中小企業が取るべきSaaSリスク対策

SaaS利用に伴うリスクを完全にゼロにすることは困難ですが、適切な対策を講じることで、その影響を最小限に抑えることは可能です。ここでは、中小企業が実践すべき具体的な対策を解説します。
導入前の慎重な検討
SaaS導入の成否は、導入前の検討段階に大きく左右されます。勢いや流行だけで安易に導入するのではなく、以下の点を慎重に検討しましょう。
導入目的の明確化
「何を解決したいのか」「どのような効果を期待するのか」という導入目的を明確にします。目的が曖昧なままでは、適切なSaaSを選定できず、導入後の効果測定も困難です。
機能・コストの比較検討
複数のSaaSをリストアップし、機能、料金体系、拡張性、サポート体制などを比較検討します。無料トライアルなどを活用し、実際の操作感や自社の業務との適合性を確認することも重要です。
セキュリティ対策状況の確認
ベンダーがどのようなセキュリティ対策を講じているかを確認します。データの暗号化、アクセス制御、脆弱性診断の実施状況、第三者認証(ISO27001など)の取得状況などをチェックします。総務省のガイドラインなども参考に、確認すべき項目をリストアップすると良いでしょう。
利用規約・SLAの精読
利用規約やSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)の内容を十分に確認します。特に、データの所有権、バックアップポリシー、障害時の対応、免責事項、解約条件などは注意深く読み込む必要があります。不明な点があれば、ベンダーに直接問い合わせて確認しましょう。
セキュリティ意識の向上と体制構築
SaaSのセキュリティは、ベンダー側の対策だけでなく、利用企業側の意識と体制も同様に重要です。
アクセス権限の適切な管理
従業員の役職や担当業務に応じて、必要最小限のアクセス権限の付与に留めます(最小権限の原則)。人事異動や退職時には、速やかに権限の見直しやアカウントの削除を行います。定期的にアクセス権限の棚卸しを実施することも有効です。
多要素認証(MFA)の導入
パスワード認証に加えて、SMSコードや認証アプリなど、複数の要素を組み合わせる多要素認証は、不正アクセス対策として非常に効果的です。多くのSaaSがMFAに対応しているため、積極的に導入を検討しましょう。
従業員へのセキュリティ教育
使い回し禁止などパスワードの適切な管理、フィッシング詐欺への注意喚起、不審なメールや添付ファイルの取り扱いなど、基本的なセキュリティ知識に関する教育を定期的に実施します。情報処理推進機構(IPA)などが提供する教材や、標的型攻撃メール訓練などを活用するのも良い方法でしょう。
データ管理とバックアップ
SaaS上に保存されているデータは、企業の重要な資産です。万が一の事態に備え、データ管理とバックアップ体制を構築しておく必要があります。
定期的なバックアップ
多くのSaaSはバックアップ機能を提供していますが、それに加えて、自社でも重要なデータのバックアップを定期的に取得することを推奨します。データの重要度に応じてバックアップの頻度や保存期間を定め、計画的に実行しましょう。
バックアップデータの保管場所は、SaaS環境とは物理的に異なる場所(別のクラウドストレージやオンプレミス環境など)にすることが重要です。
データの棚卸し
不要になったデータや古いデータを定期的に削除・整理することで、管理コストを削減し、情報漏洩リスクを低減できます。
定期的な利用状況の見直し
一度導入したSaaSも、定期的にその利用状況を見直し、評価することが重要です。
利用状況の分析
利用状況の分析 どの機能がよく使われているか、そして利用されていないアカウントが残っていないかなどを定期的にチェックします。特に、退職者や異動者のアカウントが放置されていると、無駄なライセンス費用が発生し続けるだけでなく、セキュリティリスクにもつながりかねません。利用実態に合わせてライセンスの棚卸しを行うことで、コスト削減とセキュリティ強化を両立できます。
コスト対効果の評価
導入時に設定した目的に対して、どの程度の効果が出ているかを評価します。期待した効果が得られていない場合は、利用方法の見直しや、他のSaaSへの乗り換えも検討します。
最新情報の収集
より自社のニーズに合った新しいSaaSが登場していないか、利用中のSaaSに新たなリスクが報告されていないかなど、常に最新の情報を収集するよう心がけましょう。
まとめ:SaaSを安全・有効に活用するために
本記事では、中小企業がSaaSを導入・利用する際に注意すべきリスクと、その具体的な対策について解説しました。
SaaSは、DX推進を加速させ、業務効率化や多様な働き方を実現するための強力なツールであることは間違いありません。しかし、その利便性の裏には、様々なリスクが潜んでいることを忘れてはなりません。
- 情報漏洩や不正アクセスといったセキュリティ上の脅威
- サービス停止・データ消失などの運用継続性に関する問題
- 想定外の費用発生やベンダーロックインといったコスト・柔軟性の課題
- 利用規約や個人情報保護法など法令遵守(コンプライアンス)上のリスク
重要なのは、これらのリスクを正しく理解し、導入前の慎重な検討から、運用中のセキュリティ対策、データ管理、定期的な見直しに至るまで、継続的な管理体制を構築することです。
情報処理推進機構(IPA)や総務省などが提供するガイドラインや注意喚起は、具体的な対策を講じる上で非常に参考になるでしょう。
SaaSを単なる「便利なツール」として捉えるのではなく、自社の重要な情報資産を預けるサービスであることを常に意識し、ベンダー任せにせず、自社でも主体的にリスク管理に取り組む姿勢が求められます。
本記事で紹介した注意点や対策を参考に、SaaSを安全かつ効果的に活用し、持続的な成長を実現を目指してください。
参考文献・引用元
- 情報処理推進機構(IPA):「情報セキュリティ10大脅威」
- 総務省:「クラウドサービス利用・提供における適切な設定のためのガイドライン」
- 個人情報保護委員会:「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。
最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。
2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