荷物追跡とデリバリーの地図|見えると、待つのは楽になるのか

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Uber Eatsなどでデリバリーを頼んでいるとき、ついつい配達員が今どこにいるのか、アプリで確認してしまうことはないでしょうか。

昔のそば屋の出前には、遅いと思って電話をすると「今出ました」と言われるという笑い話がありましたが、今は、配達員が料理を受け取ったところなのか、こちらへ向かっているところなのかまでアプリで分かります。

また、宅配便の追跡画面でも、今は自分の荷物がどの状態にあるのかを簡単に確認することができます。

どちらも「見える」画面ですが、画面が見せているものは同じなのでしょうか。そして、これらが見えると、待つ気持ちは楽になるのでしょうか。

本記事では、宅配便の追跡とデリバリーの地図が見せているものの違いを解説します。そのうえで、見えることが待つ気持ちをどう変えたのかを考えてみましょう。

【本記事の要点】

  • デリバリーの地図が見せているのは、配達員のおおよその現在地と到着予定時刻である
  • 宅配便の追跡が見せているのは、荷物の位置ではなく、バーコードで記録された工程の出来事である
  • 見える待ちは安心を生む一方、到着が近づくほど焦れも生み得る
  • デジタルは待ちを消さず、待ち方を確かめられるものに作り替えた

デリバリーの地図を見ながら待つ|「今出ました」の時代との違い

配達員のおおよその現在地と到着予定時刻を、地図とスマートフォンで示した図

デリバリーのアプリ上で地図に出る配達員の位置は、いったい何を表しているのでしょうか。この章では、デリバリーの地図が何を見せているのかを整理します。

画面で分かるようになったこと

私も実際に注文したあとの待ち時間に、配達員が料理を受け取ったところか、向かっているところかが分かる機能は、とても重宝しています。いつごろ着くのかという予測が立つので、仕事の合間にデリバリーを待つとき、いつ手を止めればよいかの目安になり安心感につながるからです。

Uber Eatsは、日本でサービスを始めた2016年9月の時点で、料理中、配達中、到着といった状態の表示を案内していました。現在の公式ヘルプでは、配達員が割り当てられると、地図上の位置と到着予定時刻を確認できるとしています。

こういった機能が生まれる前は、せいぜい店に電話をかけて問い合わせるぐらいしか方法がありませんでした。そしてこの場合は、店の返事を信じて待つしかなかったのです。しかし今は、利用者が自分の画面で確かめられます。これは、大きなデジタル革命の1つではないでしょうか。

出典・参照:

見えているのは「おおよその現在地」と予定時刻

地図に出る配達員の位置は、配達員のスマートフォンの位置情報をアプリが取得し、注文者の画面に反映したものです。Uber Eatsの配達パートナー向けの契約(2022年8月版)は、注文者に見せる位置を「おおよその位置」と表現しています。また、タクシー配車サービスのUber公式ヘルプも、通信の状況や端末の位置情報の設定によって、位置の取得や地図の表示に問題が起こり得るとしています。

つまり、到着予定時刻は保証された時刻ではないということです。公式ヘルプによると、注文時には2つの見積もりが示されます。1つは配達予定時刻、もう1つは過去の類似した注文に基づく「最も遅い到着予定時刻」です。どちらの時刻も、交通や天候、店の混雑による変動を前提にした見込みです。

また、店が自社の配達員で届ける注文では、Uber Eatsの地図は出ない場合もあるのです。

さらに、場合によっては配達員の位置情報が、地図の上で一見自分の家から遠ざかって行くように見えたり、止まって見えたりするときはないでしょうか。その理由として、複数の注文を回っている途中や、店で調理を待っている場合があると、出前館のヘルプは説明しています。

配達員は個人であり、地図に見えているのは、そのおおよその現在地です。配達パートナー向けの契約は、この位置を配送サービスの提供前から提供中にかけて注文者に表示すると定めているに過ぎないのです。

この画面を成り立たせているのは、配達員の端末の位置と注文の状態をつなぎ、利用者が判断できる表示に翻訳する、デジタルの仕組みにほかなりません。

出典・参照:

荷物追跡の「配達中」が示しているのは、位置ではなく出来事

受付、拠点通過、持ち出し、配達完了という荷物追跡の工程を示す図

デリバリーの場合と違って、宅配便の追跡画面に表示される「配達中」の文字は、荷物がいまいる場所をピンポイントで示しているわけではありません。この章では、宅配便の追跡画面が何を見せているのかを、仕組みと歴史から確かめます。

