- share :
海外のDX(デジタルトランスフォーメーション)ニュースは、国も分野もばらばらに届くため、1つずつ追いかける時間はなかなか取れないという方も多いのではないでしょうか。しかも、発表されたばかりの政策や事件は、どこまで決まっていて、どこからがまだ構想や捜査の途中なのかが見えにくいものです。
2026年9月下旬には、データの活用、サイバー対応、重要インフラの守りを、個々の企業の努力だけに任せず、制度や共通の基盤、公的な資金で支えようとする動きが、複数の国で同時に見られました。本記事では、中国、スイス、米国、EU、豪州の5つのニュースを、それぞれの発表がどの段階にあるのかとあわせて解説します。
【本記事の要点】
- 中国は10業種のデータ活用施策を打ち出して安徽省で初回の取り組みを始め、EUはデジタル捜査の共通標準づくりに資金を用意した
- スイスは製品・重要データ・クラウドを1つの法律で束ねる起草を決めたが、法律はまだ成立していない
- FBIは、求人ポータルが侵害され職員の個人情報に影響したという犯罪集団の主張を捜査中で、侵害点や被害範囲は確定していない
- 豪州は、港湾でサイバー事案と異常気象の双方を想定して訓練するシミュレーション基盤を公表した
中国:製造・医療・物流・金融など10業種でデータ活用の集中施策を開始
中国の国家データ局は2026年9月22日、10の業種でデータ資源の開発と利用を集中的に進める施策を打ち出しました。対象として挙げられたのは、次の10業種です。
- 工業製造
- 医療健康
- 金融サービス
- 交通物流
- 現代農業
- エネルギー・電力
- 文化観光
- 教育
- 商業流通
- 公共事業
国家データ局のサイトに掲載された中国中央電視台(CCTV)の報道によると、施策の柱は、データ活用を妨げている障害を取り除くこと、実際の応用場面を軸に業界ごとの「データ革新連合」を組成すること、参加者のあいだで利益を分け合う新たな仕組みを整えることの3つです。初回の取り組みは、安徽省で自動車と医療健康を中心に始まったと報じられています。
一方で、期限や予算といった全体の細目は、これらの記事からは確認できません。全国規模の施策の打ち出しと、一部地域での初回の取り組みの着手という段階であり、成果が出た施策ではない点に注意が必要です。
それでも、業界のデータを個々の企業が抱え込むのではなく、連合という共通の枠組みで持ち寄り、利益の配分まで制度として設計しようとしている点は、データ活用を国の産業政策として進める方向性をよく表しています。
出典・参照:
スイス:製品・重要データ・クラウドを束ねる新サイバーセキュリティ法の起草を決定
スイス連邦参事会は2026年9月25日、独立した「連邦サイバーセキュリティ法」の起草を、連邦国防・国民保護・スポーツ省に指示しました。この法律は、議会から出されていた次の3つの動議を1つにまとめたものです。
- デジタル要素を含む製品のサイバー耐性
- とくに重要なデジタルデータの保護
- ホスティング事業者やクラウド事業者のサイバーセキュリティ上の役割
協議のための草案は、2027年6月までに作成される予定です。スイス政府は、EUのサイバーレジリエンス法を手本にすることで、国際的に活動する企業の負担を抑える考えも示しています。2025年4月から施行されている重要インフラのサイバー攻撃の報告義務も、新しい法律に取り込まれます。
注意したいのは、今回の決定があくまで起草の指示であり、法律が成立したわけではないことです。誰にどのような義務が課されるのか、いつ施行されるのかは、今後の草案と議会の審議で決まります。製品、データ、クラウドという、これまで別々に議論されがちだった論点を1つの法律で束ねようとする設計が、今回のニュースのポイントです。
出典・参照:
FBI:求人ポータルの侵害と職員の個人情報への影響の主張を捜査
米連邦捜査局(FBI)は2026年9月23日、サイバー犯罪集団が、FBIの求人ポータル「fbijobs.gov」を侵害し、FBI職員の個人情報に影響が及んだと主張していることを把握し、調査していると発表しました。
