「見える化」の価値は、進捗を聞かなくても動けることにある【編集部考察】

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「あの件、どうなっていますか」

この確認に、書き手は相手ごとに同じ答えを返し、聞く側は返事が来るまで手が止まる。そんな往復に覚えはないでしょうか。進捗を見える化すればよいと言われても、上司が部下を見るための仕組みのように聞こえて、導入に抵抗がある方もいるかもしれません。

本記事では、見える化の価値を、管理する人が見ることではなく、関係者が聞かなくても動けることから考えます。DXportal®編集部の進捗シートの運用と、私の知人が運営する約30人で動く動画制作チームの運用を材料に、見える化に欠かせない更新と、人を見張らないための線引きまでを整理します。

なお、本記事でいう報告は、定型的な進捗報告や同じ内容の確認の反復を指し、法定の報告や承認、事故の連絡は対象外です。

【本記事の要点】

  • 見える化は管理する人が見る道具と受け取られやすいが、目的は異常の早期発見や業務の見直し、情報共有にも広がっている
  • 責任者が信頼できる一カ所に最新の状態を書けば、書き手は同じ報告を繰り返さず、見る側は返事を待たずに動ける
  • 更新が止まると見る側は再び人へ聞くことになるため、更新の決めごとと、見せる対象を人ではなく仕事の状態にする線引きが必要になる
  • 見える化が減らすのは会話ではなく、状態の読み上げである

見える化は、管理する人のための道具と受け取られている

異常の把握と進捗を聞かずに動くための共有進捗ボード

見える化と聞くと、管理する人が状況を把握するための道具を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。この受け取り方には、歴史的な根があります。一方で、公的な資料に書かれた見える化の目的は、管理だけにとどまりません。

見える化の根にある「目で見る管理」

見える化の根の1つに、トヨタ生産方式の「目で見る管理」があります。『トヨタ自動車75年史』(第4項 トヨタ生産方式の構築と展開)は、これを次のような仕組みとして説明しています。

  • アンドンと呼ばれる表示装置を、各ラインの監督者からよく見える位置に置く
  • 異常が発生すると点灯させ、監督者がすぐに現場へ飛んでいって処置をとる

上郷工場は、1966年にこのアンドンを設置しました。

アンドンは、異常を表示で知らせ、監督者はそれを見て、すぐに現場で処置をとります。つまり、管理する人が見て動くための見える化は、現場で実際に使われてきたのです。

この考え方を企業活動全体へ広げて体系化した代表的な著作が、遠藤功氏の『見える化』(東洋経済新報社、2005年)です。本記事では、同書を、見える化を管理の文脈で語る資料の1つとして扱います。

出典・参照:

管理だけが目的ではない

一方で、公的な資料や企業の公式な説明が挙げる見える化の目的は、次のように管理だけではありません。

資料見える化の目的
中小企業庁『2018年版中小企業白書』業務の見える化を、業務プロセスの見直しの1つに位置づけ、形骸化した不要な業務の発見につながると整理している
IPA『製造分野DXガイドサマリー』生産活動の見える化に加えて、PCやタブレットを使った、いつ誰でも可能な情報共有を挙げている
トヨタ自動車「トヨタ生産方式」異常を見える化して再発防止につなげ、不良品を後の工程に流さない。人を機械の監視役にせず、生産性を高めることを目指している
  • 異常を見つけて是正する
  • 不要な業務を見つける
  • 必要な情報を必要な人がいつでも取りに行ける

見える化の目的は、見る人だけでなく、動く人を助けるところまで広がっています。

管理する人が状況を把握し、遅れや負担の偏りに早く気づく見える化は、今も欠かせません。私も、その価値を否定するわけではありません。

そのうえで、見える化には「聞かなくても動ける」という、もう1つの価値があるのではないか。この問いを、次章ではDXportal®編集部の運用から考えます。その前に、自社の見える化が誰のために作られているかを、振り返ってみましょう。

出典・参照:

進捗シート1枚で、報告と確認の往復が減る

編集長の更新からデザイナーの自主確認とサムネイル設置へ進む共有シート

ここからは、DXportal®編集部の運用を、編集長である私の経験としてお伝えします。

編集長は、書いておけば報告しなくて済む

私は、毎日3本ずつ記事を公開していくにあたって、進捗シートをつけています。記事の進み具合をシートで見える化することは、私の進行管理にも役立ちます。同時に、事業部の責任者など、進捗を確認する立場の人にも共有できます。

その人たちが、常日頃からシートをチェックしているとは限りません。それでも、いつでも見られるという安心感があることは間違いないでしょう。そして私は、いちいち報告を上げなくても、「ここに書いてあります」「書いてある通りに進めています」と言える。これが、進捗シートを共有した見える化の利点だと思っています。

書き手が一度、信頼できる場所に最新の状態を書く。見たい人は、見たいときに見る。これだけで、同じ内容を相手ごとに報告し直す手間がなくなるのです。

デザイナーは、自分の予定で確認してサムネイルを付ける

もう1つの例が、デザイナーとのやり取りです。月に数本しか記事を上げていなかった頃は、記事を公開処理するたびに、チャットワークでデザイナーへWordPressのURLを渡し、サムネイルの設置を依頼していました。しかし、1日3本の体制になると、そのつど連絡するのは非効率だと感じるようになり、いまの形に切り替えたのです。

