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DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む会社の計画書や会議では、「DX化を進めよう」という言葉がよく使われます。短く、誰にでも通じる便利な言葉です。ただ、その「DX化」で何を叶えたいのかをあらためて問われると、すぐには答えにくいと感じる方もいるのではないでしょうか。
その感覚は、決しておかしなものではありません。言葉が便利であるほど、その言葉だけで話が前に進んでしまい、本来の目的が後ろに下がることがあります。DXportal®は、「DX化」を誤りだとは考えていません。そのうえで、編集方針として、この言葉を基本的に使わないことにしています。
本記事では、「DX化」という言葉がなぜDXの目的を見えにくくし得るのかを、経済産業省の定義と「目的・変革・手段」の3つの階層から整理し、貴社の計画書にある「DX化」の一文に目的を戻せるかを点検する視点をお伝えします。
【本記事の要点】
- 「DX化」は誤りではなく、公的な場でも民間でも使われる便利な言葉だ
- ただし「化」を付けると、DXすること自体が目的のように聞こえ、叶えたいことが文から抜けやすい
- 叶えたいこと、それを実現する変革(DX)、手段としてのデータ・デジタル技術という3階層で考えると、目的と手段を取り違えにくい
- 「DX化を進める」と書いたら、その文に「誰の何を、どう良くしたいのか」を戻せるかを点検する
「DX化」は間違いではない:広く通じる便利な言葉
最初にはっきりさせておきたいのは、この記事が「DX化」という言葉を取り締まるものではない、ということです。
私は、「DX化」を間違った言葉だとは思っていません。社内の会議でも、取引先との打ち合わせでも、「DX化」といえば話が通じます。最近はWEBなどでも、「DX化を支援します」とうたう専門企業の広告を見かけるようになりました。便利だから、これだけ使われているのです。
それでも私は、この言葉には見落とされがちな落とし穴があるような気がしてなりません。その話に入る前に、「DX化」という言葉がどう使われているのか、事実を確認しておきましょう。
経済産業省の定義は「DX」「DX推進」で書かれている
日本でDXの定義としてよく参照されるのは、経済産業省が2018年12月に公表した『DX推進ガイドライン』の定義です。この定義は、2024年9月に改訂された現行の『デジタルガバナンス・コード3.0』に引き継がれています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
この定義文のなかで、データとデジタル技術は「活用」するものとして置かれています。変革の対象は製品やサービスから企業文化まで幅広く、その先に「競争上の優位性を確立すること」が置かれている構造です。
デジタルガバナンス・コード3.0の副題は「DX経営による企業価値向上に向けて」です。経済産業省のDX施策を紹介するページも、「DX推進」「DXに関する」といった言葉で書かれています。定義では「DX化」という言葉を用いておらず、文書名・副題や経済産業省の案内ページでは「DX推進」「DX経営」などの表現が使われているのです。
出典・参照:
会見や広告でも「DX化」は使われている
一方で、公式な定義の外に目を向けると、「DX化」は広く使われています。国の記者会見のような口頭の場や、省庁・自治体の資料のなかにも、「DX化の効果」「DX化を推進する」といった表現が登場します。民間企業の解説記事や広告でも、「DX化とは」「DX化の進め方」はごく一般的な言い回しです。
つまり、「公式には誤り」とも「公的機関は使わない」ともいえません。「DX化」は、公的な場でも民間でも通じる、定着した言葉です。この記事は、その前提に立って話を進めます。
出典・参照:
「DX化」と言うと、DXすること自体が目的のように聞こえる
では、何が問題なのか。私が引っかかっているのは、言葉の正しさではありません。「DX化」と言ったときに、話の焦点がどこへ向くのか、という点です。
「化」は、そうなること自体をゴールに見せる
日本語の「化」は、「そのような状態に変える、変わる」ことを表します。「デジタル化」「効率化」「見える化」と同じように、「DX化」といえば「DXした状態になること」がゴールとして聞こえます。
私が違和感を覚えるのは、まさにここです。「DX化」と言った瞬間、DXすること自体が目的のように感じられてしまう。そして、本来叶えたかったこと、つまり趣旨がぶれていくように感じるのです。
基本的に、私たちは実行したいことを叶えるためにDXします。
- お客様をもっと待たせないようにしたい
- 現場の人が同じ入力を何度も繰り返さなくて済むようにしたい
