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株式会社大丸松坂屋百貨店IT戦略本部DX推進部長・AnotherADdress事業責任者 田端竜也氏

新規事業にDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用したいものの、既存の基幹システムや社内の縦割りが壁となり、企画が実行まで届かない。貴社にも、そうした課題はないでしょうか。
この問いに、企画者が実行まで責任を負う体制で向き合ってきたのが、大丸松坂屋百貨店IT戦略本部DX推進部長の田端竜也氏(以下:田端氏)です。田端氏はファッションサブスク「AnotherADdress」の事業責任者として、基幹システムと組織を本体から切り離し、約半年でサービスを立ち上げました。現在はLLM(大規模言語モデル)を用いた「AIスタイリスト」と店頭接客の融合にも挑んでいます。
本記事では、企画と実行を分けない設計が新規事業の進め方をどう変えるのか、百貨店の既存資産をDXで生かす考え方とあわせて聞きました。
【本記事の要点】
- 企画者が実行まで担う「企画と実行の不可分化」という新規事業の進め方
- 基幹システムと組織を本体から切り離し、約半年で立ち上げた経緯
- LLMとリアルな接客の融合で、百貨店の既存資産を生かす構想
「企画と実行の不可分化」で、DXを新規事業の実装までつなげる
DX推進部の役割から教えてください。
田端氏

「DX推進部はIT戦略本部の下にあり、大丸松坂屋百貨店におけるIT全領域を担当しています。IT戦略本部は、グループのJ.フロントリテイリング(JFR)のIT戦略本部と同名で、同じ本部長が兼務し、グループ全体のIT戦略を統合して見る組織です。
本部内にはシステム企画(情報システムの保守やCRM*1、基幹システム*2などを担当)と事業開発があります。システム企画はいわゆる情シス(社内の情報システム部門)に近い部署です。
私は新規事業領域を担当しており、『AnotherADdress』が最も新しい取り組みです。ちなみにDX推進部は、2020年に澤田【氏名・役職を要確認】が大丸松坂屋百貨店の社長に就任し、同年9月にデジタル事業開発部として新設され、2021年9月にDX推進部へ名称を変更しました。」
*1:顧客情報を管理し、販売やサービスに生かす仕組み
*2:会計・販売・在庫など、企業の中核業務を支えるシステム
DX推進部は2020年にデジタル事業開発部として発足し、2021年に現在の名称へ変わったのですね。組織名にDXが入った時期と、取り組みが実際に始まった時期は、分けて見る必要がありそうです。
大丸松坂屋百貨店でDXが本格化したのは、DX推進部の立ち上げ時からだったのでしょうか。
田端氏
「『DX』という言葉が使われ始めたという意味ではそうです。ただ、私は現場研修後にホールディングスのIT新規事業開発室へ配属され、名称は変われども『ITでどうイノベーションを起こし、システムを統合するか』を一貫して行ってきました。それをDXと呼ぶなら、原点はずっと以前からあったと思います。」
田端さんは売り場運営の後、ITを活用したスタートアップ周辺の新規事業開発に注力されたそうですね。現在は企画と実行が分離されていないスタイルだと理解しています。
田端氏
「そういうと聞こえはいいのですが、以前はかなり分離していました。ホールディングス時代は数多くの企画や実証実験を行い、各種ベンチャーへの出資も手掛けました。
たとえば、4Gやテレビ会議システムが出始めた頃、和歌山の外商顧客(百貨店が個別に対応する得意客)が東京の催事会場に来られない課題に対し、PC操作型のロボットで会場を巡る実験や、ハプティクスセンサー(ユーザーに力や振動、動きなどにより触覚的なフィードバックを与える技術)で服の質感を感じる試みを行いました。
また、米国の事前注文(現在のスターバックスのモバイルオーダー)をデパ地下や婦人用品売り場に導入できないか検証したほか、画像解析技術で監視カメラから性別・年齢・接触回数等のマーケティングデータを取得する試みも行いました。
こうしてスタートアップの技術とニーズを掛け合わせて企画・実証実験を行い、成功すれば事業会社へ引き渡していましたが、この『実行の分離』は社内の大きな課題でした。そのため今回の『AnotherADdress』では分離させず、ホールディングスで企画したものを自ら持ち込み実行まで担当しています。」
環境負荷の高いファッション業界を変える意志と、ファッションで自己表現する人を増やす意志。この2つが事業の大義になったと理解しました。課題の本質を見極めてから事業を設計する姿勢は、新規事業を考える各企業にも参考になりそうですね。
「ファッションニューライフ」を事業パーパスに掲げ、サブスクで新しい価値を創出
