自店の発注体制を点検する基準
自社の発注体制が属人化していないかを点検するには、次のような視点が役立ちます。
- 発注担当者が急な休暇を取った場合、代わりの担当者でも同水準の発注精度を保てるか
- 日配品など、需要変動の大きい商品カテゴリで、発注判断の根拠がデータとして残っているか
- 発注数量の決定理由を、担当者以外の従業員が説明できる状態にあるか
- 発注ミスが起きたとき、原因を「担当者の経験不足」ではなく「仕組みの不備」として振り返れているか
- 棚卸や在庫数、廃棄・値引きのデータが、店舗や担当者によってばらつきなく記録されているか
これらの点検で「担当者次第」という答えが多く出てくるようであれば、発注の属人化が進んでいる可能性があります。すぐに自動発注システムを導入するかどうかは別として、まずは発注判断の根拠を言語化・可視化するところから着手できるはずです。
自動発注は一気に導入しなくていい:中小チェーンが着手する順番
中部薬品やハローデイのような全店舗規模の刷新は、資金や人員に余裕のある企業だからこそ実現できた面もあります。中小チェーンが同じ規模を一足飛びに目指す必要はありません。重要なのは、自社の現在地に合わせて、段階を踏んで発注DXを進めることです。
- 記録する:発注理由や判断基準を、簡単なメモやスプレッドシートでもよいので言語化・記録する
- 揃える:売上・在庫・廃棄・値引きなどのデータを、店舗や担当者によってバラバラの形式ではなく、同じ基準で確認できるようにする
- 試す:需要予測を、いきなり自動発注に使うのではなく、ベテラン担当者の判断を後押しする「判断支援」として使ってみる
- 広げる:予測精度を実績で確認しながら、自動発注に任せる商品カテゴリや店舗数を少しずつ広げる
大規模なシステム投資をいきなり決断できなくても、まずは自店で記録できる範囲からデータを揃えることは、明日からでも始められます。発注DXの第一歩は、システム選定ではなく、自社の発注と棚卸の実態を数字で把握することにあるのです。
よくある質問:発注DXの勘所
自動発注システムはどのチェーンでも同じ効果が期待できますか
中部薬品・ハローデイの成果は、それぞれの店舗数・商品構成・データ整備状況を前提としたものであり、すべてのチェーンで同じ数値の効果を保証するものではありません。自社の発注データがどの程度整理されているかによって、導入後の効果や定着までの期間は変わります。
導入すればベテラン担当者の経験は不要になりますか
不要にはなりません。ベテラン担当者の経験は、システムが算出した発注数を最終的に確認・微調整する場面や、天候急変やイベントなどの想定外要因への対応で引き続き重要です。自動発注は担当者の判断を置き換えるのではなく、判断の土台となるデータを整える役割を担います。
小規模なチェーンでも取り組めますか
400店舗規模の中部薬品のような大規模導入だけでなく、ハローデイのように数店舗の試験導入から始め、段階的に拡大していく進め方も可能です。まずは発注データの整備状況を確認し、どの範囲から着手できるかを検討することが現実的な出発点になります。
まとめ:発注DXはノウハウを組織の資産にすること
発注の属人化は、ベテラン担当者の能力が高すぎるために起きる問題ではありません。その判断根拠を言語化・データ化する仕組みがないために起きる、組織側の課題です。
中部薬品やハローデイの事例が示すように、需要予測型自動発注への移行は、発注担当者を置き換えるためではなく、属人化したノウハウを組織全体で扱える資産に変えるための取り組みです。
ただし、その移行は発注システムを導入するだけで完結するものではありません。
- 発注
- 入荷
- 在庫
- 棚卸
こうしたひとつながりのサイクルの中に、深夜の手作業のようなアナログな工程が残っていれば、需要予測の精度はそこで頭打ちになります。中小チェーンにとって重要なのは、いきなり全店舗・全工程を刷新することではなく、まずは記録できる範囲からデータを揃え、精度を確かめながら任せる範囲を広げていく姿勢です。
自店の発注や棚卸が、特定の担当者の経験と深夜の手作業に依存していないか、その担当者が不在の日に何が起きるか。まずはその実態を確認するところから、発注DXの検討を始めてみてはいかがでしょうか。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。