バーコードが記録する工程の列

宅配便の追跡は、送り状にあるお問い合わせ番号を、荷物を見分ける鍵にしています。この仕組みでは、次のような工程ごとにバーコードを読み取り、その記録を中央のシステムに集めるようになっています。

  • 荷物を引き受けたとき
  • 拠点に着いたとき
  • 配達に持ち出したとき
  • 届けたとき

追跡画面は、番号にひも付いた最新の状態と履歴を、人が読める言葉で表示したものです。

ヤマト運輸の現行の表示は、「荷物受付」から「発送済み」「輸送中」「作業店通過」「配達店到着」「配達準備中」を経て、「配達中」または「持ち出し中」へと進みます。広い物流網を、少数の状態に圧縮した表示です。

ここで注目したいのが、「配達中」の意味です。ヤマト運輸のFAQでは「お届け先へ配達中」と説明され、システムの表示以上の詳細な現在位置は案内できないとされています。デリバリーの場合と違い、一般的な宅配便の追跡が見せているのは連続した位置の地図ではなく、主として工程の出来事です。

画面の言葉も、事業者が選んだ表示です。日本郵便は2025年10月から、レターパックの「到着」の表示を廃止しました。表示の言葉は、自然にそうなったものではなく、何を利用者に見せるかを決めた設計の結果でしょう。

つまり、宅配便の追跡画面とデリバリーの地図画面とでは、見えているものも、その元になるデータも異なっているのです。違いは、次のとおりです。

項目宅配便の追跡デリバリーの地図
見せているもの受付、拠点の通過、持ち出し、配達完了などの工程の出来事配達員のおおよその現在地と、到着予定時刻
データの出どころ各工程でのバーコードの読み取り配達員のスマートフォンの位置情報
待つ人が分かること荷物がどの工程まで進んだか向かっているか、あとどのくらいか

出典・参照:

事業者に尋ねる時代から、自分で見る・決める時代へ

追跡の仕組みは、現場の端末とともに育ちました。

事業者時期内容
ヤマト運輸1980年バーコード付きの送り状とペン型の読み取り端末を採用
佐川急便1985年全国貨物追跡システムを稼働。「荷物の到着を待ちわびるお客さまに、荷物がどこにあるのかをお答えするため」と説明

利用者が自分で調べられるようになったのは、インターネットの普及後です。

  • ヤマト運輸:1998年にインターネットの荷物お問い合わせを提供開始
  • 佐川急便:1999年6月にホームページで追跡サービスを開始
  • 日本郵便:2005年度までに、ゆうパックなどのインターネットの追跡を提供開始(確認できる範囲内)

それ以前は、利用者が自分の手元荷物の状態を確認することはできず、電話などで直接事業者に問い合わせるしかなかったのです。

その後の変化は、3段階にまとめられます。

段階内容事業者の動き
1. 自分から見に行く追跡番号を入力して、状態を調べるインターネットによる追跡調査
2. 向こうから届く通知荷物の側から、お届け予定をメールやLINEで知らせるヤマト運輸は2002年にメール通知、2016年にLINEでの荷物照会と日時変更を開始。日本郵便は2019年にLINEの配達予定通知を開始
3. 自分で決める受け取り方法日時や場所を変える、置き配を指定するヤマト運輸は2020年にEC向けの置き配、2024年に宅急便の置き配を開始。佐川急便も2024年に荷受人が選べる置き配を開始

つまり、荷物の追跡サービスは、知るだけの道具から、受け取り方を決める道具へと広がっていったのだと考えることができるでしょう。

出典・参照:

企業側にとっての意味

利用者が荷物の状態を画面や通知で確認でき、日時の変更もその場で済ませられるようになると、わざわざ電話やメールで問い合わせてくる利用者が減ることが予想されます。その分、企業の問い合わせ対応の手間も減ると考えてよいでしょう。

同じ工程の記録が、利用者には安心を、企業には問い合わせ対応の省力化をもたらすと考えられます。

見えると安心し、近づくほど焦れる

配送の進捗が見えることで安心と焦れの両方が生まれる流れを示す図

代替テキスト候補:

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ここで、別の疑問が湧き上がってこないでしょうか。それは、荷物の状況が見えるようになると、待つ気持ちは本当に楽になるのか、という問題です。この章では、見えることが待つ気持ちにどう作用するのかを、待ち時間を調べた既存の研究から考えていきましょう。

