「備えてある」と「使える」は同じではない|街の設備から考えるDXの点検【街で見つけたDX】

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日常の利用が点検を兼ねる範囲と、別に試す範囲

日常の決済や定時放送で確かめられる範囲と、非常用電源や警報伝達を別途試験する範囲を分けて示す図

一方で、街には日常の利用がそのまま点検の役割を兼ねている仕組みもあります。ただし、日常の利用で確かめられるのは一部だけで、その範囲の外は別に試す必要があると私は考えます。

定時のチャイムが防災行政無線の動作確認を兼ねる例

夕方などに地域で流れるチャイムや時報について、防災行政無線の動作確認を兼ねていると説明している自治体があります。中には、定時の放送が聞こえない場合に連絡してほしいと住民へ呼びかけている自治体もあるようです。毎日鳴らしていれば、鳴らなかった日にすぐ気づけるという考え方なのでしょう。ただし、運用は自治体ごとに異なり、全国一律の仕組みではありません。

日常の用途と非常時の役割を重ねるこうした発想は、それ自体が新しいものではありません。日常時だけでなく非常時にも役立つように設計する考え方は「フェーズフリー」と呼ばれ、2014年にスペラディウス株式会社代表取締役の佐藤唯行氏が提唱しました。普段から使っているものがそのまま非常時の備えにもなる、という考え方です。

毎日使っていれば不具合にも気づきやすいため、定時のチャイムは、フェーズフリーの発想が点検の面でも働いている例だといえるでしょう。内閣府も2026年に「フェーズフリー等促進検討会」を開くなど、社会に広がっている考え方です。

私がおもしろいと感じたのは、日常の利用が「どこまで」を確かめているのかという点です。毎日のチャイムが鳴れば、スピーカーや放送の仕組みが動いていることは分かります。しかし、国からの情報を受けて自動で起動する経路や、停電したときの電源までが、定時の放送だけで確かめられるとは限りません。だからこそ、全国一斉の試験や保守点検と組み合わせて確かめているのだと考えられます。

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自販機のキャッシュレス決済が確かめるのは決済の範囲まで

飲料の自動販売機に、二次元コード付きの「災害時給水所」のステッカーと、キャッシュレス決済の端末が並んでいる
自販機に貼られた「災害時給水所」のステッカーと、キャッシュレス決済の端末(編集部にて撮影)

一方、街で見かけた自販機には、「災害時給水所」「災害時にはこちら!」と書かれた二次元コード付きのステッカーが貼られ、そのすぐ近くにキャッシュレス決済の端末が付いていました。1台の自販機に、毎日の買い物で使う機能と、災害時の給水所を探すための案内が同居しているわけです。

このステッカーは、二次元コードから災害時給水所の地図へ案内するためのもので、目的は給水所を多くの人に知ってもらうことだと、発行した自治体が発表しています。つまり、自販機そのものが災害時に飲み物を提供する機能を持つことを示すものではないのです。

ここで私は考えました。毎日の買い物で決済が通れば、その時点で決済の端末や通信、販売の仕組みの一部が動いていることは確かめられます。しかし、停電したときに自販機がどう動くのかや、ステッカーの案内先が最新の情報かどうかは、日常の買い物では確かめられません。

日常で使われる仕組みには異常に気づきやすいという強みがある一方、非常時にだけ使う機能は、日常とは別に試す日を持つ必要があるようです。

では、企業のDXにとってはどうでしょうか。毎日使う業務システムと、普段は使わないバックアップやBCPでは、確かめ方がどう変わるのかを、次の章で考えていきます。

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企業のDXの点検:バックアップの復元テストとBCPの訓練

保管されたバックアップを業務端末へ復元し、複数人が手順を確認する訓練の流れを示す図

街の設備で見てきた構図は、企業のDXにもそのまま当てはまります。業務システムが毎日動いていることと、トラブルのときにバックアップから元に戻せることは、別の話です。

バックアップは「戻せる」ことを確かめて初めて備えになる

警察庁の令和7年の統計には、ランサムウェア(データを暗号化して身代金を要求する不正プログラム)の被害を受けた組織が、バックアップからの復元を試みた結果が載っています。有効回答99件のうち、復元できたのは20件、復元できなかったのは79件でした。