- 数字をもっと早くつかんで、経営の判断を速くしたい
叶えたいことが先にあって、それを実現するためにDXがあるのです。
順番が逆になってはいけません。DXそのものを目指し始めると、「何のために」が置き去りになります。目的と手段を履き違えてはいけない。私がいちばん伝えたいのは、この一点です。
目的が抜けても「DX化を進める」は文として成立してしまう
「DX化」という言葉のやっかいなところは、目的を書かなくても文が完成してしまうことです。たとえば、計画書に次のような一文があったとします。
「今年度中に、請求業務のDX化を進める」
この文は、文法的にも内容的にも、何もおかしくありません。けれども、請求業務をどう変えたいのか、誰が何に困っていて、何が良くなればこの取り組みは成功なのかは、どこにも書かれていないのです。それでも会議では「DX化を進める」で話が通り、計画が承認されていきます。
目的を戻して書き直すと、たとえば次のようになるでしょう。
「請求から入金確認までにかかる時間を短くし、資金繰りを早く把握できるようにする。そのために、請求データの連携と業務の流れを見直す」
こう書けば、何が達成できれば成功なのかが見えます。データ連携は、その目的のための手段として後ろに回ります。
もちろん、「DX化」という言葉を使ったから必ず目的が抜ける、というわけではありません。使う人の多くは、DXを進める過程を短く言い表しているだけでしょう。ただ、目的がなくても文が成立してしまう言葉は、目的を見えにくくし得る。私はそう考えています。
DXの目的と手段を3つの階層で整理する
ここで、「目的」と「手段」という言葉そのものも整理しておきます。DXを語るとき、この2つの言葉が指すものが人によって違うと、議論がかみ合わなくなるためです。
「DXは目的か手段か」の二択にしない
「DXは手段である」という言い方はよく聞きますし、公的な資料にも同じ趣旨の記述は散見されます。経済産業省のDX支援ガイダンスの別冊事例集には、支援の要点として「DXは手段であり、目的はビジョンの実現である」という認識が挙げられています。
ただし、DXを「ただの手段」と一言で片付けるのも、別の誤解のもとです。経済産業省の定義どおり、DXはデータやデジタル技術を使って、ビジネスモデルや業務、組織、企業文化まで変える取り組みです。ツールを1つ入れることとは、規模も意味も違います。反対に「DXこそが目的だ」といえば、今度はDXすること自体がゴールになってしまいます。
つまり、目的か手段かの二択で考えるより、階層の違いとしてとらえる方が実態に近い見方なのです。
叶えたいこと・変革・手段の3階層
この記事では、DXを次の3つの階層で整理します。
| 階層 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 叶えたいこと(目的) | 顧客への価値、経営課題の解決、働く人の豊かさ、競争上の優位性 | お客様の待ち時間を減らす、資金繰りを早くつかむ、社員の残業を減らす |
| 変革(DX) | 叶えたいことを実現するための、事業・業務・組織・文化の変革 | 受注から請求までの業務の流れを組み替える、部門をまたいで情報を共有する |
| 手段 | 変革を支えるデータ・デジタル技術 | クラウドサービス、データ連携、AI、業務システム |
この整理で見ると、DXは一番上の「叶えたいこと」を実現するための変革です。データやデジタル技術は、その変革を支える手段になります。DXは目的そのものではありませんが、道具1つと同じ意味の「手段」でもありません。
「DX化」という言葉が見えにくくし得るのは、この表の一番上の段です。「DX化を進める」という文には、真ん中の段(DX)と一番下の段(ツール)は入りやすい一方、一番上の段がなくても成立させる意味が含まれているように思えてならないのです。
出典・参照:
DXportal®が「DX化」を基本的に使わない理由
DXportal®は、記事を書くときの編集ガイドのなかで、「DX化」という言葉を基本的に使わないことにしています。この章では、その理由をお話しします。
禁止ではなく、誤解を避けるための編集ガイド
誤解のないようにお伝えすると、私たちは「DX化」という言葉を使うことを禁じているわけではありません。DXportal®の過去の記事にも、この言葉は登場します。使った人を責めるつもりも、まったくありません。
ただ、誤解を与えかねない言葉は使うのをやめよう。そう考えて、メディアとしてのガイドに残しているのです。DXportal®は、DXに詳しくない中小企業の経営者や担当者の方に向けて記事を書いています。私たちが何気なく「DX化」と書き続ければ、読者の方にも「DXは、することそのものに意味がある」という印象を渡してしまいかねません。それを避けたいのです。
根っこにあるのは「目的と手段を履き違えない」という考え方