情報があると、待ちを受け入れやすい

追跡の情報が見えることで、安心したり、焦れたりすることは起こり得ます。数値で測ったわけではありませんが、実際にそういうことはあると私は思います。

実は、この感覚を裏付ける、待ち時間に関する心理研究があるのです。それは、1996年に発表された、サービスの待ち時間を対象とした実験です。待つ人に「どのくらい待つことになるか」という見込みを伝えたときの反応を調べました。

調べた項目見込みを伝えた結果
待った長さの感じ方短くならなかった
待っている間のコントロール感保たれた
待ちの受け入れやすさ、サービスの質の判断コントロール感を通じて影響した

この結果から見えてくるのは、荷物の到着見込みを伝えても、必ずしも待ち時間そのものが短く感じられたわけではないということではないでしょうか。変わったのは、待っている間の「状況を自分で分かっている」という感覚に過ぎません。

いつごろ終わるのかが分かれば、待つ人は先の予定を立てたり、ほかのことをして待ったりできます。つまり、感じる時間が短くなったのではなく、待ち方を自分でとらえられるようになったから、同じ長さの待ちでも受け入れやすくなったと考えられます。

荷物の追跡やデリバリーの地図が与えているのも、同じ種類の安心です。到着までの時間は変わらなくても、いまどの工程にあるのか、どこへ向かっているのかが見えれば、待つ人は「あとどれくらいか」を自分で判断し、待ち方を決められるようになるというのが、これらのサービスが存在する価値なのかもしれません。

出典・参照:

到着が近いほど、終わりを求める気持ちが強まる

ところが、見えることは安心だけを生むわけではありません。それを裏付けてくれるのが、2024年に発表された研究です。この研究では、待ちの終わりが近づくほど焦れが強まるかどうかを、荷物の到着を想像してもらう実験で調べました。

実験想像してもらった場面比べた条件結果
16日または12日で届く荷物を注文し、6日待ったその日のうちに届く/さらに6日後に届くその日のうちに届くと想像した人のほうが、焦れが強かった
28日で届く荷物の位置を、1日ずつ見る荷物が目的地から1マイル(約1.6km)/100マイル(約160km)の位置にとどまる1マイルのほうが焦れも終わりを求める気持ちも強く、届いたあとの配送サービス評価(7つ星満点)も低かった(平均3.70、100マイルは4.41)

結果から明らかなように、待った期間が同じでも、終わりが近いほうが焦れやすくなったということがおわかりでしょう。つまり、終わりが近づくと待つ気持ちが楽になるどころか、焦りが強まることもありそうです。

追跡画面や地図は、まさに「終わりまでの近さ」を見せる道具です。見えることで、あとどれくらいかが分かって安心できる一方、荷物や配達員が近づくほど、終わりの近さも画面に映し出されます。その結果、「もう着くはずなのに」という気持ちが強まり、画面を何度も開いてしまうのだと考えられます。

また、実験2では、近い位置で止まった荷物ほど、配送サービスの評価も低くなりました。終わり間際に動きが止まって見えると、待つ人の見方も厳しくなりやすいということなのでしょう。デリバリーの地図で、配達員の位置が止まって見えたり、遠ざかって見えたりしたときに落ち着かなくなる感覚も、これに通じるのかもしれません。

つまり、待ち時間の「見える化」は、安心と同時に焦れの両方を連れてくるということです。

追跡サービスや位置情報を示す地図は、待つ人の判断材料を増やしました。同時に、気持ちを落ち着かせるだけでなく、気持ちの揺れを映す画面にもなっているのかもしれません。

出典・参照:

まとめ:待ちは消えず、「確かめられる待ち」になった

荷物追跡もデリバリーの地図も、待っている人に「いま何が起きているか」と見通しを返します。そして、何も分からなかった待ちを、確かめられる待ちに変えました。それは確かです。つまり、デジタルは待ちを消さず、待ち方を作り替えたのです。

ただし、画面が見せているものは、すべて同じではありません。宅配便の追跡は、バーコードで記録された工程の出来事です。デリバリーの地図は、配達員のおおよその現在地と到着予定時刻です。これらを可視化することで、見えるほど安心する一方で、近づくほど焦れも生じやすくなります。

次に荷物の追跡やデリバリーの地図を開いたときは、画面に出ているのが位置なのか、記録された出来事なのかを、少し意識して眺めてみてはいかがでしょうか。画面の見え方が少し変わるかもしれませんよ。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。