【タクシー業界DX事例】運転手の高齢化と地域格差|苦境を切り拓くDX事例3選

【タクシー業界DX事例】運転手の高齢化と地域格差|苦境を切り拓くDX事例3選

タクシー業界のDX推進テクノロジー3選

タクシー業界のDX推進テクノロジー3選
出典:cruise公式ホームページhttps://www.getcruise.com/

この章では、DX推進の要であり、タクシー業界の問題点を解決し得る3つのテクノロジーについて詳細に解説していきます。

配車アプリ

配車アプリ

配車アプリとは、スマートフォンの操作だけで、簡単にタクシーを手配できるアプリです。その利便性の高さからタクシー利用者増加の一助になり得ます。

これまで乗客がタクシーを利用する際には、以下の3つのいずれかの方法を取る必要がありました。

  1. 「流し」のタクシーを捕まえる
  2. 駅などにあるタクシー乗り場に行く
  3. 電話で配車を依頼する

当然ながら、「流し」のタクシーは必ずしも乗車したいタイミングで捕まえられるわけではありません。タクシー乗り場でタクシーに乗車する場合も、乗り場までの移動が必要だったり、列に並ぶ必要があったりと利用者にとって負担がありました。電話で配車する場合でも電話での煩わしいやりとりが必要であり、特に不慣れな場所に配車する際は希望の位置を正確に伝えることが難しいなどの課題がつきまといます。

いずれの方法も、利用者に待つことや移動することを求める仕組みとなっており、その煩わしさがタクシー以外の移動手段を選択する一因にもなっていました。

しかし、これまでの方法に配車アプリという選択肢に加わったことで、利用者の利便性は飛躍的に向上しました。GPS機能との連携により、詳細な位置情報を伝えられるため、利用者は大通りや乗り場に移動することなくどこにいても簡単にタクシーを呼べるようになったのです。

また、電話による配車依頼とは異なり、タクシーの現在地をアプリ上でリアルタイムに確認することができるため、より正確な到着時間を把握することがことができるようになりました。正確な到着時間がわかれば、利用者としても待ち時間を効率的に活用できます。

この仕組みは、単にタクシーの位置情報が利用者のスマホ上に表示されるというだけではありません。AIを利用した高度なテクノロジーにより、時間帯や天候など様々なデータを基に各地の交通量を予測して、最短最速で到着できる経路を複雑な計算によって導き出しているのです。つまり、AIの活用により、配車から到着までの時間が最小限に押さえられる仕組みになっているのです。

配車アプリの導入によって、利用者を待たせる時間が減ったことは顧客満足度を高めると同時に、空車率の減少にもつながるため売上アップへの貢献も期待できます。

加えて、アプリ内でキャッシュレス決済が可能であり、乗客にとっては事前に料金を把握できる安心なシステムです。また、これにより降車時の支払いのやり取りがなくなる点は、乗客と運転手の双方にとって大きなメリットでしょう。

タクシー運転手は釣り銭を用意する手間が省け、乗客を降ろすために停車する時間も短くて済みます。また、利用者にとっても「近場で1万円札を出す気まずさ」を経験する必要がなくなり、時代に即したキャッシュレス決済によるポイント獲得などのメリットも享受できるのです。

ICT総研/2021年タクシー配車アプリ利用動向に関する調査
出典:ICT総研/2021年タクシー配車アプリ利用動向に関する調査

2021年2月にICT総研(東京都品川区)が行なった調査では、日本国内の配車アプリ利用者数は2020年末時点で858万人と推計されており、今後ますます上昇傾向になると予測しています。

しかし、同アンケート調査の結果でも、その利用機会は主に都心におけるビジネスでの利用であり、日常的な利用シーンではほとんど利用されていないと報告されました。

その理由の1つには、地方を中心に配車アプリに未対応のタクシーが多いことが挙げられます。

交通経済研究所研究員である山根啓太氏の分析資料「タクシーの配車システムについて」)によれば、2019年時点での配車アプリ導入率は全国で38.1%、東京都以外だと28.9%となっており、明らかな地域差があります。さらに、東京都以外で導入が進んでいる地域も都市部に集中している可能性が高く、そのほかの地域の導入率はさらに低下すると予想できます。