この編集ガイドの根っこにあるのは、言葉づかいのこだわりではありません。目的と手段を履き違えてはいけない、という考え方です。これは、DXportal®が最も大切にしているDXの考え方の1つでもあります。
DXは、手段であるはずのものが目的の座に座りやすい取り組みだからです。
- 新しいシステムを入れた
- AIを導入した
- 紙をなくした
そうした成果は目に見えやすく、報告もしやすいものです。けれども、そのシステムでお客様の何が良くなったのか、社員の仕事がどう楽になったのかが語られなければ、それはデジタル化をしたことの報告にすぎません。
DXportal®が目指しているのは、企業がDXによって新しい価値を生み出し、その成果が働く人の豊かさへ還元される社会です。そこへ近づくには、いつも「何のために」から考える必要があるのです。DXをするから良くなるのではありません。叶えたいことがあって、そのためにDXをするから良くなるのです。
「DX化」を使わないという小さな約束は、この考え方を私たち自身が忘れないための目印でもあります。
補足:DXにはすでに「変革」の意味が含まれている
言葉の成り立ちからも、少しだけ補足しておきます。DXのXは、Transformation(変革・変容)を表す文字です。そのため、「DX化」を文字どおりに読むと「デジタル変革化」となり、「変える」という意味が重なっているように感じられます。
ただし、日本語では意味が重なる言葉が強調として使われる例もあり、「DX化」も慣用として広く通用しています。文法上の誤りとまではいえません。DXportal®が「DX化」を使わないのは、この重なりよりも、先にお話しした「目的が見えにくくなる」ことを避けたいからです。
出典・参照:
自社の「DX化」の一文に目的を戻す点検の視点
ここまでの話を、自社の文書で確かめる方法に落とし込んでみましょう。計画書や会議資料、社内への号令のなかに「DX化」という言葉を見つけたら、次の3つを問いかけてみてください。
- 誰の何を良くしたいのか:お客様、取引先、社員、経営のうち、誰のどんな困りごとや機会に向けた取り組みか
- 何が変われば成功といえるのか:待ち時間、作業時間、ミスの件数、判断までの時間など、変化を確かめられる状態が書けるか
- 「DX化」を外しても文が成り立つか:「DX化」を消して目的だけで文を書き直したとき、取り組みの意味が伝わるか
とくに3つめは、目的が入っているかを確かめるのに役立ちます。「DX化を進める」から「DX化」を外すと何も残らないなら、その文にはまだ目的が書かれていません。反対に、目的だけで文が成立するなら、DXはその目的を実現するための変革として、あとから位置づけられます。
書き換えの例を、いくつか挙げておきます。
| よく見かける書き方 | 目的を戻した書き方の例 |
|---|---|
| 営業部門のDX化を進める | 見積もりの回答までにかかる日数を縮め、失注を減らす。そのために、顧客情報と在庫情報を営業担当が同じ画面で見られるようにする |
| 全社のDX化率を上げる | 紙と手入力による転記作業を減らし、社員が接客や提案に使える時間を増やす |
| 今期中に現場のDX化を完了する | 現場の日報を当日中に集計し、翌朝には課題を話し合える状態にする |
「DX化」という言葉を使うこと自体を、無理にやめる必要はありません。大切なのは、その言葉の近くに、目的が書かれているかどうかなのです。
まとめ:「DX化を進める」と書いたら、その文に目的を戻せるか
「DX化」は間違った言葉ではありません。公的な場でも民間でも広く通じる、便利な言葉です。ただ、「化」を付けると、DXすること自体が目的のように聞こえ、目的が書かれていなくても文が成立してしまいます。その結果、本来叶えたかったことが見えにくくなることがあります。
DXは、次の3つの階層で整理できます。
- 叶えたいこと(目的):お客様への価値や経営課題の解決、働く人の豊かさなど、そもそも実現したいこと
- 変革(DX):叶えたいことを実現するための、事業・業務・組織・文化の変革
- 手段:その変革を支える、データやデジタル技術
この3つの階層を意識すると、目的と手段を取り違えにくくなります。DXportal®が編集ガイドで「DX化」を基本的に使わないのも、目的と手段を履き違えないという考え方を大切にしているからです。
貴社の計画書や会議資料にある「DX化を進める」という一文に、「誰の何を、どう良くしたいのか」を戻せるでしょうか。もし戻せるなら、その文はもう「DX化」という言葉に頼らなくても、取り組みの意味を伝えられるはずです。
目的と手段を履き違えない。これが、DXportal®の考え方です。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。




