかも「構造化データ」「非構造データ」といった言葉が飛び交い、正直なところ何がどう違うのか、実感としてつかみにくいのではないでしょうか。

本記事では、この「整える」という作業の正体を、郵便番号という誰もが知っている仕組みから読み解きます。「DX」という言葉が生まれるより前から、同じことは繰り返し起きてきました。読み終えたとき、構造化データと非構造データの違いを自分の言葉で説明でき、「整える」ことがなぜ変革の入り口なのか、そして自社のどこに「人にしか読めない情報」が眠っているかに気づけるはずです。

【本記事の要点】

  • 住所は人間向けの表記で書き方に揺れがあり、そのままでは機械が正しく処理しにくい。非構造データに近い状態である
  • 郵便番号は、その住所を機械がそのまま扱える数桁のコード(構造化データ)に変換した仕組みで、これにより郵便物の区分を機械にまかせられるようになった
  • 郵便番号が決まった当時「DX」という言葉はなかったが、やったこと(人にしか読めない情報を機械が扱える形に整えて変革を起こす)は現在のDXと同じ構造である
  • 同じ発想はインターネットのURL(ページの住所)にもあり、世界中の情報を誰でも探せる状態をつくった

「構造化データ」と言われても、ピンとこない

DXの解説を読むと、必ずと言っていいほど「データの整備が土台になる」と書かれています。ただ、データ整備は大切な仕事ですが地味な作業です。新しいシステムを入れる話や、AIで分析する話に比べると、既存のデータをそろえる作業は成果が見えにくく、後回しにされがちです。

言葉の壁もあります。そもそも「構造化データ」「非構造データ」という用語自体が、日常ではまず使わない耳慣れないものです。そこで、まずはこの2つを整理しておきましょう。

  • 構造化データ:表計算ソフトの表のように、行と列がきっちり決まっていて、機械がそのまま計算・検索できるデータ
  • 非構造データ:文章、画像、手書きのメモ、自由記述の備考欄のように、人間は読めるけれど機械にとっては意味を取りにくいデータ

とはいえ、この定義だけを覚えても、自分の会社の何がどちらなのかは判断しにくいものです。そこで、身近な例に置き換えてみます。取り上げるのは郵便番号です。

郵便番号は、住所の「読み方」を機械に渡した

表記が揺れる住所を郵便番号へ対応づけ、機械による自動仕分けを可能にする流れ

郵便物のあて先である住所は、典型的な「人間向けの情報」です。同じ場所でも、丁目や番地を漢数字で書く人がいれば算用数字で書く人もいます。建物名を省く人もいれば、部屋番号まで丁寧に書く人もいます。人間は多少の揺れがあっても読み取れますが、機械にとっては、この表記の揺れが処理を止める原因になります。

日本郵政グループの沿革によれば、1968年(昭和43年)に、3けたまたは5けたの郵便番号制が実施されました。目的は郵便物の区分作業の機械化です。郵便番号自動読取区分機が番号を読み取り、あて先の地域ごとに郵便物を仕分ける。郵便番号を設定することで、それまで人手に頼っていた作業の一部を、機械に渡せるようになったのです。

さらに1998年(平成10年)には、7けたの郵便番号制へ移行します。番号だけで町域まで特定できるようになり、住所のほぼすべてを数字として扱えるようになりました。さらに、現在ではバーコード化とあわせて、定形郵便物の区分はほぼ自動で完結するところまで進んでいます。

ここで起きたことを整理しましょう。

観点住所の表記郵便番号
主な読み手人間機械
書き方人によって揺れる(漢数字と算用数字、建物名の省略など)桁数の決まった数字コードで1つに定まる
機械の処理表記の揺れで止まりやすいそのまま読み取って仕分けできる
データの性質非構造データに近い構造化データ

住所を桁数の決まったコードに対応づけたことで、機械が住所を「読める」ようになり、仕分けを自動化できました。郵便番号は、住所そのものを書き換えたのではなく、機械が扱える「読み方」を住所に1つ添えた仕組みなのです。

出典・参照:

郵便番号は、DX以前のDXだった

人向けの情報を整えて機械処理へ渡し、業務の進め方を変えるDXの基本構造

郵便番号制度が始まった1968年に、DXという言葉はありませんでした。

「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が最初に提唱されたのは2004年、スウェーデンの研究者エリック・ストルターマンらの論文だと言われています。番号が7けたになった1998年の時点でも、その概念はまだ世に出ていません。