「AnotherADdress」のコンセプトと、顧客に届けたかった価値を教えてください。
田端氏
「AnotherADdressは、もともと澤田とともに構想していた事業です。彼の百貨店異動に合わせて私も異動し、DX推進部で事業化を進めることになりました。当初から大規模な投資を伴う事業だったため、百貨店の事業基盤を活用しながら育てていくことを選びました。
百貨店自体が米国のモデルを取り入れた背景もあり、シリコンバレーが再燃した2016〜17年頃、上司から『米国でビジネスモデルを学び日本に持ち込む取り組みを立ち上げないか』と打診されたのがスタートです。
当時流行していたSaaSのように、モノを『as a Service』で活用する流れや、ファッションのシェアリングサービスがユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業) 化する勢いに着目しました。ただ、出資や日本でのジョイントベンチャー(JV)設立を模索したものの、既存事業とのカニバリゼーション(新規事業が既存事業の顧客を奪ってしまうこと)や体制面・言語面の壁があり一度は頓挫してしまったのです。
そのため、帰国後は本場のマインドに触れたことで起業も考えましたが、『会社のリソースで学ばせてもらった以上、社内でやるべきだ』と周囲からも引き留められ恩返しを決意したというのが本音です。その際、経営トップから『ディスラプト(新しい価値を創造し、既存市場や業界のパワーバランスを変える力)の時代だからこそ、20〜30年後にディスラプトされる領域を考えて動いてほしい』とミッションが与えられました。
議論の末、定めたのが次の3つです。
- シェアリング:『as a Service』と所有を使い分ける消費の流れ
- リユース:二次流通価格を考慮した『実質コスト』の視点。一次流通と二次流通の立場が逆転し、急速にディスラプトされる領域
- D2C:OEM・SNS・Shopify等の普及による『規模の経済』の市民化。ナショナルブランドの直販化が進めば百貨店の存在意義が問われるリスク領域
これらを投資や社内ベンチャーで推進すると定め、最初に深く取り組んだのが『AnotherADdress』です。根底には、大丸松坂屋百貨店の社是『先義後利』(道義を先にして利益を後にする考え方)とグループビジョン『くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。』があります。
呉服屋から始まり、時代の変化に合わせて価値を提供してきた歴史を踏まえ、単なる『モノ売り』ではなく社会を変える大義が必要だと考えました。
そこで定めたのが『ファッションニューライフ』です。背景には、石油産業に次ぎ環境負荷が高いとされるファッション業界の環境問題があります。大量生産・流通を担ってきた大手小売として、誇れるビジネスモデルへ転換することが大義です。
もう1つが『ファッションエンパワーメント』です。かつてのようにファッションで自己表現する人が減り、ファストファッションの台頭でデザイナーズブランドを着る機会が減っている現状は業界の衰退につながります。ファッションは誰しもが自己実現し、人生を豊かにするツールだと伝える事業が必要であり、それがサブスク型サービスへと結実しました。」
「AnotherADdress」のコンセプトと、顧客に届けたかった価値を教えてください。
田端氏
「デザイナーズブランドの市場はこの30年で半減し、それを支えてきてくれたセレクトショップも減少しています。縮小する市場のなかでシェアを奪い合うのではなく、市場そのものを拡大する必要があります。人間にとって服は自己表現の手段であり、社会との接点をつくる欠かせないコミュニケーションツールです。本質的な価値が失われることはないと考えています。
しかし『クローゼットが狭い』『子育てや共働きで余裕がない』『収入が増えない』などの制約から、ファッションの優先順位が下がっているのが現状です。けれども、気軽に良い洋服を着られれば周りから褒められ、気持ちは高まるはずです。
このことから、私たちはファッションの価値が損なわれているのではなく、その手前にある『制約』こそが課題だと考えました。AnotherADdressは、その壁を取り除くために企画したサービスです。
届けたい価値は、百貨店やPARCO、GINZA SIXが自分のクローゼットになり、いつでも自由に引き出せる体験です。身軽かつ手軽に自己実現でき、着なくなる無駄も減らせます。さらに環境に配慮した行動へ自然と移行できる状態を目指しています。」
執筆者
DXportal®運営チーム
DXportal®編集部
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