いまは、私がネタを作ってWordPressを開き、そのURLを進捗シートに貼っておきます。デザイナーは、自分のスケジュールの中でシートを確認し、サムネイルを付け、サムネイル管理タグを「設置済み」に変更するだけで一連の流れが完了するのです。

渡す側の私は、URLを伝える手間が減ります。受け取る側のデザイナーは、連絡を待つのではなく、自分の予定の中で確認して動けます。報告する側の手間と、確認する側の待ち時間の両方が減るのです。このことだけを考えても、1枚のシートで全部が見える化できていることには意味があると思っています。

在宅・フレックスで働くチームでは、見える化の意味が表れやすい

異なる場所と時間で働くメンバーが共有ボードを確認する非同期チーム

この運用が編集部で効果を発揮しているのは、デザイナー、編集長、ライターが、在宅勤務を含むフレックスな形で働く体制だからかもしれません。そこで本章では、時間も場所も異なる人が集まるチームの条件を整理します。

同じ場所にいないチームでは、進捗の確認が課題になりやすい

厚生労働省が2026年3月に公表した『令和7年度 テレワークの労務管理等に関する総合実態調査』は、2025年8月5日から9月5日に実施された調査です。テレワークを実施している企業2,541社が、課題として挙げた項目は、次のとおりです(複数回答)。

テレワークの課題割合
従業員同士の間でコミュニケーションが取りづらい30.7%
業務の進捗確認が難しい18.3%

顔を合わせない働き方では、コミュニケーションや進捗の確認が課題として表れる企業があることを示す一例です。

デジタル上のやり取りについては、Treem、Leonardi、van den Hooffが2020年の論文で整理しています。情報が直接の宛先だけでなく、第三者にも時間や場所を越えて見えるという特徴です。この特徴は、同じ場所にいない人たちが、同じ最新の状態を各自の都合で確認できる仕組みを支えます。

進捗の確認が課題になりやすいチームほど、見える化の出番が来やすい。私は、そう考えています。

出典・参照:

動画編集チームの運用

ここで、私の知り合いである、KANAさんの事例を紹介します。KANAさんは、動画編集のディレクターとして約30人のプロジェクトチームを運営し、案件の管理にNotionを使っています。案件管理の考え方は、YouTubeの動画(『【仕組み化】チーム構築で失敗しないためのNotion活用術|案件管理のリアル』)でも解説されています。

KANAさんが案件管理でいちばん大切にしているのは、案件ごとの情報の「住所」を決めることです。素材はここ、台本はここ、担当者はこの人、納期はここ、と決めて1つのNotionページにまとめておく。これであれば、わからないことがあったときでも、そのページを見れば誰もがひと目で必要な情報を探すことができます。

しかし、この「住所」が決まっていないと、素材はここ、タイトルはこのチャット、台本はスプレッドシート、というように情報がばらばらになってしまい、メンバーから「最新版はどこですか」と聞かれるたびにいちいち個別に答えなければなりません。KANAさんは、これはメンバーが悪いのではなく、住所を決めていない側の問題だと考え、Notionでの情報の見える化を思いついたのです。

また、連絡はチャットで行い、確定した情報はNotionに貼るという役割分担もあります。チャットは情報が流れてしまうため、残すべき情報の置き場にはなりません。納期や素材が変わったときも、チャットだけで終わらせずNotionに保管する。ページに置くのは、誰が、何を、いつまでに、どこを見て、どこに出すのか、という最低限の情報です。最初に置く項目は、次の5つです。

  • 案件名
  • 担当者名
  • 素材
  • 納期
  • 進捗

さらに、使いながら毎回迷う箇所に気づいたら項目を足していきます。ただし、便利にしようと最初から項目を増やしすぎることは、かえって危険だとKANAさんは注意しています。

Notionでは、同じ案件の情報を、一覧、担当者ごと、ステータスごと、カレンダーと、見方を切り替えて確認できます。確認待ちの案件、修正中の案件、納品済みの案件が一覧で分かるため、ディレクターが頭の中で追いかけ続けなくて済むのです。あわせて、請求もNotion上で管理しており、月ごと、担当者ごとの作業分を一覧で出せるそうです。

また、KANAさんはNotionに案件ごとの動画の方向性に加えて、すべての案件に共通する編集者としての心構えや、細かいマニュアル(動画で作ったものもあるといいます)も置いてあります。以前はメンバー1人ひとりに個別に出していたこうした指示を、1カ所に置けば各自で確認できます。

個別に伝える手間がなくなり、ディレクターとしての効率化が大きく進んだのは間違いないでしょう。載せる場所を1つにし、ディレクターが書いてメンバーが確認する形は、当編集部の進捗シートと同じ考え方です。

出典・参照:

