【有識者に聞く➇】DXを神棚に祀るな|東京理科大学・高橋伸夫教授が語る「目的起点」で始める本当に成果が出るDX

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東京理科大学 経営学部経営学科 教授 高橋 伸夫氏

東京理科大学 経営学部経営学科 教授 高橋 伸夫氏1

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が一人歩きする現代、多額の投資をしながらも失敗に直面する企業は少なくありません。そもそも、DXがもたらす本質的な価値とは何なのでしょうか。今回は、組織論・経営戦略論の第一人者である東京理科大学の高橋伸夫教授にインタビューさせていただき、50年にわたる技術変遷の歴史を踏まえ、大企業が陥りがちな「システムありき」の罠や、身近なツールである「エクセル」を用いた驚くほどシンプルな変革のアプローチを解き明かします。システムに「使われる」のではなく、現場が主体的に「使いこなす」ためのヒントが、ここにあります。

【本記事の要点】

  • DXの本質は、システムやデータの導入そのものではなく「何のために行うか」という目的を明確にすることにある
  • ヤマヒロやワイズマートの事例が示すように、エクセルや無料の共有シートといった身近な手段でも、目的を持って活用すれば立派なDXになる
  • いきなり大がかりなシステムを導入するのではなく、まずは手元でできる範囲から始め、段階的に発展させていく進め方が現実的である

技術が進歩しても「何を実現するか」は今でも重要

高橋先生のご専門分野を教えていただけますか。

高橋氏

東京理科大学 経営学部経営学科 教授 高橋 伸夫氏2

「専門は経営学です。細かく言うと組織論が中心ですが、経営学全般を扱っています。東大時代は経営学や経営管理などを教えており、東京理科大学に移ってからは経営戦略論を担当しています。」

経営学、なかでも組織論を軸に長年研究されてきたのですね。理科大に移られてからは経営戦略論をご担当とのことですが、こちらにいらしてどのくらいになりますか。 

高橋氏

「三年半になります。任期は五年ですので、残り一年半ほどです。」

理科大に移られて三年半とのことですが、長年組織論を研究されてきたお立場から伺います。高橋先生は、DXに取り組む意義をどのように捉えていますか。 

高橋氏

「かつては『経営情報システム(MIS)』や『情報化』がもてはやされていました。私が1970年代の大学生だった頃から、コンピューターでデータベースを作る議論をしており、実はアイデア自体は50年前から変わっていません。

当時はシステムが高価で導入もうまくいかず、失望感がありました。しかし現在は、安価なパソコンや充実したソフトにより、中小企業でも手軽に取り組める時代です。昔に比べるとデータベースのソフトも充実していますので、入力さえしてしまえばという世界になっていると思います。技術革新により格段にやりやすくはなりましたが、やろうとしている本質は昔と同じだという印象です。」

技術は発達しても、目指すところは50年間あまり変わっていないのですね。

高橋氏

「そうですね。ただ、当時は想像もできなかったWEBやAI、持ち運べる小型端末が登場したことで、活用の可能性や入力の利便性は飛躍的に向上しました。」

「データありき」の発想がDXを失敗へ導く

多くの日本企業がDXに取り組む中、目的が曖昧なケースも見られます。DXはイノベーションにつながるのでしょうか。

高橋氏

「卒業論文でDXを研究する学生がいますが、先行研究を調べると、その測定基準が『ベンダーとの契約有無』などになっていて、目的の曖昧さを感じます。

もう四半世紀も前になりますが、当時見学した先進的な病院では、既に電子カルテやレントゲンの電子データ化を導入していました。しかし、入院から退院までの計画を示す『クリニカルパス』は、合併症のある複雑な症例には使えず、一部の限定的なケースでしか機能していませんでした。さらに、データ化されたレントゲンも、医師がカンファレンスの際に放射線透過写真観察器(シャウカステンという名前らしい)で示すためにわざわざフィルムに現像し直していました。

また、手の空いたテレマーケティングのスタッフが手動でデータ入力を行っており、結局は誰かが入力作業に追われています。今でも医師が患者を見ずに、パソコンの入力に集中している光景をよく見かけますが、これではシステムに『使われている』状態です。