復元できなかった理由(有効回答72件)は、次のとおりです。

復元できなかった理由件数
バックアップも暗号化・消去されていた48件
運用の不備19件
その他5件

これは被害を警察へ報告した組織の回答であり、企業全体の復元の成功率を示す数字ではありません。それでも、「バックアップを取っている」ことと「必要なときに戻せる」ことが別であることを、はっきり示しています。

IPA(情報処理推進機構)の中小企業向けガイドライン第4.0版も、どれくらいの時間で復旧したいか、どの時点のデータまで戻したいかに合わせてバックアップと手順を整え、訓練で実際に機能するかを確かめるよう示しています。バックアップの備えは、復元テストで戻せることを確かめて初めて、使える備えになるのです。

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BCPは訓練と見直しを重ねて機能する

災害などで事業が止まったときの行動を決めておくBCP(事業継続計画)も、作っただけでは動きません。中小企業庁の『中小企業BCP策定運用指針』は、BCPは策定しただけでは不十分で、日頃の教育と定期的な訓練が欠かせないとし、訓練で不備を見つけて改訂すること、組織や取引先、設備の変化に合わせて更新し続けることも求めています。

また、内閣府の令和6年度の調査の参考資料には、策定済みのBCPなどで災害に対応できなかった企業47社の回答(複数回答)が載っています。資料によると、上位の回答は次のとおりでした。

災害に対応できなかった理由(複数回答)割合
従業員に周知されていなかった61.7%
内容が不十分55.3%
実行に関する訓練・研修が不十分53.2%

この調査は、母数が47社と小さく、被災した企業全体の割合ではありません。それでも、計画があっても訓練や周知が伴わなければ機能しにくいことがうかがえます。

ここから、街の備えと企業の備えを並べると、次のように整理できます。

備えの種類街の設備の例企業のDXの例確かめ方
普段は使わない備え警報の伝達設備、送水口、蓄電池バックアップ、BCP、非常時の連絡網試験・訓練・点検の日を決めて、実際に動かす
日常で使う備え定時のチャイム、自販機の決済毎日使う業務システム日常の利用で異常に気づきつつ、非常時にだけ使う機能は別に試す

ただし、街と企業には違いがあります。街の設備は、国の一斉試験や消防法の定期点検のように、動かす日があらかじめ制度で決まっています。

一方、企業のバックアップやBCPには、動かす日を決めてくれる仕組みが用意されているとは限りません。だからこそ、復元テストや訓練の日を自社で決め、予定として組み込むことが、備えを「使える」状態に保つ第一歩になるのではないでしょうか。

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まとめ:普段使わないDXへの投資は、動くことを確かめる運用まで含めて意味を持つ

写真を撮り始めた当初、私は「普段は動かない、普段は必要のないDXにも投資する意味はある」という方向で、この記事をまとめようと考えていました。しかし、街の設備をたどった今、その答えに1つ条件を付け加えたいと思います。それは、「普段使わないDXへの投資は、動くことを確かめる運用まで含めて持つときに、初めて意味を持つのではないか」ということです。

街の備えは、置いてあるだけで安心を約束しているわけではありませんでした。動くことは、次のように確かめられています。

  • 警報の設備には、全国一斉の試験がある
  • 送水口には、定期点検がある
  • 蓄電池には、劣化を見越した交換の計画がある

日常のチャイムのように普段の利用が点検を兼ねる仕組みもありますが、そこで確かめられる範囲の外は、別に試されているのです。

ぜひあなたも、次に街でスピーカーや点検の表示を見かけたら、「置いてある」ではなく「どうやって動くことを確かめているのだろう」と考えてみてください。そして、貴社にある「普段は見えていないけれど、止まったら困る仕組み」を思い浮かべてみると、また違った景色が見えてくるはずです。

そのバックアップや計画を最後に動かして確かめたのは、いつだったのか。この記事が、そんなことを考えるきっかけになってくれれば幸いです。

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。