場所はNotionでもスプレッドシートでも構わない

進捗を見える化する場所は、Notionでもスプレッドシートでも何でも構いません。大切なのは、責任者や担当者がそれぞれ記載していくことで、すべての人がそれを確認できることです。この見える化によって、いちいち報告する手間が減り運用も楽になるのです。

つまり、見える化にとってデジタルは目的ではありません。場所と時間が違う人が、同じ状態を信頼できる形で見るための手段に過ぎないのです。たとえば、オフィスなど同じ場所で働く少人数のチームなら、ホワイトボードのほうが適している場合もあるでしょう。要は、得たい成果から手段を選ぶことのほうが先なのです。

更新が止まると、見える化は信用を失う

更新が止まった共有ボードと最新状態を保つ共有ボードの対比

進捗を1カ所に書いておけば、聞かずに済む。この仕組みは、書かれた状態が最新だという信頼の上に成り立ちます。

見る側は結局、人へ聞くことになる

数人で回していると、シートを更新しなくても、いちばんそのシートを使っている人が理解していれば仕事は成り立ちます。しかし、請求のときや月末などに更新していないと、シートが機能せず役に立たないことがあり得ます。更新していなければ機能しないことは、運用の中で実感しています。

更新が止まると見る側が再び人へ聞くことになるのはなぜでしょうか。これは、見る側の立場で考えると分かりやすいでしょう。一度、古い状態を信じて動いて手戻りが出れば、次からはシートを見たあとに、念のため人へ確認しなければならないようになってしまいます。

すると、シートの維持と個別の確認の両方が残り、見える化の前より手間が増えます。これは研究で確かめられた事実ではなく、私の経験に基づく考えです。

そこで、更新については次の5点をあらかじめ決めておきましょう。

決める項目内容
更新する人誰が書くのか。責任者が書くのか、担当者が書くのか
欄ごとの書き手同じ表の中でも、どの欄を誰が書くのかを分け、色分けして一目で分かるようにする
更新の頻度いつ時点の情報か、どの頻度で書き直すのか
変更がないとき「変更なし」と日付を書き、更新が止まったのではないと分かるようにする
期限を過ぎた状態期限を過ぎた行を、色や欄で一目で分かるようにする

欄ごとの書き手の分け方は、私がインタビューライターと使っている進捗シートの例を紹介します。このシートは請求のシートも兼ねていて、ライターが書く欄、編集部の私が書く欄、本社の経理担当がチェックする欄の3つを、色で区分しています。つまり、3人がそれぞれ自分の欄だけを書けば、誰がどこを更新するのかを聞かずに済む状態にしているわけです。

人を見張る見える化とは線を引く

見える化で見せる対象は、人ではなく仕事の状態です。担当や期限、完了条件、障害、次の判断を見せることと、人の行動を常時見張ることは別のものです。

トヨタ生産方式の公式な説明も、人を機械の監視役にせず、生産性を高めることを目指すとしています。一方、職場の電子的な監視を調べた研究には、慎重な見方を促すものがあります。

Ravidらが2022年に発表したメタ分析(複数の研究結果をまとめて分析する手法)は、94の独立した標本、23,461人を対象にしています。この分析では、電子的な業績監視が業績を改善する証拠は得られず、従業員のストレスの増加と関連したと報告されました。

共有する表を監視システムと同じものとして扱うことはできませんが、見せる対象を人の行動へ広げるときの目安になります。

そのため、見える化では次の線をあらかじめ引いておくとよいでしょう。

  • 見せる対象は、人ではなく仕事の状態にする
  • 目的は、評価の材料を増やすことではなく、同じ質問と待ち時間を減らすことにする
  • 進捗率のように数値にしやすい指標だけで、仕事の価値を決めない
  • 全員に全部の情報を見せず、目的に応じて閲覧の範囲を絞る

出典・参照:

まとめ:見える化が減らすのは、会話ではなく状態の読み上げ

見える化の価値は、管理する人が見ることだけにあるのではなく、関係者が聞かなくても動けることにもあります。目で見る管理を根の1つとする見える化は、DXportal®編集部の進捗シートでは、報告する側の手間と確認する側の待ち時間の両方を減らしてくれました。

ただし、聞かなくても動けるのは、書かれた状態が最新だと信頼できるときだけです。更新が止まれば、見る側は再び人に聞かなければなりません。だからこそ、誰がいつ書くのかを、あらかじめ決めておく必要があります。

もう1つ欠かせないのが、見せる対象の線引きです。見せるのは人ではなく仕事の状態であり、人の行動を常時見張ることとは別のものです。この線を引いておくことで、書かれた状態は、安心して見られる情報になります。

見える化が減らすのは、会話そのものではありません。減るのは、担当や期限、現在地といった状態の読み上げです。その分、会議や対話の時間を、判断が必要な話や例外への対応、支援のために使えるようになるのです。

あなたの職場では、誰が誰へ、同じ状態を何度説明しているでしょうか。最初に減らしたい往復を1つ決め、その状態を書く場所と更新する人を決めて、見える化を始めてみてはいかがでしょうか。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。