現時点で確定しているのは、FBIがこの主張を認識し、調査中だという事実までです。侵害が起きた場所がFBI本体のシステムなのか、ポータルの運用に関わる第三者の事業者なのかは確定していません。被害を受けた人数や、流出した情報の項目、悪用の有無も、FBIの発表からは分からない状態です。
このニュースで注目したいのは、侵害点がFBI本体か外部の事業者かという点が、まだ確定していないことです。侵害点が本体か外部の事業者かによって、誰の管理範囲で起きたことなのかが変わります。その責任の境界が、今後の調査でどう示されるかが焦点になるでしょう。
出典・参照:
EU:デジタル捜査とデータ形式の標準化に650万ユーロの公募を開始
欧州委員会は2026年9月25日、域内治安基金(Internal Security Fund)を使い、デジタル捜査とデータの標準化を支援する事業の公募を始めました。予算は次のとおりで、応募の締切は2026年12月15日です。
| 分野 | 予算 | ねらい |
|---|---|---|
| デジタル捜査 | 500万ユーロ | 法執行機関の捜査能力とサイバー犯罪対策の道具を高める |
| 標準化 | 150万ユーロ | 適法なデータアクセスと証拠の取り扱いのため、相互に使えるデータ形式と通信プロトコルをつくる |
合計650万ユーロという規模は、EU全体の政策としては大きなものではありません。それでも、国ごとにばらばらになりがちなデジタル証拠の形式や受け渡しの手順を、共通の標準でそろえようとする方向は、国境を越える犯罪や捜査への対応に欠かせない基盤づくりと言えます。
出典・参照:
豪州:港湾のサイバー事案と異常気象を想定した訓練用シミュレーション基盤を公表
豪州国防省は2026年9月18日、大学や産業界との共同研究で開発した、港湾向けの危機シミュレーション基盤を公表しました。このシミュレーション基盤を開発した目的は、現実に近いサイバー事案と深刻な気象被害の双方を想定し、連鎖的に広がる運用上の課題に対して、港湾の運営チームが判断を下し、業務を立て直す力を訓練するためです。豪州国防省は、医療や緊急対応の分野へ応用できる可能性にも触れています。
港湾は、物流を支えるシステムと、天候の影響を直接受ける現場が一体になった重要インフラです。サイバー事案と自然災害という性質の異なる危機を、1つの訓練基盤で扱い、連鎖的な影響への判断をチームで鍛えようとする点に、重要インフラの守り方の変化が表れています。
出典・参照:
まとめ:データとインフラの守りを、個社の努力から共通の仕組みへ
5つのニュースは、国も分野も、発表の段階もばらばらです。それでも並べてみると、中国、スイス、EU、豪州の4件には、データの活用やサイバー対応、重要インフラの守りを、個々の企業や組織の努力だけに任せず、共通の仕組みで下支えしようとする方向が見えてきます。一方、FBIの件は、そうした仕組みが問われる手前で、責任の境界がまだ定まっていない捜査中の事例です。
| ニュース | 段階 | 今回のニュースが示すこと |
|---|---|---|
| 中国の10業種データ活用 | 全国施策の打ち出しと、安徽省での初回の着手 | 業界ごとのデータ連合と利益配分の仕組みづくり |
| スイスの新サイバーセキュリティ法 | 起草の指示 | 製品・データ・クラウドを束ねる法制度づくり |
| EUのデジタル捜査・標準化公募 | 公募の開始 | 捜査とデータ形式の共通標準づくり |
| 豪州の港湾シミュレーション | 公表 | 複合的な危機を想定した訓練の基盤づくり |
| 米国のFBI求人ポータルの侵害の主張 | 捜査中 | 侵害点と、組織・外部事業者の責任の境界がまだ分からない |
日本の中小企業にとっても、データの共有やサイバー対策、災害への備えを自社だけで抱え込むのか、業界や地域の共通の仕組みとどう付き合うのかは、これから避けて通れない問いになりそうです。世界の制度づくりの動きは、その問いを考えるための材料を与えてくれます。
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。