大企業には膨大なデータがあっても、明確な目的もなく集めたデータは活用できず、イノベーションにはつながりません。」

製造分野でも、せっかく3次元で作ったデータを、他部門でわざわざ2次元に変換して使っているような非効率なケースを耳にします。

高橋氏

「それも『何のためにデータを作るのか』という目的が不明確だからです。ただデータを集めるだけではイノベーションは起きません。」

「何をするか」という目的が腹落ちしていないから、現場が変わらないのでしょうか。

高橋氏

「原因は『データありき』で進めているからです。目的さえ明確に決めれば、話は比較的シンプルです。」

目的あるデータ活用が現場主体のDXを育てる

目的を決められない企業は、体質的に変わるのが難しいのでしょうか。

高橋氏

「そんなことはありません。例えば、日本経営品質賞を受賞したガソリンスタンドの『ヤマヒロ』という会社があります。彼らは自社の取り組みを「DX」とは呼びませんが、素晴らしい仕組みを構築しています。

車が来るとナンバーを読み取って顧客情報を表示するシステムですが、最初は社長の『とにかく入力しろ』という指示で、地道にデータを蓄積することから始まりました。データベースが完成すると、現場もその便利さに気づきます。押し売りをせず、データに基づいて適切なタイミングでオイルチェックや、買い替え時期に合わせた中古車販売の提案ができるようになったからです。

しかも、レンタカー事業で不要になった状態の良い車を、データを使って既存顧客に提案することで、中古車販売も軌道に乗りました。目的を持ってデータを集め、活用したからこそ生まれた成功例です。」

ヤマヒロの経営者は、データベースを何のために使うか意識して作らせたのでしょうか。

高橋氏

「少なくとも『ナンバー読み取りシステムと顧客情報を結びつけ、車が入ってきた瞬間に情報を表示する』イメージは持っていたようです。ただ、のちの中古車販売につながるレンタカー事業との連携までは、最初は考えていなかったと思います。」

目的を持って構築したことで、結果的に副産物のような効果が生まれたのですね。

高橋氏

「その通りです。『とりあえず入力しろ』だけでは現場もやりがいを感じませんが、実際にお客さんの情報が画面に出て会話に活かせるようになると、『次はこんな提案ができるかも』と現場主体で次のステップへ進めるようになります。」

ヤマヒロの経営者は「こういうことをやりたいから入力してほしい」と伝えていたのでしょうか。

高橋氏

「詳しい伝え方は分かりませんが、システム自体は既存のソフトを使ったもので、大企業がやるような大がかりな投資はしていません。セルフスタンドで手の空いた時間にスタッフが入力していたようです。実際に運用が始まり、成果が出てから全員が『こう使うのか』と理解したのだと思います。最初から完璧な完成形をイメージするのは難しいですからね。」

一度便利だと分かれば、自主的にデータを更新・蓄積する好循環が生まれますね。

高橋氏

「そうですね。便利さが実感できれば、データの精度も自然と上がっていきます。」

エクセル一枚でも経営は変わる:ワイズマートの実践

DXを成功させるための秘訣やポイントはありますか。

高橋氏

「『小さな成功の積み重ね』に尽きます。もう一つ、同様に日本経営品質賞を受賞した駅前スーパーの『ワイズマート』の事例を紹介します。

この会社は、前日の売上や利益を表形式(エクセルみたいなイメージ)で表示するシステムを自前で作って使っていました。数年後にはシステムが進化しており、時間帯別部門別速報の機能も追加されていました。各部門の担当者と店長が行う15時ミーティングでこのシステムを見ると、『何が余っていて、何が足りないか』『この天気なら何が売れるか』が一目で分かります。資料作成の手間なく、その場で『夕方の売り方』を効率よく決められるため、売れ残り防止に大いに貢献していました。

これも社長は、DXとは呼んでいませんでした。しかし、ミーティングの効率化という明確な『目的』に役立っており、立派なDXです。」

成功企業に共通するのは、自分たちの取り組みを「DX」だと思っていない点ですね。

高橋氏

「そうですね。ちょっと失礼な言い方になりますが、『エクセルに毛が生えたもの』からスタートしても、実用上はそれで十分です。まずは『車が入ったら情報が出る』『時間ごとの売上が見える』といったシンプルな目的を果たすだけで価値があります。

そこから『もっとリアルタイムにしよう』『天気予報も連動させよう』と、少しずつ進化させていけばいいのです。Googleスプレッドシートの共有から始めるだけでも十分な第一歩です。」

DXportal®編集部

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