どれだけAIやデジタルが進化しても、「街角の赤ポスト」はなくならない【街で見つけたDX】

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街中にポツンと佇む赤い郵便ポスト。スマートフォン1台で契約も申請も買い物も完結する時代に、あの赤い箱は変わらず街角に立ち続けています。

「郵便物が減っている現代、郵便ポストの意味はどこまであるのか」

「そもそも自社の郵送業務はどこまで残すべきか」

こうしたことを感じている経営者や担当者もいらっしゃるはずです。

本記事では、街角の赤ポストを入口にDX(デジタルトランスフォーメーション)の本質を読み解きます。読み終えたとき、赤ポストが「時代遅れの遺物」ではなく「残す価値があると社会が選んだサービス」に見え、貴社の郵便業務を見直す最初の一歩が踏み出せる状態を目指します。

【本記事の要点】

  • 赤い郵便ポストは、法制度と社会的信頼機能によりDX時代でも意図的に街へ残されている
  • 郵便物は20年余りで約45%減少し、2024年10月には郵便料金が約3割値上げされた
  • DXは全てをデジタルへ置き換える運動ではなく、残すものと変えるものを設計する営みである
  • 自社の郵送業務は棚卸しで大半を見直せるが、信書ルールと取引先都合の理解が前提となる

AIが進化しても、街から消えなかったもの

AIが進化しても、街から消えなかったもの
編集部にて撮影
  • 生成AIによる文章作成
  • 電子契約
  • オンライン申請行政のマイナポータル対応

この数年でデジタル化は加速しました。それでも赤い郵便ポストは全国の街角から姿を消していません。日本郵便が総務省へ提出した資料によれば、郵便差出箱(郵便ポスト)は2022年度末時点で全国におよそ17.5万本設置されています。

一方で使われ方は明らかに変化しています。同資料では、全国の郵便ポストのうち約3.9%は月間投函数が30通以下、いわば「ほぼ使われていないポスト」に該当します。それでも撤去が一気に進まないのは、後述する法律上の義務と、地域の信頼インフラとしての位置づけがあるためです。

つまり赤ポストは「デジタル化で役目を終えた」のではなく、「社会が意図的に残しているインフラ」と捉えることができます。

出典・参照:

郵便ポストは「古い仕組み」なのか

「郵便=アナログの象徴」というイメージが根強くありますが、実務の視点で見ると赤ポストは今も社会の信頼を支える機能を担っています。ここでは制度と数字の両面から現状を整理します。

郵便物は減っている、しかしゼロにはならない

日本の内国郵便物数は2001年度の約262億通から、2022年度は144億通へと20年余りで約45%減少しました。ピーク時から半分近くにまで縮小した計算です。

加えて2024年10月1日には、25g以下の定形郵便物が84円から110円へ、はがきが63円から85円へと約3割値上げされました。郵便配達という業務モデルは、取り扱う郵便物が減っているのに値上げが必要という、ある意味歪んだ構造にあるのです。

それでも郵便でしか送れない文書がある

  • 契約書請求書
  • 領収書
  • 内容証明

これらのいわゆる「信書」は、郵便法および信書便法により送達方法が制限されています。総務省の『信書のガイドライン』および『信書の送達についてのお願い』では、これらの文書は宅配便で送ることができず、郵便もしくは特定信書便で届ける必要があると明示されています。

つまり郵便は「古い」から残っているのではなく、法律により残されている領域があり、そこに社会的な信頼機能が集約されているという構図です。

出典・参照:

赤ポストが撤去されない構造的理由

数字だけ見れば「経済合理性がないのになぜ残るのか」と感じるかもしれません。答えは制度側にあります。ここでは、赤ポストが街角から消えない構造を法制度と政策議論から読み解きます。

ユニバーサルサービス義務という前提

郵政民営化法および郵便法により、日本郵政・日本郵便には郵便のユニバーサルサービス、すなわち「あまねく公平に」提供する義務が課されています。都市部で採算が合わないポストであっても、地域全体としての公平性を維持するために撤去には慎重な判断が必要です。この制度が、赤ポストを一気に減らせない最大の理由です。

見直しは「撤去」ではなく「再設計」

日本郵便は2024年問題を含めた環境変化を踏まえ、普通郵便の土曜配達休止やお届け日数の繰下げなど、サービス水準の見直しを段階的に進めてきました。総務省の情報通信審議会でも、料金制度やユニバーサルサービスの在り方が諮問(第1239号)され、報告書がまとめられています。方向性は「一律撤退」ではなく、「必要な機能を維持しながら持続可能な形へ再設計する」ものです。

赤ポストが街角に残るのは、惰性でも懐古趣味でもなく、社会全体のコスト・信頼・公平性を天秤にかけた意思決定の結果だと理解できます。

出典・参照:

DXとは「なくすこと」ではなく「選ぶこと」

ここが本記事の中心テーマです。赤ポストを見て気づかされるのは、DXとは「すべてをデジタルへ置き換える運動」ではないという事実です。本章では、DXを「置き換えるDX」と「残すDX」の二側面から整理します。

「置き換えるDX」と「残すDX」

DXには二つの側面があります。一方は、業務や体験を電子化・自動化して価値を上げる「置き換えるDX」。もう一方は、人にとって欠かせない機能を意図的に維持する「残すDX」です。赤い郵便ポストは後者の代表例と言えます。

  • デジタル手続きが苦手な高齢者
  • 緊急時の紙による通知
  • 法的に紙が求められる文書

これらを一気に消せば、社会は効率化ではなく分断へ向かってしまいます。

海外にも見られる「デジタル包摂」の思想

デンマーク政府が公表している『Principles for Digital Inclusion』では、デジタル化を進める過程で誰も排除しない設計思想が繰り返し語られています。行政サービスを電子化する国として世界的に知られるデンマークでさえ、「デジタルにできる人」と「そうでない人」の両方を前提に制度設計を行っているのです。

DXが目指すべきは「デジタル100%」ではなく、「必要なデジタルと、残すべきアナログを設計すること」です。赤ポストは、その設計思想が街角で可視化された事例に他なりません。

出典・参照:

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。