それでも、郵便番号でおこなわれたことは、いまDXと呼んでいる取り組みの骨格とよく似ています。名前がつくより前に実践されていた、いわばDX以前のDXです。

DXは、しばしば「デジタル技術とデータを活用して変革をもたらすこと」と説明されます。その土台にあるのは、人間にしか解釈できなかった情報を、機械が処理できる形に整える作業です。郵便番号は、まさにそれをやったのです。

住所という揺れのある情報に、機械が1通りに読めるコードを与え、その結果として区分という業務の進め方そのものを変えた。技術こそアナログですが、発想はいまのデータ活用と変わりません。

この見方に立つと、「データを整える」は地味な準備作業ではなく、変革の入り口だとわかるのではないでしょうか。整えなければ機械にまかせられず、まかせられなければ業務は変わりません。順序が逆に見えるだけで、整えることと変えることは同じ一続きの流れの中にあるのです。

出典・参照:

WEBの住所も、同じ発想でできている

現実の住所に対応する郵便番号と、WEBページに対応するURLの共通点

同じ発想は、インターネットにも見つかります。現在のWEB上の各ページには、URLという住所が割り当てられています。これも「機械が扱える住所」です。

人間にとってのページは「あの会社の採用情報のページ」といった曖昧な指し方で足りますが、機械が正確にたどり着くには、ただ1つに決まる文字列が必要です。URLはその役割を果たしています。

郵便番号が現実の場所に機械可読のコードを添えたのと同じように、URLはWEB上の場所に機械可読の住所を与えたのです。両者には、「人が使う名前」と「機械が使う識別子」を分けて用意する、という共通の発想が読み取れるでしょう。

ここで見落とされがちなのは、インターネットという通信網そのものは、URLより前から存在していたという点です。1980年代の終わりには、大学や研究機関のコンピュータはすでにネットワークでつながっていました。ただ、目的の情報にたどり着くには相手のコンピュータや取り出し方を正確に指定する必要があり、限られた専門家のための道具でした。

そこにURL(世界共通の「ページの住所」の書き方)と、ページ同士をつなぐ仕組みが加わって、World Wide Web が生まれます。住所さえ書けば、世界中のどのページも1つに特定できる。リンクでたどれる。検索で探せる。インターネットの発明そのものも大きな転換点でしたが、それを誰もが使える価値ある存在に変えたのは、URLという地味な住所の取り決めだったのです。

郵便番号とURLに共通するのは、場所や住所、ページやネットワークそのものを新しく作ったわけではない、という点です。すでにあるものに、機械が読み取れる「共通の読み方」を1つ添えただけ。それだけのことが、郵便では全国規模の自動仕分けを実現し、インターネットを一部の専門家の道具から誰もが使う場所へと変えました。

大きな変化の足元には、たいてい「読み方をそろえる」という地味な一手がある。半世紀のあいだに、私たちはそれを郵便とWEBで二度経験してきたわけです。

出典・参照:

まとめ:整えることが、変革の本体だった

郵便番号を手がかりに見てきたのは、構造化データと非構造データの違いが、そのまま「機械にまかせられるか、まかせられないか」の違いだということです。住所は人間には読めても機械には読みにくい非構造データに近く、郵便番号はそれを、桁数の決まったコード、つまり構造化データへ変換しました。

だからこそ区分の機械化が進み、郵便物は以前より速く、少ない人手で、大量にさばけるようになりました。人にしか読めなかった情報を機械が扱える形に整え、そこから新しい価値を生み出す。それがDXの本質だとすれば、郵便番号は名前がつくずっと前から、すでにDXを実践していたことになります。

いま多くの企業が取り組んでいるデータ整備も、突き詰めれば郵便番号と同じ「読み方をそろえる」作業です。たとえば、次のようなものがあります。

  • 「株式会社」「(株)」「㈱」がまざった取引先名を、1つの書き方に統一する
  • あちこちの部門に別々に登録された同じ顧客を、1件にまとめる
  • 「2026/9/5」「令和8年9月5日」「9月5日」と書かれた日付を、同じ形式にそろえる
  • 商品を指す「型番」「品番」「商品コード」の呼び名と桁数を、全社で1つに決める

どれも、人にしか読めない情報に、機械が読める形を与える作業です。そのうえで初めて、自動化や分析が乗ってきます。

自社の顧客台帳や在庫のメモを開いて、書き方が人によってバラバラな項目はどれか、一度眺めてみてください。その項目こそ、機械にまかせる前に「読み方」を決める価値がある場所です。半世紀前の郵便番号がやったことを、規模を小さくして自分の会社でなぞってみる。DXの土台づくりは、そこから始まります。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。