この地域差は2022年現在においても解消されていない可能性が高く、そのことが利便性が高いにもかかわらず、全国的な配車アプリの利用率が8%に留まっている要因の1つだと考えられます。

使える地域や事業者が限られたままでは、配車アプリの利便性を最大限に発揮することはできません。業界全体でタクシー利用の利便性を高めていくためには、今後「タクシー利用客による配車アプリ利用率」と「事業者における配車アプリ導入率」の両方の数字を上げていく必要があることは間違いないでしょう。

しかし、コロナショックによる不況に直面するタクシー会社の中には、配車アプリの導入を希望していても、初期費用などがハードルとなって進められていないという企業が多いのも実情です。その課題を解決する鍵となるのが、次に紹介する「配車システムのクラウドサービス」でしょう。

配車システムのクラウドサービス

配車システムのクラウドサービス

配車アプリ」がタクシー利用客に焦点を当てたBtoCサービスであるのに対して、「配車システムのクラウドサービス」はタクシー事業者を対象にしたBtoBサービスです。

配車アプリがいくら高性能で利便性が高いとはいえ、資金不足であったり設備が十分に整っていなかったりの理由で、すぐには導入できないという事業者はまだまだ多い現状があります。

そういった企業にとって助け舟に成り得るのが「配車システムのクラウドサービス」です。

配車システムのクラウドサービスとは、大まかに言うと「配車に伴う行程を最適化し業務効率化を推進するシステム」を提供するサービスを指します。

AIやGPSなどのITテクノロジーを用い、可能な限り業務を自動化するシステムをSaaS(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)としてパッケージングしており、必要とする企業に提供できるようにしているのです。

例えば、「どこにいけば乗客がつかまえられるか」や「どのルートを通れば効率的か」という判断は、空車率軽減や利益向上のためには欠かせませんが、これまでは会社やドライバーの経験に依存していた部分が大きく、必ずしも合理的な判断が行えていたとは限りません。

しかしAIやGPSを活用すれば、単に走行距離を短くするルート計算だけでなく、配車先の時間指定や駐停車可能位置の確認、時間帯による渋滞情報など現場の制約情報などを加味した配車情報をシステム上で計算ができます。その結果を運転手は手元のスマートフォンやカーナビアプリで受け取ることもできますので、ドライバーの判断に頼らずとも目的地までの最短最速ルートを導き出すことができます。

そのため、不慣れなドライバーでも効率的に売上を増やせるなど、個人の経験や力量に頼らない新しいビジネスモデルを作り上げることができるのです。

システム開発を内製化していない企業であれば運用やメンテナンスを自社で行うよりも、外部ベンダーに依頼したり、既存のシステムを使用したりする方が、コストを抑えて効率的にDXを進められることもあるでしょう。

コロナショックによる一般客のタクシー利用率低下の影響で、どの企業もコスト削減が急務となった影響もあり、システム外注化の需要はより増加しています。

配車システムのクラウドサービスは多数ありますが、どのサービスであっても基本的に配車アプリの導入はサポートしており、配車アプリを全国的に普及させるための足がかりとしての役割が期待できます。

そんな配車システムのクラウドサービスにおける最大手の1つが「電脳交通」です。

出典:電脳交通公式ホームページ

株式会社電脳交通のCEO・近藤洋祐氏は起業前、地元の徳島で廃業寸前だった家業のタクシー会社を引き継ぎ、DXを推進することで再建に成功しています。

近藤氏は、家業のタクシー会社のアナログで属人的だった古い体制を徹底的にIT化し5年で業績をV字回復させた後、2015年に電脳交通を創業。タクシー会社の運営だけでなく自社で開発したシステムがタクシー業界全体の改善に繋がると考え、サービスを他社に販売するという新しいビジネスモデルを構築するに至ったのです。

例えば電脳交通の配車システムを利用する大手タクシー会社「エムケイ」では、システム導入により配車効率は10%改善され、人件費は実質50%カットできたと述べています。

電脳交通は大企業だけでなく地方の中小企業や個人も対象にサービスを展開しており、2022年3月時点での導入エリアは40都道府県に広がっています。

配車システムのクラウドサービスがさらに普及すれば、それに伴い配車アプリも浸透し、タクシー業界の問題解決に繋がることは間違いありません。すでに豊富な実績がある電脳交通を始めとしたクラウドサービスの導入により、コストを抑えつつ効率的に業務を改善することができるでしょう。

参考:電脳交通公式ホームページ

自動運転技術

自動運転イメージ動画/Riding in a Driverless Taxi at CES 2019!(YouTube:Marques Brownlee)

タクシー業界に関するDXとして、現在もっとも注目されている施策が自動運転技術の実用化です。

既にアメリカの一部地域では無人の自動運転タクシーが実用化されており、日本でも2020年代にはこの技術が大きく発展すると期待されています。

自動運転には様々な最先端のテクノロジーが用いられており、大まかな仕組みは以下の通りです。

  1. 車両に搭載されたカメラやレーダーが周囲の状況を捉える
  2. 映像データを解析し対象物(人・車・信号・道路交通標識など)を識別する
  3. AIがアクセル・ブレーキ・ハンドルなど実行判断を下す

ディープラーニング(深層学習)を施した高性能なAIが取得した膨大な情報を元に合理的な判断を下し、安全・安心な自動運転を成立させるのです。

また、自車位置の情報はGNSSによって取得します。

GNSSとは「Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム」の略でGPSなどを含む衛星測位システム群の総称ですが、GPSだけでは受信の行き届かない場所の電波も取得可能です。

その他、高精度な3Dマッピングなども用いられ、誤差数センチレベルでの測位が可能です。自動運転を制御するサーバーと随時通信を行い、道路交通状況が絶えず最新情報に更新されるため、より安全かつ最短のルートが導き出されるなど、これらの技術はすでに実用可能な段階にまで来ています。

ただし、安心・安全なドライビングを実現するためには、滞りのない高速通信を実現することが不可欠であり、5G(第5世代移動通信システム)のさらなる普及がそのための必須条件となっています。

無人による自動運転が普及すればドライバーは不要になるため、人材不足の問題解決を根本的に解決できると同時に、人件費の削減によってタクシーの運賃は低下すると予想されタクシー利用率の向上も期待できます。

アメリカの大手投資管理会社「ARK」の調査によると、自動運転タクシーが普及すれば利用者が支払うコストは、1マイル(約1.6km)当たり1/6程度になるとレポートされています。

日本でも2022年より交通量の少ない地方から段階的に自動運転が導入される予定であり、2025年までに全国的な普及を目指すとのことです。

自動運転技術によるDX推進の波に乗り遅れぬよう今後の動向に注目しましょう。

まとめ

タクシー業界の抱える課題と、解決のためのDX推進施策について解説してまいりました。

業界的にはDXが積極的に進められているとはいえ、タクシー業界はコロナ禍の影響などもあり経営的に厳しい状態にあることや、長期的な人材不足の問題に悩まされてきました。

しかし、今後は配車システムや配車アプリを導入するタクシー会社が増加し、さらに自動運転の実現によってDXは加速度的に推進されていくでしょう。

いざ自動運転が実現する時になってから慌ててDXに取り組もうとしても、先にDXを進めていた競合他社に追いつくことは困難です。タクシー業界のDX推進が徐々に浸透し始めてきた今の時点から、配車アプリや配車システムを取り入れるなど、段階的にDXを推進して新しいビジネスモデルを構築していくほうが、今後ますます激化する業界内で生き抜くために有益であることは間違いありません。

配車アプリや配車システムに未対応なタクシー会社は、現時点での貴社の問題点をしっかりと把握した上で少しずつ状況の改善に取り組んでください。

SNSシェア

この記事の執筆者

DXportal®運営チーム

DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

DXportal®運営チーム

DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

前後の記事

全ての記事を見る

カテゴリーから記事を探す

ちゃちゃっとボットはこちら